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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
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イギリスの士官

「うっ……」


 二徹は目を開けた。何やらアナウンスが流れている。人々が大きなキャリーバックをもって歩いているのが目に入った。そして自分を見る。自分も大きなカバンに頭を載せて寝ていたようだ。


 ここは成田空港。日本の玄関口だ。二徹は昨日までマレーシアを旅して、夜遅く到着したのだ。そして6時間後にはアメリカニューヨークへ旅立つ。ポケットに手を突っ込むとニューヨーク行きの航空券に触れた。その瞬間、頭の中で誰かがしゃべっていることに気がついた。


(ニテツさん……ニテツさん……ああ……やっぱりダメだったとウブロはがっかりです……)

「だ、誰?」


 二徹はそう思わず言葉に出した。すると頭の中で声が弾むように再び言葉を紡ぎだした。


(ウブロですよ……ニテツさん)

「ウブロ!」


 二徹ははっきりと記憶がよみがえった。自分はウェステリアの貴族に生まれ、料理が得意。そしてすごく可愛い年上のお嫁さんがいて、そのお嫁さんを救うためにこの世界に来たのだ。


(この世界は平行世界。あなたは料理を志す若者。伊達二徹という名前の若者)


「ああ。知っている。この世界の僕の記憶も継承しているようだ」


(ウブロはニテツさんとニコールさんの絆の強さに感動しています。3%の確率を見事にものにしました)


「ウブロ、これからどうするんだ……僕は早くニコちゃんを救いたい」


 二徹はキョロキョロとあたりを見回す。これから乗るアメリカ行きの飛行機はテロリストによって爆破されてしまう。それを防ぐのがニコールを救う手立てだと考えたのだ。


(ダメですよ、ニテツさん。単に爆破を止めてもニコールさんの運命は変えられません。この世界でもあなたとニコールさんの絆を作る必要があるのです)


「絆?」


 二徹はそう呟いた。それは疑問である。この世界で二徹はニコールに会っていない。愛しい妻の顔は、一目見ればわかるはずだ。


(あなたたちの運命を変えるポイントは5つあるとウブロは忠告します。そして、この世界では2つです。この選択肢を間違えないで行動することが大切だとウブロは言います)


「2つ……フラグは2本ということか……」


(まずはニコールさんを捜さないとだけど、これはウブロも知りません。あなたとニコールさんの絆に頼るしかありません)


「う~ん。何となくだけど、この空港にいてもニコちゃんとは出会えない気がするんだ」


 二徹はそう言って、都心へ戻ることにした。出発まで6時間。まだ時間は十分にある。二徹はなぜか浅草の雷門へ行こうと思った。それがなぜだかは分からない。一度、飛行機の爆破で死んだ記憶では、このまま空港で待っていた。どこかへ出かけるのが正しい選択だろうが、それがどこかはもちろん分からない。


(浅草……東京の観光名所ですね。ウブロも何だかそこが正解だと思います)


 時の女神でも正解は分からないようだ。今からはがんじがらめになった運命の糸玉を解きほぐす作業。解きほぐした先がどんな運命かは神すら分からないのだ。


「浅草寺、雷門……外国人が多いから、きっとニコちゃんもそこにいる」


 この世界でのニコールがどこの国の人間かも分からない。でも、二徹はきっとニコールはこの世界でも美しい金髪の美人であると確信していた。


 そして1時間半かけて浅草寺の雷門で二徹は出会った。ネイビー色のスーツを着たモデルのような体形の外国人を。


「ワッツ……コレハワンダフル!」


 その外国人は長い金髪をなびかせて、雷門で団子を片手に写真を撮っていた。


(二、ニコちゃん……)

 

 二徹は思わず涙が溢れてきた。あの死んだニコールが目の前で生きているのだ。こんな嬉しいことはない。


(どうやら、フラグの1本はこの場面のようだとウブロは予測します。あの女性の心を二徹さんが奪わないと運命は変えられないです)


「ウブロ……それって、すごいハードルだよね?」


 それはそうだ。この目の前で日本文化に感心して写真を撮りまくっている金髪お姉さんをナンパして恋に落とすのだ。目の前の女性はこの世界のニコールかもしれないが、当然ながら、ウェステリアの記憶はない。二徹は幼馴染でも夫でもないのだ。


(でも、本当に今、ここで彼女の関心を惹かないといけないとウブロは思います)

「……僕もそう思うよ」


 二徹はそう言って、決心した。雷門の前ではしゃいでいる外国人女性に話しかけたのだ。


「ヘイ、レディ。……ウェア、アーユーフロム?」


 綺麗な英語で二徹は尋ねた。その女性はくるりと振り返った。ニコールである。間違いなくニコールだと二徹の心は震えた。


「イギリスデス……アナタ、英語、トッテモ上手デスネ」

「あなたこそ、日本語がお上手です」


 二徹は右手を差し出した。


「僕は伊達二徹といいます。あなたは?」

「ワタシ……ニコールト、イイマース」

「ニコールさんですか……」

(ああ~ニコちゃんだ、にこちゃんだ……)


 何かがこみ上げてくるが、それをグッとこらえる。自然とまぶたが熱くなる。


「もしよければ、これからお食事一緒にしませんか?」

「フ~ン……ソレハ、ナンパデスカ?」

「そう。デートのお誘いです」

「ドウシテワタシ、ナノデショウ?」


 二徹は思わずぽろっと涙をこぼした。それを見てニコールは首をかしげた。慌てて涙を袖で拭う二徹。ここで不審に思われたら全てが終わる。


「君が僕の知っている人に似ているからです。お願いします。日本でしか食べられないものをご馳走しますよ」

「……ワタクシモナンダカ、アナタヲ知ッテイルイルヨウナ気ガシマス……イイデショウ。オ食事……オネガイシマース」

「ありがとう……」

「イッテオキマスガ……ワタクシ、ニッポンノオ料理、全部好キデース。ダカラ、ニッポンニ来たノハ5カイメデース。3年前ニハ、留学モシテイマシタ……」

「ニコールさん、それだと大抵の日本料理は食べているんだよね」

「モチノロンデース」


 変な日本語をしゃべるニコールはたまらなく可愛いと思う二徹。このニコールに自分を好きになってもらうにはどうしたらよいかと考えてしまう。


「スシ、テンプラ、ウナギ、スキヤキ……全部、食ベマシタ。全部、オイシカッタデース」

「じゃあ、やっぱり、僕の得意な料理で君のハートを掴むよ」

「ホウ……ワタシノハートヲツカムトナ……コレハ大キクデマシタネ」

「好きな人をものにするには、胃袋をつかめというからね」

「ククク……ソレハ、ワタシノ国、イギリスデモ同ジデース。オ手並ミ、拝見トイキマショウ」

「それでは遠慮なく、グイグイ行くよ。ニコールさんはマグロは好き?」

「マグロ? ハイ、ツナノコトデスネ……ツナ、ワタクシ、トッテモ大好キデス」


(ああ~。ニコちゃんの口から大好きと言ってもらうと、変な日本語でも涙が出てきてしまう~)


 二徹は感動しつつも、このニコールの魂を奪う至高の料理を思いついていた。それはこの浅草から近いところにあった。


 寿司の稲月とうげつは、昭和初期から続く老舗の寿司屋だ。二徹の父親が経営する伊達屋とは代を超えての付き合いで、二徹は小さい頃からこの寿司屋を知っていた。


「おや、二徹じゃないか。日本に帰ってきたのか?」


 扉を開けるとそう店の主人が声をかけた。二徹の父親とは友人で、二徹の小さい頃を知っているのだ。


「今日、マレーシアから戻って夕方からアメリカへ行く予定です。おやっさん、相変わらず元気ですね」

「ふん。お前の親父には負けちゃおれんからな。それにしても、可愛いお姉さん連れじゃないか。どうしたんだ?」

「ええ。ちょっと知り合いまして。ニコールさん、どうぞおかけください」


 二徹はそう言ってニコールにカウンターに座るように促した。ニコールは慣れた感じで座る。どうやら、日本の本格的な寿司屋で食べた経験はあるようだ。


「オスシデスカ……タシカニ、コノ店モ、オイシソウデス。デスガ、ワタクシ、日本ノ名店トイウトコロデ、オスシタベマシタ。ダカラ、驚キマセン」

「ふふふ……僕が君に食べさせたいのはお寿司じゃないですよ」


「ワッツ!? オ寿司ジャナイ?」

「そうです。君に食べてもらうのはヅケ丼です」


 二徹はそう言って、親父さんに特製のヅケ丼を出してくれるように頼んだ。それは常連客しか知らない特別メニューなのだ。


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