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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第9話 嫁ごはん レシピ9 鮎の魚醤たれ、ぶっかけレモン汁唐揚げ
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専業主夫だけど無敵です

 ローズベルト侯爵の恐怖から出た命令。その怯えた命令に、10人の兵士たちが引き金に指をかけた。その瞬間、お互いに銃口が向けられた。引き金は止まらない。射撃音と共に倒れる10人の兵士たち。


『スタグネイション』。


 時間を止める二徹のチート能力だ。発射の瞬間、時間を停めてニコールに向けられた銃口を90度動かし、次々と兵士の銃口を互いに向け合うようにしただけである。そして時間を元に戻せば、互いに撃ち合う構図となる。


「お、お兄様」

「リーゼル待たせたね」


 二徹とリーゼルは互いに見つめ合う。いつの間にかリーゼルをお姫様抱っこしていたのだ。兵士たちの銃口を動かし、爆弾魔ハーベイからリーゼルを奪い返したのだ。


「な、な、な……さ、三人衆~っ。こ、こ、この二人をこ、殺せ!」


 大慌てでろれつが回らない侯爵。もう3流役者である。それでも命令を受けた3人の仕事人は、まだ冷静であった。それぞれ、得意の攻撃スタイルで動き出す。


「ケフケフ……二刀流のエレン……参る」

「グフグフ……爆弾の嵐をくらえ」

「ゴブゴブ……ミンチにするでゴブ!」


 ニコールの方へ二刀流のエレン。巨人兵パウエル、爆弾魔ハーベイが二徹に襲いかかる。


「リーゼル、ちょっと下りて安全なところで見てないさい」

「は、はい。お兄様」


 近づいてくる2人の敵にも二徹は動じない。優雅にリーゼルを床に下ろすと、両手で指を鳴らした。


「かかってこい」

(エクサレイション!)


 今度は自らと対象物を加速する技だ。


* 


 ニコールは向かって走ってくる剣士エレンの武器がサーベルであることを見て取ると、なぜか刀を鞘へ収めた。そして重心を少し落として半身になる。


「ケフケフ……やはり、女だ。臆したか!」


 エレンにはニコールの構えが奇妙に見えたようだ。それが恐怖で体が縮こまったと都合よく解釈した。勝利を確信したエレンのサーベルが交差して、ニコールめがけて軌跡を描く。容赦のない攻撃がニコールを捉えるかと思えた瞬間。


「斬る!」


 ニコールが刀を抜いた。その一閃でエレンの2本のサーベルが折れた。それは回転して船の床に次々と突き刺さる。さらにカチっと刀の刃を回転させて2撃目は右下からの斬り上げ。これだけでエレンは宙に舞った。


「つ、強い……ケフケフ」


 剣士エレンは一言つぶやき、咳込み、そして白目を向いて地面に倒れた。


「心配するな……みね打ちだ」


 エレンが倒れていく姿を背後に感じ、ニコールは愛刀を鞘へと収めた。


「ゴブ~っ」


 巨人兵パウエルは全身の力を結集して巨大な棍棒を二徹に向かって打ち下ろす。だが、その棍棒が二徹にあたったと誰もが思ったとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。瞬きをするまもなく、まるで一コマの画像が飛んだかのような体験。


 なぜか、巨人兵パウエルは頭から船の床に突き刺さっていたのだ。気絶しているのか、ピクリとも動かない。


「お兄様、すごい」

(あ、ありえない、これは夢だ、夢に違いない!)


 うっとりするリーゼルと、あごが外れたのではないかというくらい口を開けたままの表情で固まるローズベルト侯爵。もちろん、二人共、どうしてこういう結果になったのかその過程は見えていない。


 ことの過程はこうだ。

 加速した二徹は巨人兵パウエルの棍棒攻撃を難なくかわすと、そのスピードのまま体当たりをした。

加速した勢いがすさまじく、巨人兵と揶揄されるパウエルの体が吹き飛び、頭から落ちる。


 さらにその体の落下速度を加速させるだけで、哀れな巨人は頭から甲板を突き破って足だけが残るという奇妙な格好の出来上がりである。


 この間、1秒とかかっていない。 二徹の攻撃は、さらにその隣の爆弾魔へも向けられていた。こちらの方はもっと簡単である。爆弾魔と二徹のチート力は実に相性がいい。すなわち、爆弾を加速させるだけで自爆劇の完成である。


「グフ……何が起こったのだ」


 爆弾を投げつけようとしたハーベイは、突如、暴発した自分の爆弾に吹き飛ばされた。慌てて投げ捨てたのでよかったが、1秒遅れたら、危なく爆死するところであった。それでも爆風で転がり、髪はちりぢり、顔は真っ黒。喜劇の定番の格好である。


「き、貴様……職業はなんだ……。グフ、歴戦の傭兵か? それとも凄腕の暗殺者か!」

「グフ、このとおりだ。勘弁してくれ……グフ」


 ハーベイは二徹に土下座する。この男には逆らってはいけないと本能的に感じたのだ。二徹はしゃがみこんでハーベイに微笑んで答えた。


「ただの専業主夫だけど」

「はあ?」

「ただの専業主夫だよ」


 ハーベイは凍りつく。体が恐怖で動かない。二徹の微笑みが恐怖を増幅する。


「ば、馬鹿にするな~。せ、専業主夫に我々が負けるわけがないで、グフ」


 ハーベイは上着を広げた。上着の裏地と体に爆弾が巻きつけてある。これを爆発させれば船ごと沈む。自分のプライドのために全員、道連れにしてやると短絡的に思ったのであろう。二徹は両手を広げてた。


「ふう……。あなたの爆弾。僕にとっては相性が良すぎるのだけどね」


 爆弾が爆発するにはタイムラグがある。時間を操作できる二徹には、もっとも組みしやすい敵である。よって、爆弾が爆発する時間を『停滞(スタグネイション』させて、そのままハーベイを海に投げ込んだ。海水で濡れては爆発しないであろう。




「ニコちゃん、そっちはどう?」


 2人の手練の敵を葬った二徹は、そうニコールの方を見た。ニコールの方に向かった剣士はかなり腕が立つと思っていたが、ニコールの峰打ちに白目をむいて倒れている。


「こっちは大丈夫だ。敵はすべて殲滅した。味方の兵士もどうやら死人は出ていないようだ」


 錨を下ろして船を止めたカロン曹長とシャルロット少尉が兵士たちを介抱している。けが人はいるが深刻でもないようだ。


「お、お姉様。ニコールお姉様!」


 リーゼルはニコールに駆け寄り、その胸の中に飛び込んだ。ニコールは自分の腕の中のリーゼルの髪をそっと撫でた。


「お……お姉さま……。リーゼは間違っていました……。今まで生意気言ってごめんなさい」

「怖かっただろう、もう安心だ。私と二徹が来ればすべて解決する」

「お姉さま」


 そっとニコールの胸に顔を埋める妹を見て、二徹はほっとした。長いこと対立していた二人の関係がこれで修復へ向かうと確信したのだ。


「ば、化物だ~」


 全ての部下を倒されたローズベルト侯爵は、やっと我に返った。踵を返して逃げようとする。狭い船の上でどこへ逃げても無駄であるが、もうパニックになっていて正確な判断が下せない。


パン……。


 乾いた銃弾の音が海風を切り裂く。音と同時に逃げ出そうとしたローズベルト侯爵が倒れた。頭を打ち抜かれたのだ。


 ニコールと二徹は弾が飛んできたと思える方向を見た。港の方向。1個中隊が布陣しているところである。太陽が沈み、夜の帳が降りようとしているこの時間。逆光でよく見えない。慌てて駆け寄る二徹。致命的な銃創を頭に受けたローズベルト侯爵は、人形の如く動かない。


「ニコちゃん、侯爵は即死だ」

「何ということだ。これでまたゼーレ・カッツエの中枢に迫る生き証人を失った。今日捕らえた連中からでは、ロクな情報はないであろう」


 ニコールはそう言って小さくため息をついたが、今はリーゼルを救出という最大の目標は達成できたのだから、よしとすることにしたようだ。一緒に突入した部下も怪我をしたものもいるが、戦死者は0人であるから戦闘の規模から言えば満足がいく結果である。


(それにしても誰が侯爵を狙撃したのだろうか……)


 船までの距離、視界の悪さ。そして逃げ出して移動中であった侯爵の頭を撃ち抜いたのである。相当な腕の持ち主であろう。


「連隊長閣下。ニコール大尉からの報告。敵の船の完全制圧に成功したとのことです。また、敵船に囚われていた女性12名を救出しました。何者かが救命ボートに誘導して脱出させたようです」


 AZK連隊第1中隊の隊長がそうレオンハルトに報告をする。中隊に属する各小隊は、港の中に分散し、船への射撃、船の進路を邪魔するように別の船に乗り込むなど、慌ただしく活動していた。


 このような統率の取れた行動ができたのも、各小隊をこまめに回ったレオンハルトの指揮のおかげであったと言える。今も右翼の小隊から戻ってきたばかりであった。


「うむ。ボートで2個小隊を送り込み、船を接岸させろ。ニコール大尉の部隊だけでは、難しいだろう。1個小隊はけが人の搬送の準備を」


「はっ。すぐに手配します。それにしても、ニコール大尉は相変わらず勇猛ですな。あの容姿からは想像ができない」

「そうだな。彼女は後方勤務もできるが、あのように前線で指揮する能力もある。他には得がたい人材だ」


 レオンハルトはそうニコールを評した。港を離れようとする船に飛び乗る勇気は女性ながらあっぱれとしかいいようがない。


(だからこそ、気を付けないとな。侯爵が捕らえられたらゼーレ・カッツエの全容が全て分かってしまいかねない)


 ローズベルト侯爵は古い体質の人間で、レオンハルトから見れば『無能』な人物である。だが、ゼーレ・カッツエ内では幹部であり、彼が握っている秘密は大変なものがあった。


「それにしても、連隊長殿は銃の名手と聞いております。今日はその技を見られると思いましたが、残念です」

「小隊長、今は私も将官だ。昔ほどの腕はもうないよ」


 そう言ってレオンハルトは笑った。ここへ来る前の彼の行動については、誰も見ていない。


「ち、ちくしょう……。あの男、一体、どんな技を使ったんだ」


 爆弾魔ハーベイはやっとの思いで岸へ上がった。もう体力は残っていない。うつ伏せで倒れて腕を5センチも上げられない。


「おや。無事に泳ぎきりましたか?」

「グフ……き、貴様は……」


 苦しい息遣いで話かけてきた人物を見たハーベイは恐怖した。あの海に叩き込んだはずの老家令が立っている。海に落ちたはずなのに体はどこも濡れていない。


「あなたには少しお仕置きしておきませんと」


 そう言ってジョセフは小さな爆竹を掲げた。それをうつ伏せで動けないハーベイのズボンをめくるとそのお尻に爆竹を突っ込む。顔はあくまでも真面目。やっていることは結構ゲスい。


「ふ、ふへえええっ……。ま、まて……まさか……」

「心配はありません。ちょっと強い爆竹ですから」

「いやいや、爆竹なんてケツの○ナに刺したら……まさか、火を点けないですよね」

「お客様。爆竹には火を点けるものです」

「ひゃ、ひゃめて~」


 ジョセフは黙ってマッチを擦った。そして爆竹へ点火する。


バチバチバチ……ボン!。


 ハーベイのお尻がどうなったかは、想像に任せよう。


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