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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第7話 嫁ごはん レシピ7 湯豆腐とこんにゃくスイーツ
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公開お見合い1 毛皮の絨毯

 アンがオーガスト家に来て1ヶ月が経った。そして、アリンガム家の公開お見合いの日がやってきた。


 公開お見合いとは、広くお嫁さん候補を募集し、その中から跡取り息子の嫁候補を選ぶという都でも有数の大商人、アリンガム家の先祖代々から続くしきたりなのである。


 アリンガム家は大金持ちで、そこの嫁になるということはセレブ決定である。だから、この公開お見合いに参加したい女性はたくさんいる。それこそ、何百人に上る。だから、まず書類審査があるのだ。


 アリンガム家の嫁選びの基準は、昔から決まっている。代々続く毛皮の商売を仕切ることができる器量があること。町の名士であるアリンガム家の当主の嫁として気品と礼儀作法を身に付けていること。質素倹約家であることである。たくさんの支店や関連する店、従業員とその家族を養っていく当主の嫁は、当主の隣に立って支える役を担う。それなりの女性でないと務まらないのだ。

 

 今回は387人の応募があり、そこから書類審査で50人にまで絞られた。書類には出身地、学歴、家族構成、特技等を記入するが、名家の令嬢でないと通らないというわけではない。実際には貴族出身の娘でも書類審査で落選しているし、逆に貴族の屋敷でメイドをしている女性が残っていることもある。一番の当落ポイントは、自分がアリンガム家の嫁として、どういう貢献ができるかというアピール文。これが決め手であった。

 

 容姿とか家柄で決められたら、10人並みの容姿でちょっと太目、地方の貴族出身とはいえ、どことなくあか抜けていないアンが1次審査を通るわけがない。

 

 アンは二徹のところでダイエットして、なんとか5kgほど痩せることができた。最初にオーガスト家へ来た時よりも、顔がすっきりした感じにはなったが、まだ太った娘に分類されてしまうレベルだ。


 ただ、健康的に痩せようと思ったら、1ヶ月ではこれくらいになるだろう。見た目にはあまり痩せたようには見えないが、食生活の改善と毎日の生活の見直しが定着したアンの心はかなりスリムで健康的である。その証拠にとてもよい表情をしている。


「アンは大丈夫だろうか?」


 公開お見合いだから、町の住人たちやアリンガム家に関係する人たちが見に来ている。広い広場を借り切ってちょっとしたお祭り状態である。美味しそうな食べ物が売っている屋台がいっぱい出ている。そんな中にニコールと二徹夫婦はアンの応援に来ている。アンのことを妹のように思っているニコールは、かなり心配顔である。


「さあ……。これだけお嫁さん候補がいると勝ち抜くのはかなり厳しいと思うけどね。でも、アンはこの先もずっとダイエットを続ける生活習慣を身につけたし、この1ヶ月でたくさんのことを学んだよ」

「そうだな……大丈夫だと思おう」


 アンは387名の中から書類審査を通過したのは事実だ。きっと、オルトンのことを思って一生懸命に書いたアピール文がよかったのだろう。ここまで来たら、精一杯がんばれと言うしかないだろう。


「それにしても……」

(これだけいると、勝ち残るのも大変だけど、選ぶのも大変だろうなあ……)


 二徹はステージに上がって紹介されている50人の一次通過者を眺めている。さすがに選りすぐりの花嫁候補たち。みんな華やかで可愛い。目の覚めるような美女もいれば、魅惑の肢体をもつセクシーな女性、愛くるしい顔で笑顔が魅力的な美少女。見た目でいけば、アンはかなり地味だ。それにちょいと太目。いや、この中では完全に太っています状態。そういった意味ではステージでは目立っている。


「それでは今から、アリンガム家の嫁選びを始めます」

 

 そう宣言したのは、現アリンガム家を仕切る大女将おおおかみ。名前はアレクシアという。跡継ぎのオルトンの母親である。彼女も25年前にこの嫁選びを勝ち抜いた女性だ。もとは小さな宿屋を経営している地方の娘であったが、頭がよく、またはっきりものを言うタイプでぐいぐいと従業員をひっぱり、アリンガム家をよく切り盛りしていた。夫婦仲もよく、オルトンを始め、5人の子宝にも恵まれたのだ。


 審査員はアリンガムの商売を取り仕切る幹部2人と女将のアレクシア。この3人による絶対評価である。予選の1回戦はこの3人の得票で、3人が合格を示す札を上げないとその場で落選である。嫁をもらうオルトン自身は審査に加われない。


「それでは1次審査は歩き方よ」


 そうアレクシアが宣言する。見ている観客はみんな驚いた。そんなことで優越が決まるのだろうかとざわつく。


「歩き方?」

「そんなんで、審査できるのか?」

「そりゃ、アリンガム家の若奥様だ。上品に歩かないとダメだろ」

「上品な歩き方ってなんだ?」


 一人目の女性が歩き始める。足の長いスタイルのよい女性だ。かなり短いスカートでお尻を振り振り、自分の魅力であるセクシーさを披露する。尖ったピンヒールをリズム感よく動かす。歩き方も洗練されていて、見ている観客は思わず目が釘付けになる。まるでファッションショーのような、張り出した長いステージの先端で決めポーズをする。片目を閉じてその前方にいる審査員とオルトンにアピールをする。だが、ここで審査。3人の札が上がらない。


「ええっ!」

「あれで落ちるのか?」

「悪いところなんかないだろ?」


 観客たちが驚きの声を上げる。歩き方と言うより、少し派手な外見が駄目だったんだろうと落ちた理由を話し合う。次の候補者はおしとやかな女性。ロングドレスで優雅に歩く。上品な姿に観客は思わず見惚れる。だが、札は挙がらない。


(なるほど……さすがは毛皮を商いとして扱っているアリンガム家だ)


 二徹は2人の女性が落ちたところで、なぜ合格しなかったか理由が分かった。そして、7人目の女性がやっと合格した時にニコールも気が付いた。その女性はステージの先端のところで真ん中の部分を迂回するように回って歩いたのだ。


「そうか、あの先端のお立ち台部分の絨毯に乗ったか、乗らないかで合格か不合格かが決まるのか!」


 ステージには赤い絨緞が引かれているが、モデルウォークをする通路の最終地点の絨毯は毛足の長い白いものが敷かれていた。まるでここで止まってアピールしなさいというようにも思える。出場者の嫁候補たちは、他の出場者の姿は見えないようになっているので、参考にできない。


 そうこうすると、アンの順番が回ってきた。アンはまっすぐ歩いていく。このまま歩み続けると思ったが、なぜか先端の絨毯の手前で止まった。


(どうするアン……)


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