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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第8話 嫁ごはん レシピ8 ゆで卵ともったり給食カレー
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レイジ、暴走モード突入!

本日2回目の投稿です。

「ククク……。さすがは伝統や定評のある戦場飯の数々。しかし、所詮は素人料理。我ら王宮料理アカデミーの洗練された料理とは比べ物にならないよ」

 

 レイジの表情には余裕がある。工夫を凝らした各部隊の戦場飯を見ても、負ける気はこれっぽっちもないようだ。それは根拠のない強がりではなく、確かな自信に裏付けされている確固としたものであることは、自信にあふれる他の者への指示の様子からうかがわれた。


「まずはお湯を沸かせ!」


 レイジが命じたのは大きな鍋2つにお湯を沸かせること。1つで50人前はありそうな鍋である。一つはたっぷりと水を張り、もう一つは少ない量である。


「よし、その間にベジ(キャベツ)の下準備だ」


 レイジは仲間と共に、キャベツを大き目の一口大に切る。これはかなり豪快である。そしてベーコン(バービン)。これは塩漬けにしたブル肉を燻製にしたものだ。ベーコンは保存食として考案されたものであるから、肉製品なのに日持ちがするのだ。常温で1週間。冷やして保存すれば20日ほどは持つ。戦場で食べられる貴重なタンパク質である。

 

 レイジたちはベーコンを1.3ク・ノラン(0.7センチ)程の幅に刻んでいく。だが、材料はどうやらそれだけのようだ。手の込んだ料理を信条とする王宮料理アカデミーにしては、シンプルな料理だ。


「あのレイジって人、自信たっぷりに、勝ったらリーゼやニコールさんとダンスをしたいなんて言っていましたけれど、あれじゃ海軍さんのスープにも勝てないんじゃないかと思いますわ」


「いいや、リーゼ。僕はそうは思わないよ」


 二徹はそう自分たちの作業をしながら、レイジたちの料理を分析する。確かに食材は今のところ2種類だが、それは戦場で作ることを考えれば適切な選択だ。キャベツ(ベジ)ベーコン(バービン)と手に入りやすく、戦場に運びやすい材料を選択していることもポイントが高い。


(問題はどうやって彼がスープを取るかだ……)


 二徹はレイジたちの作る料理がなんであるか見抜いていた。それは大きな鍋にパスタ(ピコッタ)を投入することで確実となった。レイジが作るのは『キャベツとベーコンのスープパスタ』であろう。


 戦場でも簡単にでき、さらにこじゃれた感じで選択としては間違っていない。だが、問題はスープである。味を決めるスープ作りには時間がかかる。戦場で鶏がらからスープのストックを取るなんて暇はない。敵がいつ攻撃してくるか分からない戦場では、スピードも大事なのだ。


ピコッタ(パスタ)は少し固めに茹であげろ!」


 レイジは命令しながら、唐辛子(ルコ)の刻んだものをオリーブオイル(リジン油)で炒める。唐辛子の鮮烈な香りとオリーブオイルの香りが食欲を刺激する。そこへベーコン(バービン)を投入する。ジューっという音が香りとの2重奏となる。見ている観客たちも、レイジの手際よい作業に見とれている。


「この前は僕が勝ったけど、レイジは侮れないね。あの手際の良さは大した腕だよ。あれで王宮料理アカデミーの見習い生とは、王宮料理アカデミーはすごいところだよ」


 二徹はそう感心してレイジの作業を見守っている。どうやら口先だけの男ではないようだ。今回の二徹との勝負に全力をかけてきているようだ。その勝利の褒美は、ニコール(愛妻)とリーゼル(妹)とのダンス。


 ダンスくらいさせてやろうかと思わんでもないが、やっぱり、そこは夫や兄の立場として、簡単には譲れない。


「お兄様、大丈夫ですの? リーゼ、あの人と踊るのはちょっと遠慮したいですわ!」


「はーははっ。二徹、今回は俺の勝ちだ。ゴージャスに、デリシャスに、スーパーに、ゴールデンに俺が勝つ!」


 フライパンを振って意味のわからないことを叫んでいるレイジ。彼は料理をする時には、自分の世界に入ってしまうようだ。そして、何やら固形のキューブ状のものを鍋に入れた。いい香りがしてくる。


(あれは……なるほど。やはり、この勝負はレイジとの勝負になりそうだ)


 二徹はこの戦場飯勝負の鍵になることを理解している。そしてレイジも同じようだ。彼の作るのは、野性味あふれるスープパスタ。あのキューブ状のものがこの勝負の鍵になると二徹は感じた。


「待っていてください。このレイジ、圧倒的な差でこの勝負に勝ち抜き、見事にダンスのお相手の権利を得てご覧にいれます!」


 スパンとフライパンを振ると空中に舞い上がるベーコン。そして、体全体をリズミカルに動かすレイジ。その叫びは止まらない。


「リーゼルちゃん、ニコール様~っ。このレイジ、今、勝利への階段を駆け上がります!」


 レイジの暴走に王宮料理アカデミーの仲間も唖然とするが、レイジの叫びは止まらない。「ウオーウオー」と叫びながら、料理に没頭するレイジ。


レイジ……暴走モード突入。



 そんなレイジを見て、ガタガタと体を震わせるリーゼル。あんな奴とダンスすると考えるだけで、体が拒否反応を示しているようだ。分からんでもないと二徹は思った。


「お、お兄様、なんだか気色悪いですわ。リーゼはあの方とダンスなんてしたくありません」

「うん。大丈夫だよ。大切な妹や妻にレイジの相手はさせないよ」


「お兄様がそう言ってくださるなら、リーゼは安心しますけど……。ニコールさん、先程から一体、何をなさっているの?」


 リーゼルは先程から、手首のストレッチを入念に行い、今は左右の手をスナップを効かせて振っているニコールに問いかける。空気を切り裂く音がビュンビュンと聞こえる。


「リーゼも殴る準備をしておくといいぞ」

「殴る?」


「ああ。私の二徹の勝利は確定だ。そうなるとレイジの望み通りに、頬をひっぱたいてやらねばならない。男の頬を叩くのも淑女の嗜み……ククク」


「ニコールさん……怖い……」

「ニコちゃん、ちょっとは手加減してあげてよ」


 どうやら嫁の辞書には自分の夫の敗北という文字はないようだ。この期待に応えるしかない。二徹の方も準備は着実に進めている。今は玉ねぎ(ゲイギ)にんじん(ニンニン)じゃがいも(タルロ)を刻む作業をしている。


 急遽、戦場飯対決に参加することになったので、よく考える暇もなかったが、戦場飯と聞いて、すぐに思いついた料理がある。それはちょうど、昨晩に仕込みをした材料が使えることもあって、渡りに船ということでもあった。


二徹が作ろうと思った料理。それは……。


『カレーライス』である。


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