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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
最終章 嫁ごはん レシピ00 カキフライとマグロのヅケ丼
237/254

スパニアの屋台にて

ああ、ついにやってきた最終章。ほぼ書いてあるので、お盆休みに断続的に投稿します。

お楽しみに……。

「あなた……お名前は?」

 

 唐突に名前を聞かれて二徹は驚いた。白いマントに身を包んだ女の子が二人。髪は輝くほど美しい金の髪。二人ともよく似た顔をしている。おそらく姉妹だろうと直感で思った。


「僕はニテツ・オーガストといいますが……注文ですか?」


 今の二徹はチュロスを売っている。先ほど、ビアンカとエルンスト少年が襲われて、騒然としたけれども、護衛の兵士の介入とニテツのおかげで事なきを得た。


 二徹のよく知っている二千足の死神が撃たれたようだが、どうやら無傷であったようで、下手な気絶芝居したのを見て、心配もしていなかった。


 その後は何事もなく、この屋台での商売を続けている。二徹は王宮料理アカデミーの随行員として、このスパニアへ来ているが、今日の仕事は副大使であるビアンカの命令。チュロスについては二徹のアイデアだが、学校のおやつを出そうというのはビアンカのアイデア。


 スパニアの安定は平和につながるので、二徹としてもやりがいのある仕事で満足していた。嫁のニコールも1000名もの兵士を指揮し、治安を守るとともに、ゲリラ上がりのスパニア正規軍の軍事教練も引き受けていた。夜は各国の来賓を招いての連日パーティ。王宮料理アカデミーの助っ人の二徹もニコールも忙しい日々を過ごしている。


 そんな中での出来事だ。二徹はこの二人の姉妹が只者ではないと感じていた。なぜなら、先ほどの時間への介入時に止めた時間の中で、この2人は影響を受けていなかったからだ。

彼女たちは、二徹が暗殺者を排除した時に鋭い視線で一部始終を観察していたのだ。


「はい、チュロスです」


 出来たてのチュロスを2人に渡す二徹。こういう時の食べ物は会話のきっかけになる。


 2人は二徹にチュロスを渡され、それに一口かぶりついた。サクサクした食感と中のもっちり感に思わず頬が緩む。


「美味しい~」

「熱々でたまりません~」


「それで君たちの名前は?」


 二徹はそう聞いてみた。この不思議な少女たちが、自分の前に現れたのはこれが初めてではないと思ったのだ。特にこの声には聞き覚えがあった。


「私はルクルトと言います。こっちは妹のウブロです……」

「ウブロはあなたに出会えて感動しています」

「はあ……」

「私たちは時の女神なのです。私は未来を司り、妹のウブロは現在を司る神なのです」


 時の女神。普通の人なら、ここで一笑し、取り合わないだろう。そんな馬鹿げた話を聞くほど暇ではない。聞いたところで、自分になんの関係があるだろうか。


 しかし、二徹はその言葉を信じる理由があった。自分が小さい頃から使える特殊能力。それは神の力というべき、時間に干渉する能力なのだ。


「ニテツさん、あなたの能力、回収させてもらいます」

「僕の力を回収?」

「そうです。時を止める力と時間を加速させる力……あなたはそれを持っているはずです。そしてそれは人間が使うべき力ではありません」

「……確かに、僕には不思議な力がある。それは否定しない。あなた方がその力を奪うというのなら、それもいいです。でも、なぜ、僕にはこんな力があるのでしょう。君たちが関係しているのだったら、それを教えてもらえませんか?」


 この2つの力は二徹を助けてくれた貴重なものだ。これがなければ、ここまで無事に過ごせなかったかもしれない。それを失いたくないとも思ったが、この力は人が持っていてもいいものでもない。


 目の前の女の子が女神というのなら、力を召し上げられても文句は言えないだろう。だが、その前にこのような力を授かった理由を知りたい。


「ある次元での私たちのミスで多くの人が死ぬ事故が発生したのです。それは起こってはいけないミス。小さな時のほころびが大きなものへと成長してしまったのです。それを修正しようとその次元のあなたにその2つの力を付与しました」


 そう説明するのは姉のルクルト。最初に力を与えたのは妹のウブロ。彼女は現在を司る神。よって、現在の時間を固定する「時を止める力」を二徹に与えたのだ。それだけでは事故は抑えられず、姉のルクルトが「加速する力」を授けた。ルクルトは未来を司る神。人を未来の時間へ誘う。


「その力は世界を変えてしまう程の力。あなたがそれを大して使わなかったおかげで、この世界の調和が保たれているけれど、使えば全世界を支配することすらできたでしょう。それをしないなんて、あなたは人間にしては欲のない人です。ウブロは感心してしまいます」

「僕は世界征服なんて興味ないからね。自分と自分の周りの人を救うだけに、ちょっとだけ使っただけだよ。僕は愛するニコちゃんと幸せに暮らせれば、それだけで十分なんだ」

「そう……まあ、そのおかげで私たちの姉も重罰を受けなくて済みました」


 ルクルトがそう沈んだ声で話した。この2人には姉がいる。過去を司る女神ブライトリングである。この女神は妹を庇って罪を被り、幽閉されてしまったという。


「姉を助けるには、あなたから力を回収し、姉の閉じ込められた時の箱を手に入れて、蓋を開けるしかないのです」

「ふ~ん。僕の力を返すのはいいけど、その時の箱とかいうアイテムはどこにあるか知っているの?」


 2人は頷いた。『時の箱』は時空に複数存在する平行世界のあらゆる時間軸に放出される。その何億にも上る時と場所を求めて2人は探したのだ。そして、この世界のスパニアに住む人物が所有しているのを見つけたのだと言う。


「よく見つけたね……」


 まさに奇跡といってよいくらいの確率だ。神様というのはえげつないことをする。


「見つけたけど、そこから解放するには鍵がいるの」


 そう現在の神ウブロは説明した。開ける鍵は、二徹の力である。その力の回収によって姉の未来の神は解放されるのだと言う。


「じゃあ、返すよ。確かにこの力は人間が使っていいものじゃない」


 二徹はそう言うと、2人の女神を連れて裏路地へと移動する。そこには人影はない。この女神たちは気配を消すことができるらしいが、さすがに人目があるところで能力回収とかいう行動はまずいだろう。


「ウブロはニテツさんに感謝します」

「それでは……」


 二人の女神は右手を二徹の胸に当てた。手のひらが輝き始め、胸から小さな輝く玉が引き出されていく。


「おおおお……」


 まるで夢を見ているようだと二徹は思った。やがて光り輝く玉は完全に引き出され、それを2人の女神は握るようにして消してしまった。


「これで終わり。二度と力は使えないです」

「あ、確かに……」


 二徹は頭で時を止まれと念じたが、止まる現象は生じない。加速も発動しない。力が完全に無くなったのだ。


「これで終わりと言いのですが、この力を持っているのに、己の欲のために使わなかったニテツさんに協力をお願いしたいのです」


 そうルクルトが相談を持ちかけていた。この女神たちは、自分たちの姉を助けるために、様々な次元を長く放浪したらしい。その時間は何十年にもさか登ったという。無論、神だから年は取らない。やっと、力を付与したニテツをこの次元のこの世界に発見したのだ。


 ニテツという鍵の存在は、時の封印を受けた姉のブライトリングが閉じ込められたものの存在もこの世界にあることを示した。それは二徹を発見するよりも早く見つけた。


 それはこのスパニアの貴族。ジュローデル伯爵がもつ女神時計と呼ばれる懐中時計なのだ。


「その時計を譲ってくれと、君たちは持ちかけたんだ」

「はい。ウブロたちは、相当額の大金を提示したのですが、ジュローデル伯爵は譲ってくれませんでした」

「その時計は亡き奥様の形見だそうです」

「なるほど……。形見なら無理だよね。君たちは神様なんだから、その伯爵様には申し訳ないけど、力づくで奪ってしまうこともできるんじゃない?」


 あえて聞いてみた。姉を救うためなら、そういう強硬手段もやむ得ない。だが、それを行えない理由もあるだろうと思っての質問だ。


「それは無理です。奪うということは、事象の因果律を壊すことになるからです。我ら神は絶大な力をもつ故、人の意思に反することはできないです」

「では、どうしようもないね。その伯爵様が死ぬまで待つしかないよね」

「それではダメなのです。ブライトリング姉さまをすぐに助けないと、姉さまは時計と同化してしまうのです。それも猶予は1年もないのです」

「ウブロは今の状況がピンチだとニテツさんに訴えたいです……」


 時の女神たちは思い切って二徹に助けてを求めた。実はジュローデル伯爵との交渉で、ある提案を受けていたのだ。


 女神時計を手放す代わりに、牡蠣を使ったスパニアらしい料理を食べさせろという条件を与えられたのだという。ジュローデル伯爵は、病死した妻を愛していたが、その妻は牡蠣が大好きだったらしく、命日には子供や孫を呼んで牡蠣を食べているという。

 

 そこで新しい牡蠣料理を提案したのなら、妻も喜ぶという趣旨らしい。女神時計は妻の持ち物ではあったが、他にも形見はあり、それほど固執はしていない。だから、牡蠣料理のアイデアと交換という条件らしい。


「ふ~ん。それで君たちのことだから、いろいろ試したのでしょう?」

「もちろんです……」


 定番の生牡蠣、炒め物、スープ、焼きガキ……。2人の女神は様々な土地を巡り、料理人たちから教えてもらったレシピを試した。どれも伯爵の舌を満足させられなかった。


「カキ料理か……確かに、このスパニアは大きな岩牡蠣の産地だからね。いろんな食べ方があるけど、油で揚げるカキフライは試した?」


 二徹はそう尋ねた。ルクルトとウブロは頷いた。


「当然、試しました。ですが、伯爵に気に入ってもらえませんでした。あんなまずいものは口に合わないと思います」

「それはウブロも思いました。外はキツネ色なのに中は火が通ってなくてドロドロ」


「あんな生臭いもの、伯爵の口に合うはずがないと思います」


(外はキツネ色なのに中はドロドロ……なるほどねえ……)


 二徹は胸をトンと叩いた。


「じゃあ、僕が究極のカキフライを伯爵に食べさせるよ。それでお姉さんは解放できるよ」

「本当ですか?」

「それができたら、ウブロは嬉しいです」


 二徹はこの女神と称する姉妹を助けることが、何かを変えるという予感があった。それがいいものであるか、悪いものであるかは分からない。だが、今は目の前の困っている存在を助けようと思った。それが今までの自分の幸せな時間を作ってきたと思っているからだ。


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