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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
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ビアンカ親衛隊

土日でいよいよフィナーレです。

「ニコール様、西方面の守備陣地が完成しました」

 

夕方になってニコール隊はカテル・ブロの守備陣地を完成させた。だが、カテル・ブロに進出してきたフランドル軍は2万人。ウェステリア軍の3倍である。


(もし、敵が攻勢に出てきたら非常にまずい……)


 ニコールはシャルロットの報告を受けつつ、地図を広げて敵と味方の位置を確認する。カテル・ブロは東西の道が交差する平地にある。交通の要地だが、守備する側としては守りにくい場所である。


 村の建物、教会、小さな森がいくつか点在し、それらを利用した急ごしらえの陣地が構築されている。しかし、圧倒的な火力で押されると数での勝負になってしまう。


「シャルロット、今晩、夜襲を敢行する。その準備をしてくれ」

「はい、ニコール連隊長」

「それとシャルロット……ニテツ……ニテツはどこへ行ったのだ?」


 ニコールはそうシャルロットに聞いてみた。昼に到着してからニテツの姿を見ていないのだ。


「ニテツさんだったら、カテル・ブロを出てザハラ港へ行くと言ってました。ザハラ方面は軍もいないので比較的安全かと」

「ザハラ方面……まさか、スパニア軍に連絡を取りに行ったのか?」

「恐らく、そうじゃないかと……」

「……全く勝手なことを。ニテツは一般人なのだぞ。そんな危ないことをする必要がない」

「きっと、連隊長のことを守りたい一心なんですよ。男の人って、守りたい人がいるとがんばってしまうといいますから」

「ううう……そうだな。ニテツは私のためになら何でもしてくれるからな。こうなることは分かっていたのだが……」

「はい、ご馳走様。私もウェステリアへ帰ったら、連隊長のお兄様にがんばってもらいますから」

「……シャルロット、のろけている暇はないぞ」

「はい、連隊長」


 シャルロットは夜襲計画を立てるために各部隊長を集めに行く。ニコールに夜襲を提案された各部隊長は驚いたが、綿密に計算された作戦書を見て、みんな納得した。そして、これが現在の最善策だと誰もが思った。すぐに賛成してニコールの命令通りに密かに準備を行う。


 3時間後に実行されたニコール連隊による夜襲は大成功に終わった。一糸乱れぬ攻撃に混乱に陥ったフランドル軍は陣地を捨てて、カテル・ブロから3キロ後退することになる。



 翌朝になった。雨が激しく降っている。第3師団の司令部は楽観的な気分になっていた。昨晩のニコール連隊の夜襲で敵はカテル・ブロから一時撤退。今、この雨の中をやっと体制を立て直し、こちらに向かっているとのことだ。


「これでは今日は敵も攻撃をしてこないだろう」


 フリューゲル少将はそう安堵した。彼の参謀も状況が好転して、口が滑らかになる。


「しかし、夜襲とはあの女将軍、思い切った手を打ちますな」

「成功したからいいものの、失敗したら取り返しのつかないことになりました」

「これだから女はダメなのです。目先の手柄ばかりを追求し、リスクの管理ができない」

「だが、この功は大きいぞ」

「なに、ニコール連隊は我が第3師団の支配下にある部隊。手柄は全てフリューゲル少将閣下のものになりましょう」

「そうです。夜襲はフリューゲル閣下の命令で行われた。そうですね、閣下」


「あ、ああ……。彼女に指揮権を与えたのだから、そうとも言えるな」


 フリューゲルは頷いた。第3師団の幕僚は新たに加わったニコール連隊と共闘する気がない。師団長のフリューゲル少将自身がそういう気持ちがあるから、自然と全体に伝わってしまったのであろう。


 そしてフリューゲルは、これ以上、ニコールに手柄を立てさせまいとニコール連隊を後方へ下げるよう命令を下した。

 

 前面の陣地にいるニコールの連隊を後方に下げ、第3師団の兵を前線へと動かすのだ。雨の中、部隊移動が始まる。これは偵察していたフランドル軍に察知される。


 林や建物の陰に隠れていた部隊が動くことでカテル・ブロに布陣していた兵の数が推測されてしまったのだ。それでネム将軍は、自分がウェステリア軍を過大評価していたことに気づいた。


「なんだと、敵の総数は7千程度だと?」

「恐らく、昨日はこちらに数を誤認させようとさせたのでしょう」

「まんまと謀られたというわけか……。だが、昨晩の夜襲のせいで我が軍は進軍の途中。到着してもこの雨だ。すぐには攻撃はできない」

「雨でも戦えないわけではありませんが、白兵戦になるとこちらの損害も大きくなります」

「その通りだ。ここは慎重に事を運ばないとな」


 ネム将軍はそう言ってあくびをした。昨日はニコールのせいで徹夜になったからだ。兵士も疲れきっている。あと1時間ほどでカテル・ブラに到着するがとても戦える状況ではない。


「閣下、カテル・ブロ到着後、しばらくは様子を見ますか?」

「そうする。警戒を怠ることなく、兵にはゆっくり休めと伝達しろ」


 この時点ではネム将軍は、今日は軍を動かさないことにした。戦力差が2倍以上と分かったから、兵士の体力が回復してからでよいと判断したのだ。それにこの激しい雨に中では砲撃も満足にできず、白兵戦になる。それだと損害が大きくなるという判断だ。


 時間は10時間ほど遡る。二徹は夕方から馬を飛ばし、ザハラ港についたのは夜の9時過ぎであった。心は早っている。ここに到着するはずのスパニア軍の力を借り、何としてでもフィードル1世のカテル・ブロ到着を阻もうと考えていたのだ。


 だが、港にはまだスパニア軍は到着していなかった。落胆する二徹。味方になる軍がいなければ、フランドル軍に対してアクションを起こすことができない。


(どうしょう……明日の昼にはフィードル1世がカテル・ブロへ来てしまう。彼が到着すれば、ニコちゃんは死んでしまう……)


 小雨の中、閑散とした港を呆然と眺める。真っ暗な海を見つめて物悲しくなるだけだ。そんな二徹にこっそりと近づいてくる人間がいる。


「オ前……ナゼ、コンナ所ニイルノダ?」


 体に2匹のムカデの刺青を10箇所入れ込んだ不気味な男。トレードマークのマフラーはそのままで、スパニア軍の軍服を着ている。階級は中尉である。


「き、君は……二千足の死神……」

「……今ノ我ハ、スパニア軍、ビアンカ妃親衛隊隊長……イグナシオ中尉ダ……ナゼ、ココニイルカハ聞カレテモ、極秘任務ダトシカ答エナイ」


 二千足の死神である。彼は未来のスパニア王妃ビアンカの命令で王妃付きの親衛隊長となった。まだ正式な王妃となっていないため、王妃親衛隊は、今は30名程の小隊に過ぎない。しかし、暗殺のプロである二千足の死神が隊長を務める小隊が、ただの兵士を集めた部隊のはずがない。


 一人ひとりが暗殺技術を身につけた、いわゆる暗殺者のプロたちである。これは隊長を務める二千足の死神が自ら選んだ選りすぐりの兵士で構成されているのだ。それがなぜ、こんな場所にいるかは分からないが、二徹にはこれが運命だと思えた。


「た、助かった。僕たちを助けてよ」

「……ナゼ、オ主ヲ助ケネバナラナイノダ?」

「いいじゃないか、君と僕の仲じゃないか?」

「ドンナ仲ト言ウノダ……」


 そう二千足の死神は無表情に二徹に答えたが、腹の中は決まっていた。カテル・ブロに近づくフィードル1世を暗殺する。そうなれば、この戦争は終わる。通常ならとても近づけないのだが、わずかな兵を連れて移動しているのならチャンスはある。


「ダガ、ソノ情報ガ正シイノナラ、ソレハ、チャンス。ビアンカオ嬢ノタメニ、フランドル王ヲ倒シテヤロウ……」


「そりゃ、敵の王様を倒すことができれば、戦いは終わりだよ。だけど、それは無理だと思う。向こうの王様は悪運が強いからね……」


 二徹は欲張らないことにした。歴史の改変は最低限にしないといけないのだ。フィードル一世をこのカテル・ブロに来させないという正しい歴史へ導くのだ。


「どう思う?」


 二徹と二千足の死神は地図をテーブルに広げて、フランドル軍の動きを予想する。フィードル1世は10万もの大軍を率いて、ウェステリア連合軍を分断しようとしている。その前哨戦がカテル・ブロの戦いなのだ。そして、2人が求める解答。それはフィードル1世のカテル・ブロへのルート。


「簡単ダ……現在ノ主力ガイルトコロカラ、最短距離ノコノルートダロウ……」


 二千足の死神はそう断言した。長年、暗殺稼業を行ってきた経験は、相手の心理や行動を先読みすることに役立つ。加えて、死神の持つ地図は非常に詳細な道が記されていた。それは通常の街道とは違う抜け道が網羅されているのだ。


「今から行けば、朝方には先回りできそうだね」

「ソウト分カレバ、スグニ出発スル」


 二千足の死神はそう言うと、自分の小隊に命令をする。すぐに出立だ。カテル・ブロ間近の森で狙撃するのだ。


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