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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
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外伝 迷える恋の行方

嫁ごはんは完結ですが、新作「おっさんウサギ男は女勇者にプロポりたい」&「ゲスなダンジョン」を連載しています。

こちらの作品もよろしくお願いします。

 王宮料理アカデミー。今日はE級厨士の選抜試験の結果発表の日である。メイはその結果を待っている。孤児となり、親戚の家でいじめられていたメイは、二徹に救われてオーガスト家のメイドをしながら、勉強を続けた。中等学校に進んでからは王宮料理アカデミーへ入学することを目標にたくさん努力した。


 その結果もあり、15歳の時に実力で王宮料理アカデミーの試験に合格。今は研究生としてレイジ・ブルーノに師事していた。


 20歳となったメイはE級厨士の試験に臨んだのだ。その年で合格するのは容易ではないのだが、メイは小さい頃から二徹に才能を見込まれていた。王宮料理アカデミーでそれを開花させ、アカデミー設立以降、この年でE級厨士になる犬族の女子という快挙になる。


「メイ、もうすぐだな」


 一緒に見ているのはジャン。ジャンは中等学校卒業後、急に勉学に目覚め、金属工学を学ぶために高等専門学校へ進んだ。そして学んだことを生かしておじさんの鍛冶屋の跡を継いだ若き鍛冶屋職人のリーダーになっていた。


 金属工学の知識と伝統の技を組み合わせ、素晴らしい切れ味の包丁を開発した。包丁におけるジャンのブランドは高性能、高級品として名をはせつつあったのだ。


「ボクの名前あるかな……」

「あるに決まっているさ。問題はトップで合格するかだろ」


 メイはたくましくなったジャンの横顔を微笑ましく思った。中等学校でもいろいろとやらかしたが、根は真面目であるから友達も多く出来た。他校の女生徒からも人気があったのだ。それについては、ちょっとメイも面白くなかったことは認める。


「あのさ……合格してたらなんだけど……」

「なによ?」


 ちょっと言い方がぶっきらぼうになったのは、中等学校時代に告白されたジャンのニヤついた顔を思い出したのだ。一応、断ったみたいだが今もその女の子とは縁が切れていない。


「お前って、あのブルテリア子爵の申し込み受けるのかよ?」


 急にジャンはそんなことを聞いてきた。メイはジャンが先程からそわそわしているのに気づいていたが、そのことだったのかと察した。ジャンが何やら紙袋を持っているのも気になる。


 ちなみにブルテリア子爵は猫姫エリザベスのお披露目に来ていた青年貴族で、その時にメイのことを見初めて、我が妻にと熱烈にアプローチをしているのだ。


「どうしよっかな~。ブルテリア子爵様って、かっこいいし優しいし……美味しいものを食べさせてくれるからボク好きなんだよね~」


 そんなことを言ってみた。メイは余裕である。みるみる顔が青くなっていくジャン。プルプル震えて、目を合わせずにほざいた。


「あんなええかっこしい奴のどこがいいんだよ。この浮気者」

「浮気者って、心外だな。あんただって、あのローレンさんに告白されてるんでしょ」

「あ、あれは……あれは断ったさ……俺には……そのお前が……」

「はあん?」


 そこへアカデミーの事務員がやって来た。壁に結果発表を張り出す。王宮料理アカデミーの昇級試験は、庶民の関心も高いので王宮前の広場の掲示板に張り出すのだ。


 メイの心臓は高鳴る。紙が貼られると見に来た人々は一喜一憂する。王宮料理アカデミーのE級厨士になることは、一流の料理人の仲間入りすることと同じなのだ。


 メイの名前はE級厨士合格者の一番上に書かれていた。トップで合格の証拠である。


「やった、ボクの名前あったよ」

「おめでとう、メイ」


 そう祝ったジャンは顔が赤くなり、下を向いていたが意を決して、右手にもっていた紙袋から包を取り出した。


「これ、合格のお祝いにやるよ」

「え?」

「俺が丹精込めて作った包丁だよ。ジャン・スペシャル。鋼から選りすぐった至高の一品だよ」


 選りすぐりに一品と言われて、メイの心臓は先ほどの発表の時よりも高鳴った。もう心臓の音がうるさいくらいである。ジャンの真剣な目にメイはいつものはぐらかす言動ができなくなってしまった。それで素直に一言こういった。


「ジャン……ありがとう」


 この素直さに堂々としているように見えたジャンが崩れた。目が泳いで動揺している。


「そ、それでだな……」

「なに?」

「そのなんだ……」


(ああああ……この男ったら、こういうところでウジウジと~)


 いっぱいいっぱいだったメイは、ジャンのヘタレっぽい態度で冷静さを取り戻した。ここは肝心だと心に決めた。


「……はっきり言いなさいよ」


 ジャンは包丁を両手で捧げ持ち、そして膝まづいた。


「メイ、俺と結婚してくれ!」


 メイはなぜだか、ポロっと目から涙が落ちたことに気づいた。それを見てジャンは固まっている。どうやら全ての勇気を振り絞ってしまったために真っ白になってしまったらしい。


「……バカね。ほんとバカ。ジャンのバカ……ちゃんと言えたじゃない」

「あ……あの……メイ……返事は」


「……いいに決まってるじゃない。子爵夫人よりもあんたの隣の方が面白そうだから」


 メイとジャンの犬耳がぴくりと同時に動いた。


「や、やった、メイ!」

 

 ジャンはメイを抱えてぐるぐると回る。メイのエプロンスカートがヒラヒラと花のように舞った。地面に降りたメイは上目遣いでジャンを見る。少年の頃の面影を残しながらもたくましい若者になっていた。犬族の女子なら、誰もが振り返るジャンの容貌はメイにはちょっと心配なのだ。


「だけど、ジャン。浮気したら、この包丁で料理しちゃうからね」

「しないよ、俺は昔からお前一筋なんだから……」


 ジャンだって、誰もが振り返る美人のメイのことが心配だ。それで勢いでメイにキスを迫った。この女は俺のもんだという意思表示。ついでに育った胸に右手を置いた。


バシッ。



 平手打ち。当然である。


「ジャン、まだ、そこまでは許してはいないよ」

「そんな~メイ~」


「ホント、バカだね、ジャンは。もう、そういうことは、あ・と・で……。今は我慢してね、ジャン」



 メイがオーガスト家で学んだのは料理だけではない。



 夫婦仲良くする極意も学んでいたのだ。


ご愛読ありがとうございました。

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