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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第14話 嫁ごはん レシピ14 メガ盛り、ウェステリア風お好み焼き
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3つ巴の戦い

11月25日オーバーラップノベルスから発売予定です。

 多くの人間が見守る中。対決が始まる。


 突如現れたウェステリア人と思われる父娘の猫仮面ズと青い三連星。昨日の対決で激辛のボーダーと甘味のバーナードが敗れ、最後に残ったマスティフが迎え撃つ構図である。

 

 この両者に提供するのが、二徹が考案したウェステリア風お好み焼きである。メイ、そして夜の熊亭の主人が手伝ってくれて次々と焼いて提供する段取りである。


「まずはやはり一番大切なキャベツ。これは大量に必要だから粗めに切ってね」


 今回作るウェステリア風のお好み焼きは、大きさもかなりのものである。大きさは直径が60ク・ノラン(約30cm)。コンパトカーのタイヤ程度の大きさである。


 以前、作って試食した時にはフンワリ感が欠けていたので、二徹にはさらなる工夫があった。それはメレンゲを入れること。お好み焼きの生地に卵白を泡立てたメレンゲを入れるのだ。


「さあ、やるか!」


 卵白をメレンゲにするには凄まじくかき混ぜなければならない。だが、二徹には加速能力エクサレイションがあるので、難しくはない。次々とメレンゲを作り上げる二徹の技に観衆は見惚れてしまう。


 大きな鍋に生地と粗めに切ったキャベツ。卵の黄身。それに下処理して蒸したタコのぶつ切りを入れる。さらに厳選した具材をバラバラと混ぜ込む。手作りした揚げ玉もバラバラと入れる。生地は水を多めにすることがコツだ。


 それを焼く前にざっくりと混ぜる。そして熱した鉄板の上に流す。二徹はさらに謎の白い物体を広げてお好み焼きの隣で同じ大きさにして焼く。


 この白いものは焦げ目が付いたらひっくり返し、味噌ベースのタレを塗りこんで何度もひっくり返す。


「ニテツ様、前よりもふわふわになりましたね」

「ああ。あとは押さえないように丁寧に焼くのみ」

 

 裏面が焼けたところで、この大きなお好み焼きを特性の薄い鉄板二枚でひっくり返す。一人では難しいので夜の熊亭の主人と二徹でひっくり返す。


 そして仕込んでおいた特製のお好み焼きソースを巨大な刷毛にたっぷり付けて塗りこむ。熱い鉄板にそのソースが熱せられ、焦げてものすごくいい匂いがする。


「よし、仕上げだ。マヨネーズに削り節に……青のりは欲しいけれどないから我慢……」


 正直、青のりが欲しいところだが、ここウェステリアでは海苔は基本手に入らない。よって海苔を細かく砕いた青のりはない。


 アオサを収穫して乾燥させて細かく刻んで代用するにも手間がかかるので、今回は使っていない。ちなみにアオサと青のりは見た目は似ているが青のりの方が圧倒的に風味がいい。


「くんくん……なるほど、これが今回のお題であるか」


 青い三連星の最後の一人マスティフ。この勝負にかけている。昨日の絨毯カステラは大盛りメニューでなかったので、食べられなくても敗北には数えられない。猫仮面2号も一人で食い尽くしたわけではない。


 しかし、今日のお好み焼きなるものは攻略すべきメガ盛りメニューなのだ。このメニューの撃破と前日に敗れたボーダーとバーナードのかたきを取って帰国することが、青い三連星のリーダーであるマスティフの使命なのだ。


「これをいくつ食えばいいのだ?」


 マスティフは大きなお好み焼きのできる様子をつぶさに観察している。自分の限界と食べ物の量を素早く計算する。メガ盛り攻略には、この見極めが大切だ。とんでもない量を指定されたら、挑戦しないことも重要なのである。


 大食いファイターが挑まないメガ盛りメニューは。最初から不適格なものであるので、挑戦する対象ではなくなるのだ。食べられそうで後一歩で届かないという絶妙な設定があるからこそ、メガ盛りメニューは伝説となるのだ。


「これを5枚食べていただきます」


 二徹はそう答えた。見た目は1枚で大人5人前という計算である。5枚で25人前である。


「ククク……。店主よ、それは甘いな、甘すぎる。確かにそのお好み焼きとやら、大きさはかなりのものだが、中身はふわっとして軽そうだ。量的にはキャベツ(ベジ)が主であるから量的な重さもない。我ら大食いファイターを舐めているのか?」


 マスティフはそう二徹に量設定の甘さを指摘した。見た目だけならマスティフは10枚はいけると踏んでいた。


 しかし、二徹は微笑んでマスティフに答える。


「あなたはマスティフさんでしたっけ。一応、量設定は工夫がしてあるので、5枚は適当だと考えています。1枚目を食べて頂ければご理解していただけるかと……」


「工夫だと……メレンゲを仕込んだのは見たが具材に特に工夫があるとは思えん。料理自体は見たこともないので、期待はしているが」


 マスティフたち青い三連星はウェステリアのメガ盛りを独創性がない、ウェステリアならではの料理を食わせろと要求していた。どうやら、食べたことのない料理を味わうことができそうだと期待感が大きくなっていた。


「猫仮面とやら。この料理で勝負をつけてやる。昨日のリベンジと行こうではないか?」


 昨日と同じ格好の猫仮面父娘が不思議そうにお好み焼きを見ている。2人とも相当な食いしん坊なようで、対決よりもこの料理を食べられることの方が嬉しいようだ。


 娘の方が小さな声で父親に話しかけた。視線は鉄板で焦げたソースの匂いが鼻腔をくすぐる。それだけで唾液で口の中が潤ってしまう。


「父様、なかなか美味しそうですね」

「うむ。さすが都。食べたことがない珍しい料理だ。お前は食べたことがあるのか?」

「いえ。わたしも初めてです。あの料理人の方はいつも珍しい料理を作るのです」

「そうか。それはますます楽しみだ。量的には大したことがなさそうだが……」


 この点については猫仮面1号はマスティフと同意見である。確かに大きいが5枚程度なら楽勝だ。娘もリミッターを外さなくてもクリアできそうだ。


「さあ、どうぞ。今からメガ盛り開始です。召し上がってください」


 二徹に促されて、焼きたてジュージューのお好み焼きが目の前に運ばれてくる。こんな大きな皿はないから、木の板で2人の大人が運んでくる。


 3人はナイフとフォークで巨大なお好み焼きに挑む。ナイフで切るとそれはふんわりと切れ、上にかかったソースがどろりと流れ出す。小さく切って口へ放り込む。


「うむ……とろりとした食感だぎゃ」

「ふわふあで美味しいにゃ」

「具はタコ(オクト)か……。なるほど、タコはウェステリアで食べられている食材であったな。これは旨い。タコは噛めば噛むほど味が出る」


(確かにタコは噛まないといけないので、腹は膨れるだろうが。しかし、この程度では……)


 マスティフがそう思った時に口の中でもうひとつの具材を見つけた。それは弾力のある具材。


こんにゃく(ネパド)か……。腹を膨らまそうとして入れたようだが……うっ)


 タコとこんにゃくの他に四角に切られた具材を発見したのは3人同時。その表面はサクッとして中は粘って伸びる。


「父様……これはお餅(コムケイク)ですね」

「うむ。これは地味にずっしりとくる」


 餅はウェステリアでは珍しい食べ物だ。お菓子の材料に使われることがあるが、あまり食べられている材料ではない。焼いて食べたり、スープに入れて食べたりすることはあまりないのだ。


「このソースのコクがたまらないだぎゃ……これは旨い料理だ。しかし、娘よ」

「はい、父様。これは侮れないにゃ」


 メレンゲとキャベツで軟らかく仕上げられたお好み焼き。それを食べ進めると、下に敷かれたものにたどり着く。


「こ、これは……なんだぎゃ?」

「父様、これは米を潰してタレを塗って焼いたものだにゃ。香ばしくて美味しいにゃ」


「二徹様、あの下に敷いたものは何ですか?」

「あれは五平餅。タレは味噌とくるみ(ウルナツ)を砕いたものだよ」


 メイの質問に二徹は答える。よくお好み焼きに焼きそばを加えることがある。チャーハンを作ってその上にお好み焼き乗せるものもあった。どれも嵩増ししてボリュームを出す工夫だ。


 二徹はここに五平餅を加えたのだ。薄く広げたとはいえ、厚さは4ク・ノラン(約2cm)もある。五平餅はご飯を潰してあるので、コメの量はかなり多い。


 丼飯で実に大盛り5杯分のご飯を投入してある。これに加えてお好み焼き。1枚で大人5人が満腹できる量である。


「ハフハフ……これは旨い……旨すぎる。が、同時にお腹も満たされていく」


 マスティフはメガ盛りお好み焼きに挑戦している猫仮面たちを観察しながら、冷静に計算をしていた。


(この1枚の完食でわしの許容量は3分の1。つまり、わしの限界は3枚。限界突破しても4枚食べられるかどうか……)


 2人の猫仮面のうち、父親の方についてはマスティフはその能力を見切っていた。ほぼ自分と同じかわずかに下。彼は激辛には強いが、大食い能力はわずかに低いと値踏みしていた。


(猫仮面1号の方は3枚で限界だろう。問題は……)


 ねずみ食いと称するちょこまかと食する猫仮面2号の正体は女の子だ。しかし、マスティフは彼女を馬鹿にする気持ちは毛頭ない。


(昨日のカステラ勝負で見せた底力を換算すると……)

(おそらく、猫仮面2号のキャパは5枚に届くかどうか……)


「やはり、ここは青い3連星、リーダーの意地にかけて勝ちに行く。奥の手を使う!」


 3枚目を完食したマスティフは、自分の限界が近づいたと判断した。ここからが極限への挑戦。幸い、このお好み焼きという料理は大変に美味しい。だからこそ、繰り出すことができる奥の手である。


「マスティフ、あれを使うのか……」

「使って勝つべし……我らの敵、フランドルの名誉に賭けて勝利を掴め!」


 応援に来ているボーダーとバーナード。昨日の激戦で胃を痛めて、今は大人しく応援中である。


 マスティフはすっと立ち上がった。既に猫仮面1号は手が動いていない。3枚をあとわずかに残して沈黙している。恐らく、ここでリタイアであろう。猫仮面2号はねずみ食いから1度止まり、例の1度目の覚醒で3枚を完食。今は4枚目に入っている。


「ここで奥の手だ!」


 マスティフは両手を天高く上げた。そして思いっきり背伸びをする。そして、ドスンと腰を椅子に落とした。そして左右に揺さぶる。また立ち上がって椅子へドスン。


「何やってるのだ?」

「苦しさのあまりに気でも狂ったか?」


 見ている観客はその奇妙な行動に不審がっているが、当の本人は真面目である。これによって、胃袋の中の空気を抜き、スペースを生み出すのだ。


「秘技、岩石落とし!」


 ドスンと3回腰を落とし、左右に振ったマスティフは4枚目に突入した。既に4枚目に突入している猫仮面2号を追う。その猫仮面2号もついに止まった。活性化の最終段階に突入である。


「娘よ、父はここで終わりだ。あとは頼む……」


 猫仮面1号の父親は、3枚目の最後の一口を食べて完食。4枚目は注文せずに降参した。父の後を受けて猫仮面2号は最終の覚醒に入った。脳内のリミッターを外して、最終奥義である、『食士無双、満漢全席』を繰り出すのだ。


「あれはやっぱり、シャルロットじゃないか!」


 ニコールは青い三連星と猫仮面父娘の壮絶な戦いを観客に交じって見ていたが、関心は自分の予想が当たっていたかどうか。その予想は確信に変わっていた。


 猫の仮面をかぶっていても、体型や顔下半分、声で分かってしまう。自分の副官だから、空気で分かる。だからといって、彼女の行動に制限を加えるつもりはない。曲がりなりにも、ウェステリアの名誉のために戦っているのだし、ここで下手に声をかけると戦いの邪魔になる可能性もある。


(人には隠れた才能が備わっているものだというが、こんな才能があったとは……)


 普段からよく食べるなとは思っていたが、これほどの大食いだとは知らなかった。これだけ食べられるなら、夕方にお腹が減るのもやむを得ないだろう。


(シャルロット、勝負を挑んだのなら、絶対勝てよ。それがウェステリア軍人の矜持だ)


 心の中で応戦するニコールであった。



「メイ、どうやら終了は近いようだよ」


 最後の5枚目のお好み焼きを焼いている二徹は、残ったマスティフと猫仮面2号の様子を見てこの5枚目で勝負が決まると確信していた。猫仮面2号は覚醒状態で4枚目を完食しつつある。


5枚目の注文は確実だ。ただ、5枚目を完食する勢いはない。


 マスティフは例の奥の手で4枚目を完食しつつあるが、スピードがなくもはや限界に近づきつつあることは明白であった。


 二徹もニコール同様、猫仮面2号がシャルロット少尉だと薄々気づいているが、何も言わない。自分の料理をまだ美味しそうに食べている彼女に敬意をもっている。


「畜生、今一度、奥の手だ。秘技、岩石落とし!」


 またもや立ち上がったマスティフ。ドスンと椅子に座り直した。だが、その時、腰に衝撃が走った。グキッと鈍い音がなったのだ。


「グオッ!」


 腰を押さえてそのまま地面に転がる。


「痛い~っ、し、死ぬ……腰が、腰が……砕けた~」


 砕けたというのは大げさだが、マスティフのような大男が椅子に体重をかけて座れば、腰に負担が来るのは必然である。


 マスティフは5枚目を注文することなく戦線離脱。残ったのは猫仮面2号。これで大食い勝負で青い三連星には勝利が確定。


 あとはこのメガ盛りお好み焼き5枚食いを達成できるかであるが、猫仮面2号の奥義も5枚目の半分で勢いを失った。


「も…もうダメ……食べられません……」

 

ついに無敵と思われた猫仮面2号もテーブルに突っ伏した。


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