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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第17話 嫁ごはん レシピ17 ムール貝とカサゴのブイヤベース
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フェニックスの罠

「ククク……今日、ここで貴様と決着をつけられると思うと心が躍る」


 フェニックスは両手にもった銃を撃つと嬉しそうにそう言った。銃弾を間一髪でかわした二千足の死神は、冷静に周りの気配をさぐっている。


(コノ男ガ勝チ誇ッテイル……罠カ?)


 基本的に銃使いであるフェニックス。二千足の死神との接近戦は避けたいはずである。そして、戦っている場所は森の中。逃走した馬車に追いつき、急遽に設定された戦闘区域である。ここに罠を仕掛ける余裕はないはずだ。


 タン……タン……。


 死神は木の幹を蹴ると対角線上の幹をさらに蹴り、体を上昇させる。その動きに向かって銃弾が放たれる。トリッキーな二千足の死神の動きをトレースする攻撃は、フェニックスの射撃の腕が神業であることを物語っていた。


 が、死神の動きはフェニックスの予想をはるかに超えていた。銃弾が着弾する時には死神の体はすでになく、身代わりの木の幹に突き刺さるのみである。


「貴様、いつもよりも動きが早い……まさか……」

「ソノマサカダ……」


 死神は小さな瓶を地面に落とした。それは薬の入った瓶。毒を扱う二千足の死神は、自分に対して使う薬も持っている。これはその一つ。脳を急激に活性化させることで、一種の興奮状態にさせ、体に圧倒的な運動能力を一時的に与えるものだ。


 いわゆるドーピングという奴だ。但し、当然ながらこれはリスクが伴う。薬による過度な体への働きかけは、体を蝕み、寿命を削る。


 二千足の死神もこれまで使ったことはほとんどない。その禁じ手を解禁したのだ。これはこの戦いが生死を分けるものであるという認識からだ。


「ククク……貴様が命をかけるとは、このフェニックス、そこまで敬意を払ってもらい光栄に思うぞ。褒美はお前の命だがな!」

「イヤ、代償ハ、オマエ自身ガ払エ!」


 二千足の死神は、フェニックスへの攻撃可能範囲へと侵入した。ナイフでフェニックスの体に少しでも傷をつければそれで勝負はつく。死神は右手を振り抜いた。


「不死鳥ヨ……地獄ヘ還レ……」

「ククク……不死鳥は不死だ!」


 この危機的状況にもかかわらず、フェニックスの口元に笑みが浮かんだ。二千足の死神の背筋が凍りついた。


(気配ガ……)


 突然、右からロープに縛られた丸太が二千足の死神の小さな体を捉えた。その衝撃に吹っ飛ばされる死神。しかし、丸太のダメージにもかかわらず、くるくると体を反転させて受身を取る。だが着地した瞬間に地面が爆音を上げた。


「ウアアアアアッ……」


 罠である。フェニックスは昨日のうちから、この戦闘区域を設定し、馬車で追いつかれたときにはここで死神と戦うことを決めていたのだ。


「我の作戦勝ち、そして罠は周到に準備してある」


 爆発に吹き飛ばされた死神の体の向かう方向まで綿密に計算していた。そこは木々に囲まれた空間。周りの木の枝には狙いを付けた銃が固定されている。銃口は空間の中心に向けられていた。


「これで終わりだ」


 フェニクスが紐を引っ張る。引き金と連動したそれは銃撃を誘う。


 爆撃で気を失いそうになった死神は、自分が飛ぶ方向に銃弾が待っていることを勘で感じ取っていた。そこで無意識のうちに体をよじる。10発の弾が間一髪で体をかすめていく。


「残念だ!」


 それをもフェニックスは予想していた。とどめはフェニックス自身の銃。


森に響いた1発の銃声は二千足の死神を撃ち落とすのに十分であった。地面に仰向けになり、ぴくりとも動かない死神。


 その胸のあたりには貫いた銃撃の跡がある。確かな手応えで勝ち誇ったフェニックス。死神の死体へと近づいていく。


「やったぞ……。あの二千足の死神を倒した。この不死鳥のフェニックス様が……」


 フェニックスは自分の胸が赤くなっているのに気づいた。体が痺れ、急に重くなる。そしてたまらず、両膝をついた。


「う、嘘だろ……こんなことがあるはずがない……フェニックスは……不死鳥だ」


 そう声を絞り出し、両手を地面に着いたあと、仰向けに転がった。その胸にはナイフが深々と刺さっている。心臓を見事に貫いていた。


 殺されたはずの二千足の死神が放ったものである。毒が塗ってあるそれは心臓を貫かなくても、不死鳥をあの世へ送るに十分なものであった。


「がはっ……。なぜだ……確かに銃弾は貴様の心臓を打ち抜いたはず……」


 フェニックスは口から大量に血を吐き出した。そして地面へと倒れこむ。それとは対照的に、二千足の死神はゆっくりと立ち上がった。ダメージがなかったわけではない。そしてこの戦いに勝ったのも、自分の力ではない。死神は右手を懐に突っ込み、そこにあった物体を取り出した。

 

 それはぐちゃぐちゃに潰れたオヤキ。二徹がくれたほうれん草入りのオヤキだ。これと下に着込んでいた鎖帷子。これらがフェニックスの放った凶弾を防ぐことができた理由。オヤキの生地と複雑にからまったほうれん草が弾のスピードを弱め、その先の鎖帷子を貫けなかったのだ。


「貴様ノ……セイデ……コノ……ウラミ……ハラス!」


 死神はグチャグチャになって食べられなくなったオヤキを地面にぽとりと落とす。その口調は助かったことへの感謝や宿敵を仕留めた達成感よりも、悲しみが表れていた。


「不死鳥も……死神には勝てなかったというわけか……」

「二度ト蘇ルナ……」

「ククク……貴様との決闘には負けたが……最終勝利者は我だ…不死鳥は死なず……」


 二千足の死神にとどめを刺される寸前。フェニックスは意味深な言葉を残した。その言葉は二千足の死神が、二徹のところへ行った時に判明する。



「馬鹿ナ……猫姫ガ偽物ダト……」


 馬車に乗っていたのは町で誘拐された同年齢くらいの猫族の少女。この逃走劇そのものが罠であったのだ。


 近隣から駆けつけた衛兵警備隊の兵士が私兵を捕縛し、誘拐された少女を救出する。それを森の木陰から確認する二徹と二千足の死神。


 この状況だと自分たちも取り調べを受けかねないので、戦闘終了後に姿を隠したのだ。


「ドウスル……コレカラ……」

「無論、エリザベスの救出を続行する」

 

そう二徹は捕らえた3羽烏の男を尋問して、エリザベスの行方を聞いていた。港から海路でオーデフへ向かったという。今から追って海上で救出は不可能だ。ならば、オーデフへ潜入して救出することになる。


「タダノ専業主夫ガ、ソコマデスルカ?」

「エリザベスを助けるって決めたからね。君も行くだろ?」

「当タリ前ダ……我ハプロダ……。命ガアル限リ……任務ヲ遂行スル」


 二徹はこの奇妙な相棒に笑顔を向けた。これから始まる困難にもこの男がいれば、成功するように思える。


「腹減っただろう……君のオヤキは潰れてしまったようだし、これを食べるといいよ」


 二徹は二千足の死神の懐が、緑色に変色しているのに気がついた。それはほうれん草の潰れた跡。そこで腰に付けたバックから、紙に包んだものを渡した。


「コ、コレハ……オヤキ……」


 二千足の死神はすぐさま、かぶりついた。中身はほうれん草ではなかったが、ナスを甘辛く煮た具材が口いっぱいに広がる。


「ウマウマ……ウマイ……コレダ……コレヲ待ッテイタノダ……我ハズット……」


 涙を流しながら、次々とかぶりつき、口で咀嚼して飲み込む。


「そんなに美味しそうに食べてくれるとは……感激だね。メイに感謝だね」


 そんなことを二徹は話した。


 固まる二千足の死神。口に入れた最後のオヤキの欠片を数回噛んで、ゆっくりと喉に通していく。


「コ…コレハ……オ前ガ作ッタノデハナイノカ?」

「うん。これはメイの作った奴だよ。ほうれん草(スピナ)が入ったのは、僕が作ったけど……、どうした?」


 涙がダーッと出てくる死神。


(ワカッテイタサ……ワカッテイタ……ヤッパリ……ソウカ)


 どうやら、真のご褒美は任務達成した時のようだ。

 二徹と二千足の死神のヘンなコンビは、ファルスの都へ戻ると船をチャーターして、海路でオーデフを目指す。


やっぱりかー

でも、食べられたからいいかw

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