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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
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大陸派遣軍へ

 マスウード条約が締結され、ウェステリア王国の外交団は帰国することになった。新しくスパニア少年王になったエルンストに求婚されて、婚約者となったビアンカはスパニアに残留。そして同じく大陸に残った人物がいる。


「ニコール・オーガスト大佐。貴君は本日、正午をもって准将に昇進。大陸派遣軍独立連隊長として、ギーズ公国ダイエルンに駐屯するウェステリア軍に派遣する」


 陸軍からの命令書がニコールに下されたのはスパニアの仮宿舎。ニコールは大陸派遣軍総司令官のレオンハルト大将のサイン付きの命令書を受け取り、有頂天になった。准将といえば、将軍である。


 ニコールは20代前半という若さでしかも女性でその地位に登ったのだ。新国王に代わってウェステリア軍は世代交代が行われ、いつまでも上層部に居座り、旧態依然とした意見に凝り固まった老将軍は引退となり、新たに4.50代の指導者が次々と抜擢された。

 

 それに伴い、30代、20代の優秀な軍人が出世して、ウェステリア軍を活性化させていた。その最たるものが大陸派遣軍である。

 

 そのトップは20代で大将に上り詰めた青年将軍であり、その指揮能力は大陸でも有名であった。そのレオンハルトにニコールは抜擢されたのだ。


「ニテツ……これで私も将軍。将軍で手柄を立てれば、次は爵位が与えられる」

「ニコちゃん、妻の立身出世はうれしいけど、今回はすごく危険な任務だよね」


 ニテツはこの状況を手放しでは喜べなかった。確かに絶大な手柄を立てるチャンスでもあるが、それは命の危険もあることなのだ。


「スパニア内戦が集結し、フランドル王国は西へ軍を向けることは間違いがない。まずはギーズ公国だろう。あそこのファーレン地方の帰属を巡って、フランドルとギーズはもめている」


「休戦協定はとっくに切れているしね……」


 ニテツはそう話しながらも、ニコールのカバンに必要なものを詰めている。今日の夕方には軍艦に乗り込み、ギーズ公国へと移動する慌ただしさなのだ。それは明日にでも戦端が開かれるかもしれないという状況であるからだ。


「でも、この戦いに勝利すれば、しばらくは平和になるだろう。これはそのための戦争なのだ」

「……戦争は戦争だよ。できれば、したくないことだよ。僕は心配なんだ。ニコちゃんがそんな危険なところで働くことがね」

「仕方がない。私は軍人なんだ。軍人は国を守るため、人を守るための仕事なんだ」

「そうだけどね……」


 ニテツは考える。人は戦争を起こす。戦争は人々に飢餓をもたらす。非生産の象徴である戦争が行われれば、食べ物を生産することが滞り、そして人々から食べ物を奪う。おいしい料理を作るなんてことができなくなるのだ。


「で、お前はどうするのだ?」


 ニコールはニテツも自分の荷物をカバンに詰めているのを見て、そう尋ねた。スパニアに派遣された外交団は、昨日のうちに出向している。


「うん、それがね。僕は今回、ニコちゃんの部隊の軍属扱いで辞令が出てたよね」

「うむ。そうだったな」

「ニコちゃんの部隊は一部を除いて、このままギーズ王国へ行くんだよね」

「ああ。外交団の護衛には200名ほどでよいからな。800を率いて、このまま独立連隊に組み込まれる」


 これはニコールへの命令とともに、率いてきた護衛部隊への指示でもあった。ニコールは800人を連れて、合流することになる。当然、今の司令部の幹部はそのまま、ニコールと一緒に従軍することになる。


「だから、僕もこのままニコちゃんの部隊に編入ということになるね」

「え、どういうことだ?」


 軍の本部が正式な軍人でない二徹の取扱いをうっかりと忘れてしまったようだ。命令がない以上、前の命令通りに動くことが正しい選択となる。


「このまま、僕はニコちゃんの従卒として従軍するよ」

「な……それはダメだ。夫婦で従軍なんて聞いたことがない。手紙を司令部へ書く。ニテツは国へ帰れ。危険な戦場へ一般人が行くべきじゃない」


「僕は一般人だけど、ニコちゃんの連隊に役立てるよ。食事は軍を動かすためには重要な要素でしょ。それに連隊長になったら、シャルロット中尉だけじゃ身の回りの世話は大変過ぎるよ」

「確かにそうだが……」

「だから、これはそういう運命なんだよ。軍当局が気がつくまで、最初の命令通りにした方が、ニコちゃんの連隊の兵士たちも嬉しいと思うけど」


 二徹は料理人である。軍には毎日の食事を作る炊事兵もいるが、ここに二徹が入って指揮をしたら、毎日、美味しい食事が食べられて士気が上がることは間違いがない。あのクエール事変においての二徹が教えてくれたレシピは、大いに兵の士気を高めたし、エリンバラの反乱でもウナギと手羽先を使った料理で、兵士たちは力がみなぎった。


 二徹自身、戦場へ行くことに恐怖がないわけではなかった。二徹はニコールのように訓練を受けた軍人ではないし、あの時間を操作する能力は女神に返してしまった。


 もう超人的な力をもっていないのだ。それで銃弾が飛び交う戦場へ行くのは、誰でも恐ろしい。だが、二徹には嫌な予感があった。あの3人の女神が別れ際に残した言葉。


(ニコちゃんと離れてはいけない気がする……理由はないけど……そういう気がするんだ)


「うむ。そういうことなら、確かにニテツの力は欲しい。いいだろう。駐屯地で炊事班に助言してくれ。あとは……わ……私の……」

「ん? ニコちゃん、なんて言ったの?」

「うーっ。意地悪だな……私の世話をするのだ!」

「それはお安い御用です。なんなりとお申しつけください」


 二徹はそうユーモアたっぷりに答えた。それは自分の中に芽生えた不吉な思いを打ち消すためでもあった。


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