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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 メイちゃん学校編 その4
174/254

生キャラメル作り

「このキラキラしたキャンディ美味しそうだね」

 

メイは学校帰りにライラとナンナと共にお菓子屋へ立ち寄っている。


「サンクス・ギブンになると種類が増えるでガンス」

「これは今年新発売の新しいキャンディだよ」


 緑や青。赤のキラキラした紙に包まれたキャンディが宝石みたいである。これらは砂糖を溶かして香料や着色料で色をつけたものだ。キャンディの色も着色料で決まる。値段は大きさで違う。最初に渡す女子の方は気合が入ったものとなる。値段は最低でも銅貨10ディトラムはする。それに対してお返し程度の男子は1つ1ディトラム銅貨1枚から手に入る。


「女子の方が高いなんて、ちょっと腹が立つよ」


 メイはこの風習に納得がいかない。なんで女子が男子の10倍も高いキャンディをあげないといけないのだろうか。


「メイちゃん、私たち子供はともかく、大人だと男の人の方が普段はお金を女の人に対して使うからだよ。うちのお父さん、お母さんに色々プレゼントしているからお金がないとぼやいていたから」


「ふ~ん。そうなんだ」

「デートじゃ男子が払うのがあたり前ガンス」


 それも変じゃないかと思ったメイだったが、ある一定水準を超えると、一般的に経済的には女性は男性に依存しないといけない社会の仕組みが原因である。これは女性の仕事が限られていることに起因する。


 上流階級の女性の場合は、軍や政府機関に勤めるか、自分で店や会社を作る以外に働く手段がない。中流階級以下の女性は、市場の店で売り子や掃除、お金持ちの家で使用人として働く道があるから、男と同等に稼ぐことができる。


しかし、夫にある程度の収入があるとほぼ全員が専業主婦になる。ライラやナンナのお母さんも専業主婦である。


「じゃあ、ボクはこのキラキラキャンディを買うよ」

「メイちゃん、それは男の子のお返し用だよ」


 メイが1個銅貨1ディトラムのキャンディを3つ手に取ったので、ライラは注意したが、これは自分で食べる用とのこと。メイはそれ用のキャンディは自分で作ろうと考えたのだ。


「ふ~ん。手作りか。さすが、メイちゃんだね」

「たぶん、二徹様も奥様用に作ると思うから、作り方を教えてもらおうと思うんだ」


 昨日まで二徹はそんな気配はなかったが、そんな美味しい行事をミスミス逃すはずがない。あの仲良し夫婦がどんなシュチュエーションでキャンディを渡し合うかは、メイの想像をはるかに超えていくものであることは間違いがない。


 翌日の昼下がり。

 学校を終えたメイはいつものように二徹の買い物を手伝っていた。今日は時間がないので、手分けをして食材を買うことになったので、メイは単独で行動していた。


「あれ、君は昨日の?」

「5組のアーチー君」


 メイは後ろから不意に声をかけられて振り向いた。昨日、階段で転びそうになった時に助けてくれた男の子だ。白と茶色の犬耳が飴色の髪の毛から生えている。


「メイちゃん、お仕事中なんだ」

「うん。ご主人の二徹様と買い物中だよ。手分けして夕食の材料を買いに来たの」


 市場で学校の友達と会うことはあまりない。休日ならともかく、平日の午後は習い事をしたり、家のお手伝いをしたりするのが、庶民の子供の日課なのだ。メイのようにメイドをしていて、夕食の買出しをしている子供はいないだろう。


「何を買うの?」

砂糖タウと牛乳だよ」

「牛乳? それなら俺もお使いで買いに来たところだよ」

「そうなの」


 これはアーチーの嘘である。実は今日、メイが市場に買い物に来るとの情報を得て待ち伏せしていたのだ。メイじゃなかったら、『案内してあげるよ』等と言って恩を売って主導権を握るところであったが、メイドとして働くプロのメイに市場の知識では敵わない。


 そこでアーチーの作戦はメイに教えさせるというものに変わった。これは教えるという行為の心地よさを体験させつつ、親切なメイの性格を盾に取り、断りにくくさせるという作戦であった。


 これにメイは見事にハマる。というよりも、断る選択肢がない。自分が買いに行く牛乳屋に案内することになる。


「へえ、メイちゃん、ここの牛乳を買ってるんだ」

「ここはお仕えしている二徹様がご贔屓にしているお店だからね。新鮮で美味しいよ」


 アーチーは牛乳を買うと、更に店に置いてあったフルーツ牛乳を2本買う。それを1本メイに差し出した。


「はい、どうぞ」

「え、悪いよ」

「美味しい牛乳屋を教えてくれたお礼だよ。それにもう買っちゃったから」


 遠慮するメイにそう言ってフルーツ牛乳を押し付けるアーチー。そう言われると、もったいないという意識が働いて、やむなく受け取るメイ。店の脇で2人して牛乳を飲む。


 飲みながら道行く人を見ていると、なんとジャンが通りかかった。鍛冶屋の親方のお使いの帰りだったようだ。


「あっ!」


 ジャンはメイとアーチーが牛乳を飲んでいるのを見つけて、思わずそう声を上げてしまった。アーチーは得意顔だ。


「ジャン、お使いの帰り?」

「ふん!」


 メイの質問を無視して、プイと視線をそらして去っていくジャン。


「何よ、あの態度」

「ジャンの奴、態度悪いね。せっかくメイちゃんが話しかけているのに。あれじゃ、女子に嫌われるよね」


 さり気なくジャンを貶めるアーチーだが、メイは別に気にしていない。ジャンは公の場では大抵、自分に対してはああいう態度を取る。


「牛乳も砂糖も重たいだろ。俺が持ってやるよ」


 その後もアーチーはメイにいろいろと親切にして得点を稼いだ。

これでジャンが70%の確率でメイからキャンディをもらうというミセラン同盟の予想をアーチーが60%、ジャンが40%と逆転したのであった。



「二徹様、珍しいですね。今日はお菓子を作るのですか?」


 材料を買い込んで、屋敷に戻った二徹にメイが尋ねた。二徹は料理を作るけれども、お菓子作りはあまりしない。お菓子作りはあまり得意ではないらしい。


「お菓子作りは難しいんだよ。美味しく作るには、材料は正確に計らなきゃいけないし、温度の管理も重要。見た目よりも繊細でセンスが要求される」


「二徹様は料理なら、なんでもできると思っていました」


 メイは二徹のことを万能人間だと思っていたので、意外そうな顔をしている。


「人間、誰でも得意、不得意はあるさ。お菓子作りはあまり好きじゃないからね。経験不足というのが正しいかな。でも、今日作るのはビギナーでもできる簡単なものだよ」


 用意したのは、砂糖タウ牛乳メルクバター(ベルー)ハチミツ(ハニン)である。


「これで何ができるのですか。見たところ、小麦粉フラウがないから、ケーキでもクッキーでもないさそうですけど……」

「これはね。生キャラメル(キャラメラ)だよ」


 キャラメルはウェステリアでも普通に食べられているお菓子だ。安いので子供たちが買う定番商品である。しかし、二徹が作っているのは、出来立てほやほやで材料にもこだわった高級品である。これは町の高級なお菓子屋でしか手に入らないものだ。


「明日はサンクス・ギブンだからね。ニコちゃんが僕にとびっきりのキャンディをくれるはずだから、そのお返しにこれを渡すんだ」

 

 上流階級ではキャンディではなくて、キャラメルを贈ることがブームになっているらしいのだが、ニコニコして作り始める二徹をメイはちょっと冷めて見ている。


(ああ……これは……いつものパターンだ……)


 二徹とニコールの間で繰り広げられるラブラブワールドが目に浮かぶようだ。たぶん、ニコールが驚くようなキャンディを入手して、二徹にプレゼント。それに対して、二徹は特製の手作り生キャラメルを渡す。


 もうそのあとは、目のやり場に困るイチャイチャが繰り広げられるだろう。これは間違いがない。


「生キャラメルは材料を混ぜて火にかけるだけの簡単レシピ。コツはあまり火を通さないことだね」


 まず二徹が鍋に入れたのはグラニュー糖。グラニュー糖は糖液から作られる無色結晶状の砂糖。サラサラしており、溶けやすいので料理の材料としてよく使われるものだ。


 そこへ牛乳をいれて木杓子で優しく混ぜる。ハチミツとバターを混ぜてゆっくりと温めていくのだ。


「どうして、火を通しすぎるといけないんですか?」


 メイの好奇心がむくむくと湧いてくる。そうなると雉色の耳がピクピクと動くのがメイの癖だ。そんなメイに優しく説明する二徹。


「火を通しすぎると固くなるんだよ。生キャラメルは軟らかい食感が命だからね。軟らかいうちに紙に包んでしまうといいよ」

「作り方は簡単だけど、やっぱりコツがあるんですね」


 やがてブクブクと泡がたってくる。木杓子で混ぜながらなべ底が見てくるようになったら完成だ。すぐにパラフィン紙を敷いた四角い型に流し込む。これを氷温庫に入れて冷やす。少し固まったところで切り分けるのだ。


 一口大に切り分けると、小さく切った紙に包む。生キャラメルはベトベトしているから、紙に包まないと食べにくいのだ。二徹は綺麗な色の紙に次々と包んでいく。これを小箱に入れてニコールへのプレゼントが完成だ。


 大甘の甘甘キャラメルが完成する。恐らく、このキャラメルより甘い展開が繰り広げられるであろう。


「今はシンプルにキャラメルだけだけど、ここにいろんなものを混ぜると面白いだろうね」


 二徹はそういう言い方をしたが、これはメイに対する宿題みたいなものである。メイが後でこのキャラメルを作ることは予想できたので、そこで彼女の柔軟な発想を促そうとしたのだ。


(何かを混ぜる……。う~ん。確かに入れるものによって味も変わるかも)


 メイの頭にいろんな材料が浮かんでは消え、そしていくつかの材料が残った。それを加えて自分で作ってみようと思ったのだ。小さなキッチンが付いている自分の部屋でさっそく試作である。


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