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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第14話 嫁ごはん レシピ14 メガ盛り、ウェステリア風お好み焼き
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2番勝負 ドラゴンブレス・ヌードル

 青い三連星が仕掛けるフードバトルというのは、3つのタイプがある。

 

 1つは『メガ盛り殺し』。店自慢のメガ盛りメニューをクリアする戦い。今回のように1時間の制限を30分とかにして圧倒的にクリアするのが彼らのやり方。


 2つ目は『食い倒し』。大食い勝負を挑んでくる人間を圧倒的な食力で撃破するのだ。これは単純な大食いバトル。但し、彼らは圧倒的な強さを誇るために、常にハンディ戦で戦う。3対1とかで戦っても常に勝利する。


 3つ目は『殲滅食い』。その店の全メニューを全て食い尽くす。仕入れた材料を全て吐き出させ、その日の開店を阻止するのだ。

 

 なんとも迷惑な奴らだが、店の条件で食べたらタダとか、倒した相手に奢らせる以外は、ちゃんと料金を払う。ある意味、お茶目なおっさん3人組なのだ。


 彼らの目的は、胃袋の力を見せつけ、食力で圧倒することで祖国フランドルの偉大さを知らしめること。戦争が一段落したところで3人は、各国を回ってフードバトルを仕掛けていたのだ。もちろん、任務ではなくてあくまでも趣味の範疇であったが。


 そしてフランドルにとって最大の敵国であるウェステリア王国に満を持してやってきたのだ。ウェステリア王国の大盛りを売りにする店を攻略し、大食い自慢を倒すのだ。


 ちなみに彼ら3人が『青い三連星』と呼ばれるのは、今から3年前のスパニア内戦において、攻撃していた砦に3人で丸太を抱えて正門を突破したことによる。


 3人が縦に並んで正門の分厚い扉を肉弾戦で破壊した時の凄まじさから、付けられたあだ名であるが、今はフードバトルの勇姿も加わっている。3人が連続で大食いに挑む姿は圧巻である。


 今も1人目のマスティフが店のメガ盛りを撃破。そしてボーダーがウェステリア軍人とフードバトルを挑む。


「さあ、殺ろうじゃないか。ここの店は激辛大盛りのフライドヌードルの店だ」


 そう言ってオズボーンを連れてきたのは、天狐屋から少し離れた店。フライドヌードルといって、米粉で作った平たい麺を野菜と卵で絡めて焼いた庶民の軽食である。普通は少し辛いくらいであるが、ここ『メガレッド』という店の辛さは尋常でない。


 ソースは真っ赤に染まったチリ。しかも南方産の最も辛い種類のもの。さらに生で刻んだものがトッピングしてある。ご丁寧に麺までこの辛いチリが練りこんであるのだ。


 そして量も尋常ではない。古代の歩兵がもつラウンドシールを器替わりにしたものにてんこ盛りに盛られたフライドヌードルは、別名ドラゴンブレス・ヌードルと言われている。量は軽く10人前はあるだろう。


「なんだ、ドラゴンブレス・ヌードルだと。大げさな名前だな」


 流れに任せてこの敵国の3人組について来てしまったオズボーン中尉。一応、怪しげな3人組なので様子をみるためであったが、どうやら対決することになってしまった。


「おい、坊ちゃんよ。貴様はウェステリア人なのにこの店を知らないのか?」


 そう尋ねるボーダー。胸ポケットのガイドブックを見て舌をぺろりと出した。フランドルにいるときから、この店の激辛ヌードルを食べようと楽しみにしていたのだ。


「知るはずがないだろう。こういう店は苦手だ」

「ふふふ……貴族様はこんな店は知らないか。まあ、知らない奴に普通に挑んでも勝った気にならねえ。そっちは3人がかりでいいぜ。こっちはこの俺様、ボーダーが一人で勝負してやる。マスティフいいよな」


「ああ、そのつもりでこの近衛兵さんたちを連れて来たのだ」


 そうマスティフは顎でゴーサインを送る。バーナードはまた気付けに首飾りの樽から酒を口に含んでいる。


「それじゃ、遠慮なく。メガ殺しと食い倒しを同時にやるぜ。さあ、中尉さんよ。負けたらここの代金はそっち持ちだぜ」

「わけがわからないが、そう言うなら受けて立とう。こちらは3人でそのドラゴンなんとかを食えばいいのだろう。簡単さ。フランドルの田舎者兵士にお仕置きするのは、こちらだぞ」


「た、隊長、本気ですか!」

「挑発に乗るのやめましょう。隊長は知らないから言えるんですよ。ここのドラゴンブレスはとんでもない辛さで……」


 オズボーンに付き従っていた2名の兵士は、この店の料理を知っている。それを食べるというだけでも嫌なのに、大食い勝負ときた。どう考えてもやる意味を見いだせない。


「馬鹿者め。フランドルの人間に挑まれて、近衛隊の人間が逃げられるか!」


 オズボーンは2名の兵士を叱咤する。だが、注文されて出てきた『ドラゴンブレス・フライドヌードル』を見て驚いた。


「マ……マジか!」


 量が半端ない。10人分と聞いていたが、それ以上はある。しかもその赤さが半端ない。見ているだけで汗が噴き出す赤さだ。そして匂いを嗅ぐだけで咳き込む香辛料の量。


「さあ、用意スタートだ」


 ボーダーはフォークを手に取った。溶岩のような赤さのヌードルに全く動じていない。オズボーンも負けじとフォークを取った。ビビっている2名の兵士にも取らせる。


「いくらこの量でもこちらは3人。負けるはずがない。行くぞ、突撃だ!」


 オズボーンはヌードルを口に含んだ。その瞬間。


「ウゴッ……グフグフ……ウゲ……」


 喉が一瞬で焼かれた。目がくらくらして、汗が一瞬で噴き出す。思わず吐き出してしまった。まさにドラゴンブレス。


「う~ん。喉が焼かれる刺激がまたたまらん。確かに辛いがこれは南のドインのカリの方がもっと辛い。この程度でこのボーダー様に立ちふさがろうとは、身の程知らずである」


 ボーダーはそう批評すると凄まじい辛さのこのヌードルを咀嚼し、次々と飲み込んでいく。それに圧倒されるオズボーン。だが、彼も負けられない。フランドルの兵士に負けるのは屈辱的である。


「クソ……おい、お前ら。敵に負けるわけには行かないぞ。この俺に続け!」

「は、はい、隊長!」


 オズボーンと兵士たちは再び挑戦する。


「ウゴッ、ゲホ、ゲホ……」

「グオボッツ……ウウウウ……隊長……これは無理です……」

「隊長……我らの屍を越えて行ってください……」


 テーブルに突っ伏す兵士たち。全身から汗が流れ、皮膚は真っ赤に染まる。


「まて、お前ら戦線を離脱するのか……まだ1人前も食べていないぞ!」


 目が充血し、視界もかすんできたオズボーン。涙と鼻汁で顔はグチャグチャ。それでも口に運ぶ。赤く染まったヌードルを口に入れる。全ての気力を搾り出し、そして挑む。


「ゲボッ……ゴホゴホ……無念だ……」


 ばたりと倒れるオズボーン。それを尻目に食を進めるボーダー。


「うほ、うめえ。辛うめええ。この刺激はたまらないぜ!」


 順調に食べ尽くし、皿をきれいにするボーダー。ヒゲに赤いソースがついているが、それを紙ナプキンで拭き取る。


「おや、そこまでですか。他愛もない」

「うっ……」


 テーブルに突っ伏すオズボーンを尻目にボーダーは完食した。40分で食べればいいものを30分で平らげた。


「ふん。ウェステリア軍の近衛兵がこの程度とは、ガッカリだ。支払いはこの中尉さんに付けといてくれ」


 余裕で席を立つボーダー。これで2連勝である。


「ど、どうしたのだ、オズボーン……」


 そこへやってきたのはニコール。AZK連隊本部へ向かう途中であった。人だかりを不審に思い、これまた護衛のカロン曹長と共に来ていたのだ。副官のシャルロット少尉は、先に連隊本部に行っていてここにはいない。


「ニ、ニコールか……無念だ。あとは任せた……」

「おい、オズボーン……汚いぞ、触るな!」


 オズボーンが伸ばした手を無常にもかわすニコール。それはそうだ。赤いソースで汚れまくり、近衛兵の白い制服が汚く染まっている。ニコールのAZK連隊の制服も汚れてしまう。


「うっ……」


 気を失ったオズボーン。辛い料理で失神してしまったのだ。


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