メイちゃんキャンディ奪取計画(乙)
「この時期になると嫌だよねえ~」
「そうでガンス」
ライラとナンナが女子を意識しないように見ていながら、実は意識している男子の視線をそう評した。
「この時期って?」
メイは学校に入ってから半年しか経っていない。以前暮らしていた宿屋では、朝から晩までこき使われていたので、サンクス・ギブンの日のことを知らない。
「元々は日頃の感謝を込めて、お互いにキャンディを配っていたということだけど、いつの間にか馬鹿な男子が女子からもらった数を自慢するようになってね」
「サンクス・ギブンが近づくと男子が急に親切になるんでガンス」
ナンナの視線は入口に向けられる。そこに陣取った男子が女子が近づくとドアを開ける。人間自動ドア状態である。これで親切ポイントを稼ぐつもりなのだろう。中には椅子に座ろうとする女子に先回りして椅子を引く痛い光景もある。
「ふ~ん。趣旨からすると急に親切になっても逆効果だと思うけどね」
メイはそう感想を漏らした。それはライラやナンナに限らず、教室中の女子が思っていることだが、モテない男子ほどこの行為に夢中になる。
「サンクス・ギブン目当てじゃなくて、普段の行いから見直せって!」
「見直すでガンス」
ガラッとドアを乱暴に開けて入ってきた男子。乱暴者のジャンである。ポケットに両手を突っ込んで、不機嫌そうにドカドカと中へ入ってくる。怖そうに見ている女子を目で威嚇する。
「まあ、あいつは普段と変わらないけどね。でも、少しはサンクス・ギブンを意識して優しくすればいいと思うけど……」
ジャンの態度にいかにも残念そうなライラ。でも、その言葉には悪意がこもっていない。メイが見てもジャンの日頃と変わらない態度は、教室の中では意外と輝いている。媚びない姿は清々しくもある。
(だけど、あれじゃ、絶対にキャンディもらえないよね)
メイはそう断定する。ジャンは絶対、女子からキャンディもらえない。それにもらった男子はその場でお返しをする決まりらしいが、あのジャンが女子のためにキャンディなんか用意するわけがない。
「ふ~ん。じゃあ、ライラはキャンディあげる人はいないの?」
メイはそう聞いてみた。するとライラは急に顔を赤らめた。
「い、いないわけじゃないわ」
「いるの?」
「へ、変な意味じゃないわよ。ほら、サンクス・ギブンって、好きな男子にあげるとかじゃないから。日頃からお世話になっている男子にあげるのがもともとの意味だから」
(ふ~ん。ライラはあげる人がいるみたいだね……)
「そういう意味では、悪い習慣じゃないよね。ボクも感謝したい人はいっぱいいるから、キャンディをあげようかな」
メイはそう言って感謝したい男性を思い浮かべた。当然、第1位は二徹。今の幸せな境遇に道いてくれた恩人だ。感謝しても感謝しきれない。第2位はオーガスト家令のジョセフさん。マナーやメイドとしての仕事を丁寧に教えてくれて、そしていつも優しい。
「メイちゃん、キャンディをあげられるのは3人までだからね」
一応、ライラはメイに教える。サンクス・ギブンを知らなかったことは驚きであるが、今まで学校に行っていなかったのだから仕方がない。メイは学校に通っていれば誰でも知っていることを、ほとんど知らないことが多いのだ。
「へえ。3人限定なんだ」
「そうでガンス。感謝の度合いで3人に絞るのが重要でガンス」
(3人ね……)
2人までは決まっている。あと一人は……と考えたメイは重要なことを思い出した。先ほどの授業の終わりに先生に声をかけられていたのを忘れていたのだ。
「あ、ごめんなさい。先生に次の授業の始まる前に来てって言われていたよ」
「じゃあ、帰りにお菓子屋でキャンディ買おうよ」
「それいいでガンス。メイちゃん、一緒に買いに行くでガンス」
「うん。面白そうだから行くよ」
ライラはメイに重要な情報を教えようとしたが、休み時間に担任の先生に呼び出されていたことを思い出したメイは、そう言うと職員室へ向かった。要件は察しがつく。今日はメイが日直で次の授業で使う教材を運ばないといけないのだ。
*
「報告、ターゲットは職員室を出ました。両手にノートの山を持っている模様」
「よし、作戦通り、階段で実行する。準備はできているか?」
ミセラン同盟の男子たちが暗躍する。教室を出たメイの後をつけて、用意周到の作戦を実行するのだ。
「ふん。俺たち、ミセラン同盟を舐めるなよ。俺たちにかかれば、3ツ星女子も簡単に落ちるのさ」
会長のアーチーは手を上げて合図をする。重いノートを持って階段を昇っていくメイに対して、作戦を実行する。
「よいしょ、よいしょ……」
ノートとはいえ、30人分のノートは結構重い。それに高く積まれてメイの視界を隠している。それで階段を昇るのは結構辛い。そこへ話しながら男子2人が階段を下りてきた。一人がふざけて隣の男子を軽く押す。押された男子がメイにぶつかった。
「あっ!」
ノートの山が崩れてバランスを崩すメイ。そして足も踏み外す。ノートがバラバラに階段下へ落ちていく。
「危ない!」
偶然通りかかったアーチーが、メイを支える。もし、アーチーがいなかったらメイは階段から落ちて怪我をしていただろう。
「あ、ありがとう……」
「お安い御用さ。俺は5組のアーチー。君は?」
名前を知っているのにあえて知らないふりをするアーチー。演技に魂が入っている。
「ボ、ボクは3組のメイ……」
「ふ~ん。メイちゃんか。ノート重いだろ」
アーチーは床に散らばったノートをてきぱきと拾い集めた。そして半分は自分がもつ。
「俺も教室に戻るから、半分持ってやるよ」
「あ、ありがと……」
「さすがにこのノートの山は女子には厳しいだろ」
ちょっと照れたようにわざとメイを見ないのも演技。さっさと先に立ってノートを運ぶ。3組の教室に置くと何事もなかったようにアーチーは出てきた。
「さすが、会長。演技とは思えないスムーズさ」
「当たり前だ。サンクス・ギブン間近のこの時期だ。意図的にやったと思われれば逆効果。アイツ等と同じ痛い奴になるわけにはいかないからな」
相変わらず、自動ドアをしている男子や女子の椅子を引く男子を横目で見ながら、アーチーは余裕の表情だ。もちろん、メイに対する先ほどのアプローチは序章に過ぎない。
「女子という生き物は、こちらが積極的になると防御本能が働き、警戒するものだ。特に最初の出会いは気を付けないといけないのだ」
およそ6年生とは思えないセリフだが、これはミセラン同盟の情報と研究の成果である。アーチーに協力するメンバーたちは感心する。
「さすが、アーチー、男前の態度だった」
「メイちゃん、なんにも疑っていなかったよ」
「これで第2段階。帰りにさらに偶然を装ってメイちゃんに近づくって作戦につながるわけだね」
ククク……と笑いをこらえるアーチー。みんなから褒められてちょっと調子に乗っている。
「俺が見たところ、メイちゃんは恋愛沙汰に無頓着タイプ。そしてボクといって強がっている女子は、ほぼ強引に迫られると断れない、なでしこタイプが多いのだ」
一体、何を根拠にしているのか不明であるが、自信満々のアーチー。一応、確認しておくが、彼は弱冠12歳の6年生である。
「なるほど。昨年度、女王様タイプと見破ったローレンちゃんにアプローチしてキャンディをもらった伝説が再びですね」
「まあ、見とけって。この3日間で俺はメイちゃんからキャンディをゲットするぜ」
「会長、頼みますよ」
「ジャンの奴の悔しがる顔を早く見たいなあ」
「俺たち、ミセラン同盟の力を見せてやるさ」
どこの世界でも男子というのは、女子に対しての行動はどこか間違っている。




