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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第1話 嫁ごはん レシピ1 鯖とアサリのトマト煮&カチョエペペ添え
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二徹の力

9/17全面改稿 二徹の2つの時間操作能力を整理してみました。

 二徹は農家が直接売りに来る露店へと足を運ぶ。野菜や果物は魚や肉といった生鮮食品を売っている店とは少し離れたところにある。


 二徹はいつも買う農家のおばちゃんの店に行く。それはシートを屋根がわりにかけただけの小さな露店だ。椅子に座った少し太った犬族のおばちゃんの前に、トマトが山と積まれている。


「おばちゃん、今日も買いに来たよ」

「二徹ちゃんじゃないの。そろそろ、来ると思ったよ」

「いつ見ても新鮮だね」

「あたりまえさ。あたしが暗いうちから起きて収穫しているからね」


 おばちゃんの旦那は兵士として動員されて、大陸にあるウェストテリアの同盟国に駐留している。旦那からの生活費の送金はあるが、食べ盛りの子供を抱えて苦労している肝っ玉かあちゃんである。

残された畑を耕し、野菜を作り、午前中はここで収穫物を直接売る。直売するから実入りもいいのだ。


「じゃあ、トマト(レドラ)をもらうよ」


 レドラというのはこの世界で『トマト』のことである。トマトは日本で手に入るものと同じ味で、生で食べても美味しい。


 今回はイタリア風の煮込みにするつもりであるから、イタリア風のトマトが欲しいところだが贅沢は言えない。ちなみに『レドラ』とは、赤い丸い実という意味だそうだ。


「あと、香草とニンニク(ジズル)をもらうよ」


 山と積まれたトマトの片隅にそっと積まれたハーブがある。ハーブはいくつも種類はあるが、二徹が選んだのはオレガノ。おばちゃんはちゃんと摘んでから乾燥させているので、生葉よりも香りが強くなっている。


 これはチーズやトマトの味とよく調和し、さらに味を引き立てるのだ。ニンニクはおばちゃんの畑の隣で栽培しているじいさんのものだ。ニンニクを作り続けて50年という名人。今は足が悪いので代わりにおばちゃんに売ってもらっているのだ。


 この名人のニンニクも大きくて香りがいい。そのまま、油で揚げて食べるとホクホクでたまらないが、今日は薬味として使う。


「おばちゃん、いくら?」

「そうだね。合計10ディトラム銅貨2枚と1ディトラム銅貨5枚だよ」

「ちょっとまけてよ」

「仕方ないね。そこの形の悪いトマト(レドラ)、一つオマケしてやるよ」

「悪いね」

「あんたにはいつも買ってもらっているからね」


 二徹は10ディトラム銅貨を3枚出した。そしておばちゃんからお釣りの1ディトラム銅貨を5枚受け取る。そして形がいびつなトマトを手に取った。それをシャツできゅきゅと拭く。そして、かぶりついた。


 瑞々しい汁が飛び散る。酸味の中に甘味がある絶妙な味が口いっぱいに広がる。野性味あふれるトマトである。


「それじゃ」


 二徹はそう言って店から離れた。他の客が来たこともあり、小さな露店では長居は無用だからだ。トマトを食べながら他の露店を見て回る。


「ちょ、ちょっと待ちなよ! お代は!」


 後方から野菜売りのおばちゃんがヒステリックな声が聞こえてきた。二徹が振り返ると、トマトを袋いっぱいに抱えた男が逃げ出そうとしている。代金を払わず逃げ出す気だ。


「うるせい、ババア。こんなもの売り物になるかよ!」


 男はおばちゃんに捨て台詞を吐く。慌てて、追いかけようとするおばちゃんだが、並べられた野菜が邪魔で容易に飛び出すことができない。


「誰か、泥棒だ、捕まえて!」

「はん、衛兵警備隊じゃあるまい。安い野菜を盗んだくらいで捕まえるボケがいるかよ!」


 男はナイフをちらつかせている。周りの人間は巻き込まれないようにと、遠巻きにするだけで誰も行動を起こそうとしない。男が言うように野菜くらいでケガをしたくないのだ。


(この市場は好きだけど、こういう輩が出るから油断ができないな)


 二徹はポケットから先ほどお釣りとして受け取った1ディトラム銅貨を1つ取り出した。


時間よ、加速せよ!(エクサレイション)


 二徹はそう念じて、銅貨を人差し指と親指ではさみ、親指でビシッと弾いた。それは目に見えないスピードで飛び出す。二徹がもっている不思議な能力による効果である。


「痛!」


 男が手にしたナイフを不意に落とした。強烈なスピードで銅貨が手を直撃したのだ。銃で撃たれたと男は軽いパニックに陥る。だが、攻撃は止まない。


「次!」


 二徹は親指を弾く。凄まじいスピードでそれは男の右足、左足を次々に直撃。あまりの痛さに男は膝を折った。そして最後の一枚が男の額に当たる。


「きゅうううっ……」


 抱えていた袋が地面に落ちた。赤いトマトが2つ転がる。男はツンのめって気絶した。普通ならコインが当たったくらいでこうはならない。思いっきり投げて当たっても、せいぜい、ちょっと痛いくらいであろう。


 時間を加速する能力(エクサレイション)……。時間を止める能力(スタグネイション)と共に、二徹の意思によって自分、特定の対象物を加速&減速する能力である。それを使えば、投げた物のスピードをとてつもないレベルにすることができる。 


 殴り掛かられても、スローモーションのようにしてかわすこともできる。逆に二徹のパンチは目に見えない。一瞬で100発の拳を敵に叩き込むこともできる。銃で撃たれても弾を見極めることもできた。


 最初は、ほんの5秒程度の加速&減速に過ぎなかったが、年を重ねるにつれて操れる時間も長くなっている。もちろん、制約もあるが時間を自由自在に操れることはかなりチートである。


 但し、二徹は滅多なことではこの能力は使わない。こういう能力は、争いの元になるに違いないという思いからだ。多用すれば禍が必ず自分に返ってくるものだと思っていた。


 だが、人助けは別。そういう時だけ、二徹はそのチート能力があまりバレないように使うことにしていた。今の場合も全く気づかれていない。


 倒れた男を駆けつけた町の衛兵警備隊の衛士が逮捕する。おばちゃんの叫びに誰かが呼んでくれたらしい。急に倒れた男を不思議に思いながらも、おばちゃんが経緯を衛士に話している。


(悪い奴に天罰が下ってよかった)


 実際に罰を下したのは二徹であるが、他人事のように二徹は事の成り行きを見ている。やがて、野次馬もまばらになり、市場は平常を取り戻した。二徹は買ったものを抱えて、家路についたのであった。


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