表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
248/254

パイタン鳥鍋

この2日間で完結予定です。長い間のご愛読に感謝です。

 夜通し馬で走った二徹と二千足の死神。狙撃ポイントに着くと、死神は部下に命じて偵察に向かわせる。木に登り、森の街道に入ってきたフィードル1世の軍を監視するのだ。発見した兵士は白い旗を上げて後方へ知らせる。それを見た中継地点の兵たちは、次々と旗を上げて知らせる。こうすれば、最終ポイントにいる死神にも伝わり、狙撃ができるというものだ。


 日が昇り始め、朝がやって来た。雨は小雨になり霧も出て視界が悪い。それでも偵察兵から白旗でフィードル1世の軍がやって来ていることが知らされた。


「ここから狙撃するには、少し遠すぎない?」


 二徹はそう二千足の死神に聞く。死神は特製のライフル銃をきめ細かく点検している。銃撃ポイントまで1000ノラン(約500m)はありそうだ。この世界の銃性能をはるかに凌駕している距離だ。


「我ノ銃ハ特別ダ……ソレニ、ココカラナラ、撃チ下ロスコトトナル……多少ハ飛距離ハ延ビル。問題ハ命中サセル腕ダガ……」


「それは心配していないよ。君の腕は超一流だからね」


 二徹はそう言って二千足の死神の肩をポンと叩いた。ここはフィードル1世を殺せなくてもいい。目標は彼の率いる5千の軍をカテル・ブロへ行かせないこと。怪我をさせるだけで大事を取って引き返すに違いないからだ。


「フン……ビアンカオ嬢トイイ、オ前トイイ……人使イガ荒イコトダ……。コノ礼ハ高クツクゾ……」

「ああ、お礼だね。ここでの作戦が終わったら、カテル・ブロへ行こう。そこで君と君の小隊の兵士たちにご馳走するよ。僕自身が腕を振るうから」


 二千足の死神は、思わず両こぶしを握り締めた。二徹の手作り料理を食べてみたいと昔から願っていたが、残念ながらその希望はここまで叶えられなかった。それが実現できそうなのだ。


「フン……ソンナ礼ナゾイランワ……。ダガ、ドウシテモ、モテナシタイト言ウノナラ、食ベテヤロウジャナイカ」

 

 本当は心の中で小躍りしているがそれを微塵も感じさせず、平静を装っている。今回はチャンスだと頭の中で計算している。


(コウイウ場合ニ、イツモ邪魔ヲスルオ嬢ハ、マダ港ニツイテイナイ……ツマリ、イヨイヨ、我モコノ男ガ作ッタ飯ヲ食ベルコトガデキル……)


 未来のスパニア王妃であるビアンカは、エルンスト王から当面の地位として、第2宰相の地位を与えられている。その地位を利用してフランドルへの出兵を進言し、自ら3万の軍団と共に移動中なのだ。


「隊長、近づいてきました!」


 小声でそう兵士が二千足の死神に伝える。攻撃の合図は目立たないように木をコンコンと打ち付ける音で伝言ゲームのように伝えているのだ。それは間隔と音が複雑に絡み合い、二千足の死神の小隊しか理解できないものになっている。


 普通に聞いていれば、鳥が木の中の虫を探して木を突っついていると思うだろう。そして、騎兵を先頭に豪華な馬車が森の街道へと入ってきた。


「ヨシ……見エル……コレデ、オシマイダ……」


 二千足の死神は引き金を引いた。発射音は森の中をこだまして、弾は真っ直ぐに馬車の中の人物へと飛んでいく。馬がいななき、護衛の兵士が混乱する。


 だが、フィードル1世は無事であった。弾は彼の髪の毛をかすめ、同乗していた副官の命を奪った。さらに2発目の銃撃は馬車の車輪を破壊した。正確な射撃で車輪軸の金具を破壊したのだ。右側へ傾く馬車。


「この偉大なるフランドルの王を狙うとはな。その勇気、褒めてつかわそうではないか」


 壊れた馬車から這い出たフィードル1世は巨体を堂々と晒した。まるで狙撃をあざ笑うかのような行動だ。周りをフィードル1世に負けない体格の近衛兵が取り囲む。


「はっ……周辺の警備は怠っておりません。恐らく、かなり遠くからの狙撃だと思われます」

「陛下、やはりご自身がカテル・ブロへ行かれるのは危ないと思います」

「まだ、この先にどんな罠があるかわかりません。カテル・ブロには伝令を送ればよいかと思います」


 部下たちの進言にフィードル1世は考え込んだ。そして行く手にある危険を察知した。一国を統べる人間というものは、こういう気配を感じ取ることができるものだ。


 フィードル1世は、カテル・ブロが未だに落ちていないと聞き、激怒してわずかな手勢で向かっていたが、ここは戦場である。そして、隙をついて自分の命を奪えばそれで戦争が終わってしまうことに気がついた。


「やむをえぬ。ネム将軍に命令書を送れ。余はここから引き返す。決戦はワーテル平原だからな。ここで死ぬわけにはいかない」


 フィードル1世はそう命令し、率いてきた軍に引き返すように命じた。それを遠くから観察していた二徹と二千足の死神。


「すごい……軍が引いていく。相変わらず、君の力はすごいな」

「射撃ハ、アマリ得意デハナイガナ……」


 二千足の死神の得意な攻撃は至近距離での格闘戦。毒をつかった武器による近接戦闘だ。射撃の腕も超一流であるのだが、残念ながらフィードル1世を殺して戦争を止めるまでには至らなかった。


「十分だよ。これでカテル・ブロに彼は来ない。これで3つ目のフラグは折ったよ」

「??」


 二徹の言葉に不思議そうな顔をした二千足の死神であったが、頭の中に二徹が作ってくれる料理のことがむくむくと湧いてきていた。


「じゃあ、移動しよう。カテル・ブロへ。そこでご馳走するよ」

「……部下モ腹ヲスカセテイル。我ハソウデモナイガ、コレモ部下ノタメダ。オ前ノモテナシ、受ケテヤロウデハナイカ……」


 あくまでもクールな二千足の死神ことイグナシオ中尉。だが、心の中は違っていた。


(うっしゃああああああああああっ!)


 フィードル1世の親書を受け取ったフランドル軍のネム将軍は、渋々、カテル・ブロのウェステリア軍に攻撃を開始したのが昼の12時を過ぎたあたりであった。しかし、前夜の夜襲を受けて兵士は戦意を喪失しており、ネム将軍も命令を受けたとは言え、フィードル1世が直接来たわけでもないので、攻撃命令を出してもどこか逃げ腰な感じであった。

 

 それでもウェステリア軍を率いるフリューゲル少将のまずい指揮と、兵の士気の低さで押し込み、あと少しで占領できるところまではいった。指揮官のフリューゲル少将自身が戦死してしまったくらいだ。

 

 しかし、彼の戦死によって指揮を引き継いだニコールが自分の連隊を戦線に参加させると、戦況はひっくり返った。カテル・ブロに侵入したフランドル兵は撃退されてしまった。さらに3時過ぎにはウェステリアの本軍までもが到着する。


 これは前日にニコールが援軍の要請をしていたから。レオンハルト大将自らが、大陸派遣軍全軍で駆けつけたのだ。これにより、敗北を認めたネム将軍はカテル・ブロから転進してここでの戦いは終結した。



 ウェステリア本軍と同じ時間にカテル・ブロへ戻ってきた二徹は、一緒にやって来た二千足の死神の小隊の兵士に料理を振舞っていた。


 出した料理は『パイタン鳥鍋』。レイジが開発した鳥スープの素と手羽先、鳥のもも肉で出汁を取ったスープにキャベツ(ベジ)ニンジン(ニンニン)などの野菜をたっぷりと入れた鍋である。


 大きな鍋で作ると味はまた格別である。豪快に作られる様子を見ているだけでも、舌がウズウズして、二千足の死神は口の中が唾液でいっぱいになってしまった。、何度もそれを飲み込んでできるのを待っていた。これは彼の部下たちも同じである。


「はい、煮えたようだ」


 仕上げは生クリームを入れてコクを出す。これでスープが白濁するのだ。鳥の出汁だけだとあっさりし過ぎるから、この生クリームが味の決め手となる。


「オオオ……ツイニ……コノ時ガ……」


 二徹に渡された椀の中に、たっぷりと盛られた鶏肉と野菜。それは湯気を立てており、手に持った椀からも温かさが伝わる。


「どうぞ、召し上がれ」

「フン……粗末ナ飯ダガ、セッカクダカラ食ッテヤル……」

(うしゃああああああああああああああああああっ……)

 

 そう言いつつも周りを警戒する二千足の死神。これまで食べる寸前で大抵、邪魔が入った。しかし、今は99.9%間違いなく食べられる。

 

 震える手でスプーンで一口すすった。その瞬間、脳天に稲妻が落ちた感覚にとらわれた。


(ウ……ウマイ……)


 同じように食べ始めた部下の兵士たちの感嘆の声と食べる音がさらに死神を恍惚へと誘う。


(ツイニ……食ベタ……我ハ、ニテツノ料理ヲ食ベタゾ……)


 脳裏にかつての相棒であるエゼルの笑顔が浮かび上がった。彼女は死神によかったねと言葉を発した。もはや、理性は吹き飛ぶ。ザッパザッパと食べる。気がついたときには3杯もおかわりをしていた。


「まだお腹は空けといてね……ここにコムンを入れて、リゾットにするんだから」

「ニテツ……オ前ハ……我ヲ洗脳スル気カ……」


 そう言いながらも二千足の死神はリゾットが楽しみで仕方がない。鍋の締めはやはり雑炊やうどんなどの炭水化物であろう。それは疲れた体を癒し、明日へのエネルギーをもたらせてくれるのだ。


「ナア……ニテツ。我々ニ協力ヲ求メテ、オ前ハ先ヘト進ンダヨウダガ、コノ先モ楽デハナイゾ」

「それはわかっているさ」


 食事が終わって帰り際に二徹と死神は言葉を交わした。これでニコールが死んでしまうという不幸な未来へのフラグを3つ破壊した。


(あと2つ……)


 ここからはニ徹が知らない未来である。恐らく、明日から始まる戦争がポイントとなるだろう。ウェステリア連合軍が負ければ、ニコールの命もなくなってしまう。勝利することが必要なのだ。


「死神くん……君はザハラ港に戻るんだろう?」

「アア……。ワガママナオ嬢ガ、危険ヲ顧ミズニ戦場ヘ来ルカラナ。我トシテハ、未来ノ王妃トヤラヲ守護シナイトイケナイノダ……」


「スパニア軍が早くワーテル平原に来てくれることで、勝敗は決すると思うんだ。死神くん、頼む。少しでも早くビアンカさんを連れてきてくれ」


「死神デハナイ。我ハ、イグナシオ中尉ダ。言ワレナクテモヤルサ……」


 そう言うと死神はポケットから折りたたんだ地図を出した。それを二徹に差し出す。


「くれるの?」

「アア……。戦争トイウモノハ、軍ノ迅速ナ移動デ決マルコトガアル。コノ地図ノ抜ケ道ハキット役ニ立ツハズ」


「イグナシオ中尉……君は思った以上にいい奴だね」

「フン……誤解スルナヨ。コレハ、部下タチニウマイメシヲ食ワセテクレタ礼ダ」


 そう言うと照れくさそうに死神は、兵士とともにスパニア軍が上陸するザハラ港へと戻ていった。彼が出迎えるのは、ビアンカ率いるスパニア軍


 もちろん、スパニア軍が港へ上陸しても、すぐには戦場へは進めないであろう。それを察知したフィードル1世は軍を派遣し、足止めをするであろうからだ。その追撃軍をかわしてワーテルの戦場へたどり着くのは容易ではない。


ちなみに完結記念で旅行に出てます。明日の完結まで予約投稿済みです。明日は感想に返信できないです。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
心の中で大喜びする死神かわええ~ 今までお預け食らわせてきた作者は鬼かとおもったが、最高のシチュエーションで心置きなく食べることができて、我が事のように嬉しいですね~
[一言] イグナシオ中尉やっと二徹の作ったご飯が食べられて良かったー。 途中で邪魔が入るんじゃないかとドキドキしたけど念願叶って良かったね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ