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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第13話 嫁ごはん レシピ13 夏バテ解消! ひつまぶしと手羽先名古屋飯
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女侯爵の目的

女公爵⇒女侯爵に修正。

「これはどういうことだ。たった1日で終わるなんて……馬鹿な市民どもめ。まんまと誘導されて閉じ込められやがって。その屍を山として、私を守りもせず、役立たずどもめ!」


 怒鳴り散らしながらも持てるだけの財産を馬車へ詰め込み、密かに脱出の準備をしているアクトン卿。まだ私兵が戦っているので、この市庁舎への侵入を阻んでいるが、それも時間の問題。まもなく、自分は反逆者として逮捕されてしまう。


「この私が反逆者だとありえん……私はこの国になくてはならない人間なのだ。馬鹿な連中とは違うのだ!」

「それにあの男、レオンハルトの奴め。この私を逮捕するだと。同じゼーレ・カッツエのメンバーだろうが! この私を逮捕するなど一体何を考えているのだ」


「あら、そういう選民思考がゼーレ・カッツエの一番の問題点。自分を信じてくれた市民を捨てて、逃げ出すようではリーダーにはなれませんわね」

「お、お前は!」


 アクトン卿は小さな体がわずかに浮き上がるくらいに驚いた。この修羅場に似つかわしくない人物がそこにいた。そして先程まで脱出の準備を手伝っていた部下が一人もいないことにも気がついた。


「アーネルト女侯爵……なぜ、あなたがここにいるのだ!」


 エヴァンゼリン・アーネルト女侯爵。ゼーレ・カッツエのメンバーで紅一点。それほど、目立つ人物ではないが支援者としてアクトン卿も知っている若い貴族である。女ながらに侯爵家を継いでいる。ゼーレ・カッツエ内での地位は高くない。あくまでも幹部の中でも底辺のメンバーである。


「この状況なら、口の固いあなたもお話をしてくださるのではないかと思いまして」

「な、なんのことだ!」


 落ち着いた微笑を怒べる黒衣のドレスの令嬢は、逃げ惑う人の叫び声と侵入してくる兵士の怒号の殺伐とした雰囲気の中では、不気味に映る。


「コンラッド公爵の行方をあなたはご存知でしょう。まさか、ゼーレ・カッツエのナンバー2のあなたが知らないわけがないでしょう」

「な、コンラッド公の行方だと。それを知ってどうするのだ?」

「コンラッド公爵は国外に逃げたといわれていますが、私は密かに国内にいらっしゃるのではないかと思っておりますの。そうではなくて?」

「知らぬ、そんなことは知らぬ」

「あらあ……この後に及んでそんなことを仰るのですか?」


 アクトン卿は不意に後頭部に何か鋭いものを突きつけられた感覚に襲われた。チクっとした痛みは感じるか感じないかだが、それは確実に脳をえぐる致命的な一撃になりえるものだ。


いつの間にか忍び寄った不気味な男。首のマフラーで目しか見えないがその目はアクトンを見てない。それが却って恐ろしい。心臓を鋭いカギ爪が鷲掴みにしている。そんな背筋の冷たくなる感覚だ。そして口を手で抑えられて助けも呼べない。しかも、ものすごい力である。


 ちらりと目を下へと動かす。抑えている手の手首から腕が袖からちらりと見えた。そこには青黒い刺青の模様がある。それは2匹のムカデであった。


(に……二千足の死神!)


 2匹のムカデが絡み合った刺青。それが全身に10個刻まれているので『二千足の死神』と言われる凄腕の暗殺者がいるという噂は、知る人ぞ知る裏の情報だ。狙った獲物は絶対に仕留める冷酷な暗殺者だという。


「本当に知らないのですか?」

「し、知らない。私でさえ、そのことは秘密なのだ……」

「あら残念。また、一から出直しね」


 すごく残念そうに女侯爵はつぶやいた。そしてゆっくりとまた冷酷な笑みを浮かべる。


「コンラッド公の行方を聞いてお前はどうするのだ。まさか、お前がゼーレ・カッツエに入ったのはそれを知るために……うぐっ……」


 アクトン卿は後頭部に熱を感じた。そして意識が遠のく。体が小刻みに痙攣する。


「そんなことをあなたが知る必要はありません。この件に関しては、あなたは用済みですけど、別の件で抹殺依頼が来ていましたので仕事をさせていただきました。あなた、市長として表向きはいい顔をしていましたけれど、裏ではかなり悪いことをなさっていましたわね。これはその報いです」


「バ…馬鹿な……報いだと……」

「あなたに騙されて死んだ多くの人の恨みです」


 アクトン卿は事切れた。数々の悪いことをしてきたので、一体、何が原因で命を落とすことになったのかは永遠に不明になった。


「エヴァサマ……ハヤク、脱出ナサラナイト……」

「心配無用ですわ。それより、あなた。貴族のお嬢様の下僕になったと聞きましたが、腕は鈍っていないようですね」

「アレハ……ナリユキ……」

「ホホホ……。まあ、いいでしょう。私の依頼を受けてくれれば、どんなことをしていてもいいことよ。それにしても、あなたをこき使うとは、なかなかできるお嬢さんですわね」

「……マダ、小娘デスガ、エヴァサマトハ違ッタ、魅力ガアル……」


「死神、私も世間一般的には小娘ですけどね。私の魅力に免じて、もう一つお願いがあるの。ここに残って情報を集めて。レオンハルトを探りたいところだけど、彼はガードが固いし、あなたは面が割れています。参謀のニコール大尉を探りなさい。いいわね」


「了解シタ……」

 

 アーネルト女侯爵は、そう二千足の死神に命令するとゆっくりと歩き出した。AZK連隊の兵が私兵を打ち破り、市庁舎内に突入している。役所の職員が逃げ惑う大混乱の中を悠然と歩く女侯爵。その姿はやがて喧騒の中に消えていった。


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