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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第15話 嫁ごはん レシピ15 ホワイトアスパラガスのポタージュ
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ニコちゃんの横四方固め

本日、発売です。もうクドイのでこれくらいにw 買ってくださった多くの方に感謝です。


「よいか、ニコール。柔骨法の極意は円の動きでござる」

「円の動きですか?」


 ニコールはサヴォイ家の庭に設けられた特設の道場で毎日練習することになった。家にはウェステリア剣術の練習と言ってあるが、異国の武術を習うなんて聞いたら、昔気質の母親が許さないからである。婚約者のルウイの家で習うのもそれが理由だ。


 道場は急ごしらえで作られたものであるが、床はマットで覆われており、そこにはいくつもの円が交差されて描かれていた。これは独特の足運びとともに、常に円の動きを意識させる工夫だ。


「相手を中心に円周上を動くことは、常に最短距離で敵からの攻撃に対応できる。そして円は敵の攻撃を弾くのに最も適した形なのでござる」


 首をかしげるニコールに、兵庫はニコールにパンチで自分を攻撃するように伝えた。ニコールが右腕を突き出すと兵庫は左手をくるりと回すと、ニコールのパンチを内側からは弾いた。鋭い一撃は方向を失って虚しく空を切る。


「どんなに鋭い槍でも、球面状の盾にぶつかると刃先が滑って力がそがれるのと一緒でござる」

「なるほど……分かりました」


「そして相手の攻撃を受け流すと同時にその力を利用して投げ飛ばす。相手の力が強ければ強いほど、威力は増す」


 兵庫はニコールを使って見本をみせる。掴みかかろうとしたニコールの勢いを受け流し、手首を掴むと体を軽くひねって投げた。地面のクッションが効いているのと、手首の極めが緩いことと、ニコールがちゃんと受身を取っていたので、怪我はしないがこれは危険な技である。


「そして極意の2つ目は流れるように相手の関節を決める技でござる。人間の体は頑強にできてはいるが、弱い部分もあるでござる」

「師匠、急所と呼ばれるところですね」


「そうでござるが、どんな強い人間でも骨の関節部分は最も弱い部分の一つでござるよ。可動部分はデリケートで鍛えようがない。ここを押さえれば、どんなにパワーのある人間も身動きでず、その苦痛に耐えられない。そして関節の破壊は大怪我につながるし、相手は再起不能に陥る危険性のある技でござる。使うときはそこをしっかり理解した上で使うでござる。決して、強さを奢り、弱者に使う技ではないでござるよ」


「はい。分かりました、師匠」


 兵庫は3ヶ月の間、人間の骨の構造、自分の武術の精神と技、いくつかの決め技を徹底してニコールに教え込んだ。ニコールは運動神経抜群で、身のこなしもこの武術に適合していた。みるみるうちに上達していったのであった。



「ニコちゃん、随分、上手になったね」


 道場に差し入れを持って現れたルウイ。たまに練習風景を見てきたが、日に日にニコールの動きが良くなってくるのが素人目にも分かった。足の運びは猫のようだし、攻撃を受け流してからの投げ技は電光石火。関節技はまるで蛇のように近づき、がんじがらめにされる怖さがある。


「3ヶ月じゃ、全部を教わることはできない。でも、投げ技と関節技はいくつかマスターした。ちょっと、やって試してみるか?」


 道場には兵庫はいない。今日は別の貴族に呼ばれて出かけているのだ。仕方なく、ニコールは自己トレーニングに励んでいたわけだが、ルウイが来たから絶好の練習相手と思ったのだろう。


「ルウイ、私に襲いかかってきてくれ」

「え、それはちょっと……」

「いいから、私を押し倒すのだ。これは命令だ」


(押し倒すって……)


 もちろん、変な意味でニコールが言っているわけではないだろうが、ルウイもそれをしたらどうなるか結果はわかっている。


「じゃあ、いくよ、ニコちゃん」

「来い!」

 

 ルウイは加速を使わず、ニコールに突進した。そして予想通り、軽く宙を舞った。投げ飛ばされて地面に転がるルウイ。マットがあるから怪我はしないが、外でこれをされたら怪我をする。


「ルウイ、本気を出せ。じゃないと、私の強さが測れぬ」


 ニコールはルウイが突如として強くなることを知っている。いわゆる加速エクサレイション停滞スタグネイションであるが、時間操作ができるとはもちろん思っていない。単純にルウイのスピードだと思っている。


「仕方ないなあ……」


 そういったものの、ルウイもニコールの強さに興味をもっていた。ルウイは滅多にその力を使わない。恐らく、まともに戦えば圧倒的にルウイの方が強いとニコールは思っていた。今の自分がその強いルウイにどれだけ通用するか知りたいと思ったのだ。


「じゃあ、いくよ!」


 ルウイもニコールの真意はわかっている。だから、今現在で自分が使える能力を使う事にした。ニコールの今の強さを確かめるのだ。


(エクサレイション……)


 地面を蹴ってニコールに掴みかかる。あまりの速さにニコールにはルウイが消えてしまったのかと思わせた。しかし、対象物に触れる瞬間にその気配は感じる。無意識に動いた手は修行の賜物。


 円の動きでルウイの手の動きを弾いたニコールは、すぐさま手首をひねって体を回転させた。体が宙に浮かぶのを感じたルウイ。自分のスピードを使って投げられたのだ。このまま、地面に叩きつけられる寸前。時間を停めて体の向きを変える。


「くっ……やるな、ルウイ!」


 完全に投げたと思ったニコールであったが、ルウイが咄嗟に体を半回転させて猫のように地面に着地をしたのを見て、次の行動に移る。


(ニコちゃん……円の動き……)


 素早い足さばきで円周上の線をなぞるように動くニコール。そして一瞬で近づくと今度は腕を掴んでジャンプをした。片足が首に巻き付き、もう片方の足はルウイの脇下へ入り、巻き付いた足にロックする。


「ぐっ……ニコちゃん……これは……」

「師匠に教えてもらった技の一つ、奥義その1『天の川』」


 いわゆる格闘技の三角絞めである。頚動脈が締まり、脳への血流が阻害されてブラックアウトする危険な技だ。


(ニコちゃん……それより……太ももが……)


 ちょっと幸せな気分になりつつあったが、これは脳へのダメージの影響。このままでは意識が落ちる。


(スタグネイション……)


 時間を停めて絡みついた足に手を差し込む。それによって首への締りが緩和される。さらに足首同士の絡んだところへ手をかける。


「えい!」


 足首を外したところでスタグネイションが解ける。

「うっ……決まったと思ったのに……やるな、ルウイ」


 チートな時間操作能力がなければ、完全に負けていた。この3ヶ月でここまで強くなるとは正直、ルウイも驚きである。


「ぜえぜえ……ニコちゃん、待って……これ以上は……」

「問答無用!」


 今度は両手で足を刈られて倒れるルウイ。先ほどの三角締めで受けたダメージで立っているのが精一杯であったから、たまらず倒れる。今度は両手と体で押さえつける。いわゆる横四方固めである。体重が軽いはずのニコールだが、技ががっちりと決まるとさすがに動けない。


「ニ……ニコちゃん……これも苦しい……けど……ちょっと……何というか……」

「どうだ、ルウイ……参ったか!」


「ぐっ……確かに体が動かないけど……この技は……女の子には無防備過ぎない?」

「む……無防備だと……」


 確かに胸の慎ましいものが超密着というか、押し付けられているし、ニコールの左腕はルウイの股間に当たっている。恥ずかしさのあまりにニコールの力が弱まった。これにより、負け寸前からルウイは逆転する。


「ニコちゃん、覚悟!」

「わあっ!」


 ゴロンと体を入れ替えて今度はルウイがニコールを押さえ込む。横四方固めである。


「うあっ……ダメ、ルウイ、ちょっとこれは……」

「ニコちゃん、いくら覚えた寝技でも男子にこの技は禁止だからね」


「ウグググ……締まる……ルウイ……苦しい……」

「約束だよ」


「わ、わかった……この技はやらない」


 ルウイは力を抜いた。するとニコールはするりと体を抜け出し、今度はルウイの腕を掴んで足で挟んだ。


「とりゃ!」

「うあっ!」


 腕ひしぎ十字固めである。これは完全に決まった。腕の関節がギシギシと音を立てる。


「奥義のその2『十文字』」


「イタタタ……ギブ、ギブアップだよ、ニコちゃん!」

「ふふふ……勝ったぞ」


 立ち上がり、そう豪語するニコール。そしてキリリとルウイを睨みつける。


「ルウイ、寝技に邪な心をもつから負けるのだ。それは武道に対する侮辱だぞ」

「ニ、ニコちゃん……それは反省しているけど、やっぱり、他の男子には使って欲しくないなあ」


「心配するな、ルウイ」

「?」


「横四方固めは、お前以外には封印する」

「え?」


「……け、結婚したら……それこそ、夜は……毎日、横四方固めだからな」

 

 真っ赤になってニコールは後ろを向いた。きっと自分で言って恥ずかしくなったのであろう。後ろ姿全体から湯けむりが立っているかのようだ。




 3ヶ月でニコールは円の動き、各種の投げ技、3種類の関節技を身につけた。これを引っさげて、異種武道対決『アルテマ』の大会に出場するのだ。


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