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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第1話 嫁ごはん レシピ1 鯖とアサリのトマト煮&カチョエペペ添え
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猫族の鮮魚店

9/17 全面改稿 板前さんの助言で魚の鮮度、見分け方を修正しました。

 今日も食材の仕入れの為に町の中心にある屋敷から、馬車に乗って市場へやってきた二徹。いつものように御者を待たせて、市場の中へと歩いていった。


(今日は何にしようかな……)


 市場では野菜や果物、肉に魚など、この国で生産されるものはもちろん、大陸の食材まで手に入る。


「あら、二徹さん、今日も買い物ですか?」

「ああ。今日は魚料理にしようと思ってね」


 いつも買っている魚屋の看板娘が話しかけてきた。彼女はミルルという名前で15歳。漁師の親父が採ってきた魚を母親と市場で売っている女の子だ。


 短い赤髪だが、後ろは細長く残している部分があり、それを三つ編みにしているのがトレードマーク。エプロンドレスに長靴という格好である。小さな体でくるくると動くから、大きな眼と合わせて可愛いポメラニアンみたいだといつも二徹は思っている。


(ああ、ポメラニアンは失礼だけどね……)


 二徹が心の中で訂正したのは理由がある。それは彼女の頭に猫耳が生えていること。コスプレではない。これは自前なのである。彼女は猫族と言われる種族なのだ。

 この異世界には明らかに容姿のことなる種族がある。まずは人族。これは二徹のような容姿をしている。


 二徹は生まれ変わりなので、黒髪で小柄という典型的な日本人の容姿とは少々違い、赤髪で瞳の色は緑という外人顔であるが、これは珍しいことではない。


街を歩けば金髪、赤髪、茶髪、銀髪と多種多様な容貌の人族が歩いている。ここまではニューヨークやパリ、ロンドンといった西洋の国際都市を歩けば、目にするありふれた光景だ。


 だが、全く違うのはミルルのような猫族。これは日本の秋○原あたりに行けば、メイド服を着て、「ご主人様、お店に来て頂戴にゃん!」なんてやっている光景を目にするかもしれない。しかし、コスプレとは違ってその耳は本物なのだ。


 猫族といっても、猫耳と尻尾が生えているのと、目が猫目風に大きいくらいが特徴で、スカーフで頭を覆ったり、尻尾を隠したりすれば人族とは区別がつかない。これはもう一種族ある犬族も同じであるが。


猫族は主に商売に携わることが多く、犬族は役人や軍人に多いらしい。失礼ながら猫と犬の性格にあった職業選択だと二徹は思う。


 無論、猫族の軍人もいるし、犬族の商売人もいるから、あくまでも多いというだけであるが。ちなみに人族はいろんな職種にいる。支配階級である貴族、王族は人であるが、猫族や犬族の貴族もいないことはない。


 さらに種族間の婚姻も珍しいが、ないわけでないのでそれぞれの混血、ハーフ猫族やハーフ犬族というのも少数だがいる。さらに派生の狐族、熊族等というのも存在するが、人間の容姿に耳、尻尾が違うだけ。なんとも平和な社会である。


二徹は猫耳をぴょこんと動かしたミルルに笑顔を向けた。


「今日も活きのいい魚が多いね」


 そう言うと二徹はミルルの店の魚の見定めをする。粗末なテントが張られただけの店だが、木の箱に並べられた魚はちゃんと氷で覆われているか、氷水に漬けて1~2℃の低温にして、鮮度を保つことに配慮がされている。


 魚の鮮度を保つ工夫の一つとして、身を真水できっちりと洗い、塩水には触れさせないことがある。これは海水の中に食中毒を起こす細菌がいるからであるが、この世界では長年の習慣でこのような方法を取っている。二徹が見ても間違ってはいない方法だ。


 二徹は修行時代に、塩水(たて塩)で洗って冷蔵庫で冷やしたり、酒塩(酒に塩を入れたもの)で腹や血合いのところを丁寧に洗ったりする方法で魚を美味しくする技法を経験していた。


 それは魚を美味しくするためのものであるが、塩水による食中毒のリスクと切り離せなかった。魚を安全に食べるには、鮮度への配慮は常に付きまとう。


「今日のオススメはカンパチ(ジギュ)サビルだよ」


 不思議な名前を言うミルル。指差す魚は、『ジギュ』。これはカンパチに似た魚。『サビル』は鯖っぽい魚である。二徹が日本で取り扱っていた魚介類のうち、何種類かはここで手に入るのだ。


 二徹は元料理人だから目利きには厳しい。ミルルの店はどの魚も新鮮だが、魚にも当然ながら美味しい季節がある。そういった意味では鯖に似た『サビル』は、今の季節は脂が乗ってもっとも美味しい時期である。


「うむ。目が綺麗で身もピンと張っている。何よりも、太って脂がのってそうだね」

「うちは親父が今朝捕ってきた、新鮮なものだけしか店に出さないからね」


 ミルルの父親は数人の漁師を雇い、2隻の船で魚を捕まえている。主に網で捕らえるが、後半は自ら釣り糸を垂らして魚を釣る。


 二徹はそうやってミルルの父親が釣った魚をよく買うのだ。なぜなら、釣った魚は丁寧に扱われ、血抜きもその場で行われているからだ。


『サビル』という魚は鯖っぽいと書いたが、腹が銀色で青みがかった背の色はまさに鯖。大きさも30センチを越える。ただ、若干、赤や黄色の斑点が見られるのが違うところ。


 脂がのって焼いても煮ても美味しいのであるが、この世界では『ゴルスチ』と呼ばれる魚介類のごった煮にしてしまう。


 たまに焼くこともあるが、それは店で食べるときだけ。換気扇もない普通の家庭では、この脂の乗った魚を焼くなんて無理だろう。


「うむ。腹は軟らかくないし、目もブルーがかって、レンズのようだ」

「ふふふ……。それに全体はよく膨らんでいて、ぬめりがあるでしょ。また、エラも鮮やかで赤いですよ。二徹さんに教えてもらって、魚の目利きができるようになったよ」


 ミルルの猫耳がピクピクする。嬉しい時の仕草だ。


「魚屋が目利きできないでどうするんだよ」


 二徹はそう言って、ミルルの額を指で押した。二徹はこの子を妹みたいに思っているのだ。ミルルもお客の二徹を兄のように慕っているところがある。


「仕方がないでしょ。親父もおかあも仕事で覚えろって、満足に教えてくれないし。それにうちはどれも新鮮だからね。目利きの必要はないよ」


「そんなことはないよ。新鮮な魚でも美味しい、まずいはあるからね。結局、目利きというのは名人芸なんだ。長年の経験がないと完璧にはならない。僕の目利きだって、一般的な特徴であって、それが全てじゃないさ。僕レベルじゃ、包丁を入れてみて失敗したということもよくあるよ」


「ふ~ん。奥が深いんだね」

「ああ。目利き10年って言って、一つの魚の目利きが完璧にできるまで10年かかるって言われているんだ」

「10年? 一つに? そんなにかけちゃ、ミルル、すぐにおばあちゃんになってしまうよ」

「まあ、一流のプロレベルの話だよ」


 そう言うと二徹は氷に埋もれた中から、極上の鯖を2匹選んだ。どれも新鮮で美味しそうだが、その中でも最高と思われる2匹だ。


「内臓はもう取ってあるよな」


 ミルルの父親は釣ったその場で、魚の内臓を出してしまう。これは寄生虫対策。この世界でも、魚には寄生虫がいることがある。


 寄生虫といえばアニサキスが有名だが、これは普段は内臓にいて、魚が死ぬと徐々に身に入り込んでくる。朝に釣った魚を午前中に出すミルルの魚屋では心配ないが、鮮度が悪くなるにつれて危険度は増す。


 さらに鯖に似た『サビル』は、鯖と同じようにすぐに鮮度が悪くなる。『鯖の生き腐れ』と同様に身が酵素でやられてしまうのだ。内臓を取ってすぐに氷で埋められた『サビル』。刺身でもいけそうだが、この世界には魚を生で食べる習慣がない。


 それに醤油やわさびといった、刺身には必須の調味料もないから、二徹は今のところ、刺身を造ることはまだしていなかった。


 今回については、二徹はある料理を思いついていた。もうひとつの材料であるアサリを見つけたからだ。アサリはこの世界でもありふれた食材だ。


 こちらでは『ミル』と呼ばれていたが、ミルルが母親と朝早く砂浜で捕ったアサリが、塩水に漬けられていた。顔を半分出して、口を開けているものもある。時間的にもかなり砂抜きができているだろう。


「このアサリ(ミル)ももらうよ。ボールに一杯。合わせていくらになる?」

さば(サビル)は1匹、10ディトラム銅貨3枚だから、2匹で6枚。アサリ(ミル)は一杯で10ディトラム銅貨2枚だよ」

「もちろん、いつものようにまけてくれるよね」


 生まれは貴族である二徹だが、家計に余裕があるわけではない。現在のオーガスト家の家計を預かる身としては、少しでも値切るのだ。これはどこの貴族の家でもやっていること。まあ、他の家は使用人がまけさせて、差額を自分の賃金にあてているのだろうが。


「仕方ないなあ……。二徹さんにはいつも買ってもらっているからね。じゃあ、合わせて10ディトラム銅貨6枚に1ディトラム銅貨5枚では?」


 この世界の貨幣単位は『ディトラム』。お金は全て硬貨である。1ディトラム金貨1枚で日本円にして1万円ほどの価値がある。その下に1ディトラム銀貨があり、10ディトラム銀貨で1ディトラム金貨1枚と交換。


 銅貨は2種類あり、少し大きめの直径3センチの10ディトラム銅貨とその半分の1ディトラム銅貨。10ディトラム銅貨は日本円で100円程、1ディトラム銅貨は10円。


 この1ディトラム銅貨は、見た目が10円硬貨とよく似ていて、ちょっと懐かしくなる。ちなみにその下に鉄貨がある。これは1円に該当する。


 ミルルは日本円で150円ほどまけてくれたようだ。まあ、この店ならこれが限界だろう。二徹も買い物のルールみたいなもので値下げを要求したが、買い叩くつもりはまったくないし、この魚なら十分に安い。


「じゃあ、これで……」


 二徹は財布を取り出す。それはコインが挟めるようになっている2つ折りの財布。金貨が3枚と銀貨が5枚、ポケットに差し込んである。10ディトラム銅貨以下は袋状になったところに入れてある。二徹が取り出したのは1ディトラム銀貨1枚。


「毎度ありい~」


 二徹が差し出した箱に2匹のサバ(サビル)アサリ(ミル)に氷を入れ、10ディトラム銅貨を3枚と1ディトラム銅貨5枚をお釣りとして二徹に手渡すミルル。二徹は片手を上げて、ミルルに応えた。


(さて、メイン食材が決まったから、あとは必要な材料を買うのみ)


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