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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第15話 嫁ごはん レシピ15 ホワイトアスパラガスのポタージュ
159/254

ニコールvsエステル

おお、書籍版に出てきたエステルの女子学生時代のエピソードが! 発売記念です。

買ってくださった方、是非、オーバーラップノベルスのページのアンケートにお答えください。素敵なプレゼントがあるそうですよ。また、続巻の判断材料にもなりますのでお願いします。

 試合会場に戻ったニコールは、自分の相手が意外な人物になることを知る。ベスト4をかけたニコールの相手は、ダラム学院のバリーではなく、同じ学校のエステル・マクレガーになったのだ。


 彼女は棒術という、暴漢を棒で押さえ込むいわゆる逮捕術を学んでいる女生徒である。学年はニコールと同じ2年生。女の子なのに部活代表になってベスト8まで上り詰めた。


 あのアーロンに大怪我を負わせたバリーを手にした2本の棒で完膚までに叩きのめし、泥の中に突っ込んだのだから、かなり強い。ニコールはこの試合を見ていて、もし自分が兵庫から教えを受けていなければ、彼女に負けていただろうと思った。強い女子が自分だけでなくてよかったと思う反面、心の中にむくむくと対抗心が芽生えてくる。


15分の休憩の後、ベスト4をかけた3回戦が行われる。ニコール対エステル。ウィンザー学院生同士の戦いである。


「エステル・マクレガー。同じ学校に通っているけれど、会うのは今日が初めてだな」

「ニコール・オーガスト。わたしもいつか会いたいとは思っていましたわ」

 

 お互いに廊下ですれ違ったことくらいはあろうが、エステルは平民の家の出で、ニコールとは生きている世界が違うためにこれまで話したこともなかった。そして授業やクラスも違う。名前はお互いに聞いていたが、姿をじっくり見るのはこれが初めてである。

 

 エステルは黒髪のショートヘアが特徴の美少女。どこにそんなパワーがあるのかという細身で華奢な感じであるが、しなやかな体の動きと2本の棒を自在に操る技は侮れない。


「棒術に二刀流があるとは知らなかった」

「棒術は1本の棒を使って相手を押さえ込むのが主流だから、正式な競技では許されていないわ。でも、今日はアルテマだから……」

「なるほど、手加減なしということか」

「棒を2本使うことで本来のわたしの力が出せる。今日はあなた相手にそれを使えるのは喜ばしいことだわ」

「ならば、私も隠していた技を使わなければならないようだ」 


 ニコールは木剣を構える。どうやらエステル相手では柔骨法の技を使わないと勝てないと察したのだ。ただ、後の対戦のことを考えると手の内を全て使うことは極力避けたい。


「では、行きます!」


 エステルが先に動いた。ニコールは円の動きでエステルの2本の棒の動きをかわす。剣で弾きながら、攻撃の機会を伺う。


「面白い動きをするわね」


 エステルはニコールの足さばきに戸惑いつつも、重心を安定させ体を回転させてニコールの動きを追う。


(滑らかな動き。こちらの動きを察知し、弾きながら攻撃に移る。いわゆる後攻の型……。つまり、こちらの攻撃には万全に対応できるけど、先に攻撃をさせればその利点は失われる)


 エステルはニコールの動きを見て、そう判断した。柔骨法の基本は相手の力を利用して倍返しすること。自ら攻撃するとその利点は失われる。さらに円の動きも攻撃に移る時には直線的にならざるを得ない。円の中心にいるターゲットに最短距離で迫るには半径をなぞることである。


「エステル、覚悟!」

「かかったわね、ニコール!」


 直線の動きだから、予想はできる。鋭い踏み込みで攻撃してきた木剣をエステルは、両手の2本の棒でなぎ払う。そして、すぐに自分の繰り出すことのできる最大の攻撃で仕留めに出た。


 それは2本の棒を竜巻のように振り回し、また自らの体も回転する攻撃。双極の竜巻と周りから呼ばれているエステルのフィニッシュ技である。


「あっ!」


 ニコールの木剣がその勢いに弾き飛ばされ、宙に舞った。そしてニコールの体にも棒がヒットし、体のバランスを失う。すかさず、エステルが2本の棒を交差させて仰向けに倒れたニコールの首を押さえつける。


「やるわね、エステル」

「できることなら、これで降参してほしいわね」

「棒術ならこれで勝負ありだけど、残念だったわね」


 ウェステリア棒術は相手を押さえ込んだ時点で勝負は決まる。これが棒術の大会なら、エステルの勝利である。だが、今は総合武術大会のアルテマ。勝利条件は泥の中に落とされるか、戦闘不能になるか、降参するかだ。


 ニコールは自由になっている両足を振り上げた。それで自分の体に覆いかぶさるようにして立っているエステルの胴体をがっしりと挟み込んだ。


「うっ……」


 不意を突かれたエステルはバランスを崩す。交差された棒から解放されたニコールは、そのままエステルを引き倒し、形成が逆転する。ニコールはエステルの足を掴んで、関節を極めにいこうとしたが、危険を察知したエステルは足で払い除け、するりと抜け出した。


 2人は素早く立ち上がり、ファイティングポーズを取る。互の武器は地面に散らばっており、拾うどころではない。


「やるわね、ニコール」

「そちらこそ。そして、素手でも何か技がありそうだ」

「正解!」


 くるりとエステルが回転すると、振り上げられた強烈な回し蹴りがニコールに襲いかかる。ニコールは手を交差させてそれを受ける。さらに、1発、2発と連続の蹴り。息をつかせない連続攻撃に、ニコールは反撃することができない。


「これで終わり!」


 エステルはニコールとの距離が縮まったことで、今度はパンチによる攻撃に切り替える。強烈な右、左の正拳がニコールに襲いかかる。


(これを待っていた!)


 ニコールは最初の右手から繰り出されるパンチを紙一重で避けた。エステルの拳が頬をかすめていく。そして左の攻撃。このパンチの勢いを受け流す。そして左腕を掴むと体を半身にして腕を巻き込む。


「うあっ!」


 エステルの体重は軽い。ニコールの投げに踏ん張れるパワーはない。たちまち、エステルの体は宙に舞った。


「くっ、まだ!」


 エステルはこのまま地面に叩きつけられることはなかった。空中で体をねじり、地面寸前で右足を先に地面に着地させて転倒をこらえた。しかし、抵抗はそこまでであった。

 

 ニコールはエステルの動きをここまで予測していた。だから、投げる時に最後までエステルの左腕は離さなかったのだ。そのまま、ニコールは両足でエステルの左腕に絡みついた。


「あっ……」

「勝負ありだ、エステル!」


 伸びた左腕は完全にニコールに支配された。ニコールの両足に挟み込まれ、腕ひしぎ十字固めを決められている。


 これは完全に極められるともう逃げられない。そして激痛は耐えられないし、降参しないと腕の骨が折れるどころか、靭帯、筋肉の損傷も激しくなる。


「ううう……グググ……も、もう……ダメ……」 


 エステルは右手で地面を叩いた。降参の意思表示である。


「勝者、ニコール!」


 審判がそう告げた。ニコールは腕ひしぎ十字固めを解くと、立ち上がった。観客たちもこの女生徒二人の激しい戦いに大きな拍手を送る。まだ痛そうにしているエステルに、ニコールはそっと右腕を差し出した。


「いい試合ができたありがとう……」 


 顔を上げてニコールを見るエステル。ニコールの笑顔にエステルも答える。


「こちらこそ。こんな技ももっていたなんて、知らなかったことが敗因かな。次、戦う時は勝たせてもらいますから」


「私も負けないよう、さらに技を磨こう」

「それにしても……ニコール。この技は次の試合にとっときたかったのではないの?」


 ニコールの手を取って立ち上がったエステルは、小さな声でそうニコールに尋ねた。エステルはウェステリア剣術部とダラム学院の選手との因縁を伝え聞いている。次に当たる予定のダミアンは、そのダラム学院の副将なのだ。


「とっておきたかったが、温存していたら君に勝てなかった。ダラムの奴は、君が一人、倒してくれたので、残り二人は私が何としてでも倒す。アレックス主将とアーロン副主将の敵は取るつもりだ」


「そうね。あなたならきっとできるわ」


 エステルは改めて右手を差し出した。ニコールも右手を出して、がっちりと握手をかわしたのであった。

 


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