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22.いっぽうそのころ不染井は……(2)

 不染井桜の行動記録

 2332年 11月7日 午後5時21分




「アクロバティックなことを……」

 と、ガンナーの一人が呟いたコメントを見て、不染井そめないは口の端をあげた。

 友人なら「アトミックなことを……」と返すところだろう、そう彼女は思ったのだ。

 ガンブレードに生じたトリガーを前方へ押し、『吸収』処理。

 先ほど被弾し、『骨折』状態だった左肘も完治。痺れが解消される。

 速度頼みの無茶な連続攻撃でいくらか摩耗した刃も回復した。

 刃こぼれや欠損など、得物が受けたダメージは、いったん得物を消せば解消――つまり一新されるのだが、再び武器を生成するのには60秒も掛かってしまう。なので、これは地味に嬉しい効果だった。

 フィッシュテール中に、ピアニストみたいに手首をスナップさせ、刃を上に飛ばす。

 回転するプロペラのような形のまま、得物は弧を描き、落ちてきたのを左手首で受け取る。

 そのままなめらかに左手の中にガンブレードを戻す。身体の違和感はない。

 思念コマンドでBGMを変えさせる。もちろん、歌い手は、セーウンのまま。

 不染井は、たいがいの場合、へらへらと笑っていた。それは彼女が感銘を受けたスポーツ漫画の主人公に由来する。その主人公は、日常はもとより、試合でピンチなときも笑っていた。退屈な基礎練習ですら、楽しそうだった。始終苦行のようなリバイバルモノのスポーツ漫画を読みあさっていた不染井には、その主人公の態度は、画期的で衝撃的だった。

 実際、不染井もそのキャラクターのマネをして、【マシン】で野原をつくって、サッカーボールを蹴って走ってみたら、それだけで楽しかった。なぜだろう。理由はよく分からなかったが楽しかった。なにをしてもいい、という万能感が全身を浸した。架空の相手を想定し、フェイントを織り交ぜたドリブルも楽しかったが、キックの練習がとくに楽しかった。素人の彼女でも【マシン】の筋力アシストを借りれば、『コナン君』ぐらいにはうまくなれたから、このバトル世界において、斬った頭部を蹴って、せいぜい数メートルほどしか離れていない的に命中させるのは朝飯前だった。

「まあ、日本史上最高のスポーツ漫画は『ちはやふる』だと思うけどね」不染井は独りごちて微笑む。こちらの一方的な言葉で、相手を置いてけぼりにするのが好きだった。もちろん、『そこにいる』だけで感情がたかぶってしまうバトルワールドならではの『クセ』なのだが。

「ちょうど良かったです」アンバランスに背の高い小学生が返す。彼が盾隊のリーダーのようだ。「弱いほうから九人が消えて、戦いやすくなりました」

 あー、こういうのを『チューリング病』って言うんだろうなあ、と不染井は思ったが、なんとなく小学生にはそぐわない言葉のような気がした。ただ、チューリング病は手強い、というのが彼女の経験則だった。

 期せず相手は『3‐4‐3』のフォーメーションをとった。

 ゴールキーパーの位置に、先のチューリング病の小学生が陣取る。

「フォーメーションなんか効かないよ」ブレードを手首で回転させながら、不染井は相手の流儀に合わせた。「こちとら『キャプ翼』流なんだから」



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