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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
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ワーテル会戦 結末

「まだか……今、来なければ我が軍は敗れる……神よ……我が兵士を助けたまえ……」


 常勝の将軍と揶揄される若き将軍も思わず神に祈った。この瞬間に勇猛なセント・フィーリア兵がやってこなければ間違いなく負ける。

 

 そして神様は歴史の針を動かした。

 いや、動かしたのは二徹であったかもしれない。


 自分の可愛い妻が戦死するという運命を変えたい男である。4本目の死亡フラグを折るためにこの青年は奇跡を起こしたのであった。



 フランドル軍の右に3万もの大軍が到着したのだ。その先頭には二徹がいた。そしてこの軍を率いるのは、アクセル・ヴェッツエル公爵である。昔、二徹とニコールが天ぷらでもてなし、ウェステリア王国への協力を決めてくれたセント・フィーリア公国の宰相である。



「どうやら、ニテツ君。我々は間に合ったようだな」

「はい。ニコちゃんの部隊も健在のようです。スパニア軍と共に挟み撃ちにできます」


(そしてこれが4本目のフラグを成立させないことにつながる……)


 二徹は北に見えるサマセット邸を遠くに見る。その石造りの一番高い建物にウェステリア王国軍の連隊旗がなびいている。


 ニコールが戦死してしまうという運命を変えるためのフラグ4つ目は、このワーテル会戦の勝利なのだ。セント・フィーリアとスパニア軍が到着しなければ、ウェステリア本軍は敗れ去り、サマセット邸で奮戦したニコール連隊は全滅したであろう。


 当初、セント・フィーリア軍は一時的にはフランドル軍の別働隊と戦い、後方に追いやられていた。しかし、部隊を立て直しウェステリア軍と合流しようとしていた。そこへ二徹があらわれたのだ。来る途中でフランドル軍を見かけた二徹は、死神がくれた地図を使い、裏街道をこっそりと抜けてセント・フィーリア軍の宿営地へとたどり着いたのだ。


 二徹の案内で追撃してくるフランドル軍を地図に記された抜け道を使ってかわし、このワーテルの戦場へたどり着いたのだ。これがこの一大会戦の勝敗を決定づけた。


「ニコちゃん!」


 大混乱で逃げ惑うフランドル兵の波の中をくぐり抜け、ニコールが守備していたサマセット邸へと駆けつけた二徹。砲煙で薄汚れても美しいニコールを見つけると駆け寄った。


「ニテツ!」


 抱き合う二人。眼下にはセント・フィーリアとウェステリア軍、スパニア軍が突き進み、敗走するフランドル軍が飲み込まれていく。煙と銃声、砲弾の音が鳴り響く中で、二徹は妻のぬくもりを感じて幸せな気分になった。


「ニコちゃん、よく頑張ったね」

「ば、バカにするな。一体、お前は今までどこに行っていたのだ?」

「ちょっと、アクセル閣下に会いにね」

「アクセルって、アクセル・ヴィッツエル公爵閣下か……」


 ニコールは大勢を決定づけるセント・フィーリア軍の来援に感謝しつつも、それが自分の夫が関わっていたとは思わなかった。


「ニテツ、戦場は危ないのだ。お前に何かあったら、私は……私は……」

「私は?」


「もうバカ。私は生きていけそうもないのだ」

「それは僕も同じだよ、ニコちゃん。君が死んだら僕も生きていけない。だから、君が死なないために僕は精一杯のことをしたまでさ」


「ニテツ、お前は……お前は……ホント、大好き」

「ニコちゃん、どこもケガはしていない?」

「ああ、大丈夫だ。ケガはしてない」


「じゃあ、本当かどうか、後で確かめさせてもらうよ」


「ば、バカ~そんなことこんなところで言うな……というか、今晩なら……いい……と言うか、私も確かめさせてもらうからな、お前の……お前の……体を隅々まで……」


「ニコちゃん~」

「ニテツ~」


 思わず抱き合ってキスをしてしまう二人。激戦で疲れきり、腰を落としてこの二人を眺めていた兵士もほんわかした気持ちになった。国に残してきた妻や恋人を思い出し、誰もがこの勝利を祝い、そして自分たちを勝利へ導いた美しき連隊長の幸せを願った。


 

 親衛隊はウェステリア軍とセント・フィーリア軍に挟み撃ちにされて壊滅。さらにスパニア軍の攻撃についにフランドル軍は壊滅。フィードル1世は馬車に乗せられて戦線を離脱。多くのフランドル兵は降参して戦いは終わった。

 

 シャルロットは降伏して、後ろ手に縛られ座っているフランドル兵士の群れを見ている。これまでフランドル兵に虐げられてきたギーズ兵やセント・フィーリア兵は、彼らに罵声を浴びせている。フランドル兵は傷つき、絶望に落ちた顔をして誰もが暗い顔をしている。


 そんな中で大きな声で歌を歌いだした兵士がいる。犬耳をした犬族の男たちである。その歌は敗れて捕虜になった兵士たちを活気つけた。


 監視をしているギーズ兵が歌を歌う3人を殴りつけた。それでも歌うのをやめない3人。シャルロットは殴るギーズ兵に止めるように命令した。ウェステリアの若き大尉に敬礼をするギーズ兵。



「あなたたち、お名前は?」

「フランドル国王直属親衛隊、犬族中隊所属、バーナード少尉」

「同じく、ボーダー准尉」

「同じく、マスティフ准尉」

「我ら3人、フランドルの青の3連星」


 ふふふ……と思わず笑ってしまったシャルロット。以前、大食い対決で勝負したフランドル兵である。自分が猫仮面として撃破したからよく覚えている。


「ふん。笑うがいい。しかし、ウェステリア軍もこんな可愛い女の子が大尉とは」

「こんなのに負けたのか、我々は……」


「いや、違うぞボーダー、マスティフ。勝負は時の運だが、あのサマセットを守った女将軍は、あの美しいニコール殿だと言うし、女を馬鹿にしてはいけない」


「そうですよ。あなたたちもウェステリアで大食い勝負で負けたのも女の子相手でしたよね」


 そう言ってシャルロットは3人の縄を切っていった。不思議そうにシャルロットを見つめる3人。そして誰だか分かってしまった。


「お、お、前は……」

「いや、君は……」

「猫仮面2号ちゃん!」×3。


「もう戦争は終わったのです。フランドルもウェステリアにも平和がやってくるでしょう。どうです。また、ウェステリアで大食い勝負しましょう」


 シャルロットは3人を開放した。無事にフランドル王国へ帰れるように許可証も発行したのだ。残りの捕虜も数日後には休戦条約締結後、フランドル王国へ返されるからこれは問題がない。


 この戦いの1年後。オーガスト伯爵夫人主催、大食い大会猫仮面杯にこの3人がやってくることになる。




 二徹とニコールは馬を並べてウェステリア軍本営に向かっている。後ろには今回の戦いで奮戦した連隊兵士が付き従っている。ニコール連隊の手柄はウェステリア軍随一であろう。


 勝負を決定づけたのはスパニア軍とセント・フィーリア軍であるが、崩れそうな戦線を維持できたのは、サマセット邸を守り抜き、フランドル軍の側背を砲撃し続けて戦力を少なからず奪ったことによる。

 

ニコール連隊の活躍は、このワーテルの戦いの結果を左右したと言えるだろう。それだけに歴史の鍵を握っていたのだ。


(これで……あっちの世界のニコちゃんと仲良くなり、フラグ1本。飛行機の爆破を防いで2本目。カテル・ブロの戦いの勝利で3本。そして、このワーテル会戦の勝利で4本目のフラグを折った……あれ?)



 二徹は頭の中で整理した出来事をもう一度、指を追って数えた。



(4本……4本しか折ってない……あと1本……いや、このワーテル会戦の勝利の中で1本くらい紛れ込んで……)



 馬で先に進むニコールの背中を見る。そして二徹は左右を見る。凄惨な戦場。死体が累々と横たわる戦場で死体の中から、むくりと起き上がり銃を向けたフランドル兵がいた。



「危ない!」


 本能で二徹はニコールとの間に入った。銃弾が1発鳴り響く。



「ニテツ!」


 胸を撃たれ、馬から落ちる二徹をニコールは見た。戦場に悲痛な叫び声が響いた。


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