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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 メイちゃん学校編 その4
172/254

ミセラン同盟

平成30年初投稿です。

死神と二徹の共闘、そして不穏な動きが気になるところですが、ちょっと箸休めの幕間です。

メイちゃんの学校編

 メイが通っている初等学校の休み時間。

 一人の男子が辺りを伺い、そっとしゃがんだ。そこは使われていない教材準備室。この部屋の入口の扉は鍵がかかっているが、廊下に面した壁の下側が換気のために3箇所ほど引き戸になっている。


コンコン……。


男の子はドアを手の甲で軽く叩く。すると中から声がした。


「晴れと雨、どっちが好きだ」

あめが好き」

チョコレート(クレオン)キャンディ(キャロ)はどっちが好きだ」

キャンディ(キャロ)が好き」


 男の子は無表情でそう答える。すると引き戸が開いた。素早く男の子は中へ忍び込む。


 部屋の中には既に5人ほどの男子がいる。みんな円になって頭を突き合わせている。中央には何やら名前の書かれた紙が置いてある。


「報告します。3組のライラ、3ポイントUP。1組のローレン、2ポイントUPです」

「うむ。やはり、この女子2人がランキング1,2位を争うことになりそうか」

「いやいや、今年は票が割れている。やはり、6年にもなるとこれまでのおこちゃまとは違って色気も出てくるからな。この3位のミレーヌちゃんの発育は著しい」

「いやいや、それを言うならアミちゃんだろ。胸の成長は学年1位」

「お前、エロいな。いつもそんなところばかり見てんのかよ」

「うるせー。おっぱいはみんな好きだろが!」


 なんだか、変な相談をしている。円陣に加わらず、ちょっと離れたところでつまらなさそうにしている男子。犬耳にハンチング帽子がトレードマークにジャンである。


「ちっ……。何かと思えば女子の品定めかよ。俺は帰るぜ」

「おい、待てよ、ジャン」

「そうだ、待て。」

「せっかく、俺たちのミセラン同盟のメンバーに加えてやろうというのに」


 ジャンをそう言って引き止めた。この秘密のグループ『ミセラン同盟』なるものの会長アーチーである。ここにいるのは、各組の犬族の男子。1組代表のパップ、2組代表のバーニー。3組代表がベン。4組の代表がビリーで、5組の代表が会長のアーチーである。


 5人とも女子から人気のイケメンの犬族男子である。ジャンから言わせればチャラい奴らであるが。

 メンバーは全部で12人いるが、報告に戻ってきた2組のボブとわけが分からず連れてこられたジャンとこの場の5人以外は、調査活動をしている。


 ここにいる5人がミセラン同盟の幹部で、あとは使いパシリなのである。


「俺はこんなコソコソと女子の話をするグループなんてゴメンだね」


 鼻をゴシゴシとこすってそう言い放つジャン。だが、会長のアーチーはジャンに笑みを浮かべてその肩をポンポンと叩く。


「ジャン、あえて君に聞いておこう」


 ジャンの肩を叩いて顔を近づけるアーチー。顔のニヤニヤで『言わなくてもいい。俺は全て分かっているぜ』とセリフを発している。


「なんだよ」

「男子の裸と女子の裸、君はどっちが好きだ?」

「がーっ! そんなもんどっちも好きじゃねえ!」

「これは二者択一の問題だ。どちらかを選ぶしかない」

「ジャン、よく考えろ、まさかの選択じゃないよな」


 パップ、バーニー、ベン、ビリーが少し引き気味にそう尋ねてくる。答えを間違うとこいつら、完全に引く気配だ。それが分かっているだけにジャンは素直にならざるを得ない。


(男子の裸……そんなもん、見たくないぜ!)


 ジャンは想像する。目の前のアーチーが裸になる。前は葉っぱで隠しているが、両腕を腰に当ててポーズを取っている。


(キモ!)

(どうせ、見るなら……)


 なぜかメイの姿が頭に浮かんでくる。アーチーと同じポーズであるが、無論、見たことないから首から下はモザイクではっきりと映らない。


「女子……」

「ジャン、大きな声で言えよ」

「女子だよ! なんで好き好んで男子の裸を見なくちゃいけないんだ」

「うんうん……。やはり、君はこっち側の人間だ」

「こっち側って、どっちだよ!」

「照れなくても、わかっているさ。男子に生まれれば誰でもそうさ。なんやかんや言っても、女子は可愛い。男子同士で遊ぶのも面白いが、女子と遊ぶのもまた格別」


 ククク……と思い出してなのか、気持ちの悪い笑いをするミセラン同盟の幹部5人。どうやら、こいつら女子とたまに遊んでいるらしい。遊んでいるとは言ってもまだ6年生。グループで一緒にお菓子を買いに行くとか、ピクニックに行く程度であるが、この分野では最先端を走っているという余裕がある。


「けっ、それのどこが面白いんだよ。女子なんてメンドくさいだけじゃんか!」

「ジャン君。そんなことを言っていいのかな」

「な、なんだよ」

「もうすぐやって来るサンクス・ギブンの日。女子から感謝のキャンディをもらえる栄光の日がやって来る」

「知らねえよ!」


 サンクス・ギブン。ウェステリア王国の祭日である。この日は日頃感謝している男子に女子からキャンディを贈るという風習があるのだ。男子もそのお返しにキャンディを贈る。男女がお互いに感謝するという意味合いがあるのだ。


 キャンディを贈る女子は誰にでも贈るというわけではない。一応、決まりで3人までとなっている。これは昔、家来の反乱で王位を追われた女王が3人の騎士に助けられて王位を取り戻したという故事に倣っている。


 もちろん、女子は絶対にあげないといけないわけでもないから、そこに感情の意味合いが多少交じることになる。つまり、自分の気になる男子にキャンディをあげるということにもなるから、『好き』という思いを込めることもできるのだ。


 男子にとってもそんな思いがこめられたキャンディをもらえるのは気分がいい。あくまでも、もらえた場合であるが。


 女子の場合は3人に限定されるが、男子はもらえた数だけ、女子にその場でお返しするので感謝されることが多い男子(もしくはもてる男子)は、ポケットにたくさんのキャンディを忍ばせることになる。


「知らないとか言って、お前、メイちゃんからは確実にもらえるだろう」

「そうだ、そうだ」

「ば、馬鹿言うな。あんなおとこ女からもらってもうれしくないぜ」


 ジャンは必死に否定するが、周りの男子は冷たい目で見る。ジャンをこの秘密組織ミセラン同盟に誘ったのは、ジャンが三ツ星女子からキャンディをもらえることが確実という加入資格を満たしているからだ。


 3ツ星女子とは、校内の男子から憧れ支持されている女子に与えられるミセラン同盟が独自に認可した格付け。容姿、性格、気品、行動等の項目で男子に支持された女子に与えられるものだ。星は1つから3つまで。この学校でミセラン同盟が星3つを付けた女子は3名しかない。


「おとこ女とか、お前は言うけどな。メイちゃんのあの『ボク』がそそる」

「顔だってめちゃ可愛い」

「料理上手だし、気配りもすごいし、優しいぜ」

「今まで苦労してきたということも、守ってあげたくなるよな」

「6年生から学校に入ったのに、成績も急上昇。今は真ん中くらいだけど、上昇率は学校1位。今、もっとも輝く女子だぞ」

「まあ、胸は真っ平らの平原だけど」

「馬鹿言うな、そこがいいんじゃないか!」

 

 口々に褒める男子たち。ジャンは驚いた。

(メイの奴、モテモテじゃないか!)

 なんだか、無性に腹が立つジャン。


「この間の合唱の天使の歌声でついに3ツ星を獲得したわけだが、そのメイちゃんからキャンディをもらえるかもしれないという奇跡の男がお前なのだ」


「けっ……。あの乱暴者がしおらしくキャンディなんかくれるかよ」


 若干、ジャンは照れた。照れ隠しにハンチング帽子のつばを右手でつまんで深々とかぶる。


(メイの奴、マジで俺にくれるかな……)


 女子をいじめてばかりいたジャンは、これまでキャンディをもらったことは1度もない。もらいたいと思ったこともない。でも、もしメイがくれるなら、それはそれで悪くはない。


(あいつがどうしてももらってくれって言うなら、もらってやってもいいけど)


 心の中でもどこか上から目線のジャンである。


「お前も知っているとおり、この学校の3ツ星女子は3人いる。3組のライラちゃんに1組のローレンちゃん。そして3組のメイちゃんだ」


(知らねえよ!)


 ジャンは心の中で毒づく。女子に格付けしていたなんて知らないし、今はサンクス・ギブンに向けた女子人気ランキングを密かに行っているのも知らなかった。このミセラン同盟は、こうやって付けたランキングや星の格付けを他の男子に流しているのだ。


 男子から人気の女子からキャンディをもらえたら鼻が高いし、星が付いている女子からキャンディをもらったら、モテ男子が確定するのだ。ましてや3ツ星女子からもらったら英雄である。これはちょっと気になる。


「メイちゃんは、ジャンの嫁だから、人気投票じゃ6位に甘んじているがフリーなら間違いなくトップ争いする逸材だ。お前、その高嶺の花からもらえるんだから、もっと自信もてよ。我々の調査ではお前がメイちゃんからキャンディをもらえる確率は70%を超えているのだ」


「そうだ、そうだ、うらやましい奴め」

「それを喜ばないとは、地獄に落ちるぞ!」

「うるせー。大体、女子にランク付けなんてして、奴らにバレたら大変なことになるぞ」


 ジャンは至極当然のことを言う。密かに女子をランクキング付け、格付けしていたなんてバレたら、全女子からこのミセラン同盟に所属している男子はキャンディを1つももらえなくなるだろう。


「もちろん、それは秘密だ。我々は星1つ以上の女子から3つはキャンディをもらったことのある勇者ばかりだ。雑魚からもらっても意味はない。少しでもランキングの高い女子からもらうことがステータスとなるのだ」


 女子が聞いたら最低だと間違いなく言われそうな、危険な言葉を並べる会長のアーチー。彼は昨年、3ツ星ローレンからキャンディをもらうという快挙を成し遂げている。


「先程から聞いていると我々は不可解なことに直面する。ジャン、君はメイちゃんとはなんでもないのか?」

「お前、毎日、メイちゃんと帰っているというじゃないか」

「家は逆方向なのにエスコートしているという情報が入っているぞ」

「この前なんか、相合傘しているのを目撃されている」


 メンバーの男子がノートを開いてそう報告する。ジャンは顔を真っ赤にして否定する。


「一緒に帰るなんてしてない。たまたま、親方に頼まれたお遣いで市場へ行く途中、アイツに会っただけだ。アイツも買い出しするとか言って、俺に色々と聞いてくるから教えてやっただけだ」

「はいはい……」

「たまたまで、週に2,3回ね」

「うるせー。偶然が重なっただけだ」

「じゃあ、相合傘は?」

「あれも俺が傘を忘れて走って帰るつもりだったが、アイツが入っていけってうるさいから、仕方なくだよ。入らないと蹴り入れられるからな」

「ああ~俺もメイちゃんに蹴られたいぜ」

「仕方なくだと、お前、もげろ!」


 ジャンの言い草に他の会員が不満を示す。このままだと血の気の多いジャンと喧嘩になってしまいそうな雰囲気だ。会長のアーチーは、パンパン……と軽く手を叩き、険悪な雰囲気を別の方向へ持っていこうとした。


「ジャン、残念だ。君は我々と共にモテ男子になれる逸材だと思ったが、どうやら君はおこちゃまだったようだ」

「おこちゃまだと!」

「おこちゃまの君にメイちゃんのキャンディはもったいない」

「そうだ、そうだ。メイちゃんから手を引け」

「メイちゃんは俺たちの嫁だ!」

「言ってろ!」


 部屋から出ようとするジャンにアーチーは挑戦状を叩きつける。


「ミセラン同盟に楯突くとは、君も馬鹿なことをしたものだ。メイちゃんのキャンディは俺たちミセラン同盟のメンバーでもらう。お前は今年も寂しく、キャンディもらえないで帰るがいい」


「ふん。メイが簡単にお前らにキャンディをやるかよ」

「ククク……。どうやら、俺たちミセラン同盟の力を知らないようだな」


 アーチーは腕を組んで準備室の椅子の上に立つ。無駄な行為のようだが、ジャンよりちょっとだけ背の低いアーチーは、そうすることでジャンを見下ろせるのだ。


「これは我々からの挑戦だよ。君がメイちゃんからキャンディをもらえれば君の勝ち。我々、ミセラン同盟のメンバーがもらえば我々の勝ち」

「いやいや、それだけではダメだ」

「ジャン、我々と勝負だ」

「どれだけ女子からキャンディもらえるか」

「3ツ星なら10個分。2ツ星なら5個分。1ツ星なら2個分」

「我々の最高点数の者と君との勝負だ。まあ、メイちゃんからもらえない君は0個確定だがな。わははっはは……」

「はははっは……」


 畳み掛けるようにジャンに挑戦の言葉を浴びせるミセラン同盟の幹部たち。ジャンはアホらしくなった。そんな馬鹿な勝負をするわけがない。


「そんな勝負はしない。虚しくなるだけだ。てめえらもな!」


 扉をさっと開けて出ていこうとするジャンを冷たい視線で見送る5人の男の子たち。サンクス・ギブンは3日後だ。5人はジャンから決定的な勝利を得るために画策をする。


題して、『メイちゃんキャンディダッシュ作戦乙』である。


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