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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第15話 嫁ごはん レシピ15 ホワイトアスパラガスのポタージュ
151/254

ブレス風サラダでイチャコラ・ランチ

11月25日 オーバーラップノベルスで1巻発売。あと2週間となりました。

「そこ!」


 ニコールが閃光の如く、鋭く右足を踏み出し、相手の胸を突いた。木剣は見事に有効打撃ポイントを捉えた。


「勝負アリ。勝者、ニコール・オーガスト」


 そう審判に宣告され、ニコールは剣を立てて顔の前へ持っていく。試合終了後の挨拶だ。負けた相手は悔しそうな表情を浮かべ、同じようなポーズを取る。


 ウェステリア剣術は礼に始まり、礼に終わる。貴族階級のノーブルな嗜みなので、礼儀作法が厳しい。勝てばよいというものではないのだ。


 ジークフリート杯の準決勝は、コンウィ学院との間に行われた。先鋒はニコールたちが勝ったが、次鋒は負けて1対1。中堅のアーロンが勝ったのでニコールたちウィンザー学院が王手をかけていた。


そして、今の勝負にニコールが勝って、3対1でウィンザー学院の勝利。主将のアレックスが出る間もなく決勝戦に進むことになった。


「ニコール、よくやった。相変わらず、華麗な剣の技だ。調子はよいみたいだな」

「はい。アレックス主将。調子はよいです」


 ニコールはそう言って微笑んだ。ここまで5戦して5勝。初めての公式試合に鮮烈なデビューを飾っていた。ニコールへの応援団は、下級生の女子部員、男子部員を始め、2階の応援席に詰めかけており、その声援も心強い。


 でも、本当はルウイがニコールのために手作り弁当を作って応援に来てくれたのが一番の励みになっている。これはニコールだけの秘密である。


「よし、決勝は午後だ。30分後に我々の相手が決まる準決勝第2試合が始まる。それを観戦するので、今のうちに食事をしておこう」


そうアレックスはレギュラー陣に指示を出した。ニコールはそっとみんなから離れて、ルウイとの待ち合わせ場所へと向かう。そこは試合会場の近くの公園。大きな木の陰に美味しそうなものが並べられている。


「ルウイ待たせたな」

「ニコちゃん、お疲れ様」


 冷たく冷やしたタオルをそっと渡すルウイ。ニコールは上気した顔を冷やす。


「ああ~。生き返る!」

「お昼ご飯の時間は、どれくらいあるの?」

「30分だ」

「じゃあ、急いで食べなきゃね」


 そう言ってルウイは朝から腕によりをかけて作った昼食を紹介する。まずは、鳥の胸肉、レバーを赤ワインで炒め、レタスやルッコラを添え、赤ワインヴェネガーを散らしたサラダ。パンをトーストして散らし、温泉卵まで入っている。


 フランス料理でいうブレス風サラダだ。これだけで主食になる一品だが、エネルギーの元になるパン(ブレド)は別にあり、2種類のディップが用意してある。


 1つはエビとじゃがいものディップ。もうひとつはカニとアボガドのディップである。


「うおっ。これはうまいな。このエビ(シュリ)じゃがいも(タルロ)のディップはどうやって作るんだ?」


 パンにディップを付けてほおばったニコールは目を丸くする。ねっとりした食感にエビの旨み、それをじゃがいもがうまく包んでいる。


「そんなに難しくはないよ。エビ(シュリ)は茹でた奴を細かくみじん切り。ジャガイモ(タルロ)は蒸した後に裏ごし。まずはエビをオリーブ油(リジン)ニンニク(ジズル)のみじん切りで炒める。これに裏ごししたジャガイモ(タルロ)生クリーム(クレム)を混ぜて、ソル胡椒ソルズで味を整えただけだよ」


「……難しすぎて、私には無理だ」

「ニコちゃんは食べる専門でいいよ。僕が作る人、君が食べる人」


「う~ん。こんな美味しいランチを食べたら、午後も勝てるような気がするぞ」


 パクパクとサラダもつまむニコール。軽めの食事ながら満足感ある内容だ。ビタミンCたっぷりのしぼりたてオレンジジュースを飲んで終了である。


 食事が終わってニコールはルウイの膝枕でしばし横になる。ルウイはその美しい顔に今度は温めたタオルをあてる。じわじわと温熱効果でリラックスできるのである。


「ああ……効くうううう……」

「あと5分、ゆっくりしていってね」

「ああああ……もう、このまま寝たい。ルウイは本当によくできた嫁だ」

「嫁はニコちゃんでしょ」

「はうううう……」

「決勝の相手はどこになりそうなの?」

「たぶん、カステルベルク学院だと思う。春は先輩たちが敗れているからな」


 春の大会は、ニコールはレギュラーではなかったので、試合には出ていない。大激戦の末に敗れて準優勝であった。この大会はその雪辱戦でもあった。


 やがて時間が来た。ニコールは名残り惜しそうに、ルウイのところから、チームメイトの待つ会場へと向かう。

 

 30分後に行われた準決勝2回戦は予想もしない結果となった。優勝候補のカステルベルク学院が敗れたのだ。


「ダラム学院だと……どこの学校だ。聞いたことがない学校だ」


 主将のアレックスは予想外の結果に驚いた。宿敵のカステルベルク学院が無名の学校に敗れたのだ。信じられないことに勝敗は3対0。先鋒、次鋒、中堅が3連敗。副将と大将は試合をしなかった。


 圧倒的な勝利である。


 驚いたことに、ダラム学院はここまで全て3人で終えており、副将と大将は試合に出ていないのだ。

しかし、その戦い方については見ている観客みんなが不快に思う勝ち方であった。


「あんなの剣術ではない!」


 試合を見ていたニコールは怒っていた。それも無理もない。ダラム学院の先鋒、次鋒、中堅の選手の剣術は優雅な技もなにもあったものではない。力任せの強引な攻撃でねじ伏せた戦い方であったからだ。


「確かに技の美しさとか相手に対する礼儀はない。しかし、有効打撃を与えればそれで勝利することもまた事実。あれだけ勝ちにこだわるやり方をしてくるとは……」


 ウィンザー学院中堅のアーロンはそう分析する。ダラム学園の3人はそろって体が大きい。アーロンやアレックスよりも体は完全に一回り大きい。体重もかなりのものである。


 それが剣を合わせた後に、体ごとぶち当たってくるのだ。カステルベルク学園の選手たちは、この強烈なぶちかましにバランスを崩し、倒れたところを強烈な一撃を受けて負けている。


「対策としては接近戦を避け、近づく前に的確に打撃ポイントを突くしかないだろう。だが、相手が防御を徹底した場合、極めて難しいこともまた事実」

「主将……」


 ウェステリア剣術の試合は、1辺20ノラン(約10m)で囲まれた正方形のエリアで行われる。そこから故意に出ると反則となる。エリアから出ないように逃げ回る他ないが、それだと戦い方が正々堂々とならず、反則ではないが批判を浴びるだろう。


 それに逃げ回れば判定で極めて不利となる。戦い方が難しいことは間違いがない。それにここまで試合に出ていない副将と主将の戦い方が不明だ。最初の3人の戦い方を見れば、まともな戦い方をするとはとても思えない。


「あのような戦い方をする奴らに、栄光あるジークフリートカップを渡すわけにはいかない。先輩方、奴らにウェステリア剣術のなんたるかを教えてやりましょう!」


「ニコール、勇ましいな。それは俺たち男のセリフだぞ」

「はははっ……。俺たちには勝利の女神がついているからな。ニコールもここまで負けなしだし。ニコールの言うとおり、奴らに礼儀というものを教えてやりましょう」


 チームメイトの先輩らもニコールの元気さに勇気が湧いてきた。初めて戦う相手ではあるが、自分たちの剣術をすれば勝てぬ相手ではない。


 だが、実際に試合が始まるとウィンザー学院の選手は、自分の剣術をさせてもらえぬことを、身をもって知ることとなる。


 まずは先鋒。ウィンザー学院の先鋒を務める3年生は冷静沈着な選手で、強さでいけば4番手。華麗な技こそないが防御に優れ、粘り強い剣術が信条であった。しかし、その剣術スタイルが裏目に出た。相手は最初から体を吹き飛ばす気でくる。


その猪突猛進を剣さばきでかわそうとして、まともに体当たりを食らってしまった。体重差で場外まで飛ばされてしまう。そこで足首を捻挫して棄権となってしまった。


 さらに次鋒の選手は体当たりを食らわないよう逃げ回ることで、試合エリアから2回出てしまい反則負けを警告されてしまう。


 あと1回警告されると反則負けが決定する状況に追い込まれて、その強烈なぶちかましを受けてバランスを崩したところで有効打を受けてしまう。その一撃で負傷して彼もまた退場となった。


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