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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 ビアンカ王妃になる!?
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条約締結とスパニア王妃誕生

「それではマスウード条約締結に向けて、最終議題の決定を致します」

 

会議の議長を務めるのは、ウェステリア王国特命全権大使クラーク公爵である。これまで様々な取り決めをし、戦乱で荒れ果てたスパニアの立て直しに尽力してきた。そして、今、国を治める王を誰にするのか、大変重要な決定を促していた。


「エルンスト・ホーエンツォレルンを初代国王に推挙するという貴族連合に反対する者はいますか?」


 誰ひとりとして声を発しない。そして誰もが次の言葉を待っていた。


「それでは賛成するものは拍手を!」


 会議に参加するものは全員が立ち上がり手を叩いた。恐らく、反対であろうフランドル大使でさえ、手を叩いている。みんなよりも若干遅れ気味に立ち、拍手も力が入っておらず、顔も浮かないのを見れば、本心は正反対だと推測される。


 こうして全会一致でエルンスト少年はスパニア国王となった。そして長いスパニア内戦を終結させるマスウード条約が締結された。


 このことは、スパニア国民にも伝えられ、町はお祝いの祭りが開かれた、誰もが待ち望んだ平和が約束されたのだ。新しい国王と新しい政治にみんな期待していた。


 条約締結で王宮も盛大な祝賀パーティが開かれている。ビアンカも副大使として参加している。知り合いになった多くの客と談笑していたビアンカは、そこに見慣れた顔を見て近づいていった。


「あら、カインじゃありませんこと」


 ウェステリアの街で吟遊詩人をしていたカインである。ウェステリアの吟遊詩人がこの場所にいることが不自然である。


「これは、これはビアンカさん……」

「あなたはどうしてここへ?」


 ビアンカはそう尋ねた。カインはウェステリアの街で一緒にボランティアをしていた仲間であったから、知らない仲ではない。だが、彼はこのような場所へ来られる立場ではないはずだ。それどころか、ビアンカ自身も副大使でなければ、この場にはいない。


「ああ……僕はこの祝賀会で演奏するように国王陛下から言われてね……」

「失礼だけど……ウェステリアの街の吟遊詩人に過ぎないあなたがですか?」


 すべてを悟ったようにビアンカはそう確認した。その傍らにドレスを身に付けた女性がいるのも見た。彼女はここ最近、カインと一緒にいる女性だ。


 ビアンカは知っている。その女性はウェステリア衛兵警備隊のエリート捜査官であることを。カインは町で知り合ったその女性といつも一緒にいたからだ。


「まあ、人にはいろいろと事情があるのですよ」

「そうですか……陛下。この度はいろいろと策略を練られたようで……おかげでこの私も素晴らしい経験をすることができましたわ」


 ビアンカはそう確信をもって話した。その言葉でカインも言葉の仮面を取り去った。


「くくく……あなたは僕の予想を超えてよくやりましたよ。次期スパニア王とは相性がよいとは思いましたが、ここまでとは……」


 もうカインは身分を隠そうとはしなかった。彼こそ、現ウェステリア王国国王エドモンド・アルベルト・ウェステリア1世なのだ。


 そして彼の傍らにいるのは、婚約者にして未来のウェステリア王妃、エステル・マクレガーなのだ。エドモンドは歴代ウェステリア王の中で初めて、民間人から王妃を迎える王となるのだ。


「ふふふ……陛下。私を誰とお思いですか……私は……未来の王妃なのですから……そして、私はあきらめが悪いのですよ……」


 ビアンカはそう言って給仕からワインをもらって、グッと一気に飲み干した。どうやら、自分はウェステリア王妃にはなれそうもないのだと悟ったのであった。だが、その瞬間、ファンファーレがなった。


 主賓であるスパニア王、エルンストが登場したのだ。客はみんな口を閉じて注目した。


「皆の者、今宵は新しいスパニア王国の門出を祝う祝賀会。大いに飲んで食べていただきたい。そして、もう一つ、余は皆に報告がある。こちらはめでたいことになるかどうかは分からないが……」


 そう言うとエルンスト少年は王座から歩いて降りると、ビアンカの方へと歩んでくる。そしてビアンカの隣にいるカインに一礼するとビアンカの前に膝まづいた。そして右手を取る。呆気にとられたビアンカは声も出ない。


「ビアンカ、あなたは新生スパニアの王妃に相応しい女性だ。余の嫁になって、余を支えて欲しいのだが……」


 シーンと静まる会場。誰もがビアンカの回答を待っている。ここまでビアンカは条約締結の成功を陰から支え、スパニア貴族の団結を見事に調整した。誰もが陰の功労者はビアンカだと認めている。


「ほ……ほーっほほほ……。じょ……冗談じゃありませんことよ。この私が子供の求婚なんて受けるはずがありませんことよ……でも……5年後なら考えてあげます」


「ビアンカ!」


 エルンスト少年はそういってビアンカの胸に飛び込んだ。5年後にはビアンカよりも背が高くなり、ビアンカを抱きしめることになるのだが、今は姉と弟のような絵面である。会場に拍手が鳴り響いた。未来のスパニア王妃の誕生を祝う拍手である。



「デ……オ嬢ハ、ソノ求婚ヲ受ケタワケデ……」


 宿舎に戻ったビアンカは、さる吉こと二千足の死神に事の経緯を話していた。


「仕方ないわ。あれだけ熱烈に求婚されたら断れないじゃない。それにエドモンド陛下には、既に心に決めた人がいることだし、これは戦略目標の転換よ」


(戦略目標ノ転換ダト……オ嬢モ素直ニナレバヨイノニ……)


 二千足の死神は思う。ビアンカとスパニア王の少年はお似合いだと。生意気なビアンカにはずっと年下の相手の方がぴったりだと思うのだ。なんやかんや言いながらも、ニヤニヤしているビアンカもまんざらではない様子だ。


(コレデ……我ノ役割ハ終ワッタヨウダ……)


 少しだけ二千足の死神は悲しくなった。思えば、あの嫁選びの朝食作りで突然、指名されたことが出会いの始まりだ。それからさる吉と命名されて、下僕にされ、散々に振り回された。超一流の暗殺者が一人の少女にどれだけ苦労して仕えてきたことか。


 だが、死神は後悔していない。自分が仕えてきたわがまま姫は、スパニア王国王妃に上り詰めたのだ。そのような人物に仕えてきたことは誇らしいことでもある。


「あら、さる吉。あなた、なんだかホッとした顔をしていますね。あなた、何か勘違いしていませんか?」

「ハ?」

「私、あなたの正体を知っていますことよ」

「ナ……ナント……」

「二千足の死神……泣く子も黙る暗殺者でしょ」

「知ッテイタノカ……」

「それは気付きますわよ。そんな気味の悪い刺青しているのですから。それでさる吉に最後の命令をします。これは未来のスパニア王妃からのお願いです」


「……オ願イダト……」

「あなたを王妃付き親衛隊隊長に任じます。もちろん、引き受けてくれますね」

「ソ……ソレハ……」

 

 自分のような人殺しをしてきた人間は、表舞台に出るべきではないと二千足の死神は思っている。いつかその報いを受けて、自分は誰にも看取られず死ぬ運命だと覚悟している。それが暗殺者という業の深い職業の末路である。


「さる吉、何を迷っているのです」


 ビシッとビアンカは二千足の死神の額をデコピンで弾いた。あまりの痛さにうずくまる。暗殺のプロなのにビアンカの攻撃はいつもかわせない。


「あなたは償わないといけません。その償いが私を一生守ることなのです。いいですか、さる吉。あなたは陽のあたる場所に帰るのです。そういう運命なのですよ」


 そう言ってビアンカは笑った。二千足の死神はその笑顔に遠い過去を思い出した。同じ笑顔の相棒がいた。その相棒がそう言っているかのように死神には思えた。


(エゼル……オ前ナノカ……)


「コホン……」


 二千足の死神は咳払いをして、ビアンカの前にひれ伏した。


「ビアンカ様ニ、一生オ仕エシマス……。ソレデオ願イガアリマス……。我ノ本当ノ名前ハ、イグナシオ……コレカラハ、イグナシオトオ呼ビクダサイ……」


「イグナシオですか。いい名前ですね。さる吉もいい名前なのですが、今日からイグナシオ……イグ吉と呼びましょう!」


「イ……イグ吉デスト~」

「ああ、楽しみですわ~。ビアンカ親衛隊の結成。そうね、旗はムカデの旗がいいわね。敵もビビってしまいますから……ああ、大陸に私の名前が轟くなんて……どうしましょう。歴史に名前を残してしまうなんて……怖いわ~。私って、ほんとにもってますわ!」


(モッテルノハ、ソノ根拠ノナイ、ポジティブシンキングダロウガ!)

 

 二千足の死神はこの生まれ故郷、スパニアの地で再び、表舞台に生きることになった。

志を半ばに散った友のために、そしてこのとんでもない王妃のために生きていこうと彼は心に決めたのであった。


「見つけたわ……ルクルト姉さん」

「ウブロ……やっと見つけたわね」


 2人の少女が二徹を見つけてそう呟いた。彼女らはこの世界を旅し、そして一人の人間を探していたのだ。


 それはかつて、自分たちのミスで事象を変化させていたことに対する修正のためであった。別次元の出来事の修正には、時と場所が複雑に絡み合った糸をほぐし、正常なものへと変えていく必要があったのだ。


 そのためにはかつて緊急で付与した人間から、特殊能力を回収する必要があった。そして、3人姉妹の中で責任を取って幽閉されている長女にあたる女神を解放しないといけなかったのだ。

 2人の女神は二徹に近づいていく。それは元の正しい世界へ戻すための行動であった。



祝スパニア王妃の誕生。書籍2巻から活躍したビアンカと二千足の死神の伏線回収。さりげなく、書籍で活躍中のエステルさんが出ていましたが、誰?と思った方は書籍版でご確認っとこちらもさりげなく宣伝。

明日から最終章突入です。

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