スケベな少年
すみません……SS程度の短さです。少年の1人称がでたらめでした。修正しました。
(ふう~)
ビアンカは少し疲れた様子でパーティから中座した。人気のないバルコニーへと出た。スパニアの政府関係者、軍人、貴族の面々と自己紹介をし、その人間像を頭へ叩き込んだ。
ビアンカは微笑しながらも誰が誰と対立し、誰と考えが近いかを分析して整理していた。これは頭を使う作業で、かなり疲れる。
相手もウェステリアから来た美人のビアンカと話し、その能力を掴もうと虎視眈々と来るから、手の内を見せないようにガードするのに精神を削っていたのだ。
(はあ~。これが少なくとも1ヶ月は続くのでしょうか……これはハードです。でも、これを成し遂げれば、国王陛下も私の能力を高く評価し、王妃への第一歩に繋がるかもしれません……ん……)
バルコニーに上半身を預け、ソフトドリンクを片手に景色を見ているビアンカは、下半身に違和感を覚えた。ドレスのスカートの中に誰かが入っている。
振り返るとスカートの中に上半身を突っ込み、足だけ出ている。顔が徐々に真っ赤になるビアンカ。
「な、な、な……何をしているの!」
後ろ足でスカートの中の者を蹴り上げる。
「痛~っ」
スカートの中から転がりでたのは子供。少年である。地面に転がって、ビアンカに蹴られた額を手で押さえている。歳は13、14歳くらいだろうか。
ビアンカはずいずいとこの少年に近づき、屈むとそのほっぺたを指で摘んだ。そしてひねる。グイグイとひねる。
「痛い、痛い……何をする無礼者!」
少年はそんな言葉を吐いた。余計にビアンカの指に力が入る。
「無礼者ですって、無礼者はあなたです。このエロガキ!」
「うああああっ……」
今度は摘んだ指をぐるぐると動かす。少年はあまりの痛さに逃れようとするが、ビアンカは逃がさない。少年とは言ってもまだ小柄でビアンカの体格で十分に組み伏せることができた。
「あ、エルンスト様!」
衛兵が2人、ベランダの騒ぎを聞きつけて、少年を見て叫んだ。その名前を聞いて、ビアンカは動きを止めた。ここへ来る前にスパニアについては予備知識を学んできたが、その名前に聞き覚えがあったのだ。
衛兵が遠慮がちにビアンカと少年を引き剥がした。少年のほっぺたは、真っ赤になっている。
「ビアンカ・オージュロー様、こちらの方は……」
衛兵が事情を察して、そうビアンカに告げようとしたが、少年が右手を差し出してそれを制した。
「ふん。自分で名乗るよ。余はエルンスト・ホーエンツォレルン。ここへ来たウェステリア副大使さんなら、余の名前を知っているよね」
「し、知っているも何も……」
ビアンカはその名前を知っている。内戦の勝者、スパニア貴族連合軍の旗頭。ホーエンツォレルン家の若き当主。弱冠15歳にして、内戦の陣頭に立ち、子供ながらに作戦を指揮し、その優れた戦略と戦術で見事に勝利を勝ち取った少年なのである。
ホーエンツォレルン家は前のスパニア国王とも縁戚関係にあり、今回の功績と軍の支持により、次期スパニア国王の最有力候補と言われている少年なのだ。
「知っているなら分かるよね。余が何をしても君は逆らえない。そうだよね。この会議を成功させたいなら、余の協力は不可欠だからね。青いセクシーパンツのお姉ちゃん」
そう言ってこの少年は、両手をわさわさと動かしてビアンカの豊かな胸に手を置いた。その瞬間にビアンカの電光石火の平手打ちが炸裂する。
きりもみ状態で吹き飛ぶエルンスト少年。ビアンカは振り返りもせず、ベランダの扉を開けた。
「エロガキはまず、レディに対するマナーを学んでちょうだい。これは授業料よ!」
唖然とする2人の衛兵と鼻血を流した少年にそう捨て台詞を残して、ビアンカは会場へと戻った。
5秒ほど沈黙した衛兵は、慌てて自分の主君を抱き起こす。少年はハンカチで鼻を抑えながら体を起こした。
「気の強い姉ちゃんだ……ウェステリアはとんでもない姉ちゃんを送ってきたようだ」
「エルンスト様、いくらウェステリア王国副大使とはいえ、暴力を振るうとは許せません。厳重に抗議をしましょうか?」
「いや、いい。というか、それでは余の無作法が公になってしまうじゃないか」
「それはそうですが……」
(あの姉ちゃん、確かビアンカとか言ったな。とんでもない姉ちゃんだけど……面白い姉ちゃんでもある……」
エルンスト少年は言葉を飲み込み、立ち去ったビアンカの後ろ姿を頭の中でずっと再生していた。




