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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第11話 嫁ごはん レシピ11 アワビのステーキ肝ソースとかぶの丸焼き (過去編)
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試練がやってくる

何回投稿しても途中で切れた感じでしか、投稿できず。

いったいどうしたんだ?

 サヴォイ家から正式な申し込みがあり、オーガスト家もこれを受諾。ルウイ(二徹)とニコールの婚約はとりあえず成立した。とりあえずとしたが、まだルウイは11歳でニコールは12歳。


 将来の伴侶を決めるにはまだ早いこともあり、お互いが18歳を超えるまでには、申し出により婚約破棄ということはありえるのが貴族社会の慣習であった。

 

 それでもニコールの正式な許嫁いいなずけというポジションにルウイがつけたことは大きかった。なぜなら、婚約者という立場で、ニコールに問題なく定期的に会うことができたし、ニコールもサヴォイ家に来ることができたからである。

 

 許嫁といっても、まだ子供の二人。これまでどおり、普通に接してきて4年が過ぎた。ニコールが16歳。ルウイが15歳の時である。これまでくすぶっていたウェステリアの内紛が表面化してきたのである。

 

 内紛は国王ジョージ6世が病に倒れたことを発端とするが、その前から貴族の伝統を慣習を重んじる血統派と実力主義で平民の力を借りて国を活性化させようとする革新派との対立が主であった。

 

 血統派の筆頭は国王の弟コンラッド公爵を旗頭とする。コンラッド公爵は国王の代わりに政務を取り計らう宰相の位についていたので、血統派が政権を担っていた。対する革新派は、当初は貴族院議会議長のウェルズリー侯爵を中心とする若手貴族連合。


 政府に対して軍事力を持たず、コンラッド宰相の弾圧に対抗する方法がないために、当初は暗殺や政府の建物の破壊といったテロ活動に暗躍した。


 そのため、現地点で司法大臣を務めるルウイの父、アルバート・サヴォイ伯爵は、テロを取り締まる中心人物となっていた。正義感の強い、アルバートはテロを取り締まると同時に血統派の弾圧にも歯止めがかかるように動いていた。


「アルバート、革新派の貴族はお前のことを目の敵にしている。血の気の多い連中は、お前を暗殺しようと息巻いていると言うぞ」

「それにコンラッド公に対しては、ズケズケと政治運営に口出しをして、血統派の貴族からも危険人物だと思われている。両方から煙たがれるのは得策じゃない」

「司法大臣なんて危ない職は辞した方がいい。このままでは名門サヴォイ家も滅亡するはめになるぞ」


 そうアルバートの友人たちは心配して忠告をしてくれていた。だが、アルバート自身はあくまでも法律に照らしての行動であり、その信念は曲げることがなかった。先日もコンラッド公の暗殺を企んだ貴族の裁判では、死刑を指示したコンラッド公の忖度を無視し、法律に即して禁固刑に処した。


 逆に爆破によって多数の市民の被害を出した犯人は即刻死刑判決を出して、刑を執行するなど治安の維持に務めていた。また、革新派の貴族を多数殺した血統派貴族を厳しい判決で裁いたこともあった。


 首都ファルスはそういった意味では、アルバート司法大臣を頂点とする衛兵警備隊の活躍で、一般市民には被害は最小限で抑えられていた。コンラッド公は軍を動かし、貴族院議会を占拠、革新派議員を捕らえて殺そうと画策したが、アルバートが抑えていたからだ。


 だが、両陣営から恨みを一身に受けるアルバートを近しい友人たちは憂慮していた。だが、当のアルバート自身は意に介していない。


「確かに私の今の立場は、貧乏くじかもしれない。しかし、誰かがこの立場をやらねばならないし、対立が激しくなって内乱になれば外国の介入を招きかけない」


 外国軍の介入を受ければ、島国であるウェステリアも戦場になる。ここ数十年、戦争が起きたことのない国土が焦土化するのは絶対に避けたいというのがアルバート司法大臣の願いなのだ。


 だが、賢いアルバートは家族に対する危害も懸念していた。後継者のルウイは仕方がないにしても、か弱い娘のリーゼルは密かに大陸のギーズ公国の親戚パーシル家の養女になるように密かに手配はしていた。


 そんなアルバートの元に、朗報がもたらされた。革新派の旗頭に現国王の孫であるエドモンド王子がついたというのだ。エドモンド王子は、少年の頃から大陸の各国に留学しており、この騒動の時には密かに行方をくらましていたのだ。それが最近、ウェステリア王国に戻り、革新派の貴族に担がれたのだという。

 

 担がれたといったが、この王子は大変有能で組織をあっという間に把握すると、これまでの違法なテロは一切禁止し、話し合いをもってこの状況を解決しようと乗り出したのだ。


 これは孤軍奮闘していたアルバートには、いいニュースで血統派と革新派を和解させようと動き始めた。だが、この動きを許さない人物がいた。


「コンラッド公爵閣下。懸念しておりました司法大臣の件、動きがあります」

「近々、エドモンド王子と密かに会見をするという話です」


 部下からの報告を受けたコンラッド公爵は、見事に禿げ上がった頭に血管を浮き上がらせて激怒した。


「許さん。奴を殺せ、殺すんだ。奴は政府の人間であるのに、革新派の奴らをのさばらしている。これは我々にとっては裏切りである。あのような裏切り者がいるおかげで、我が陣営は有利な状況から互角にまで勢力を削られてしまった。あの男の行ったことは我ら血統派からすれば、万死に値する行為だ」


 実際、アルバート司法大臣はどちらの派にも属さず、中立の立場を取っているのだが、宰相であるコンラッド公爵の言うことを聞かないことは、革新派陣営に加担しているとも取れる。


「しかし、公爵閣下。アルバート・サヴォイ伯爵の平民からの人気は相当なものです。それに両陣営とも支持する人間がいることも事実です。殺すのは得策ではありません」


 そう助言する部下をコンラッド公爵は即座に否定する。この現国王の弟は、能力的には兄の国王に及ばず、偉大な兄との比較で性格がねじ曲がり、権力欲の権化と化していた。60歳を超えるにも関わらず、自身を客観視することができず、また状況を正しく分析することもできなかった。


「そんなものは革新派の過激な連中の犯行ということにしておけばいいだろう」

「しかし、それがバレたら我が陣営にとっては計り知れないダメージとなりましょう」


 そう側近の懸念は最もであった。アルバートの正義の行いは両陣営の良識な人々にとっては徐々に理解され始め、それを支持する空気も育ちつつあったからだ。


「くっ……しかし、余は許せないのだ」

「公爵閣下、よい知恵があります」


 そう公爵に進言したのはローズベルト侯爵。宮内庁に務める役人である。太った体を揺らして、汗をふきふき話し始めた。意地の悪そうなその表情は、悪知恵に満ちている。ただ基本的にこの男は賢くない。あるのはどう権力者に取り入るということだけだ。


「革新派の貴族の犯行と称して、暗殺するのは公爵の命令通り。その後、敵に通じていた反逆者として告発するのです。実際に敵と通じていたからこれは説得力がある。そして、例の件。あの証拠もろとも奴のせいにしましょう」


 例の件とは、血統派が密かに国庫の金を私的に流用しているというスキャンダルである。それだけではない。贅沢が大好きなコンラッド公爵は、敵国であるフランドル王国から多額の賄賂を受け取っており、その証拠の一部が革新派の貴族に流れてしまったのだ。


 これを公表されると血統派は大きく支持を失うだろう。ただ、証拠について巧妙に準備をせずにそれを行うことは、後世に捏造したことが簡単にばれてしまうのだが、そこまでは考えていない。


「いいだろう。その策を進めるがいい。後に禍根は残すなよ。アルバート・サヴォイ伯爵だけでなく、その妻、子ども、家の縁者に至るまで根絶やしにするのだ」


 そうコンラッド公爵は冷たく命令したのであった。その命令によって順調に進んでいたルウイ(二徹)の人生が、大きく変化することになる。


「ルウイ様、今日も学校へ行く前に寄られますか」

「ええ。もちろんですよ、ジョセフさん」


 ルウイは15歳になった。中等学校を飛び級して、現在は法律専門学校に進んでいる。サヴォイ家の長男として、法曹の仕事に携わるルートを進んでいる。本当はそんなことをしたくはないのだが、こればかりは仕方がない。貴族とは不便なものだとルウイは思っていた。

 

 そんなルウイにとって、楽しみはニコールへのお弁当作り。毎朝、ニコールのために弁当を作っている。ニコールは念願の士官学校に入学し、今は士官学校の寮にいる。お昼の食事は士官学校の食堂か、自分で作った弁当を食べるということなので、そのお弁当をルウイが作ってあげているのだ。


「ニコールさん、今日も愛しの許嫁の君がやってきましたわよ」

「ああ……いつ見てもニコールの白馬の王子様は素敵だわ」

「きゃあ~。ルウイ君って可愛い!」

「いいなあ……ニコールって将来はサヴォイ伯爵夫人でしょ。士官学校行かなくてもいいんじゃない」


 今日もわいわいと女子寮前でニコールは、友達からかわかわれている。士官学校はほとんど貴族の少年が在籍しているが、少女も何人か入学している。親が軍人という家系の少女たちがほとんどであるが、ニコールのように好きで入学した勇ましい少女も何人かいる。割合は男子9割に女子1割というところだ。

 

 その少女たちの朝早くの日課が、ニコールとルウイのお弁当受け渡しシーンの鑑賞。勇ましい士官学校生である少女たちにとって、これだけでお昼の食事のおかずに困らないと言われているのだ。


 ニコールは士官学校でも成績優秀で、勇ましくいつも男のような言動で過ごしているので、女の子になってしまう、この毎朝のギャップにみんな萌え死にしそうになっているのだ。


「ちっ……。ルウイの奴、恥ずかしいからいらないと言っているのに……」


 ニコールは、そう友達の前で少々怒った口調で誰に話すでもなく出て行く。だが、みんな知っている。弁当を受け取る時のニコールの顔がどことなくニヤついているのを。それを知っているから、少女たちは悔しくもあり、羨ましくもある。自分もこうありたいという目標なのである。


「はい、ニコちゃん。今日はニコちゃんの好きなオムレット(オムレツ)ブレド(パン)レドベル(いちご)ジャムを塗ったものだよ。アピのパイも入っているからね」


「あ……ありがと……」


 女子寮の玄関でランチボックスを受け取るニコール。窓からは級友たちがそっと成り行きを伺っている気配を感じている。


「どうしたの?」

「な、何でもない。ちょ、ちょっと恥ずかしいだけだ」


「そうだよね~。みんな窓からとか、扉の後ろから見ているからね」

「みんな私がフィアンセに弁当を作らせているって冷やかすのだ」


 ぷうっと頬を膨らますニコール。でも、その顔は嫌じゃないという色に満ちている。ルウイも男ながらに、将来の妻のために弁当を作って届けるという恥ずかしい行動を気にもしていない。それに関しては、料理が大好きでこれまた大好きなニコールのために作っているという思いだけなのである。


「ニコちゃん、恥ずかしいなら、もう明日から止める?」


 そうルウイは聞いてみる。これはよくする質問。というか、今まで何度もしてきた質問。もちろん、断るという選択はニコールにはないことを知った上でのいじわるな質問だ。


「や……止めなくていい」

「恥ずかしいなら、みんなが見ていないところで渡してもいいよ」


「それはダメだ。こそこそと隠れてもらうのは女々しい。そ、それにお前と私は、将来、け、結婚するのだからな。軍人として務める私に弁当を作ると約束したのはお前だ」

「そうだよね」

「だ、だから、これは試練だ。毎日、私のために弁当を作ることでお前の料理の腕を上げることが目的だ」

「そうだったね」

 

 ルウイはニヤニヤしている。こういう時のニコールが素直でないことを知っているのだ。本当は毎日1回、自分と会うことを楽しみにしていることを。そしてそれはルウイも同じである。


「それじゃあね」


 ルウイは右手を上げて体を反転させる。「え?」っといった表情をするニコール。いつもの日課どおりでないのに戸惑う。すかさず、ルウイは体をニコールへと向けた。驚いた表情のニコールの唇に軽くキスをする。これが日常、いつもの挨拶だ。


「今日もがんばってね」

「あ、ああ……って、バ、バカものめ。不意をつくな不埒もの!」

「あ、ごめん。驚いた」

「あ、あの……」


 行こうとするルウイのシャツをちょっと握るニコール。


「ニコちゃん、どうしたの?」

「さ、さっきのでは不合格だ。やり直しを命じる」


 そう言うとニコールはさっとルウイと軽く口づけする。後ろで見ていたニコールの級友たちが叫び声を上げ、あるものは朝から興奮しすぎて倒れる者までいるが、このくらいは毎日の日課に過ぎない。



 カラカラカラ……。馬車が進む。ニコールにお弁当を渡しての帰り道。ルウイの通う法律専門学校への道だ。だが、その道はいつもと同じ光景をルウイに用意してはくれなかった。その行く手に覆面をした武装グループが待ち受けていたのだ。


「ルウイ様、暴漢です!」


 御者はそう叫んだが、その瞬間に銃で撃たれて倒れる。黒い服にマントで身を包んだ武装グループ。朝の早い時間で人通りの少ない道で馬車の行方を阻んだ。


「あなたたちは誰です!」


 ルウイは馬車のドアを開けて地面に降り立つ。暴漢は10名。銃を持った人間が2名。後は剣を片手に握っている。


「ルウイ・サヴォイだな。可愛そうだがここで死んでもらう」


 そう黒づくめの男の一人が叫んだ。それを合図に剣を振りかざした男たちが、ルウイへ一斉に襲いかかったのであった。


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