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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第19話 嫁ごはん レシピ19 海の幸のサバイバル飯
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サバイバル生活1日目

異世界嫁ごはん2巻 絶賛発売中。

ついでに1巻も手に取っていただき、ありがたや。

 孤島や密林でやむを得ず、サバイバル生活を強いられたとき、まずやることは安全な場所の確保。それは身の安全を確保するために様々なことを考慮する必要がある。


 まずは害獣から身を守るということ。この小さな島にはそのような害獣はいなさそうであるが、蛇や毒虫など危険は想定できる。また、寒さ対策も重要である。濡れた体のまま、強い海風にさらされれば、低体温症になる。体調を崩し、肺炎を起こせば死に直結することにもなる。軍人として訓練されたニコールや男の二徹に比べて、まだ小さな子供のエリザベスには過酷な環境なのだ。


「二徹、あの岩陰はどうだ?」


 海岸沿いを歩いてニコールが見つけた場所は、海岸から60ク・ノラン(30m)ほど離れた場所にあった大きな岩陰。その岩は大きくえぐれており、人が3人過ごすだけの空間がある。海に並行して開口されているから、海風も岩で防げる。海の様子も確認できるから、船が通ればすぐに行動もできる。


「うん、いいね。地面は砂地だし、寝ても痛くなさそうなのもいい。それでも寝心地が悪いから、周辺の草を刈って敷こう。ニコちゃん、お願いできる?」


「了解した。ニテツはどうする?」

「僕はエリザベスと薪を拾いに行くよ。あと、必要なものも拾ってくるよ」


 サバイバルの基本。安全な場所の確保ができたら、次は火を起こすことである。これは絶対条件だ。火は危険な動物を遠ざけ、食べ物に火を通し、暖をとることもできる。自分たちがここに漂着したことも救援隊に告げることもできる。


 林には枯れた枝が落ちており、海岸沿いには流木や流れ着いた木の板などがあったから、それらを集めることは難しくはなかった。近くにリゾート地があることから、生活物資として野菜などが入っていた木の箱の残骸や、船の一部と思われる木材が漂着したのだろう。また、飲みかけの酒瓶も何本か打ち上げられていたのも見つけた。こういう状況で器の入手はありがたい。


 これに海風に晒されて枯れた草を集めてきた二徹とエリザベス。岩陰の前に穴を掘って、さっそく火を起こす準備に取り掛かる。岩陰はニコールが周辺の草を刈り取って敷き詰め、あと手斧で切った枝と乗ってきて壊れてしまったボートを解体して手に入れた布を使って入口を作っていた。これで風や雨も防げる。

 

 問題は火おこしである。火を起こす道具は何もない。現地で手に入れたもので火を起こすしかない。

 火の起こし方は様々な方法があるが、二徹が試みたのは火きり棒と火きり板による摩擦で火を起こす方法だ。板は海岸に流れ着いたものがあったし、適当な枝も林で調達できる。適当な生木と乗ってきたボートを解体して手に入れた紐を使って弓を作り、火きり棒に弓づるを巻いて左右に引くのだ。これで小気味良く火きり棒が回転する。

 

 この方法で火を付けるのは、ベテランサバイバーでも楽ではない。それでも何もないときにはこの方法が一番楽で確実だろう。根性さえあれば1時間もかければ火種を作ることができる。

 

 二徹の場合は、時間操作能力がある。このチート能力はこんな時でも大いに役立つ。少しだけ火きり棒を加速させれば、板から出た木屑に火種ができるのだ。それに息を吹きかけ、枯れ草へと火を大きくする。

 

 やがて燃え上がった火に小さな枝をくべて徐々に火を大きくしていった。ここまで火を起こせば、あとは管理だけである。


「労働したらお腹が減ったな……」


 いつの間にか太陽は傾き、あと1,2時間もすれば暗闇に閉ざされるであろう。今夜は何とか寝れる場所は確保できたとはいえ、空腹は免れない。何しろ、食べ物は何もないのである。二徹やニコールはともかく、小さなエリザベスには耐えられないだろう。


「ニコちゃん、食料の確保は時間的に難しいかもね。まずは水の確保。これも重要だからね」

「そうだな……それが優先事項だな」


 水の確保もサバイバルでは重要なことだ。これは得られなければ死に直結する。食料は1週間なくても耐えられるが、水がないと脱水症状で3日で死ぬとも言われている。特に周りを海に囲まれた無人島では、水の確保は困難になる。海の水は飲めないから、真水が得ることが難しいのである。


 火の管理をニコールとエリザベスに託して、二徹は林の中へ。小さな島だから川は期待できないが、地下水脈から湧き出る泉があるかもしれない。だが、さすがにそんな都合よくはいかなかった。


 見つけたのは林の中の岩陰にたまった泥水。これは細菌がうようよして飲むのは危険な水である。だが、こういう場合、その近くの土を掘るのである。掘って水が染み出してくればラッキーである。


 土の層で浄化された水が染み出てやがてたまってくる。泥で汚れてはいるが、土の層で浄化されているからこれでも飲める。これを海岸で拾った酒の瓶につめて運ぶ。海岸で拾った3本の空き瓶がいっぱいになった。


 さらに安全にするために途中で見つけたバブの木を切り倒した。この木はたくさんの節からなる木で、ちょうど竹のような感じだ。中は空洞なので節で切れば水を貯められる。これを切り分けておけば、簡単な鍋替わりになる。これに水を入れて火の周りの砂地に突き刺しておく。底を尖った形にしておけば簡単に刺さる。


 これで水を沸騰させて完全に除菌すれば、水が飲めるようになる。ここまでで日が暮れてしまった。お腹はすいているが、夜に活動するのは危険だから、今日は確保した場所で寝るしかない。

 

 火を焚いて暖は取れるが、それでも海の孤島。夜になると冷えてくる。二徹とニコールはエリザベスを間に入れて身を寄せ合う。小さなエリザベスにはかなり堪えたのか、空腹にも関わらず、疲れて寝てしまったようだ。


「明日になれば救援も来るかもしれないし、今日はこのまま寝ようね」

「そうだな……3人いれば暖かいし……」


 床には刈ってきた草がモフモフして気持ちがいいし。そこに潜れば日の匂いもして心地がいい。夜の海を照らす月と星の光は、幻想的で美しい。体の疲れも横になると少しは楽になる。3人で体を寄せ合うと体温の暖かさで体が癒される。


「何だか、大変な休暇になってしまったね」


 エリザベスの小さな寝息を聞きながら、そう二徹はニコールに話しかけてみた。疲れてはいるが、まだ寝るには早い時間ではある。


「いいや、かえって面白くていい。3日間くらいならこのままでもいいくらいだ」

「ニコちゃん、余裕だね」


 この状況でこういうことが言えるのは、絶大な安心感があってこそだ。ここまでのニテツの行動の手際の良さを評価されてのことだろう。ニコールはそっと二徹の胸に顔をひっつけた。


「お前がいるから、安心なんだ。これはピンチなんだろうが、全然、不安に感じないのだ」

「僕もそうだよ。ニコちゃんと一緒なら安心だよ」


 そう言って二徹はニコールの頭を撫でなでする。


「も、もう……」


 ニコールは人差し指で二徹の胸をもじもじと動かす。その行動が可愛すぎる。


「本当にお前は……たくましいな……頼りになる。私は……そんなニテツが好き!」

「ニコちゃん!」


 ギュッとする2人。足が自然と絡む。ニコールはワンピース姿であったから生足だし、二徹はズボンをまくっていたから、肌と肌が触れ合って変な気分になってしまう。


「あれ、ニコちゃん、ワンピースの下?」

「水着だ……島についたらすぐに泳ごうと思っていたからな。ワンピースの下に水着を着ていたのだ」

「ふーん……」


 二徹はそう言って誤魔化したが、胸元から覗く水着の谷間は実に刺激的である。それを上目遣いで見るニコール。


「ニテツ……特別に……そのだな……私の水着を脱がせても……いいぞ……」

「え?」

「も、もう、ばか者。み、水着を脱がすのを許可すると言ったのだ!」

「ええ~っ……いいの?」

「い、いいに決まっている。お、お前は私の夫だからな。いつでもどこでも脱がす権利はあるはずだ」


(いやいや、ないない……いつでもどこでもはないでしょ、ニコちゃん!)


 と心の中で思った二徹であったが、そう言われて何もしないわけにはいかない。そっとワンピースの後ろの紐を外して、水着の肩紐に手をかける。


「ニ……ニテツ~」

「ニ、ニコちゃん~」


 盛り上がりも最高潮に達した時、二人の間で小さな寝息を立てていたエリザベスが急に上半身を起こした。目を閉じたまま、何もない空間に向かって言葉を発した。


「むにゃむにゃ……もう食べられないのじゃ……」


 エリザベスの寝言。きっと、夢でごちそうを食べているのであろう。それを放つとそのまま、また倒れて寝てしまった。


 イチャイチャ行為が途中で中断された夫婦。同時にお腹の音も鳴った。それで変な気分も収束した。


「きょ、今日のところはおとなしく寝ようか……」

「そ、そうだね、ニコちゃん……余分な体力は使わないほうがいいし……」


「も、もう……ニテツ……いやらしい事を言うな……体力を使うなどと……そりゃ、ちょっとは使うかもしれないが……この状況で朝まで体力を使うなどとは……さすがに考えていないぞ……それはリゾート地のホテルでの楽しみというものだ」


(楽しみですか……ニコちゃん、大胆なことを言うね……)


 コホンと咳払いをしないと、この無意識な妻の言葉に火がついてしまいそうである。


「そのためにも明日は食料を探さないとね」

「そうだな……食べて体力をつけなければな……」


 急に眠気が襲ってきたので目を閉じた2人。こうしてサバイバル生活1日目が終わった。


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