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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 死神くんのお仕事 ~トマトのガスパチョ
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死神の忠告

異世界嫁ごはん2巻 発売中

今晩、二千足の死神編 完結予定……まずは2話目。(全3話)

「スパニアに逃亡か~っ。相変わらず、バートルミーの奴、冴えてるなあ……」


 ジョバンニは上機嫌で用を足している。実のところ、また山脈地帯に潜む生活は嫌だと思っていたので、スパニア王国行きは願ってもない提案だと思ったのだ。


 オーデフでの数週間の宰相暮らしは、贅沢な生活で美味しものをたらふく食べ、美女に囲まれた生活だった。そんなところから、また不便な山賊暮らしには戻りたくないと心底思っていたから、スパニア王国へ行くことに対して反対する気持ちはないのだ。


「スパニアへ行ったら、美味しいものを毎日食べて、可愛い女の子に囲まれて……うぎょひょ……あれ……なんで俺は宙に浮いているのだ?」


 用を終わって下へ向いた視線。当然、自分の足が見えるが、その足が地面についていないのだ。


「あ、ぐっ……」


 ここへ来て、首に細い紐が食い込んでいることに気がついた。だが、不思議なことに苦しくない。まるで天国へ登っていくそんな気分だ。


「あうううう~」


 やがて意識を失ったジョバンニ。トイレの天井に首をくくられたまま、幸せそうな表情でプラプラと体を揺らしていた。


「ターゲットダガ、オ前ハ、利用サレテイタ、ダケダカラナ……苦シミナクアノ世ヘイクガヨイ……」


 二千足の死神の右指につけた指輪。ここには毒が仕込んだ針が仕込んである。毒は麻痺毒。今回は苦痛を奪う種類のものを使った。


「貴様、首領に何をした!」


 手に持ったロングソードで天井を一閃。壊れた板材と共に空中で回転して、二千足の死神は床に音もなく降り立った。代わりに板が床で跳ねる音がする。


「見レバ分カル。今頃、黄泉ノ国ヘ向カッテ歩イテイルダロウ」

「き、貴様!」


 猫の目旅団の暗殺者。今は幹部の護衛を務めるルーファスである。自分の武器であるロングソードを抜いて二千足の死神にその切っ先を向けている。


「心配スルナ……護衛ノ仕事ナラ、今カラデモ間ニ合ウ、黄泉ノ扉ハスグ開ク」

「貴様が先に行けや!」


 ルーファスはロングソードの使い手。この銃が発達しつつある中で、古風なロングソードを自分の武器に使う凄腕の暗殺者だ。経験に裏付けられ、これまで殺してきた100人近くの犠牲者の命を栄養にして培われた剣の腕は超1流である。


 しかし、ここはトイレ。個室が2つに小便器が3つの狭い空間である。ロングソードを振り回す幅がない。


 二千足の死神は2本のダガーを両手にもつ。黒く塗ってあるアサシン用のダガーだ。二千足の死神はにやりと笑った。ルーファスは、今回の任務で少しだけスリルが味わえる相手だからだ。


「貴様、笑っているな……こんな狭いところで俺がロングソードを振り回せないとおもっているな……だが、その侮りが命取りだ!」


 ルーファスはロングソードを水平に構えた。そして体全体をしならせ、一足飛びに二千足の死神に接近した。


「グボアッ!」


 血を口から吹き出し、絶命して倒れたのはルーファス。凄まじい突きの攻撃も二千足の死神にはかなわない。体を少しだけ沈めて突進した死神は、ルーファスの懐に入り込み、一つの短剣は喉を裂き、もう1本は心臓に突き立てた。


「知ラナイノカ……。接近戦デハ、ダガーニ勝ル武器ハナイ」


 振り返らずにトイレのドアを開けて出て行く二千足の死神。次のターゲットは部屋にいる真の指導者バートルミーである。そして、この男に関しては語るほどもでもない。部屋に堂々と入り、驚く他の幹部には目もくれず、壁に張り付き、動けない彼を仕留めるだけであった。


 バートルミーを壁に縫い付けた二千足の死神は、返り血を浴びて恐怖で動けない男を見つけた。あまりの恐怖で腰が抜けたようだ。


 他の幹部たちはとうに逃げ出しており、この男だけが逃げ遅れたようだ。腰が抜けては動けない。


「あわわっ……こ、殺さないで……お願するだ……田舎には妻や子、年老いた両親がおるで……」


 二千足の死神は例え、仕事ころしの現場を見られたとしても、ターゲット以外の人間は殺さない。それが彼のポリシーでもあった。但し、ターゲットはどんな汚い手を使っても必ずこの世から抹殺する。


「貴様ハターゲットデハナイ……」

「じゃ、じゃあ、オラは殺さないだ?」


 二千足の死神の目には哀れみの色が浮かんでいる。自分が殺さなくても、オーデフから資金を強奪して逃げた一味だ。きっと、盗まれた貴族や恨みがある連中が殺し屋を雇っているだろう。また、彼らの逃亡を助けようとしたフランドル政府も、首謀者が死んだ猫の目旅団を切り捨てるだろう。それは100%である。


(気ノ毒ダガ……コノ男ハ、我ガ殺サナクテモ生キラレナイ……)


 いつもの冷酷な二千足の死神なら、普通にスルーするだろう。名前も知らない小さな犠牲者だ。こんなケースはこれまで何十人と見てきた。


 しかし、今の死神の心理状態は以前とは大きくかけ離れていた。


「オ前……生キテイタイナラ、ソコノ金ヲ1ケース持ッテ、オーデフヘ迎エ。ソノ金ヲ利用シテ、オーデフカラ外国ヘノガレルノダ……」


「そ、そんなことできないだ……これは……旅団の資金……それに田舎には妻や子がオラのことを待ってるだ……」


「生キタイナラ……ソレハ全テ捨テロ……」


 そう言って二千足の死神は視線を他の方向へ向けた。テーブルには鍋が置かれ、今から皿に盛り付ける途中であったようだ。


(コレハ……トマト(レドラ)のガスパチョデハナイカ……)


 死神にはこの料理は思い出深いものだ。これは元はスパニア料理。ウェステリアでも食べられるが、よく食べるのは北方地方である。そしてスパニア王国を生まれ故郷にもつ二千足の死神にとってはソウルフードでもある。

 

 但し、このソウルフードはかなり危険な思い出とともに二千足に死神の心に絡みついた宿り木のようなものであった。


「モウ一度ダケ忠告スル……生キタケレバ……国ヲ捨テロ……」

(我ノヨウニナ……)


 そう言って死神は仕事を終えた場所から去った。忠告を聞き入れるのも、聞き入れないのもこの男の自由である。


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