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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第20話 嫁ごはん レシピ20 ふわふわ卵の親子丼とハムカツコッペ
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危ないお兄様


「ベ……ベッカ殿……」

「は、はい……何でしょうか、カロンさん」


 コッペパンの仕込みの手伝いを終えたカロンは、エプロンを外しながらそう言いにくそうにベッカに話しかけた。いつも豪快にしゃべり、笑うカロンがどうもはっきりしない。心なしか顔が赤いが、日焼けで真っ黒な肌だから、あまり目立たない。


「た、大会に……俺も出ようかと……」

「はあ?」


 よく聞き取れないので聞き返すベッカ。大男のカロンのはっきりしない態度に訝しく思っているようだ。そんなベッカの表情を見て、ついにカロンは勇気を振り絞った。両手でぴしゃりと頬を叩く。


「このカロン、この大会に出て、あなたが作ったコッペパン50個、食べきります」

「はあ?」


 この大男が何を言い出すのか、意図が読めないベッカ。不思議そうに再び聞き直す。


「そうしたら、ベッカ殿!」


 カロンはベッカの手を握る。突然のことで戸惑ってしまうベッカ。


「この俺とけ、け、け……」

「け?」

「結婚してください!」

「……」


 ついに言った。カロンがそう口に出した。突然のことで、ベッカも言葉を失う。そもそも、50個を食べきったら結婚してくれということは、食べられなかったら結婚を申し込まないということである。考えようによっては不謹慎であるが、いい年をした二人にはそのくらいの壁があったほうが、納得がいくというものだ。


 無論、カロンは死ぬ気で食べるが、コッペパン50個は半端ない量だ。一般的な成人男性なら20個が限界と思われた。


 不可能を可能としたところに、新たなる道というものがあるものなのだ。ベッカとしてもそれだけの奇跡が起こったら、それは神様がそうしなさいという思し召しなのだと納得できる。


「分かりました。もし、カロンさんが50個食べ切れたら、結婚について真剣に考えます」

「うっしゃあああっ!」


 カロンは胸を両手でゴリラのよう叩いた。雄叫びを上げて挑戦者に名乗り出る。猫仮面2号とニコラス扮する犬仮面。そしてカロンに一般参加者5名を加えた8人でコッペパン大食い競争が始まる。


 ついに大食い&早食いイベントが開始された。ルールは1時間以内に50個を食べきること。50個のコッペパンには、50種類の具が挟んであり、その量も様々である。


「猫仮面2号ちゃん、初めまして、僕は犬仮面です。お見知りおきを」

「はあ?」


 猫仮面2号の隣に陣取ったニコラス。狙い通り、猫仮面2号にコンタクトを取った。この変な参加者に少しだけ警戒心をもったシャルロットこと猫仮面2号。差し出された右手を恐る恐る握る。


「おお……謎の犬仮面、挑戦状を叩きつけたか?」

「猫仮面2号にライバル出現か?」


 謎の犬仮面登場で会場も盛り上がる。観客たちは勝負の行方に期待が膨らんでいるようだ。ニコールは兄の暴走と実は相思相愛の神展開にもはや勝負を見ていられず、水に濡らしたタオルを顔に当ててベンチに座っている。


「僕は猫仮面2号ちゃんの大ファンでして」

「はあ……そりゃどうも……」

「今日は全力で食べて君の背中を追いますので……」


「……はあ……では、がんばってください……」


 全く犬仮面に興味のないシャルロット。それよりも、目はキョロキョロと観客たちに向けられている。気になったのはあの王子様のこと。


(これだけの観客がいると、あの王子様もこの中にいらっしゃるかもしれない。ああ……どうしよう……王子様がわたしの勇姿を見て惚れてしまったら……猫仮面2号さん……いや、シャルロット……僕のお嫁さんになってください……なんてね)


 両手をほっぺに当てて、そんな妄想に浸っている猫仮面2号。知らないということは素晴らしい。ちなみに妄想どおりの心境で猫仮面2号を見つめる犬仮面も立場を変えたプロポーズ場面を妄想していた。


「では、最初は麺シリーズで行きます」

 

 まず、最初に二徹が出したのは、焼きそばコッペ、ナポリタンコッペ、焼きうどんコッペに焼きビーフンコッペだ。焼きそばはソース味に塩味がある。8人の選手の前に調理人が立っていて、食べ終わると同時に次のメニューを出すのだ。まるでわんこソバ状態である。これは一人を除く、選りすぐられた7人の挑戦者は、最初の5つは問題なく瞬間に消した。


「これは美味しい……。パン(ブレド)もやわらかいし、焼きそばなるものは相性も抜群だ」

「俺はナポリタンが好きだ。トマト(レドラ)味がなんとも言えん」

「早く、次のメニューをくれ!」


 横一線で食べ進める。だが、普通の胃袋しかもたない犬仮面ことニコラスは、もうここで出遅れる。


「ぐぐぐ……これでやっと5つ……これを10回……ぐぐぐ……」


 もはや目を白黒させているが、隣でパクパク食べている猫仮面2号の様子に癒されて、苦しいながらも5つ目を飲み込んだ。


 次の5つはたまご料理。オムレツコッペ、卵サンドコッペ、目玉焼きコッペ、厚焼き玉子コッペに、ゆで玉子コッペである。

 

 クリーミーなオムレツはふわふわ食感。ゆで卵を潰してマヨネーズと和えた卵サンドは、卵の濃厚な味が舌を包み込む。

 

 これも一瞬で食い終わる7人。合計10個のコッペパンを食い尽くした。これも横一線で差がついていない。


「うああ~。あの卵サンドって奴、食ってみたい……」

「ありゃ、うまいぜ」


 見ている観客たちは見ているだけで口から溢れるヨダレと空腹と戦う。この競技が終わったら、買う気満々になる。


「それにしても……あの犬仮面という奴……」

「見かけ倒しだったな……」


 犬仮面ことニコラス。8個目の目玉焼きコッペを半分口に突っ込んだまま、担架で運ばれてドクターストップ。愛の力とやらは大食いでは無力だったようだ。


 観客たちに嘲笑されて退場。これはこれで笑いを誘って大会を盛り上げた。もちろん、ニコラスにとっては不本意だっただろうが。ベンチで休んでいる妹のニコールの隣に座らされる。憧れの猫仮面2号との共演は、わずか3分で終了した。


「兄上~」

「うぷっ……なんだ……妹よ……」

「……兄上は……一体、何をしたかったのですか?」


「な……何を……って……決まっているではないか……猫仮面2号ちゃんとお近づきに……うぐっ……苦しい……」

「はあ……もういいです。兄上が何をやらかそうと……運命はきっと変わらないですから」


「……運命だと……ううう……運命というものがあるのなら、この僕に大きな胃袋を与えてくれ……ああ……お腹が……破裂するううう……」


そんな兄妹の会話を余所に大会は続く。


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