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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 ビアンカ王妃になる!?
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ビアンカの意見

「ソレデ、ソノガキヲ、シバイテシマッタトイウワケカ?」

「当たり前よ。あのクソガキがスパニアの功労者だろうが、次期スパニア国王候補だろうが、レディに対する無礼な行いは罰するのが正しい行いよ」


 宿舎に戻ったビアンカは、事の次第を二千足の死神に話した。死神はビアンカ専属のボディガードとして、ウェステリア軍の陸軍下士官の制服を来ている。この条約が成立するまで、仮にウェステリア軍伍長扱いということになっているのだ。


 裏稼業で暗殺の仕事をしていた二千足の死神が、時期限定とはいえ、ウェステリア軍下士官待遇とは、運命というのはわからないものである。


「シカシ……クソガキトハイエ、コノ条約ノキーマンデアルコトニハ違イナイワケデ……」

「そこは少しだけ反省しているわ。ですけど、乙女の胸を触るなんて痴漢行為は許されないわ」


 プンプン怒っているビアンカであったが、それもすぐに機嫌が直ることになる。宿舎に見事な花束が届いたのだ。先ほどの無礼を謝罪するというコメント付きのエルンスト少年からのものであった。


 筋を通せば、ビアンカも許さないわけにはいかない。翌日、城で行われた第1回の会議の前に、エルンスト少年から直接謝罪があり、ビアンカもエルンスト少年への悪感情はなくなった。


 会議は第1回から紛糾していた。話し合う議題は山ほどあるが、なかなか結論へと至らない。まず、決まらないのはこの内戦に貢献した貴族や軍人への恩賞が決められないのだ。これは利害関係が複雑に絡まり、また、戦後の地位にも関わってくるので簡単には決まらない。元々、時間がかかるものなのだ。


 会議ではそれぞれの論功を評価して、徐々に決めていく方針を立てたものの、各人の不満を抑えることができているとは思えなかった。


 次に紛糾しているのは、時期、スパニア国王の選出だ。最有力候補はホーエンツォレルン家のエルンストであるが、15歳という年齢がネックとなっていた。貢献度や従えている軍の力からいって、最有力ではあるが他の貴族への人脈の薄さが弱点となっていた。


 そこをフランドル王国を中心とする勢力が別候補を押して、こちらも状況がどうなるかわからない状態であった。


「ビアンカ、ビアンカ副大使、待って!」


 会議が中断し、休憩に入った時にビアンカはそう声をかけられた。振り返るとエルンスト少年である。彼は15歳でまだ成長途中であったから、ビアンカより背が低い。


「なんですか、エルンスト様」


 年下であるが、スパニア王国の重要人物である少年に様付けで返事をした。地位の高さからいって、自分が年下に呼び捨てにされるのも許容した。


「ビアンカ、会議の最中、君は随分とつまらなさそうな顔をしていたが、何か意見があるのではないか?」


 そうこの少年は聞いた。弱冠15歳のこの少年は、朝から始まった会議を真剣に聞き、時折、鋭い意見を述べていたのだ。その中でビアンカのことを観察していたのであろう。


 ビアンカも会議には参加していたが、意見は正大使であるクラーク公爵が話し、ビアンカは原則発言しないように事前に言われていたので、ずっと黙っていたのだ。


 性格からいって、すぐにでも意見を言いたいビアンカにとっては、これは苦痛以外でもない。


「エルンスト様は、私が意見を言いたそうだとどうして思ったのですか?」

「それは分かるさ。余は次期、スパニア国王なのだからな」

「ホーホホホっ……」


 ビアンカは右手の甲で口を隠して笑った。エルンスト少年がスパニア国王だと言った瞬間に笑ったから、そこに反応したのであろう。これにはエルンスト少年は不愉快に思った。確かにビアンカは4歳も年上で大人。自分は15歳の子供であるが、12歳の時から常に戦場に身を置いて命をかけて戦ってきたという自負がある。


 ウェステリアの貴族で、ぬくぬくと平和を享受してきた女に笑われる筋合いはないと思ったのだ。


「何がおかしいのだ、ビアンカ」

「可笑しいですわ。あなたは自分が次期スパニア国王などと呑気なことを言っていますが、それは幻想に過ぎませんわ。いわば、あなたは砂の山の上にある粗末な玉座に座っているのです」


「な、なんだと……何も知らないくせに!」

「知らないのはあなたですわ。ちょっと、一緒に来てくれます?」


 ビアンカはそう言うとエルンスト少年の手を引いて、そっと中庭が見えるバルコニーへと誘った。


「あれが見えて?」


 ビアンカはそう言うとエルンスト少年にそう尋ねた。目の前の広大な中庭で貴族や軍人が2人、3人と固まって何やら相談しているのだ。


「……彼らは何を話しているのだ?」

「決まっていますわ。いつ反乱を起こそうかと相談しているのです」

「な……なんだと!」


 エルンスト少年は驚いた。離れているから当然話し声は聞こえない。だが、誰にも聞かれないように気を使っている雰囲気がありありと分かり、ビアンカがいうことに信ぴょう性があった。


「な、なぜ……そんなことを。彼らは余に従って戦ってくれたのだぞ」

「決まっています。彼らはまだあなたの臣下ではありません。いわば同僚に過ぎません。忠誠心はないに等しいのです。彼らをつなぎ止めるものは恩賞でしかありません」


「しかし、内戦が終わったばかりで混乱している。公平な論功行賞をするには、きちんと調べた上で行う必要があるのだ」

「それまで待っていたら、各地でまた反乱が起きるでしょうね」


 そう平然と言ってのけるビアンカにエルンスト少年は、この素人然とした令嬢が良く斬れる剣であると認めた。


「ビアンカには、このことに対して名案があるとみたが、教えてくれないか?」


 そう確信をもって聞いてみた。ビアンカの顔がパッと輝いた。先ほどの会議中のつまらなさそうな表情とは全然違う。


「エルンスト様。あなたが一番嫌っている貴族は誰ですか?」

「嫌っている?」


「そう。誰もが知っていて、その相手も自覚している人物です」

「……そうだな。それならあそこにいるマクドナルド男爵だな。彼は、最初は敵側でこちらの陣営にとっては厄介な軍人であった。途中から我が方に寝返って戦い、その功は大きいが、余を子供扱いし、作戦命令に快く従わないことが多数あった。何か失敗があれば、すぐにでも更迭したいと余は思っている」


 少し苦々しい表情を隠さないエルンスト少年。これは相当に嫌いな人物なのだろう。ビアンカがその男を見ると確かに頑固そうな中年男である。子どものエルンストのことが素直に受け入れられないのだろう。


「では、エルンスト様。会議が開催されましたら、あのマクドナルドさんを伯爵に任じ、どこか領地をあげるよう宣言してください」

「な、なんで、あんな奴に……」

「あんな奴だからですよ。自他ともに認めている嫌いな人物に真っ先に恩賞を与えるのです。ほかの人はそれを聞いてどう思うでしょうか」

「……な、なるほど……分かった。ビアンカ、お礼を言うよ」

 

 賢いエルンスト少年はビアンカの狙いを理解した。最も恩賞がもらえないと思われるマクドナルドに手厚い恩賞が与えられたら、他の者は安心する。自分が与えられないわけがないと思うからだ。

 

 エルンストは再開した会議の冒頭で、この恩賞について発表した。これは恩賞が遅く、不安に思っていた人間には大変な効果があった。


 当のマクドナルド男爵自身が驚いた。自分は嫌われているので、恩賞に関してはかなり冷遇されるだろうと踏んでいたからだ。それが真っ先に恩賞が与えられて感激した。エルンストは、この恩賞で忠実な臣下を手に入れたことになる。


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