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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第11話 嫁ごはん レシピ11 アワビのステーキ肝ソースとかぶの丸焼き (過去編)
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二度目の約束

あー書いてて、砂糖を吐きたくなる。こんな経緯なら、ずっと、ラブラブでも仕方ないですねって展開です。

「サヴォイ家は滅びた。ルウイ君も亡くなったそうだ」

 

 そう衝撃的なことを父に告げられたニコールはこの2日間、部屋に閉じこもって泣いて過ごしていた。気丈なニコールがここまで落ち込み、悲しみに暮れるのは今までになかったことだ。


 2日前に急に士官学校から呼び出されたニコールは、オーガスト家の屋敷に戻ってから父のオーガスト伯爵に衝撃的な事実を告げられたのだ。士官学校でも噂でサヴォイ事件のことを聞いていたが、まさかルウイが死んだとは夢にも思っていなかった。


 ニコールの中では、ルウイは殺しても死なないヒーローであったからだ。それが自ら屋敷を爆破し、火の中に身を投じて自殺したなどとは信じられない。


(そんな、ルウイが死ぬわけがない。あの日は私にお弁当を作ってくれたんだ。そのあとに死んだなんて……)


 ニコールを呼びつけた父と母は、衝撃的な事実だけを伝えただけではない。サヴォイ事件は同時に、婚約の解消ということにつながっていたからだ。


「いいですか、ニコール。もうサヴォイ家との婚約は解消よ。国家反逆罪に問われた家とつながりがあったなんて言われたら、このオーガスト家も潰されてしまいます」


 母はそう冷たく言った。ニコールの母親は、計算高いところがあるのだが、決して冷たい人間ではない。以前はルウイのことを気に入っていた。サヴォイ家との縁組も賛成していたのだが、それが豹変したかのような言い方だ。


「母上、それは違います。サヴォイ伯爵のおじ様もルウイも反逆などしてない!」

「あら、ニコール、滅多なことを言うものではないわ」

「ですが、母上。それは事実です。血統派の陰謀に決まっている。そうでしょう、父上!」

「ニコール……。例え、そうであっても今はコンラッド公爵に逆らうことはできない」


 そう父のオーガスト伯爵は力なく答えた。人柄がいいだけの父では、この難局を乗り切ることはできないだろう。ひたすら、火の粉をかぶらないようにおとなしくしていることだけが、家を守る術なのである。


 サヴォイ家、ルウイとの婚約解消は、オーガスト伯爵家を守るためにどうしても行わなくてはいけないことなのだ。それはニコールも分かっている。自分のせいで父や母、兄や姉に危害が及ぶことは避けたい。


「こうしましょう、あなた。ニコールに新しい婚約者を見つけましょう」

「何を言っているのだ、母上!」


 ニコールは婚約解消だろうが何だろうが、結婚相手はルウイと決めている。そのルウイが死んだのなら、一生結婚はしないということだ。だが、母親の暴走は止まらない。


「こうなったら、早くニコールのためにお見合いパーティを企画しなくては。幸いにもまだ16歳。今から新しい婚約者を探すのは充分時間がありますわ」


「……母さん、今はその話はよそう」


 さすがに父のオーガスト伯爵はそう妻をたしなめた。婚約者を失ったニコールの心情を思いはかってのことだ。それでも、妻に貴族の娘の常識だと迫られ、ニコールは士官学校に通っているので卒業する3年後にお見合いパーティをするということで押し切られた。


「ニコール……母さんはああ言ったが、この事件に衝撃を受けているのだ。母さんは、ルウイ君をとても気に入っていたからね。新しい婚約者を探そうなんて言いだしたのも、気持ちが混乱してのことなんだ。それだけ、お前のことを大切に思っているのだよ」

 

 そうオーガスト伯爵はニコールに諭した。ニコールも冷静になれば、それは痛いほど分かる。母は末娘のニコールのことをかなり可愛がって育ててくれた。自分が女ながらに士官学校へ行けているのも、その愛情があってからこそである。


それでも、ニコールの心は晴れない。一応、父が取り繕ってくれて、すぐにでも企画されそうだったお見合いパーティは中止できたが、夫婦間でニコールの結婚相手のことで言い争うことは、それ以後も収まらなかった。


(ルウイ……ルウイ……なぜ、死んだ。私を残してなぜお前は死んだのだ……)

(私の心は半分が無くなってしまったようだ。もうお前の笑顔が見られないなんて……)


 ニコールは父と母の言い争いにうんざりして、自分の部屋に帰った。そして、ベッドにうつ伏せになり、悲しみに暮れた。


 そして悲しみのうちに2日間が経った。その間、満足に食事を取ることもできず、ニコールはやつれた。憔悴しきった顔は、輝かしい美しさが失われ、死んだような目つきでだらりと体を横たわらせていた。


 日が暮れて月明かりが真っ暗な部屋を照らす。ベッドに横たわるニコールの耳に一つの音が飛び込んできた。


コツン……。


 小さな音である。


(なんだ……とても懐かしい……音)

(夢?)


コツン……。


また同じ音がした。いつか聞いたことのある音だ。ニコールはそっと体を起こすとバルコニーに出た。そこいは小さな木の実。1つはガラスに当たってくるくるとまだ回転している。そしてニコールは、バルコニーから下を見た。


「う、うそ!」

「ニコちゃん!」


 夜の帳の中でも月明かりではっきりと見えるその顔はルウイであった。


「な、な、お前は死んだはずでは……」

「ニコちゃん、部屋に入れてもらっていい?」


 そう小声で伝えるルウイ。ニコールはそっと頷き、部屋からロープを垂らす。それを手際よく登るルウイ。ベランダに登った時にニコールは思わず抱きついた。ルウイもニコールを抱きしめる。


「心配したぞ。父上から聞いたのだ。お前は死んだって。サヴォイ家も滅びたって」

「ニコちゃん、僕の足、ちゃんとついているよ」


 ニコールは体を離してルウイの足を見る。間違いなく足がある。幽霊でもなんでもない。それに抱きしめて分かる感覚、匂い。全てがルウイだ。


「ニコちゃん、心配させてごめんね」


 ルウイ(二徹)はそうニコールの美しい髪を撫でた。くすんでいた髪の色が触れるたびに輝きを取り戻していく。


「あ、あたり前だ。わ、私を心配させた罪は重いぞ」

「どうするの?」

「き、決まっている!」


 ニコールは思い切ってルウイの口に自分の口を合わせた。これまでと違う深い、深い口付けだ。目をつむって、そのまま、自分のベッドに押し倒す。


「んん……」

「うう……ニコちゃん……」


 そっと唇を離す。目が潤んできた。ぽたぽたと涙がルウイの顔に一粒、一粒落ちていく。


「心配したんだぞ……死んだって、死んだって聞いたんだ……」

「ごめんね。訳あって、死んだふりをしているんだ」

「もう……バカ、バカ、ルウイのバカ!」


 ポカポカとルウイの胸を叩くニコール。ホッとしたことで、女の子モードになってしまったのだろう。ルウイはそんなニコールの両手首を掴んだ。そして顔を近づけて見つめる。


「ニコちゃん、僕は公式には死んだことになっているんだ」

「し、死んだ?」

「そう。ルウイ・サヴォイは死んだ。今の僕の名前は伊達二徹だてにてつ

「だてにてつ?」

「そう名前は二徹。姓が伊達」


 クスッとニコールは笑った。その顔がとんでもなく可愛いので、思わず二徹ルウイはニコールの頬に右手を添えた。


「へ、変な名前だな……」

「でね、ニコちゃん。サヴォイ家は滅びたから、きっとニコちゃんとの婚約は破棄されたと思うのだけど」

「そ、そうだ……。婚約は解消だそうだ。それでお見合いパーティをすると母上が馬鹿なことを言っている。でも、お前が生きていたんだ。婚約は続行……」


「……無理だよ。それは無理……」

「どういうことだ……お前は私と結婚したくはないのか……」

 

 悲しそうなニコールの顔。捨てられた猫みたいな顔だ。二徹は思わずニコールをグッと抱きしめた。壊われてしまうくらい力強く。


「ち、ちょっと……痛い……ルウ……に、にてつ」

「そんなわけないよ。僕は絶対に君を手放さない。だけど、ルウイは死んだ。だから、二徹として君の婚約者になるよ。そのパーティで待っていて。きっと、ニコちゃんを迎えに来るから」


「……ルウ……二徹……。うん……待っている。ずっと、待ってるぞ」

 

 見つめ合う二人。ニコールはそっと顔を寄せた。


「責任はとってもらうから。さっきの口づけは私のファーストキスだったんだ」

「僕もだよ」


「う~っ……あ、あの……」

「どうしたの? ニコちゃん」


 顔を赤らめ、もじもじしている。ちなみに体勢はニコールが二徹を押し倒しているマウント状態である。


「も、もう一度してくれないか。セ、セカンドキスもお前にあげる」

「ニコちゃん……」


 そっと重なる唇。


 二徹とニコールは固く約束した。ニコールが18歳になった時に開かれる婚約者を決めるパーティに二徹が参加すること。そして、そこでどんな障害があっても婚約を勝ち取ること。


 二徹はファルスの都に潜伏して情勢が変わるのを待つ。その間、あまりニコールとは会えないけれど、それでも節目、節目では、必ずニコールに会いに来ることを約束した。


「待っているからな……絶対に約束だぞ。私の嫁は二徹、お前しかいないのだからな」

「ニコちゃん、お嫁さんは君の方だよ」


「私は軍人になって働く。お前が家庭のことをやってくれてもいいようにな」


 ニコールは分かっていた。二徹ルウイは迎えに来るとは言っても、もう貴族でない二徹と伯爵令嬢である自分が結婚するには、大変な壁があることをだ。いざとなったら、自分が貴族の身分を捨ててもいいと思っていた。その気持ちを二徹も理解している。


「専業主夫というわけだね。それもいいかもね」

「うん。それがいい」


 夜もふけた。二徹はまたバルコニーからロープを伝って降りる。ニコールはそれを上から見守る。右手を上げた二徹にニコールも右手をそっと上げる。


「好きだぞ」

「僕もだよ。それじゃ、今夜はこれで……」


 二徹はそう言うと見つからないように素早く茂みへと身を隠した。この時の約束は2年後に果たされることになる。


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