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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第18話 レシピ18 石焼き芋と各種野菜のポタージュ
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脱出

異世界嫁ごはん2巻発売中。もうネットだと届いているんですね!

作者も持ってないのに!悔しいですw

 二徹と二千足の死神は宮殿の屋根に上って陰に隠れていた。雨樋を伝って屋根に上り、今は西の塔の下まで来ている。情報通り、塔の壁には鉄の杭が打ち込まれ、これを伝って上に登れるようになっていた。


 但し、これは業者が塔の上からロープで作業者を吊るして作業するための足場として使うためのものだ。これだけを頼りに登ることは危険だし、普通に考えて不可能なことであった。


 だが、不可能と思えるからこそ、そこからの侵入が可能となる。やがて、南の方から煙が上がり、下の方で人々が騒ぎ始めた。オズボーン中尉たちの仕業だ。これを合図に二千足の死神と二徹は西の塔の壁に取り付く。


「これはきついね……」


 20ク・ノラン(10センチ)ほど突き出た鉄の杭を掴み、腕の力で這い上がる。足を杭に乗せて休めるとはいえ、体を常に腕で支えないといけない。ボルダリングほど足場がランダムでないから、慣れれば難しくないのかもしれないが、垂直にそそり立つ壁に張り付く感覚は怖い。


 時折、風が強く体を打ち付け、その度に体がふわりと浮く。2,3度、バランスを崩しそうになったが、そこは二徹のチート能力。時を止めることでピンチをしのいだ。


「急ゲ……火事騒ギガ落チ付ケバ、コチラニニ気ヅク者ガ出ルカモシレナイ……」


 二千足の死神はそんな感覚を持ち合わせていないのか、ひょいひょいと登っていくので、二徹としてはついて行くのが精一杯である。


「ふう……」


 塔の最上階の一歩手前で二千足の死神が窓を壊して、中に侵入した。二徹もあとに続く。


 一歩手前で中に侵入したのは、エリザベスの他に人がいることを警戒したからだ。目星をつけているとはいえ、確実にエリザベスがいる保証はない。


「ドウヤラ……見込ミハ正シカッタラシイ……」


 中に入った二千足の死神はそう呟いた。塔の最上階の部屋の前は広い内バルコニーになっているが、そこに全身アーマーの巨大な戦士が、これまた巨大なバトルアックスを持って警備にあたっていたからだ。


 こんな隔離された場所を守っているのなら、部屋の中の人物の重要性は想像ができる。


ギシッ……ガシッ……。


フルアーマー戦士は二徹たちに気がついた。鎧をきしませて、バトルアックスを持ち上げる。


 カンカン……。


 それよりも早く、二千足の死神はナイフを放ったが、すべて鎧に跳ね返される。バトルアックスが頭上を通過。しゃがんだ死神は次の攻撃を跳んでかわす。バトルアックスが先程まで死神のいた地面を破壊する。とんでもない威力だ。


「大丈夫か!」


 階段の下から二徹が叫ぶ。二千足の死神の攻撃は、一撃で相手を殺す毒殺攻撃。すばやい動きから繰り出される攻撃は、一つ一つには威力がない。今回の相手のようなパワーを全面に出してくる相手には相性が悪い。


「グアアアアアッツ!」


 全身鎧の重戦士は獣のような叫び声を上げるだけで、言葉を発しない。こういう戦闘だけに特化した訓練を受けたか、薬でこのような状態になったか分からないが、バトルアックスの破壊力や、到底、普通の人間では着こなせないような大鎧を来て動けるパワーは尋常ではない。


「クッ……コレハ化物ダ……」


 逃げ回りながらも、チャンスと見れば瞬時に接近し、鎧の継ぎ目を狙ってナイフを突き立てる攻撃に出る死神であったが、継ぎ目も固く、攻撃が一切通じない。このような重武装の戦士には、メイスやハンマーのような打撃系の武器が有効だが、そのようなものは持ち合わせていない。


「死神くん、代わろうか?」


 そう二徹は聞いてみた。自分も化物並みの強さなのに、重戦士を化物だと言って苦戦している死神がピンチだと思ったからだ。


「ヤレルモノナラヤッテミロ……」


 殺しのプロの二千足の死神がそう答えた。二徹の戦闘力を相当評価しているからこその答えであろう。許可を得ればあとは簡単である。


時間を止まれ(スタグネイション)


 止まった時間。二徹だけが動ける世界。加速付きで重戦士に体当りする。あとは時間を動かすだけ。その時間、わずか3秒。


「グゴ!」


 バルコニーの手すりに後ろ向きで激しくぶつかった重戦士。その重みで手すりが壊れた。そのまま落下していく。


「グオオオオッ……」


 叫び声が徐々に小さくなり、ガシャンと地面に叩きつけられる音がする。下では大騒ぎであろう。早くエリザベスを救出して脱出しないと兵士が大勢駆けつけてくる。


「アイカワラズ……不思議ナ奴ダ。我ノ目デモ、体当リシタ瞬間ハトラエラレナカッタ」


 二千足の死神の疑問は無視して、二徹はドアを開けた。中には震えて地面にうずくまっている女官が一人。そして窓際にはエリザベスがいた。猫耳をピンと立てて、大きな目をいっそう大きくして二徹を見ている。


「エリザベス、迎えに来たよ!」

「ニテツさん……よく来たのじゃ!」


 駆け寄ってくるエリザベスを抱き上げると、すぐに二徹は振り返った。


「脱出しよう」


 その言葉にかねてからの作戦通り、二千足の死神は壁に取り付けられた取っ手を引っ張った。それはこのような塔の最上階にものを届けたり、ものを運び出したりする設備。下まで続く空間にロープで上げ下げするものだ。垂直だと落ちた時に悲劇なので、螺旋上に傾斜を付けられた形状で下まで続いているのだ。


「ここを通って下まで降りる」


 二徹はエリザベスを抱き抱えて、滑り台のように滑っていく。二千足の死神もあとに続いた。


「まだ、来ないか!」


 オズボーンはそう言いながら、確保した荷馬車の後ろで二徹たちを待っていた。荷馬車は城に野菜を積んできた帰りで、オズボーンたちが所有者を説得して確保したのだ。馬車の所有者である野菜売りの商人は、ウェステリア軍が戦いで勝利したことを噂で聞いていたので、オズボーンの申し出に喜んで従った。


「火事の騒ぎが収まりつつあります。早く出ないと検問が厳しくなってしまいます」


 そう野菜を届けに来た少し太った商人も心配そうにキョロキョロしている。この商人、長くこの城に野菜を届ける商売をしていた。ところが、クエール王国が発足していらい、兵士の質が激落ちして、賄賂をいたるところで請求されるようになって赤字になっていたから、早く滅びてしまえと内心思っていたのが協力する理由だ。


「おっ、来たか!」


 塔から脱出した二徹と二千足の死神。猫姫エリザベスは二徹におぶさっている。途中で立ちはだかる警備兵は、死神が一撃で倒して来たから、大きな騒ぎにならずにここまで逃げて来られたのだ。


「早く乗ってください」


 商人に言われて二徹とエリザベスは荷台に乗る。荷台は幌が付いているので、乗ってしまえば目立たない。オズボーンに付き従った兵士も乗る。野菜を運んできた空のかごを積み上げたものの陰に身を潜めた。


二千足の死神は馬車の後ろに手伝いの助手に成りすましている。これはいざという時のための備えだ。同じく、オズボーン中尉もマントを深々と被り、商人の助手に化けて、御者と商人と同じところに座っている。


「はい、次だ、急げ」


 城から出て行く馬車は多い。今の時間が午前中の物資を運んだ馬車が、帰る時間であることがその原因であった。

 

 城の兵士は面倒くさそうに次々と退出の確認印を押して通らせている。まだ、エリザベスが誘拐されたことや、火事騒ぎはこの通用門を警備する兵士には伝わっていないらしい。


(早く……早く……)


 二徹はエリザベスを抱き抱え、そう念じる。エリザベスを連れた今、ここでの戦闘は避けたい。


 5台並んでいた馬車が次々と出て行く。いよいよ、二徹たちの番だ。商人が許可証を差し出し、面倒くさそうにスタンプを押す兵士。荷台のチェックもせずに通すようだ。オズボーンは意外と簡単に通してもらえると思ってほっとした。


 カラカラ……馬車が動き出す。門を通過しようとしていた時だ。


「ちょっと、待て!」


 鋭い声で制止された。御者が馬を止める。


「おい、お前」


 一人の兵士が荷台の後ろに腰掛けていた二千足の死神に目を付けた。


「私どもの下働きに何かご無礼でもありましたでしょうか?」


 商人が馬車から降りてそう説明した。


「おかしいぞ。今朝、入場した時にはこんな小男はいなかったぞ」


 そう兵士が叫ぶ。その声に門に待機していた兵士が集まってくる。通用門での警備は甘く、許可証さえ見せれば通過できる。兵士の気分がよければ顔パスの時もある。当然、人数チェックなど行われていないが、あまりにも怪しい様相の二千足の死神に変だと思ったのであろう。


「いや、この者は最近雇った男で、食うに困ってやって来た流浪民です」

 

 そう商人の男は説明した。戦争が始まり、兵士希望で地方からやって来る人間が最近増えているから、この説明には説得力があったが、二千足の死神のまとう禍々しいオーラは、そのような種類の人間でないことを感じさせた。


(ここで殺すか……)


 ここにいる兵士は5人程度。二千足の死神が本気を出せば、数十秒あれば全員倒せるだろう。だが、増援を呼ばれればまずいことになる。町への追跡も激しくなるに違いない。


「おい、お前!」


 オズボーンが馬車を降りてきて、馬を打つムチでぴしゃりと二千足の死神を叩いた。二千足の死神は、一瞬だけ(何をする!)と鋭い目を向けたがオズボーンの決意の浮き出た表情を見て打たれるがままにななる。


「お前が兵士さんたちに疑われるから、いけないのだ。この役立たずめ。すぐに戻らないと次の取引に間に合わないではないか、この大馬鹿者」


「ユ……許シテクダセイ……旦那サマ……」


 二千足の死神はいかにも哀れっぽくそう叫んだ。涙まで流して痛がる。さらにムチで痛めつけるオズボーン。哀れな二千足の姿に、先ほど抱いた疑念が完全に吹き飛んだ警備兵は、オズボーンを止めに入る。


「まあまあ、下働きの人間をそんなに痛めつけなくても……」

「やめろよ、見ていてあまり気分がいいものではない」


「くっ……仕方がない。兵士の皆さんがああいっておられる。今日のところは勘弁してやる。さっさと馬車に乗れ!」


 そう啖呵をきったオズボーン。今度はニコニコ顔で兵士に近づく。


「お役目ご苦労様です。使用人が迷惑をかけました。これはほんの気持ちです」


 そう言って1ディトラム金貨を1枚取り出して手に握らせた。


「これで1杯やってください」

「おお、そうか、気が利くな」

「これからもどうぞご贔屓にしてください」


 そう言ってオズボーンも馬車に乗る。手を振って兵士と別れる。馬車がゆっくりと動き出す。城を出て路地を曲がるとスピードを上げた。



二徹たちが去って5分後。


「伝令!」


 一人の兵士が走ってきた。通用門の警備兵たちに緊張が走る。


「賊が侵入し、女王陛下が誘拐された。全ての門は閉じて一切の人間を外に出さないようにとの命令だ」

「はっ……」


 命令を受諾して敬礼をする兵士たち。


 伝令が去って、警備兵たちは先ほどの馬車のことを思い出した。


「女王陛下が誘拐されたって……」

「誘拐した連中は火をつけて注意をそらして、西の塔に侵入したらしい」

「そのうちの一人はマントをすっぽりとかぶった不気味な小男らしい……」

「おい、さっきの馬車の男……あれ小男だったよな……不気味な……」


「それによく考えると、あの野菜売りの商人。来た時は御者と2人だけだったような。あのムチで叩いた男なんて乗っていなかったぞ」


「ま、まあ、待て!」


 オズボーンから金貨をもらった兵士がそう制した。


「あれがそうだったかもしれない。だが、そうでないかもしれない。要はこれを報告したら俺たちは罰を受ける。報告をしなければ、この金貨で今日はただで酒が飲める。そういうことだ。なあ、みんな。もうすぐ、ウェステリア軍がやってくるんだ。俺は賢くやりたいと思うのだ」

 

4人の兵士は頷くしかなかった。怪しい馬車の報告はされることなく、二徹たちは町の中に消えた。クエール海賊団から紹介された町の協力者の屋敷に匿われたのだ。


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