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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第17話 嫁ごはん レシピ17 ムール貝とカサゴのブイヤベース
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猫姫と餃子づくり

レビュー書いてもらって天国にいちゃいそうなくらいのハッピーな九重です。

本業が忙しくて、しばらく投稿が減りますがすみません。

「はい、どうぞ」 


 メイは温めたココアの入ったマグカップを小さな子供に渡す。子供と一緒に逃げて来た老人は、手当を受けて今は眠っている。


 屋敷はAZK連隊から派遣された2個小隊が守備をしている。実弾を実装しての本格的な防御だ。

 ニコールが指揮をして体制は万全になりつつある。


「ふうふう……」


 甘い匂いにつられて、小さな猫族の少女は一口飲んだ。甘い液体が舌を刺激すると、続けてコクンコクンと飲む。


「ふう~っ」


 少し安心したのか、小さな安堵のため息をついた。ここまで大変危険な思いをしてきたのだろう。それでもこの少女は落ち着いた口調で自分の名前を名乗った。


「わらわの名前はエリザベス・ド・バクルー。バクルー伯爵の娘じゃ。今宵は騒がしくしてしまい、すまぬことをした」


 まだ6歳くらいの子供だが、落ち着きを取り戻すと6歳とは思えないしっかりした話し方をする。外の守備隊に指示をしてきたニコールも部屋に戻ってきている。


「僕の名前は二徹・オーガスト。こちらは妻のニコール・オーガスト」

「ということは、ここはニコール大尉の屋敷で間違いはないのじゃな」

「そうだよ。エリザベスは小さいのに、しっかりしているね」


 二徹はそうエリザベスのことを褒めた。まだ5,6歳くらいに見える小さな女の子であるが、先ほどの執事の老人を心配するところや、長時間の移動でも疲れた様子を見せない態度は立派すぎるくらいである。


「とにかく、ここなら安心だ。エリザベス、分かることだけでいい。どうして、私の屋敷にやってきたのだ。そして、一体誰に襲われたのだ?」


 ニコールはそう小さな猫姫に聞く。だが、エリザベスは首を横に振った。


「わからぬ。分からぬのじゃ。わらわの父上と母上は怖いやつらに殺されたのじゃ。屋敷も焼かれてみんな死んだのじゃ……」


 ここで涙がポロポロと頬を伝い、エリザベスは何も話せなくなった。ニコールはそんなエリザベスをそっと抱きしめる。やがて疲れがどっと出たのであろう。エリザベスは深い眠りに落ちていった。




 翌日、ニコールはAZKの本部より報告を受ける。エリザベスを保護しているのがニコールの屋敷なので、必然的にここがAZK連隊の支部のようになっている。


「エリザベスの実家、バクルー伯爵家は、今は落ちぶれて小さな村を治める貴族だが、元はオーデフを首都とするクエール王国の末裔だ」


「クエール王国?」

「また懐かしい名前だね」


 ニコールの説明にきょとんとする副官のシャルロット。どこかで聞いたことがあるが、それがなんだったのか全く思いだせない様子。そして、学生の頃に歴史の授業での記憶を思い出したのは二徹。確か、王国を築いたのはゼームス・ド・バクルー1世だったなと歴史が得意科目だった二徹は記憶が蘇ったが、今は必要のない情報であろう。


「それでエリザベスの両親が殺されたという情報が入ってきている。表向きは反独立派のテロということになっているが、実際の犯行はおそらく、クエール王国の独立を画策する連中だと思う」


「大尉、どうして、独立派がエリザベスちゃんの両親を殺害するなどというひどいことをするのでしょうか?」


 シャルロットは、人差し指を頬にあてて、ちょっと首をかしげた。独立派にとっては、旧王国の王家の血筋なら大切にするだろう。


「たぶん、その連中、エリザベスの両親を担ごうとしたけど、拒否されたので殺したんだろう。そして、まだ子供のエリザベスを誘拐して利用しようとしたのではないかな?」


 二徹はそう予想した。それはほぼ合っていたようで、ニコールは頷いた。


「所々の情報を集めるとニテツの推測のとおりだ。そして厄介なことにここにゼーレ・カッツエが絡んでいる……」

「戦争が起きるのですか?」


 不安そうなシャルロット。弱体の一途をたどってきたゼーレ・カッツエであったが、ここで一気に賭けに出たということだ。武力が弱体化しているゼーレ・カッツエはクエール王国の再建を目指す独立派と手を組み、その兵力をもって国王派を倒そうという試みなのである。


「とにかく、独立派が再び、エリザベスを誘拐しようとするかもしれない。2個小隊で守備させるが、ニテツ、私がいない間、エリザベスの安全を頼む」


 ニコールはそう二徹に頼んだ。2個小隊と二徹ならば、まず安心だろう。特にニコールは二徹の戦闘力を知っている。下手すると2個小隊よりも二徹一人の方が強いかもしれない。


「私は一度、AZK連隊に行って連隊長閣下と今後の方針を話してくる」


 そう言うとニコールは、シャルロットを伴って郊外にある連隊本部へ向かった。



 二徹はエリザベスを起こしに行く。ここまでの逃避行は大変だったので、この屋敷にいるときは、楽しく過ごさせてあげようと思ったのだ。


(お父さん、お母さんが殺されてすごく悲しい思いをしているに違いない。せめて、この屋敷にいるときくらいは、嫌なことを忘れさせてあげよう)


 そう考えた二徹はエリザベスと一緒に料理を作ろうと考えた。まずは下準備。強力粉デ・フラウと熱湯を混ぜて生地を作る。粉っぽさがなくなったら、それを棒状に延ばしていく。


 キッチンで作業しているとやがて、メイに着替えを手伝ってもらい、エリザベスがやってきた。頭に大きなリボンを付け、オレンジ色のワンピースドレスがとても可愛い。毛の長い猫耳がとても似合っている。


「それは何を作っておるのじゃ?」


 興味津々な様子でエリザベスがトコトコと近寄ってきた。一緒にやって来たメイも耳がピクピクと動いているところを見ると、二徹の作る料理が気になるようだ。


「うん。朝ごはんを食べたら、お手伝いしてもらうからね」


 二徹は棒状になった生地をぐるぐると巻いて、後は濡れ布巾をかぶせた。ある程度のところで、生地を休ませるのだ。その間にメイに手伝ってもらい、朝食を取る。食べ終わったら、いよいよエリザベスと一緒に料理を作る。


 猫柄の可愛いエプロンをつけさせる。頭には三角巾。こういう格好をすると子供はテンションが上がる。


「まずはこの棒状のものを小さくカットする」


 二徹は金属のヘラでブツブツと生地を切った。そして麺棒を取り出す。


「この作業はエリザベスとメイにやってもらうね」


 まず、二徹が見本を見せる。カットしたものを丸めて、それを麺棒で薄く延ばしていく。木の棒で優しく転がすと薄く円の形になる。


「くっつかないように打粉をよくまぶしてね」

「やってみるのじゃ……」

 

 エリザベスは小さな手でコロコロと生地を丸めると、麺棒で延ばす。力の加減が難しく、最初の1枚はいびつな形になってしまう。


「ううう……難しいのじゃ……」

「大丈夫だよ。こうやって左右の手を同じように力を入れて転がすだけだよ」


 二徹はエリザベスの後ろから介添えをする。


「おおお……丸くなっていくのじゃ」

「はい、よく出来ました」


 二徹が2,3回一緒にやるとどうやらコツを掴んだようだ。自分ひとりで円型に延ばすことができた。


「うん。うまい、うまい。エリザベスは料理したことがあるようだね」


 バクルー伯爵家は名門だが、それほど裕福ではなかったため、エリザベスも家のお手伝いをしていたから、料理をすることに抵抗はない。


「じゃあ、メイ。あとは頼んだよ。僕は種を作るから」


 二徹はこの作業をメイとエリザベスにお願いすることにした。器用なメイは二徹と同じくらいのレベルで作っている。


「ニテツ様、これは何ですか?」


 薄い円形の皮みたいなものをいくつも作るようで、そんな料理を知らないメイはそう尋ねた。ニテツはにっこりして答える。


「餃子だよ」

「ギョウザ?」

「なんじゃ、それは?」


 メイもエリザベスも初めて聞く名前のようだ。そりゃそうだ。このウェステリアにはギョウザなんて料理はない。生まれえ変わるまえの記憶がある二徹のチート能力である。


「子供も大人も大好きなものさ。さあ、早く皮を作って。みんなの分もあるから、50枚ほど作るんだよ」


 そう言うと二徹は餃子の餡づくりをする。作るのはオーソドックスなもの。材料はキャベツに長ネギ、ニラ、ブタ肉(ブル肉)のひき肉。


「まずはキャベツ(ベジ)をみじん切りにする」


 タンタンタンと包丁のリズミカルな音が部屋に響く。まるで魔法のようにキャベツが刻まれていく。山となったキャベツに塩を振り、手でグイグイともむ。長ネギ、ニラもみじん切りにする。


 やがて塩でもまれたキャベツから水分が出てくる。それを布で包んでギュッと水を絞る。ここがポイントである。水気を出さないとあとでパリッとした餃子にならない。


 ひき肉も脂の量がポイントである。あまり赤身が多いと口当たりが固くなるので、適度な脂身が必要だ。野菜と肉のバランスが美味しさを左右するのだ。


 ボウルに全ての材料を入れるとそこに調味料を入れる。醤油、酒、塩、コショウ、ごま油に生姜の絞り汁である。それを粘りが出るまで混ぜ合わせると氷温庫に入れる。これは味をなじませるためだ。


 やがてメイとエリザベスが皮を50枚作り終わる。結構、大変だったようだが子供同士、仲良く作業できたようだ。


「それじゃ、今度は餡を皮で包むよ。ギョウザ作りの重要な作業だよ」


 二徹はエリザベスとメイに見本を見せる。皮を1枚手のひらに乗せて、皮の端っこに水を付ける。そして2つに折って、左の人差し指で片方の皮を中に入れる。そして向こう側の皮にひだを作りながら折りつけていくのだ。


「はい。最後にこうやってきっちりと貼り付けて、全体を三日月型に整えると完成だよ」


 見事なギョウザである。さっそく、エリザベスとメイは挑戦する。子供だから、最初から簡単にできないが、二徹が手とり足とりで教える。料理で大事なのはコミュニケーション。こうやって一緒に作ると心がほっこりとしてくる。


 10個も作れば、メイもエリザベスも上手に包めるようになってきた。こういうのは多少不格好でも問題がない。


 やがて出来上がった餃子をフライパンで焼く。ここでも、美味しく焼くポイントがある。まずはフライパンに油をしいて強火で熱する。餃子をくっつかないように並べて中火で餃子の底に焼き色を付ける。


 そして熱湯を餃子にかからないように脇から注いで蓋をする。もうもうと湯気が立つ。これで7分ほど蒸し焼き。


「水分がなくなったら、ここに油を回し入れるんだ」

「タイミングが大事ですよね?」


 フライパンの様子を真剣に見ているメイ。このタイミングを覚えようとしている。エリザベスも台の上に乗ってのぞき込んでいる。


「ここは目よりも耳が大事だよ」


 料理は五感をフルに使う。耳から得る情報の大事な技術である。


「いいかい。フライパンが今はジュワーって音が出ているだろ?」

「確かにジュワーですね」

「ジュワーじゃ」

「これがやがて……」


 水分が飛んでパリパリ……という音がしてきた。


「ここだ!」


 二徹は小さじ1杯の油を投入。フライパンをゆすってなじませる。香ばしい匂いが立ち込める。


「これで完成だよ」

「わああ……」


 きつね色にこんがりと焼き目がついたギョウザ。これにスイと醤油で作ったタレを付ける。


「さあ、食べよう」


 エリザベスとメイはギョウザにタレを付けて、口に放り込む。そして噛む。ピュピュっと口の中ではじける肉汁。


「うううううっ……」

「うあああああああん~」


 口の中で美味しさが爆発する。皮で閉じ込められた肉と野菜の旨み。甘さとコクが鮮烈なまでに染み渡っていく。


「美味しいのじゃ」

「美味しいです、ニテツ様。ギョウザという料理、手間はかかりますがこの美味しさを味わえるためだったら、面倒な皮づくりと包み込みの作業がまたしたくなります」


「そうだね。ギョウザは一つ一つ手で包まないといけないけど、この美味しさを味わえるのだったら、また作りたくなるよね」






「また作りたいのじゃ……」


 そう言いながら、餃子をたくさん食べてお腹がいっぱいになったエリザベスは、疲れたのか幸せそうな顔で寝てしまった。


 その寝顔を見て二徹は思った。


(独立派か何だか知らないが、この子は僕が守る……)


 そう心の中で固く誓うのであった。


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