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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第9話 嫁ごはん レシピ9 鮎の魚醤たれ、ぶっかけレモン汁唐揚げ
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お別れとからあげパワー

リーゼルがギーズ公国に帰国する日が来た。


その日の天気は雲一つない晴れ。清々しい海風がリーゼルの赤褐色の美しい髪をなびかせる。船へと続く階段を登る前に、リーゼルはまず兄である二徹の胸に身を預けた。別れを惜しんで二徹もそっと抱きしめる。この世で一人しかいない肉親である。また遊びに来るとは言え、なんだか寂しい。


「お兄様、お体を大切にしてください」

「ああ。リーゼも気を付けろよ」

「来年来るときは、ギーズ産のクレオン(チョコ)をたくさん持ってきます。お兄様なら、クレオンを使ったデザートをたくさん作れますよね」

「そうだね。今度来た時には、もっと一緒に料理を作ろう。妹の料理の腕を高めるのも兄の務めだからね。いつでもお嫁に行けるようにね」


「嫌ですわ、お兄様ったら。ニコールお姉様もお元気で」

「ああ。リーゼ、またいつでも遊びに来い」


 あの事件を契機にリーゼルはニコールに心を開いた。今では本当の姉妹のように仲良くしている。


「それより、ニコールお姉様にお兄様。次にリーゼが来るときには、赤ちゃんを見せてくださいね」

「な!」

「な、何を言っているのだ」


 リーゼルは茶めっけたっぷりに片目を閉じた。ドレスが海風に舞い、リーゼルが持つ日傘を揺らす。ニコールも頭にかぶった帽子を片手で押さえる。カモメが空を飛び回り、時折、その鳴き声が聞こえる。


 やがて、船はゆっくりと出航した。いつまでも手を振るリーゼルを見送る二徹とニコール。リーゼルがやって来てからいろいろな事件は起きたが、いざ別れるとなると寂しくなる。


「ニコちゃん……泣いているの?」


 ニコールの目からポロポロと涙がこぼれている。


「な、泣いてなんかいない……。あんなに苦手だったのに、ちょっと可愛いと思って情が沸いただけだ。それより、二徹、お前のほうが悲しそうだぞ」


「それは悲しいよ。この世でたった一人の妹だからね」


 リーゼルはサヴォイ家滅亡の前に遠縁の外国の貴族パーシル家の養女となった。パーシル家の後継者であるリーゼルが、いつまでも二徹のところにはいられない。


「僕は寂しくないよ。君がそばにいればね」

「な、何を言い出すのだ。リ、リーゼルといい、二徹といい。意地の悪い兄妹だな」


 ちょっと頬を膨らませたニコール。こういうところはちょっと可愛い。



 ローズベルト侯爵の事件は、本人の逃亡と死亡で幕が引かれた。港での戦いの後、ニコールの主導での捜査の結果、ローズベルト侯爵がゼーレ・カッツエの幹部で、その資金集めのために密かに没落貴族の娘を外国のハーレムへ売っていたことが判明した。


今回、売られそうになった12名の娘たちを救出し、無事に親元へ返すことができたのは大手柄であった。


 さらにこれまで連れ去られた娘たちは20人にも上ることが判明した。彼女らの行方も外交ルートを使って、捜している。居所さえ分かれば、帰国することも可能である。


(それにしても……)


 あの乱戦の中でローズベルト侯爵を殺害したのは、誰かは判明していない。AZK連隊の兵士の中で怪しい者は誰ひとりいなかった。不思議なことに中隊の予備に保管していた小銃が一丁盗まれており、それはどこにもなかった。おそらく、犯行に使った後、海に投げ込んだのであろう。


(あの距離を一発で仕留める腕を持つもの……中隊の中ではただ一人)


 レオンハルト少将。AZK連隊の連隊長である。中隊の中でアリバイがないのは、この男ただ一人である。だが、参謀として仕える上官を堂々と調べるわけにはいかない。


 ニコールはAZK連隊に入る前に国王直属の侍従から、秘密の手紙をもらっていた。そこにはこんなことが書いてあった。


『レオンハルト少将の動向について、十分に注意を払うこと。彼について、疑義が発生した時には手紙で報告すること。受け渡しは毎週金曜日に侍従に行うこと。但し、彼に疑義があると判断しても、決してそれを公にしないこと』


 驚いたことに国王直筆の手紙であった。これをもらった時のニコールは、一体どういうことかと国王の意図を掴めずにいた。しかし、今回の事件を振り返って、だんだんと意味が分かってきたような気がしていた。


(考えたくないが、レオンハルト閣下はゼーレ・カッツエと関係があるようだ。だが、それは国王陛下も疑っている。私に監視せよというのがその証拠だ。それなのに、どうして彼をゼーレ・カッツエ討伐の中心の連隊の長に抜擢したのであろうか……陛下にはきっと深い考えがあるに違いないが……)


 謎だらけであるが、今は命令通り、彼に仕えながら監視をするしかないとニコールは思っていた。


* 


 港から馬車がオーガスト家の屋敷へと出発する。


「そういえば、クラーラさんとジュラールの奴、付き合うことになったそうだよ」

「そ、そうなのか?」


  元子爵家の令嬢で、今はオロロン鳥の飼育農家の娘クラーラ。商売上手でしっかり者の彼女にジュラールが惚れてしまったらしい。自分の命を救ってくれたジュラールにクラーラもまた惹かれており、二人がいい仲になるのは自然の成り行きであった。


「そういえば、オロロン鳥の肉、まだあるんだよな」

「うん。まだあるよ。ニコちゃん、カラアゲ以外に食べたい鳥料理ある?」

「あの鳥は美味しい」

「うん、美味しいね」


 ちょっと顔を赤らめて窓の外見ているニコール。美しい横顔がちょっと赤くなっている。


「に、二徹の料理だから美味しいのだ」

「……ありがとう。今日は焼き鳥にしてビルク(ビール)で一杯どう?」

「や、焼き鳥か!」

「うん。あの串に刺してタレを付けて焼いた奴だよ」


 以前、二徹はニコールに焼き鳥を作ったことがある。串に刺して炭火で焼いた焼き鳥をニコールは気に入っていた。炭火で焼いたアツアツの焼き鳥をぐいっと噛みちぎり、冷えたビール(ビルク)を飲む。これはたまらない。


 ニコールは何を思ったのか、馬車の座席で急に二徹に体を寄せる。


「ど、どうしたの、ニコちゃん」

「ご、ご褒美だ」


 チュッと軽くキスをするニコール。


「ご褒美?」

「忘れていたが、あの銃撃から私を守ってくれたお礼」


 また、チュッとキス。


「これはあの殺し屋2人をやっつけてくれたお礼」

「あのくらいはお安いご用さ」


 体を預けるだけでなく、お尻を持ち上げて二徹の膝に座るニコール。体を半身にしてそっと二徹の首に腕を絡ませる。


「これは私に素敵な妹をくれたお礼だ」

「んんん……」


 情熱的な長い口づけ。


「今日は随分と積極的だね」

「ご、誤解するな。あくまでもお礼だ。リーゼが来てから、あまりお前に甘えられなかったから……」


 確かにリーゼルが家に来てから、あまりニコールといちゃついていなかったような気がする。


「じゃあ、今日からたっぷりといちゃつく?」

「な、わ、私は……そんな意味では言っていない」

「そうなの?」

「あ、当たり前だ。それにリーゼが言っていた……あ、あ、あ……」

「あ?」

「あ、赤ちゃんはまだ早いから!」


 きゅう~っと赤くなるニコール。そんなことまではさすがに二徹は考えていなかった。


「ニコちゃん、可愛い……」


 可愛すぎて二徹は思わず抱きしめてしまった。ニコールのこんな態度。思い当たる節がある。


 昨晩はリーゼルのお別れで、関係者を呼んでカラアゲパーティーをした。ジュラール特製の『漢のカラアゲ』を気に入ったようで、たくさん食べていたニコール。パワーみなぎるカラアゲの活力で、きっと変な気分になってしまったのであろう。

 

『からあげ』恐るべしである。


からあげパワーだって? いい加減にしろw

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