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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第8話 嫁ごはん レシピ8 ゆで卵ともったり給食カレー
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スープパスタ 美の戦姫小悪魔風

「いよいよ、残り2つ。これは相当レベルの高い戦いだと私は思う。まずは、王宮料理アカデミーのレイジくん。採点前に少し聞きたいことがあるのだが。これはここにいる3人の審判全員の質問でもある。採点に影響するので最初に聞きたい」



 バルボア公爵はレイジに質問をする。このスープパスタのポイントは、スープである。王宮のように恵まれた環境なら、多数の食材からスープを抽出し、奥深い味を引き出せる。だが、戦場ではそれは不可能である。このスープパスタがどうやって、スープを取ったのかは気になるところだ。


「それはですね。これです!」


 レイジは紙に包まれた小さなキューブ状のものを取り出した。それが何かは誰も分からない。会場で分かっていたのはアカデミー関係者と恐らく二徹だけだろう。


「なんだそれは?」

「そんな小さなものがスープと関係があるのか?」


 審判も観客も注目する。レイジは得意満面に説明をする。それは勝利まであと一歩という確信に満ちたもの。彼がちらりとニコールとリーゼルに視線を移したことを二徹は見逃さなかった。


「これは我が王宮料理アカデミーが開発した『スープの素』です」

「スープの素?」

「そんな小さいもので?」


「はい。これ一個で5人前のスープができるのです。今回の特製スープパスタはこのスープの素を使って作りました」


「おおおおっ……。なんとすごい!」


 本格的なスープを作ることは難しい。スープといえば、琥珀色で透き通った『コンソメ』スープが思い浮かぶ。コンソメスープというと、日本人は固形のスープの素が思い出されるが、元々、コンソメとはフランス語で『完成された』と訳される言葉。


 コンソメスープは鶏がらや野菜を煮込んで作った『ブイヨン』をベースにして、さらに鳥のひき肉、コクを出すための牛肉、卵白、玉ねぎ、人参、セロリと言った野菜を加えてさらに煮込んでいく。アクを丁寧にすくい取り、時間をかけて作るものだ。


 だから手間暇をかけられない戦場飯にコンソメスープを出すのは不可能である。不可能を可能にしたのが、今回の王宮料理アカデミーが研究開発した『スープの素』なのである。


 レイジが属する王宮料理アカデミーは、長年の研究からこのコンソメをギュッと閉じ込めた粉を作り出すことに成功し、それをキューブ状に固めた『スープの素』と完成させていたのだ。これは戦場飯からすると画期的なことである。手軽に本格的なスープが、戦場でも飲めるのだ。

 

 3人の老将は目の前に出されたスープを一口すする。じわっと口全体、いや、それは喉を通り、胃に達すると爆発した。旨みが弾け、全身を侵食する。旨さという快感である。


「う、ううう……」


 3人ともスプーンが止まらない。量もわずかであったから、5杯ほどすくってなくなってしまったが、その間、1分もかからなかった。無我夢中で飲み干し、具を味わい、食べ尽くしたのだ。そして食べ終わった時には放心状態。飲んだあとにまで続く幸せな気分に酔いしれる。

 

 観客たちもその様子を見て、また食べたくなった。同じ快感を先ほどの試食で味わったからだ。やがて、3人の老将たちは採点のために現実へと意識を戻した。


「素晴らしい……。これは戦場飯の革命レボリューションだ」

「そして、このスープパスタの完成度の高さは秀逸!」

「洗練された味……これが戦場で再現できれば、兵士の士気は上がるだろう。パスタは腰があり、噛むと少し抵抗があってからプツンと切れる。そして、そこへ濃厚なスープが絡み、なんとも言えない快感が……」


「具のベジ(キャベツ)の甘味がいい。スープで煮込んだのにシャキシャキ感もある。これは作り方にコツがあるのだろう。まさにプロの技術じゃ」


 審判に大絶賛されるレイジのスープパスタ。レイジは得意満面である。そして、勝利を確信したのか、声高らかに叫んだ。右手を天高く突き出し、仁王立ちする。


「我が王宮料理アカデミー渾身の戦場飯。『スープパスタ、美の戦姫小悪魔風』これで俺の勝利は確定。我が青春に悔いなし!」


 他の王宮料理アカデミー生はキョトンとした表情でレイジを見ている。たぶん、ニコールとリーゼルに向けられたレイジの視線から、彼がこの料理の別名を勝手に付けたことが想像できる。


「うむ。それでは採点をしよう……」


【王宮料理アカデミー】スープパスタ、美の戦姫小悪魔風


バルボア公爵

材料 25

調理のしやすさ 25 

美味しさ 25

質 25


計100点


ウィリアム上級大将

材料 25

調理のしやすさ 25

美味しさ 25

質 25


計100点


ラルフォード提督

材料 25

調理のしやすさ 25

美味しさ 25

質  25


計100点


観客ポイント……???


「うおおおっ!」

「すげえええ!」

「満点かよ!」

「ちょ、ちょっと待て。なんで観客ポイントが伏せられているんだ?」


 まさかの満点である。この結果にざわつく会場。観客は不思議に思った。観客ポイントがなぜか示されていないのだ。


 だから、これで決まったというわけではない。あえて伏せたことを考えると、次の料理との対決への盛り上げのためであろうとみんな考えた。


 バルボア公爵が立ち上がり、厳かに宣言する。


「まだ最後の戦場飯が残っている。今の満点の結果は暫定である。近衛隊の戦場飯『もったり給食カレー』なるものを食べてから、王宮料理アカデミーの点数を最終決定とする」


 レイジの出したスープパスタは、この時点では完璧だと思える。これは戦場飯に通じた老将三人の共通した意見だ。


 しかし、それは絶対評価のようであって絶対評価でない。絶対評価を決める規準が老将三人にはあるのだが、それを打ち砕く可能性が最後の料理にあるのではという判断からである。つまり、彼らは最後の料理を食べて、相対評価するとレイジのポイントが変わってしまう可能性があるとの考えたのである。


 観客のポイントを現時点で伏せたのは、そういう意味もあったからだ。そんな回りくどいことをしなければいけなかったのは、観客ポイントの結果が3人の老将には信じられないことであったからだ。


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