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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第15話 嫁ごはん レシピ15 ホワイトアスパラガスのポタージュ
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スープが飲めない理由

 翌日、アレンビー船団長の武装商船はフランドルの港を出航した。


 ウェステリアまで約1ヶ月の航海である。途中、いくつかの港で補給するので食料や水の心配はあまりない。この季節、嵐もあまりないので比較的安全に航海できる。危険なのはスパニア半島を回る西海岸沿いを回るルート。


 ここは百箇所近い島々が点在しており、ここが海賊たちの巣となっている。スパニア王国が内戦状態であるため、海賊に対する取締ができないことが原因だ。また基地となる島が数多くあるために、海賊の掃討がしにくいのだ。海軍が出撃しても数ある島に隠れてしまうのだ。

 

 狙われるのは商船であるから、商船も海賊対策に武装する。アレンビー船団長の指揮する4隻の船も左右に10門の大砲を備えている。船員も戦闘訓練を受けている。海賊に襲われても、撃退できるだけの戦力は備えている。

 

 但し、油断は禁物だ。海賊側の武装も侮れないからだ。向こうも大砲をぶっ放し、こちらの推進力を奪えば、あとは船に乗り移られ白兵戦で万事休すとなる。船員は捕らえられて身代金と交換となるし、積荷は全て奪われてしまう。


「ヒョウゴさん、飯ですぜ」


 甲板で海を眺めていると、船員が兵庫に食事を運んできた。兵庫はアレンビー船団長の客人ということで、手厚く遇されているのだ。

 

 船員が持ってきたのは、ビスケットと野菜と干し肉のスープの入った深皿であった。ビスケットをスープに浸して飲むのだ。するとお粥のようになる。スープは鶏がらで取っている。


「すまぬ。わしはスープが飲めなくてな」

バドのスープが飲めないのですかい? それじゃ、次回はキルのスープにしますよ」

「申し訳ない。スープ自体が飲めないのだ」

「しかし、航海中はスープ中心の食事ですよ。こんな船の中じゃ凝った料理はできないですから」

「大丈夫でござる……」


 そう兵庫はビスケットだけを取るとスープは丁寧に辞退した。兵庫は遭難から助けられてから、汁物の食事をすると吐いてしまうという不思議な体質になってしまったのだ。


「兵庫、兵庫、わらわの作った味噌汁を食するがよい」


 そう言って、姫君は船の中でお湯に味噌玉を溶かして自分に味噌汁を作ってくれた。城から脱出するときに持ち出した味噌玉で作ってくれたのだ。


 具も出汁も何もない。しかし、味噌の美味しさもあってすごく味わいのある味噌汁であった。塩気とコクが激戦の中を突破し、こうして脱出するために痛めた体を癒してくれた。


「姫様~っ。加賀姫様~」


 嵐に飲まれ、沈没した船の中、兵庫が手を伸ばしたが加賀姫には届かなかった。波の中、船に乗っていたものは全て海中に飲み込まれた。


(きっと、あの時に加賀姫様を守れなかった贖罪の気持ちが、儂に汁物を受け付けぬ体にしたのだ……これは姫さまを助け出し、あの味噌汁を作っていただくまで治らないと思う)


 兵庫はビスケットをかじりながら、兵庫は加賀姫との思い出に浸っていた。自分が再び、汁物を飲めるようになる時は、加賀姫を発見したときだと改めて自分の使命を心に刻むのであった。


「あ、あれは!」

「海賊だ、海賊船だ!」

「船団長に報告、海賊船が接近中!」


 船の中が慌ただしくなる。兵庫が目を凝らすと遠くに船が見える。それはまっすぐにこちらへ向かって来る。


「奴らの方が、足が早い。大砲の準備だ」


 アレンビーがそう命じる。手旗と色旗で他の船にも知らせる。海賊船は1隻のみである。おそらく、狙いを付けた船のマストや舵を破壊し、動けなくなったところで白兵戦に転じる作戦だろう。


「その前に大砲で撃沈してやる!」


 ゴロゴロと10門の大砲が引き出された。横に並べて向かってくる海賊船めがけて撃つ。

水柱が幾本も巻き上がるが、海賊船は無視して突っ込んでくる。


「くそ、お前ら腕が鈍ったか!」


 こちらの攻撃が当たらないどころか、海賊船の方の大砲が命中する。激しい衝撃が襲い、船の甲板に穴が開く。大砲の弾は大きな鉄球であり、当たれば船が破壊される。飛び散った鉄片で乗組員も負傷する。さらに鉄球は、いくつも突き刺さり、ついにはメインマストが折れた。これで航行不能となる。


 慌ただしく船員が戦闘準備する中、兵庫は落ち着いて状況を見ている。これくらいの戦闘は幾度も体験しているから、特に慌てる様子もない。船員たちに大声で命令し続けるアレンビーの下へ歩き、静かにこう申し出た。


「アレンビー殿。どうやら、白兵戦になるようだな。拙者、助太刀をいたす」


 落ち着きはらった兵庫の姿にアレンビーは、この戦いに対する勝利に希望が湧いてきた。この男は小さいが何かをやってくれそうなそんな頼もしい気迫を感じたからだ。


「おお、ヒョウゴ殿。すまぬ。一人でも戦える人間は欲しい」


 ガチャン、ガチャンと音がしてカギ爪のついたロープが打ち込まれる。海賊船はこの商船よりも小さいので、ロープを伝って海賊が侵入してくるのだ。


「海賊ども、この船がジェム・アレンビーの船と知っての狼藉か!」


 アレンビーはそう言うと、ブンブンと大きなメイスを振り回し、最初に船に飛び乗ってきた海賊の頭を一撃で砕いた。さらに跳んできた隣の海賊をまるでバットでボールを飛ばすように吹き飛ばす。手下の船員も刀や銃をもって応戦する。


 兵庫は素手で立ち向かった。ハポンでは近接戦闘は刀と呼ばれる鋼でできた武器を使う。それを使えば幾人にも致命的な斬撃を放つことができた。


 だが、兵庫は主君である加賀姫を見つけるまで殺生はしないと決めていた。これは神への願掛けである。


 素手でも兵庫は強い。海賊刀を振り回す敵の手首を掴むとキュッとひねって折る。突っ込んでくる敵の勢いを利用して投げ飛ばす。次々と一撃で気絶させていく。

 

 接近され、白兵戦に持ち込まれるまでは劣勢だったアレンビーの船も、いざ白兵戦となったら、海賊も予想外の反撃で押されまくる。特にアレンビーと兵庫が圧倒的であった。

 

 侵入してきた海賊を返り討ちにし、仲間の商船の砲撃で海賊船を沈没させたアレンビーは、やっと一息ついた。久しぶりの海賊襲撃を受けたが、なんとか勝ててよかったと胸を撫で下ろす。船員も怪我をしたものは多数だが、命を失ったものはいなかった。


「ヒョウゴ殿、感謝する。あなたがいなかったら、どうなっていたか」


 そうアレンビーはお礼を述べた。兵庫は軽く会釈をした。これくらいは、ウェステリア王国まで連れて行ってくれるお礼替わりである。


「しかし、ヒョウゴ殿。あの素手で戦う技。すさまじいものですな。何という武術なのだ。見たこともない技を繰り出していたが」


柔骨法じゅうこっぽうというでござる。戦で接近戦となった場合の技でござる。つかめば関節を極め、骨を外し、相手の力を利用して投げ飛ばし、殴り倒すでござる。相手の力が強ければ強いほど、その力を利用するのがこの武術の真骨頂でござる」


 そう兵庫は自分の武術について語った。ここまで兵庫の身を守っていたとも言える武術なのだ。


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