2人の主人
異世界嫁ごはん2巻 発売中
二千足の死神3部作を公開。完全に違う味の話やんW
死神にとって、この故郷伝来のスープには特別な思い出がある。それは家族団らんの象徴としての思い出ではなく、このウェステリア王国で殺し屋稼業を続けることになった経緯に関わる。
トマトのガスパチョは、トマトの酸味を生かした冷たいスープである。作り方は複雑ではない。完熟したトマト、玉ねぎ、キュウリ、セロリ、赤ピーマンにニンニクを刻み、これにトマトジュースと赤ワインヴィネガーを加えて潰し、こし器で濾す。あとは塩やコショウで味付けし、オリーブ油をたらして完成だ。冷やして食べると食欲をそそる前菜スープになる。
(アレハ……7年モ前ノコトダ……)
一緒に暗殺者養成機関で生き残ったエゼルと共に暗殺者をしていた二千足の死神。組織から逃れようとして、相棒で大切な存在になりつつあったエゼルを失った二千足の死神は、執拗な組織からの抹殺命令にうんざりしていた。
(エゼルガ言ッテタ……ウェステリア王国ニ逃ゲヨウ……)
暗殺組織『蛇の巣』は主に大陸が勢力範囲であり、島国であるウェステリアへ行けば、その力は及ばないと考えたのだ。
だが、それは組織も考え用心するもの。簡単には海を渡らせてくれない。それでも死神は、フランドル発ウェステリア行きの豪華客船ユーへミアに潜り込むことに成功した。
見つからずにウェステリアの地を踏むことができれば、二千足の死神は晴れて自由を手に入れることができた。
(蛇ノ巣ノ追求ハ……執拗ダッタ……)
裏切りを絶対に許さない暗殺組織は、この豪華客船に選りすぐりの暗殺者を3名も送り込んできた。
一人は豪華客船のカジノに潜り込んだ男。彼はディーラーをしながら、二千足の死神を油断させ、カードゲームに誘って鉄製のカードを投げて二千足の死神の首筋を狙った。大勢の観客がいる中での静かな攻防戦である。
客の中に紛れ込んでいた二千足の死神は、目にも止まらないスピードで飛んできたカードを持っていたワイン入りのグラスで防いだ。ワイン入りのグラスに深々と刺さったカードは赤いワインをじわじわと伝わらせて、ポトポトと床に落ちていった。
奇襲が失敗したディーラーは、すぐに小さな吹き矢で攻撃した二千足の死神に毒矢を当てられて、カードをめくっている最中に倒れた。周りが騒然となる中、死神は甲板へ出た。
「ククク……相変わらずカンがいいな……」
カジノ会場を後にした死神は、甲板でタキシードに身を包み上流階級の紳士に化けた暗殺者に襲われる。杖に仕込まれた銃弾を突然撃たれたのだ。
幸い、銃弾は右腕をかすめただけであった。二千足の死神の驚異的な反射神経でなければ、銃弾は心臓を貫いていただろう。
死神は躊躇なく、2発目の弾丸が撃てない紳士に肉迫し、その首筋に刃を当てた。
「コノ船ニ……何人、殺シ屋ハ乗ッテイルンダ?」
「知らんな……みんな貴様を殺すためだけに集められた……。なあ、冥途の土産に教えてくれや……そうしたら、ひとつだけ、いいことを教えてやろう……」
紳士は諦めたのか、そう死神に切り出した。この男は既に死を覚悟していると死神は判断した。ここで死神の攻撃をかわして逃げても、任務失敗の罪で消されることは確実だからだ。
「俺の攻撃はなぜわかった?」
「貴様ノタキシード姿……完璧ナヨウデ違和感ガアッタノダ……」
「違和感だと?」
「杖ヲツイテイルノニ……我ヲ見ツケタ時ニ、最初ノ1歩ガ僅カニ広カッタ……。恐ラク、我ヲミツケテ、心ガ逸ッタノデアロウ……」
「細かいところを見ているな……。じゃあ、ディーラーの不意打ちはなぜわかった?」
「カードノ投ゲ方ダ……」
死神はこう説明した。ディーラーの男のカードの配り方が指でつまんで投げるように配るフランドル式ではなく、合わせた2本の指でカードを滑らすように配るスパニア式だったのだ。豪華客船ユーフェミアはフランドル国籍の船。当然、いろんなところがフランドル式のはずである。
「なるほどね……そういう観察眼もいるというわけか……」
「組織ノ教育ノ賜物ダ……」
そう言うと無表情でナイフを引き抜いた。男は絶命する。
証拠隠滅のために、その男の死体を海に投げ込んだ直後に、さらに追撃を受けた。3人目の暗殺者はメインマストのてっぺんから翼を使って急降下してきたのだ。
「俺の名はフレスベルク……滑空の王である!」
地上にいるものにとって、空からの攻撃は脅威である。頭上は常に弱点であり、そこを守る術を地上に生きる者は持ち得ない。狐が鷲の攻撃に無力なように、人も例外ではない。
「グッ……人ガ空ヲ飛ブコトナド……アリエナイ……」
最初の一撃で二千足の死神は首に致命傷を受けていた。フレスベルクという名の暗殺者は、凄腕であり奇襲で得たチャンスを絶対に逃さない。
死神は傷つけられた左の首の傷を左手で押さえる。そうしないと脈打つ度に血が噴き出す。血を失うことで意識が朦朧とし、次のとどめの攻撃を受けてしまえば、それで終わりである。
フレスベルクと名乗る男は全身がぴちっとした服で覆われ、両腕と体の側面に薄い膜のある奇妙な服を身につけている。空気抵抗をなくし、側面の膜が翼の役割を果たしているのだ。皮膚の膜を発達させた動物が木から木へ滑空する能力をもつというが、まさにそれを体現しているのだ。
「フフフ……これで終わりだ!」
フレスベルクが2度目の滑空攻撃を行う。無防備な二千足の死神はなすすべがないように思われた。空から襲ってくる鳥に啄まれるムカデのように食われるしかない。
が……。
死神は待っていた。飛んで再び襲って来るのを。
「うっ!」
滑空していたフレスベルクは急にバランスを崩した。そのまま、空気をつかめず、落下する。地面に全身を強く叩きつけられた。
「がっ……バカな……この俺が落下するなど……ありえない……」
全身の骨が砕かれ、意識が朦朧とする中、フレスベルクは自分の体を見た。滑空に必要な膜がビリビリに破れている。
「こ、これは……どういうことだ……」
地面には釘が数十本落ちている。二千足の死神が甲板の陰に置いてあった釘の入った袋を頭上に投げていたのだ。その釘袋は空中で釘を撒き散らした。その雨の中を滑空したフレスベルクが侵入し、薄い膜はビリビリに破れてしまったのだ。
「いつの間に、そんなことを……それに俺が飛んで来る場所が特定できないはず……」
「特定デキルサ……貴様ハ、必ズ、我ノ頭上ニ現レルカラナ……」
上から降り注いだ釘が二千足の死神の体に何本か刺さっている。そこから血が流れている。この攻撃は死神自身へのダメージも誘うのだ。
「そ、そういうことか……お前の方が1枚上手だったということか……」
「襲イカカルモノハ、ソノ瞬間ガ一番無防備ナノダ……」
「ククク……負けだ……。だが、俺の敵はきっと弟がとってくれるだろう。貴様は弟に殺される……間違いなくな……俺のおとう……弟……フェ……ぐふ」
フレスベルクは事切れた。それは死神も同じこと。大量の血を失い、意識が途切れそうになる。そのまま力なく崩れ落ちた。
(マズイ……誰カガ……近寄ッツテクル……)
二千足の死神は覚悟をした。近づいて来るのが暗殺者の一味だったら、とどめをさされておしまいである。
「ダメダ……血ヲ失イ過ギテ……体ガ動カナイ……」
死神は目を閉じた。そしてもう一度ゆっくりと開けた。自分の殺す人間がどういう顔をしているのか最後の力を振り絞って見たいと思ったのだ。自分が何者によって命を失うのか知りたいのだ。
「あれ……この人……まだ、生きてるよ」
二千足の死神の目に飛び込んできたのは、黒髪の少女。端正な顔立ちで異様に白い肌。漆黒の瞳が大きく、闇に吸い込んでいくような力を放つ。
「オ……オンナ……コドモカ……」
「あら、失礼しちゃう……。私、これでも14歳……。レディですわ……ねえ、おじさん?」
漆黒の瞳の少女は、クスクス笑って二千足の死神を見下ろした。先程まで屈んでいたのに立ち上がったのだ。それは意外な行動。だが、その目は無邪気さからはほど遠いものであった。
「この状態で立ち上がりなさい……使える人物なら助けてあげる……」
「ナ……ナンダト……オ前ガ助ケルダト……」
二千足の死神は体の芯から屈辱に感じた。こんな子供の少女に死に際に言われたくはない。意識朦朧とする中、死神は最後のエネルギーを使い果たして立ち上がった。
「コレデドウダ……」
パチパチ……。
無感動にその少女は手を叩いた。
「……助けてあげる……」
少女がそう言って少しだけ顔を緩めた。それは死の女神の微笑みのように死神は思えた。
*
「死神くん……死神くん……」
体を揺り動かされ、二千足の死神は目を開けた。
「エ……エゼルデハナイカ……?」
「相変わらず、変な言葉でしか話せないの?」
「ウルサイ……ソレヨリ、オ前ハ……死ンダハズデハ……」
目の前には死んだはずのかつての相棒、エゼルがにこやかに笑っている。2,3歩下がるとくるりと回転した。
「そうだよ。ボクは死んだんだよ」
「……ソウカ……デハ……我モ来タノダナ……死ノ世界ヘ……」
二千足の死神はそう言って一息空気を吸った。そしてゆっくり吐き出す。自分はあの鳥男の攻撃で首を切られて死んだのだ。あの漆黒の瞳の少女は、本物の死神だったのであろう。
「あれ、馬鹿なことを言っているね……君が死んだなんてボクは言ってないけどね」
「ナ、ナンダト?」
死神は右足に違和感を覚えた。ゆっくりと首を動かし、右の足首を見るとロープが縛ってある。それは漆黒の髪で編まれたロープ。
「君はまだ死ねないみたいだよ。君を必要とする人がいるみたい」
「エゼル……我ハ……オ前ト……」
二千足の死神は右手を伸ばした。エゼルは微笑んで帽子を取る。編んであった長い髪が解けて風に舞った。そして両手を後ろで組み、少し屈んだ。
「死神くん……君を必要としている人が2人いるよ。その人のために生きて……ボクはずっと待っているからね」
右足が引っ張られる感覚。死神は涙を流して手を突き出した。だが、エゼルには届かない。体全体が引っ張られ、エゼルから引き離された。白い霧の中、死神は引きずられる。
*
「目が覚めた?」
二千足の死神は目を開けた。自分を覗き込むのはあの漆黒の瞳の少女。右腕には針が刺さり、ガラスの器には血が入り、管からそれが死神の体に注がれている。
「ココハ……」
「生者の世界……あなたは生き返った」
「コレハ……」
「輸血……他人の血を体に注ぎ込むの……種類が違うと死んでしまうけど……あなたは運がいい」
「運ガイイ……?」
「そう……話はここまで……。完全に治ったら詳しく話すわ……」
そう漆黒の瞳の少女は死神に告げた。死神はまた目を閉じた。
*
それから1ヶ月。
二千足の死神はウェステリアにあるその少女の屋敷で養生をした。
大変な重傷であったが、輸血という治療と少女の献身的な介護で元気を取り戻した。まだ、暗殺稼業をするまでは回復していないが、首に包帯を巻いた姿で、今は少女の座る椅子の前で膝まづいている。
「あらためて自己紹介するわ……私の名前はエヴァンゼリン・アーネルト。今年で14歳。このアーネルト侯爵家の次期当主よ。二千足の死神……これは通称だけど本名など意味はないわ。21歳の割には随分と老けているのね」
「……」
二千足の死神はそう一方的に話す少女に沈黙した。なぜなのか分からないが、この少女には逆らえないという意識が強烈に存在するのだ。それに裏稼業の自分の名前を知っているのだ。これはただの貴族令嬢ではない。
「二千足の死神……我がアーネルト家に仕えなさい……いや、この私に忠誠を誓いなさい」
そう言ってエヴァンゼリン・アーネルトは足を組んだ。14歳の少女にしては大人びた黒いハイヒールを突き出す。
何をすればよいのか、死神にはわかった。その靴に接吻をするのだ。それで魂が縛られる。死が訪れるまでこの少女の命令に従うしかないであろう。
「あなたの中には、私の定められた裁きをする血が流れているのです。ですから、あなたの命は私のものなのです。私の血はあなたの血と相性がよかったようね。さぞかし、死に愛された血なのでしょう」
驚いたことに、自分に血を提供したのはこの少女。大量の血をくれたらしい。それで二千足の死神は生き返ったのだ。そして、あの大陸の暗殺組織とも話をつけた。これによって、もう二千足の死神は命を狙われなくなる。そんなことができる力がアーネルト侯爵家にはあるのだ。
「エヴァンゼリン・アーネルト様……我ハ……絶対ナル忠誠ヲアナタニ……」
アーネルト家はウェステリア王国の侯爵の地位にある大貴族。しかし、それは表向きの姿。その実態はウェステリア王国を裏で牛耳る暗殺組織。闇の司法を司る一族なのだ。
多数の暗殺者を抱え、世のバランスを崩す人間を始末するのがその仕事なのだ。そしてそれは殺す人間は悪人だけではないことを示す。例え、善人で人から賞賛されるようなことをしている人間でも、世の中のバランスを崩すと判断されればターゲットとなる。
「よろしい。それでは二千足の死神、先に話しておきましょう。私たちは正義の味方ではないの……。そうね……例えば、貧しい人にお金を配るような人がいるとします。それを聞けば、みなさん、その方を善人、素晴らしい人と賞賛しますわよね……。ですが、それを続ければ人々は働かなくなり、社会は成り立たなくなります。そういう意味では、我々のターゲットはその善人と呼ばれる人間だったりします」
「……」
「あなたにできまして?」
「ヤル……」
「ふふふ……。いい返事です。あなたは私に忠誠を尽くせばいい。あなたの命は私が救ったのですから」
エヴァンゼリン・アーネルトはそう言ってスープの入った皿を勧めた。それはトマトのガスパチョであった。
「コ……コレハ……」
「あなたの故郷の料理よ。これを食べなさい。忠誠の証に……」
二千足の死神はそれを一口食べた。
「ウグッ……」
喉が焼けるような痛みと呼吸困難で倒れる。地面でのたうち回り、そして痙攣を起こす。
「毒よ……。あなたは今日から少しずつ、このいろんな毒の入ったスープを食べさせてあげる。それで少しずつ耐性をつけるの……耐性がつく前に死んでしまうこともあるけど、あなたなら大丈夫そうね……」
「……エヴァサマニ……従イマス……」
苦しい息遣いでそう二千足の死神は言葉を発した。この漆黒の令嬢に仕えるということは、楽なことではないのだ。
毒入りのガスパチョを何年も食べ続けた結果、二千足の死神は毒への耐性や、毒の感知までできる能力を身に付けることができるようになった。
トマトのガスパチョとは、そんな思い出深い料理なのである。
*
「さる吉、スパニアの実家はどうでしたか?」
二千足の死神は首都ファルスへと戻った。ニ徹やニコールはまだオーデフに滞在しているが、そろそろ、有給休暇がなくなりそうなので戻ったのだ。二千足の死神は、今は表向きはビアンカ・オージュロー子爵令嬢の下僕を勤めているのだ。
「ハイ……久シブリニ家族ニ会エマシタ……」
適当に合わせる死神。当然ながら、ビアンカは二千足の死神の正体を知らない。もし、知ったとしたら、この令嬢はどうするのだろう。そんなことを考えると死神は今日だけはもう少し、スパニアの田舎育ちの哀れな男を演じようと思っている。
だが、そろそろ潮時だとも思っている。自分がいることでこの令嬢にも危害が加わる可能性もあるし、それにこの令嬢と接していると自分が変わってしまうのではないかという畏怖感が芽生えていた。
(コレ以上、関ワラナイ方ガヨイカモシレナイ……)
そんなことを考えている死神に屈託のない笑顔を向けるビアンカである。
「それはよかったですこと。そうそう、さる吉。あなたにちなんで、この私がスープを作りましたのよ。食べてみてください」
そう行って持ってきたのは鍋。子爵家はそれほど裕福ではないため、この令嬢は自分で料理をすることもあるのだ。
「コ、コレハ……トマトノ、ガスパチョデハナイカ?」
ここでこのスープが出てくるとは、どんな因縁があるのか二千足の死神には分からない。分からないが、何かあるのだろうと死神は思った。
自分が食べるまでじっと見ているビアンカを早く帰すためには、ここでこれを食べなくてはいけない。二千足の死神は意を決して、スプーンで一口食べた。
(ドウセ、腹ガ痛クナルトカ、超マズクテ吐キ出ストカノオチダロウガ……。分カッテイル。忠実ナ下僕ノ役割ヲナ……)
舌に広がる酸味。トマトの味が広がっていく。
(ド……ドウイウコトダ……普通ニ美味イデハナイカ?)
「なんですか、さる吉。私の料理が美味しくないのですか?」
「フ……普通ニウマイ……」
「当たり前ですわ。私は未来の王妃なのですから」
そう言って胸を張るビアンカ。二千足の死神は何だか、心を鷲掴みされた気分になった。昔、幼きアーネルト女侯爵に忠誠を誓ったあの心境が再びである。
「あら、さる吉、なんで涙を流しているのかしら。私のスープがそれほど美味しかったのかしら?」
「イヤ……コレハ……」
「説明しなくてもわかります。これはさる吉のママの味なのですね。ママの味に感動してしまったのですね。ああ、私、自分が怖いわ。会ったこともない人の味を再現してしまうなんて、私の神より与えられた才能が怖いわ~」
勝手に盛り上がるビアンカ。それを複雑な表情で見つめる二千足の死神。
(我ノ母親ハ、コノ料理ヲ作ッタコトハナイノダガ……)
無邪気に喜んでいるビアンカに、二千足の死神は先ほどの考えを改め、もう少し付き合ってやろうと思ったのだが、これが彼の運命を大きく変えることになる。
*
「わっ……命だけは助けてくだせい……」
そうピエールは懇願するが、黒い服を着た男たちは無言でピエールに目隠しをする。ピエールは、二千足の死神の忠告に従わず、ずっと宿屋で滞在して無為に時間を過ごしてしまったのだ。
このまま、ここにいてやってきたウェステリア軍に投降しようと思ったのだ。だが、それは最悪の選択であった。先にやってきたのは黒づくめの得体の知れない連中。
彼らはウェステリア語を話さない外国人。発音からフランドル語だと思われた。フランドルが糸を引いていたことを隠すために、猫の目旅団の幹部を亡命させることから、証拠隠滅のために始末することに方針転換したのだ。
「お、お願いしますだ……家には妻も子供も……」
男たちは無言である。
「撃て!」
銃声が3発鳴り響いた。
決められなかった男は倒れた。
ピエールが逃亡資金にと思っていたケースの金貨は、黒服の男たちが持ち去った。
(我ノヨウニ国を捨テレバ……生キル道ハアッタノニ……)
後で事の顛末を組織の人間から聞いた二千足の死神はそう静かにつぶやいたという。
次回はニコちゃんのオーデフ滞在のお話と留守番しているメイちゃんの話を書こうかなです。あと、エリザベスちゃんもいますねえW




