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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第10話 嫁ごはん レシピ10 ベリーたっぷりのヨーグルトバーク(過去編)
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ごちそうさま

「うっ……」

「ニコちゃん、起きた?」


 二徹はそっとニコールの額に手のひらを当てる。どうやら熱は下がったようだ。二徹は安心したように立ち上がると愛妻のために洗面用具を取りに行く。そして、ベッドにタオルを敷くと洗面器にお湯をたっぷりと入れた。

 歯を磨き、顔を洗ったニコールに乾いたタオルを手渡す。その仕事の流れはスムーズでまるでよどみがない。


「夢を見た……」


 タオルを顔に当てながら、ニコールはぽつりとこぼした。


「何の夢?」

「初めてお前が朝方に忍んで私の部屋にやってきた日のことだ」

「ああ、あの日のことね」


 二徹はそう言いながら、ニコールへ皿を差し出した。そこには白をベースに赤や青の色がカラフルに混じった板が乗せてある。それは赤や青がてらてらと光っている。二徹はそれを樹皮のようにバリバリと割る。無造作に割るが、割り方によっておしゃれな感じになる。


二人にとってのお馴染みの『ヨーグルトバーク』である。これは赤いベリー青いベリーの実で作ったジャムをマーブル上に混ぜ込んだものである。



「わあ……きれい」

「これを食べればもっと元気になるよ」


 二徹はそう言って、割ったヨーグルトバークの欠片を指で摘んだ。それをニコールの口の中にそっと入れる。


「んん~っ。甘酸っぱくて……冷たくて美味しい……」

「ヨーグルトバークは具材を変えると味の違いを楽しめるからね」

「前々から思っていたが、これは町で売ったら儲かるんじゃないか?」


 ニコールがそう提案したが、二徹は笑って首を横に振った。それは二徹も考えなくはなかったが、このヨーグルトのアイスクリームはニコールとの思い出がいっぱい詰まったレシピなのだ。しばらくは二人だけの秘密にしておきたい。


「売れるかもしれないけど、このヨーグルトバークはニコちゃんのためだけにあるお菓子だよ。ニコちゃんが熱を出して寝込んだら作ってあげるものだし、今のところ、世界で君だけが味わえるものだよ」

「……やっぱり売るのはダメだ。この味は私だけが独占したい」

「そうだね。それがいいよ」

「ということは、このヨーグルトバーク。初めて食べさせたのは私と言うことだな」

「そうだね。ニコちゃんに初めて作ったし、ニコちゃん以外に作ったことないよ」

「初めてか……」


 そう言うとニコールはくるりと体を向けてベッドに寝転んだ。両足をぴょんと跳ね上げて、枕を抱きかかえる。


「私も初めては全部お前にあげたぞ……」

「そうだっけ?」


「だって、初めて手をつないだ男はお前だし(9歳の頃)、初めて夜を過ごしたのもお前だし(11歳の頃、あの冒険で一緒にタオルケットに包まったこと)、初ダンスを踊ったのもお前だし、キ、キ、キ……」


「キ?」

「キ、キスだって、お前が初めてだった」


(ニコちゃん、それは僕も同じです。初チューはニコちゃんだったし。というかニコちゃんとしかしてないし)


「そ、それに……あ、あ、あ……」

「あ?」

「あれだって、初めの相手はお前だった!」

「……」

(ニコちゃん、あれは伏せておこうよ)


「そうだね。ニコちゃん、小さい時から可愛かったなあ……」

「ば、バカ。お前はいつもそうだ。年下なのにいつも余裕で、スカした感じがむかつく。私ばかりがいっぱい、いっぱいで不公平だ」


「……違うよ。僕だって、君の可愛さにいつもドキドキしてしまうよ。いつも仕事に行くときには不安になってしまうんだ。ニコちゃんが帰ってこなかったら、どうしようかって、いつも思うよ」


「二徹……お前って奴は……お前ってやつは……」


 ニコールはクッションをギュッと抱きしめ、顔を隠す。目だけが上目遣いで二徹を瞳に映す。


「もう大好き!」


(はいはい……)


 二徹は黙ってニコールの金髪をそっと撫でる。目を閉じて気持ちよさそうな表情のニコール。しばらくして、ニコールは目を開けた。


「ねえ……」


 ニコールは手を伸ばし、テーブルから割ったヨーグルトバークを摘むと、その欠片を口に加えた。そして、それを二徹に向かって突き出す。


「ん……」

「食べろってこと?」


 1回だけ頷くニコール。二徹はニコールが咥えたヨーグルトバークの端に口に付ける。お互いに目で合図と同時に、リスのようにサクサクサクっと食べ進める。そして近づく唇。やがてそれはゆっくりと重なる。


「んん……」

「んん……ニコちゃん……?」

「だめ……離しちゃだめ……」


 病気になると寂しくなるというが、そういう時に愛おしい相手がいるとつい触れ合ってしまいたくなることがある。今のニコールはそういう心境なのだろう。そして、目の前には思い出のヨーグルトバーク。初めて結婚を約束したあの頃に浸りたい気持ちなのであろう。

 

 二徹はそういうニコールの心境を理解している。だから、彼女の心を温かく包むように、ぎゅっと抱きしめた。ニコールがそっと二徹の耳元でささやく。


「二徹、大好き……」

「僕もだよ……」


 もちろん、このシチュエーションは今回が初めてではない。ニコールが熱を出して寝込むたびにこれは繰り返されるのだ。せっかく、熱が下がったのにまた熱が上がるんじゃないかと思うかもしれないが、愛の力はウィルスすらも殲滅するのだ。 



次回、閑話をはさんで過去編(逃亡編)が続く予定です。また、別の思い出料理を披露。何かなあW

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