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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第7話 嫁ごはん レシピ7 湯豆腐とこんにゃくスイーツ
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公開お見合い3 アンの特技

「次はあなた方の特技を披露していただきます。アリンガム家の嫁たるもの。来客に楽しんでいただく特技をもっていなければいけません」


 そうアレクシアに言われ、20人は思い思いに自分の特技を披露をしていく。ピアノやヴァイオリンなどの楽器の演奏。ダンスや伝統舞踊が披露される。観客も楽しみにしていた試験なので、大いに盛り上がる。アリンガム家の嫁選びは、観客も楽しむことができるエンターテイメントでもあるのだ。


 途中、都でも有名な歌姫の嫁候補が声を痛めて、歌い損じたり、ヴァイオリンの名手と言われた嫁候補が、演奏中にヴァイオリンの弦が切れたりするハプニングはあったが、全体的にはかなりの盛り上がりのうちに進行していった。


「わたくしは詩を朗読します。ウェステリア史第2章リシュエル王妃の悲劇」


 花嫁候補の一人ビアンカの声が響く。その声はまるで森の中を流れるせせらぎ。心が洗われるような感覚にとらわれる審査員に観客。聴き終わった時には、みんな感動のため息をもらした。心が洗われる素晴らしい朗読である。


「すばらしい朗読です。これなら外国から来たお客様にも満足していただけるでしょう」


 満足そうに微笑むアレクシア。他の二人の幹部もいい表情だ。これはかなりの高得点である。アレクシアは最後の候補者を見た。


「あら、次はあなたですわね」

「はいズラ」


 次はアンの番だ。今のビアンカの素晴らしい詩の朗読の後に行うのは、圧倒的に不利である。でも、アンはそんなプレッシャーを感じていないようだ。


(あら、この子、意外と度胸あるのね……。それとも鈍いだけなのかしら?)


 アンが何をするのか、少し興味が沸いてきたアレクシア。思わず、先にやることを聞いてしまった。


「あなたは何を披露するの? ピアノ? ダンス?」

「そのようなことはあまり得意でないズラ。でも、最近、特技にしたことを披露するズラ」

 

 アンはそう平然と答えた。その態度にプレッシャーは感じない平気のへー子だとアレクシアは認定した。だが、アンの答えに再び驚くことになる。


「マッサージをするズラ」

「???」

「ハンドマッサージをするズラ」

「マッサージですって!?」


 二徹が時折、仕事で帰ってきたニコールにしてあげることの一つに、ハンドマッサージがある。1日ハードな仕事を終えると手の血流が滞り、肌の艶もなくなってくる。いつもピチピチスベスベのニコールの手でもケアは必要なのだ。


 ハンドクリームは蜜蝋や精油、薬草を混ぜ込んだ特製のもの。特にニコールの肌にあった店のものを使っている。それを手に擦り込みながら、血行を良くし、リラックス効果を高めるのだ。まずは指を絡ませてぐるぐると回す。時折、キュッキュッと指に力を入れてあげる。それだけでも気持ちいいらしく、ニコールはそっと目を閉じる。


 次にハンドクリームを2本の指で取るとニコールの右手の甲につける。それをゆっくりと手首の方まで伸ばす。


「うううう……う~っ」


 親指と人差し指の付け根部分を優しく親指の腹で押す。クイッ、クイっと強弱をつけて押していく。リズムをつけて丁寧に指圧するのだ。手の甲から手のひら側も同様に押していく。疲れている時の妻の手は、特にここの部分にコリがある。近衛隊とはいえ、小隊長ともなるとデスクワークも多く、書類でペンを取ることも多いのだろう。ここは中指を丸め、第1関節を使ってグググ……と押す。緩めて押す、緩めて押すのリズムを繰り返す。


「どう、ニコちゃん、気持ちいい?」

「うん……気持ちいいぞ……。今日はシャルロットの奴がミスって、書類をたくさん作り直したから……特に疲れが溜まって……おおお……そこ、そこがいい~」

 

 溜まった血を手のひら全体に流すように指先に向かってマッサージしていく。指の一本一本の先まで人差し指と親指で挟んで軽く引っ張るようにしていく。両手に15分ずつマッサージをしながら、今日あったことをお互いに話す、夫婦の大事なコミュニケーションの時間でもあるのだ。

 

 その様子を見ていたアンは、自分も未来の夫にやってあげたいと思ったのだ。それで二徹に教えを請い、この1ヶ月間、ハンドマッサージ術をマスターしたのであった。



「二徹、あれはいつもお前が私にやってくれる奴……」

「ああ、そうだね。僕がニコちゃんにやっているのを見て、教えてくれと頼まれてね」

「うん。いいアイデアだと思う」


 ニコールはアンの行動を見守る。アンが小さな容器に入れたハンドクリームをアレクシアの手に塗る。そして両手でゆっくりとツボを押していく。アレクシアは目をまん丸にしてアンの行動を見守る。やりようが見よう見まねではなく、手馴れた感じで驚いたのだ。


「マッサージが特技なんて聞いたことないですわ。そんな貴族のお嬢さんが、召使いのようなことを……うっ……気持ちいいですわね」

「はいズラ、今、お世話になっている家のご主人が奥様にしてあげているのを見て、教えてもらったズラ。疲れて帰ってきた旦那様をこれで癒してあげられるズラ」


「はあああ……ううう~……」


 アンのマッサージに思わず、癒され声が出てしまったアレクシア。この公開お見合い会の開催で毎日多忙だったことを忘れてしまうくらいの快感である。だが、特技の紹介時間は短い。夢のような時間はあっという間に終わってしまう。


「奥様、そろそろ、次の試験に」

「あ、ゴホン。そうですわね」


 審査員の幹部に言われて、我に返るアレクシア。あまりの気持ちよさに昇天してしまいそうになった自分を恥じた。


(この子、ちょっと太目なので、手がぷにぷにしている。それが猫の肉球みたいでマッサージが優しくなるのかしら……ぼやっとした子だと思ったけど、意外にやるわね)


 アレクシアは、ここまであまり注目していなかったアンに興味をもった。先ほどの絨毯の試験は偶然だろうと思っていたが、どうやら違うようだと感じ始めたようだ。


「あなた、名前はアンでしたわね」

「はい、ズラ」

「なにか、どこかで聞いたことのある名前ですわね。いいでしょう。アン、特技の試験はこれで終わりです」


 ここで20人の2次審査が終わる。この試験は得点制で上位5名が決勝戦に進めるのだ。


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