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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第7話 嫁ごはん レシピ7 湯豆腐とこんにゃくスイーツ
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公開お見合い7 目指せ、王妃への道

第7話はこれにて終了です。

「はい、皆様、ごきげんよう」

「あら、ビアンカ、今日は遅かったわね」

「そりゃそうよ。今日は例の公開お見合いに参加なさっていたのですから」


 ビアンカが現れたのはとある貴族の主催するサロン。大勢の若い令嬢や貴族の青年、軍人や文化人が集まっている。いわゆる若い上流階級の人間の集まりである。あのアリンガム家の公開お見合いに出席したビアンカは、特注で作らせたイエローのドレスを優雅に着こなし、友人たちの前に現れたのだ。


「ビアンカ、話は聞いたわ」

「マリアは実際に見に行ったそうよ」

「残念だったわね」

「残念? ホーホッホ。嫌ですわ、皆様。この私が落ち込んでいるとでもお思い?」


 ビアンカはそう手の甲で口元を隠して笑う。あのアリンガム家の公開お見合いで最終的に選ばれたのはビアンカではなくて、アン・フォスターだったのだ。だが、敗れたビアンカは落ち込んでいる様子がない。それには理由があったのだ。


「私、あのお見合いで1位を取ったとしても、私、最後は辞退するつもりでしたのよ」

「え?」

「本当?」

「どういうこと?」

 

 友人たちの頭に「?」文字が浮かぶ。アリンガム家の嫁になるということは、一生セレブな生活が送れるということである。ビアンカの友人たちは、家が男爵や子爵であり、貴族の家としても格は落ちるし、貴族と言っても経済的にはあまり裕福ではない。金持ちの実業家のところへ嫁ぐ貴族令嬢も珍しくはない。そう考えれば、大商人のアリンガム家は魅力的な嫁ぎ先なのだ。


「私、あの公開お見合いで勝利しても最終的には辞退するって言ってませんでした?」


 平然とそう言い切ったビアンカ。その表情には嘘がない。本心である。


「あの話って、冗談だと思ってましたわ」

「じゃあ、ビアンカの最終目標って、やっぱり……」


「ふふふ……。そんなの決まっているじゃない。私の目標は現国王陛下の后になることよ。それが叶わないなら、最低限でも公爵夫人ね。それ以下はないわね。ましてや、如何に大金持ちでも爵位もない平民の嫁になるなんてあるわけないじゃない……ほほほ……。まあ、最終的に断ると好感度は落ちる可能性も大きかったので、それに対する手立ても打っていましたけれど、2位だったので好感度も下げることがありませんでしたわ。こういうのをラッキーというのよ」


 そう話して、扇を開いて口元を隠して笑うビアンカ。あのお見合い会場でのおしとやかな雰囲気はない。今の姿が本当の姿なのだ。ビアンカの目標ははるかないただきにただ一つの席。そう一国の妃になることが、彼女の小さい時からの目標なのである。


「私の狙いはアリンガム家の厳しい嫁選びで優勝したという称号を得ること。それを武器に王妃の座を狙うつもりでしたのよ。残念ながら、優勝は逃しましたけれど、内容では誰が見ても圧倒的に私が優勝。私が欲しかったのは、見ていた民衆の評価。それは完全に勝ち得たわ。知ってまして、私に付けられた愛称」


「悲劇の嫁候補、完璧美人のプリンセス様でしたっけ?」

「見た目よし、頭よし、品よし、性格よしのパーフェクトレディとも……」

「ホーホホホ……。少し恥ずかしいけれど、この噂は私にとってはプラスだわ」

 

 このように年頃のお嬢さんというのは、したたかで計算高いことがよくある。自分の将来を任せ、子孫を育てるために直結する夫選びは重要なことなのだ。


 したたかな美人ビアンカの王妃への道は続く。


「ナゼ……ワレガ、アノコムスメノゲボクニナラネバナラヌ……」

 

 屋敷の外で御者とともにビアンカの戻りを待つ二千足の死神。


「どうせ、あなた、地方から出てきた職なしの哀れな出稼ぎ労働者でしょう。今回の忠義に褒美をとらせます。私の下僕にしてあげます。そうすれば、田舎の家族に仕送りもしてあげられるでしょう。あなた、私に感謝しなさい。未来の王妃の下僕第1号になれるのですから……オーホホホ」


 口下手な死神の意思を無視して話を進めるビアンカ。二千足の死神はその勢いに押されて、つい頷いてしまったとはいえ、冷酷な暗殺者である自分が簡単に手玉に取られていることに首をかしげる。


 一国を動かす大人物というのは、人を動かすカリスマがあるという。そういった意味ではビアンカには、目に見えない力があるのであろう。


「ミライノオウヒカ……アナガチ、ユメデオワラナイカモシレナイ……シバラクハ、ツキアッテヤルカ……」


「うう……あん……そこは……効く~っ!」

 

 公開お見合いが終わり、満足いく結果に二徹とニコール夫婦は屋敷に戻っている。今は夕食を食べた後の夫婦スキンシップの時間である。今日は仕事はしていないが、気疲れした愛妻の両手を優しくマッサージしてあげているのだ。


「ニコちゃん、手に汗を握って応援していたから、手のひらの筋肉が強ばっているよ」


 ハンドクリームを滑らかに伸ばし、時より力を入れて血流を流すようにマッサージする二徹。妻のスベスベした手を触るのも気持ちがいい。


「あああ……ちょっと痛いけど……癒されるううう……」

「はいはい、次は左手ね」


「それにしても、アンが選ばれたことは嬉しいことだが、1年以上も行儀見習いの後に婚約とは、アリンガム家も面倒なことをするな……アンは大丈夫だろうか……」


「あのお姑さん、結構、厳しそうだったからね。でも、アンならやれるんじゃない?」


「そうだな。あの子はあれで結構、何言われても図太いというか、すぐ忘れるというか、平気のへー子というか……きっと大丈夫だろう」


 結局のところ、花婿のオルトンはアンの応募用紙を見て感激していたらしく、アンのことをずっと気にかけていたらしい。そんなアンが自分の花嫁になりたいと公開お見合いに出てきたので、嬉しくなって書類審査ではさりげなく合格させたらしい。


 そこからは、花婿は何もできないので、アンを応援するしかできなかったが、自分が気にかけていた少女が見事に勝ち残って喜びもひとしおであろう。


「あの人が旦那だと、また『ありのままの君がいい』なんて言いそうだけど、アンはもう大丈夫。太ったりはしない」


「そうだな」


 1ヶ月の間。アンが自分に負けそうになったことは何度かあった。一度は、つい好物の『ハバム・タウ(アーモンドの砂糖まぶし)』に手を出そうといたこともあった。だが、二徹はそんなアンに思い出させた。


「君はどんなお嫁さんになりたいの?」

「……食べたいズラ……全然、体重も減らないズラ……心が折れそうズラ」

「自分に負けたら、君がなりたいものにはなれないよ。君はどんなお嫁さんになりたいの?」

「……旦那様を慈しみ、いつも支えるお嫁さんになりたいズラ……二徹さんみたいな」


「僕が嫁かよ!」


 1ヶ月の暮らしぶりから、アンの理想の夫婦像は二徹とニコールとなった。そのためには、自分に負けない気持ちをもたないとだめだよと二徹は説いた。アンはそれ以来、生活改善に取り組んだ。やがて体が軽くなり、自らてきぱきと考え動ける子になった。結果的には5kg程しか体重は減らなかったが、太る生活習慣とは完全に卒業した。続ければ痩せた健康的な身体になるはずである。


「二徹はまさに理想の嫁だな」

「ニコちゃんまで……まあ、褒め言葉ということで。はい、ハンドマッサージは終わり」


「ありがとう……どうだ、今度は私が二徹にマッサージをしてやろう」

「え、いいよ。そんなことしなくて」


「私の理想の嫁だ。マッサージをさせろ。うつ伏せになれ」

「しょうがないなあ……」


 二徹はうつ伏せになる。ニコールは両太もものところに座って、腰を両手で揉み始める。だが、力自慢のニコール。力加減が分からず、グイグイと揉むからたまらず、二徹は声を上げた。


「痛て……てててっ……ちょっと、痛いよ、ニコちゃん」

「す、すまぬ。こ、こうか?」

「お、わあああっ~っ。ぐぼおあ……」


 秘孔を突かれたの如く、奇妙な声を上げるしかない二徹。


「す、すまない……き、緊張して力が入ってしまう……」

「ニ、ニコちゃん、ちょっと腰を浮かして」

「こ、こうか……」


 ニコールが可愛いお尻を持ち上げた瞬間に、二徹はくるりと体を回転させた。仰向けになったのだ。


「ニコちゃん、マッサージだったら、このまま、体を倒して添い寝してくれるだけでいいよ」

「そ、それじゃ、マッサージにならないだろ! 馬鹿者め」

「え、やってくれないの?」


 かあ~っとニコールの顔が首から徐々に赤くなるのが分かる。しまいには頭から湯気がでているかのような羞恥ぶりである。


「お、お前がそこまで言うなら……それくらいはしてやらないことはない……ぞ……。わ、私は一応、二徹の妻だからな」


「それじゃ、おいで」

「うう……それじゃ、少しだけだぞ……」


 ニコールはその言葉を聞いて素直にそっと体を倒した。二徹の胸にそっと頬を密着させる。心臓の音を聞くかのように静かに目をつむっている。


(可愛いな……)

 と二徹は思った。

(ああ……なんだか幸せだ……)

 とニコールは思った。


 二徹はニコールの美しい金髪を両手でそっと撫で、髪を指の間から流すように愛撫する。


「ニコちゃん、これは心のマッサージだね」

「ば、ばかあ~っ」


 ああ、『今晩も勝手にやってろ!』と捨て台詞を残す夜が過ぎていく。



 ちなみにアリンガム家次期当主のオルトン。好みの女性はちょっと、ぽっちゃりな子らしい。


 つまりアンは彼にとっては『どストライク』な嫁であった。


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