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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第1話 嫁ごはん レシピ1 鯖とアサリのトマト煮&カチョエペペ添え
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幕間 狂乱淑女(レディ・バーサーカー)

9/17 全面改稿 サブタイトルも変更しました。

「イタタ……」

「分隊長、動かないでくださいよ」

「動くと湿布を貼れませんぜ」


 近衛隊の宿舎。兵士たちの集団部屋である。痛いと文句を言ったのは、ニコール小隊の分隊長カロン軍曹である。


 カロンは大男で、まるで熊のような体躯をもった頑強な兵士であった。顔は口ひげとあごひげを蓄え、傷跡をいくつか残した顔は、一目見た女性が思わず泣いてしまう怖い顔である。


「畜生、あの女隊長、貴族のお姫様じゃないのかよ」

「分隊長、知らなかったのですか?」


 分隊の近衛兵たちは、この新しく赴任してきた乱暴な分隊長を憐れむように見た。

その視線にカロン軍曹は改めて美しい女隊長に恐怖を覚えた。反抗する自分をボコボコにしたあの武芸。身のこなしからして尋常ではない。


「ニコール・オーガスト中尉は伯爵令嬢ですが、武術大会ではいつも上位を取るお方です。特に関節を決める技はどんな猛者でも防げない」

「ああ、あの技か……」

「しかも、士官学校時代のあだ名を知っていますか?」

「なんだ?」

狂乱淑女レディ・バーサーカー

「マジかよ!」

「怒らせたら誰も止められない戦闘力って話です」


 見た目は華奢に見えるニコール。だが、カロンはそれを信じた。なぜなら、その華奢なお姫様にボコボコにされたのが自分だったからだ。


 ニコールにそういう武勇伝がなければ、自分が負けたことの正当な理由付けができない。 

 訓練をわざとサボっていたカロン軍曹。これまでの所属は大陸にある同盟国の駐留部隊で、最前線に身を置いていたことが自慢であった。


 加えて過去には、外人部隊で実際に生きるか死ぬかの戦闘をしたこともある。

 だから、お飾りの近衛隊への配属に反発したし、上官が貴族のお姫様とか勘弁してくれと思ったのは事実だ。

 

 彼にとって、訓練をサボったのは軍人としての矜持であった。こんな王宮の飾り人形のようなことはしたくないという意思表示だ。


(それなのに、あのお姫様小隊長。命令が聞けないなら体で覚えさせると言いやがった。世間知らずのお姫様の妄言だと適当にあしらうつもりだったが、結果は全力を出したのにボコられてこのざまだ。畜生め!)


「分隊長、明日からちゃんと訓練に参加してくださいね」

「……ああ、やるさ。約束させられたからな」


 腕を極められ、折れる寸前まで痛めつけられた。あまりの激痛につい約束をしてしまったが、あれを耐えられる人間なんかいない。悔しいが完敗であった。そうなると、男としての矜持を示すために大人しく従うしかない。


(しかし、あの女隊長。普通は命令違反で独房に俺を入れるとかできるのに、それをしなかった。なかなか、やるじゃないか)


「何、ニヤついているんですか、分隊長殿」

「ニヤついてなんかおらんぞ」

「分隊長、ヒゲを剃れという命令も従うのでしょうね。はい、カミソリです」

「ううう……」


 関節技を極められて、約束させられたのは訓練だけではない。いくつかの命令を強制されていた、ヒゲを剃るのはその一つなのである。


「近衛隊の兵士にはヒゲはいらない。剃れ!」


 美しい顔であの小隊長は言い放った。


「鬼だ……」


 部下に蒸しタオルをあてられて、ジョリジョリとヒゲを剃られるカロン軍曹。


 ヒゲを剃ると……。意外にもいい男になっていた。


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