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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第13話 嫁ごはん レシピ13 夏バテ解消! ひつまぶしと手羽先名古屋飯
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市街戦

おーい。飯はどうした……もうしばらく、嫁さん(ニコール)パートで。

第111歩兵中隊とアレン中尉率いる1個小隊を吸収したニコールの部隊は、合計で700名を超えた。その頃には、ようやく南門に主力の歩兵が到着した。砲兵も10門の大砲を引いてたどり着く。これで兵力は1700となった。


 だが、ここへエリンバラ守備隊の主力が現れる。これは裏切った連隊長自身が率いているために、いきなり攻撃に移った。南門に作った仮設の陣地に向かって、騎兵と歩兵による突撃を加えてきたのだ。


「くっ……ウェステリア軍同士で戦うのは避けたかったが……」


 説得する時間がないので、ここは応戦するしかない。そうするならば、まず圧倒的にねじ伏せ、早いうちに降伏させること。敵も味方も被害を少なくするにはそれしかない。


「砲兵隊、射撃用意!」


 10門の大砲を擁する北方出身の砲兵隊である。今まで夏バテで元気を失っていたが、今は元気いっぱい。昨日のうなぎ飯と手羽先で十分に滋養を得てハツラツとした動きである。


「ニコール大尉、町中で大砲を使うのですか?」


 ニコールが砲兵隊に攻撃を命じたことに、大隊長のルーアン大佐は驚いた。この歴史ある町を戦火に晒すことに、この老練な軍人は少々躊躇してしまう。


「大佐。南門エリアの市民は恐れおののいて、既に退避済みだ。町を多少壊すことにはなるが、この戦いに勝利せねば、エリンバラ全体が廃墟になる。大砲の一撃で戦いの主導権を握るのだ」


 敵も大砲を使うとは思っていない。同じウェステリア軍が町を破壊するわけがないという思い込みだ。これは経験が長い軍人ほどそう考える。古いものを大切にするという考えはどこの世界でも年長者の方が思いが強いものである。


 その点、ニコールは若い。壊せば新しく作ればいいという発想ができる。そして、戦力が拮抗したこの戦いで、砲兵が使えるという自軍の利点を100%活かす方法を知っていた。


「撃て!」


 ニコールが右手に持った愛用の日本刀を天高く突き出した。その合図でまず3門の大砲が火を吹く。

それは敵陣の後方に着弾した。兵士がなぎ倒される。


「撃て!」


 ニコールの2回目の合図でさらに残りの6門が火を吹く。


「馬鹿な……街中で大砲を使うのか!」

「ありえん……」

「だが、これでは我が軍が一方的に負ける……」


 浮き足立つ守備兵。大砲の攻撃に前進できず、歩兵部隊が止まる。


「よし、銃撃開始」


 横隊に並んだ歩兵が銃を放つ。1列目が撃つと2列目、そして3列目と射撃。バタバタと倒れる守備兵。完全に勝敗は決した。


「一気に殲滅する。竜騎兵部隊、突撃!」


 馬に乗り、日本刀を抜刀したニコールを先頭に騎兵が突撃する。教科書どおりの攻撃法である。総崩れとなった守備兵はもう戦意喪失して逃げ惑う。


「武器を捨てろ、降伏するものは許す。逃げる兵には構うな。目指すは敵の指揮官だ!」

「よし、行くぞ!」


 竜騎兵小隊を率いるアレン中尉もニコールに続く。大きな馬体による突撃は、それだけで兵士を恐怖に陥れる。前線の500の歩兵部隊はこれで壊滅する。


 だが、守備隊は数が多い。初戦に敗れた守備隊は主力はメイン通りから進む中心部に陣取り、市庁舎を守る隊形を取っている。小さな通りにバリケードを築き、AZK連隊の侵入を阻む作戦に出たのだ。町のことをよく知っているだけに、これは厄介なことになった。


 突撃を終えて後方に下がってきたニコールは、ルーアン大佐とシャルロット少尉らと共に今後の作戦を練っている。


「大尉、市街戦になってしまいました。これは長期戦になってしまいます」


 シャルロット少尉が町の地図を広げ、味方部隊と敵のバリケードの位置を指し示している。戦いは有利ではあるが、1つ1つのバリケードを破壊していく地道な戦いが続く。


「持久戦に持ち込まれると、補給に乏しい我らが不利です」

「うむ。だが、打つ手がないのもまた事実だ。敵の防御網のどこかを突破して、市庁舎にたどり着き、市長を逮捕できればよいのだが……」


 市庁舎はエリンバラ市の中心にある。そこへの道は8本あり、放射状に伸びている。さらに中心エリアには川が引き込まれており、8本の道は橋で繋がれている。


 森と湖の自然豊なエリンバラ市は町中でも小さな川や大きな川が流れ、それをつなぐように橋がかけられている。大きくは東西南北エリアと中心エリアが大きな橋でつながれていた。今、AZK連隊は南エリアを制圧し、中心エリアへと攻撃を移しつつある状況である。



「この歴史あるエリンバラの市民諸君。ついに野蛮なAZK連隊なる、ならず者の軍がわが町を滅ぼそうと攻めてきた。南エリアは大砲で破壊されて、焼き尽くされているという。

以前から、私はこの町を守ろうと努力をしてきたが、奴らは国王陛下の命令だと偽り、このエリンバラの町を破壊し、市長の私を逮捕するという」


 アクトン卿は小さな体を大きく見せようと、精一杯胸を張った。そして間を置いて市庁舎前に集まった市民をバルコニーから見下ろす。


 目の前には東西南北の各エリアから集まってきた市民。特に南エリアの市民は家財道具を抱えて、戦火から逃れてきた不安と絶望に打ちしがれた表情を浮かべていた。それを見るだけで他のエリアの住人は、大変な危険が迫ってきたと実感させられる。


「私が逮捕されれば、この町を守るものは誰もいなくなる。皆さんの財産はことごとく奪われ、男は殺され、女は恥ずかしめを受け、阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。市民諸君、戦うのは今だ。今しかない。ここで戦わねば、全てを失うだろう。さあ、立とう。立って戦おう。戦って侵略者をこのエリンバラから追放するのだ!」


 市民の中には市長の息のかかったチンピラどもがいる。その者たちが大声で賛同の声を上げる。こういう時には勢い。声の大きい方向へと意思は流れる。アクトン卿は人心のつかみ方をよく知っていた。


(市民どもは無能で馬鹿だ。バカはよく考えないで大勢に流される。声の大きい方へ流れる。例え、それが真実でないと疑っても流されるのだ)


 市民の中にはAZK連隊は市長を逮捕するのが目的だから、市長さえ出頭してくれれば、市民の安全は守られるのではと考えるものも大勢いたが、それを口に出せない。口に出したら何をされるかわからないという疑心暗鬼があるのだ。


「さあ、市民諸君よ。一丸となってAZKの連中を追い出すのだ!」


 広場に集められた市民は1万人。それがメイン道路を通ってニコールたちのいる南エリアに向かって動き出す。口々に「出て行け!」を連呼するデモ隊になる。


(クッククク……馬鹿な市民は使いようだ。この間に脱出することもできるし、場合によっては市民どもの数にAZKの連中が追い出されるやもしれん。そうなれば、独立宣言を出すプランもありだな……)


 そんなことを考えているアクトン卿。守備隊が次々と破れるという報告を受けても意にも介さない。守備兵は元々捨て駒だと考えているのだ。



 戦闘は圧倒的に有利。町の至るところでAZKの部隊は活躍していた。守備隊は個々に撃破され、徐々に市庁舎エリアまでの道が開かれつつある。


 ここまではニコールの慎重な用兵が功を奏していた。ウェステリアの町の守備隊は、全くと言って実戦経験がない。訓練はしていたが、それも形骸化したものになっていて、いざとなった時に混乱して思うように戦えないのだ。


 それに比べてAZK連隊は実戦を想定した訓練を数多くこなし、また、大陸での戦闘経験をもつ兵士や士官も多く編入されていたのも大きかった。


 数で劣勢に立たされても、個々の戦闘において圧倒し、次々とエリンバラ守備隊の陣地を突破していった。また、降伏する兵士も後を立たず、エリンバラ守備隊は組織だった抵抗をすることができなかった。




 戦闘が始まって5時間が経過した。既に太陽は真上に上がっている。戦況は圧倒的有利であるが、まだ決め手に欠いていた。


「大変ですぜ、大尉。エリンバラ市民が大挙して押しかけてきますぜ」


 ニコールに命じられ、前線の視察から馬で戻ったカロン曹長は、馬から飛び降りるとそのまま、ニコールがいる天幕に転げるように駆けてきた。大男のカロンがそのような行動を取ることは珍しい。事態がそれほど緊急を擁するということだ。


「カロン曹長、落ち着け。市民の数は?」

「1万を下らねえ……。棒きれや石を持って歩いて来ますぜ。このままでは前線の部隊と衝突しますぜ」

「まずいですぞ、ニコール大尉。もし、前線部隊が暴発して市民を殺傷したら……」


 ルーアン大佐の顔は真っ青だ。暴発して市民を殺傷することは、最前線で命のやり取りをしている兵士の心理状態なら十分にあり得ることだ。


「前線に行ってくる。シャルロット、カロン、私と一緒に来い。ルーアン大佐、指揮を任せる。守備隊のバリケードの破壊と降伏勧告を継続するように」


「はっ!」


 ニコールは前線へ赴く。南エリアから接続する中央エリアである。川で分断された橋を渡り、6ギラン(3km)ほどで市庁舎へ着ける距離に最前線の陣地がある。


「大尉、市民たちが近づいてきます」


 ニコールが到着すると、もう10ノラン(約500m)の距離まで近づいてきている。成人男性が多いが中には女性や老人、子供まで混じっている。


「今、兵士には銃撃の用意をさせています。威嚇して逃げてくれればよいのですが」

「ダメだ。もし、1発でも市民に当たったら暴徒と化すぞ」

「しかし、数が数です。あれが押し寄せてきたらとてもここは守れません」

「市民には事情を話したか?」

「聞く耳など持っていません。説得に当たった分隊は投石されて負傷しました。もはや、暴徒化する一歩手前です」


「くっ……」


 1万人の市民と言っても、このエリンバラ市の人口からすれば一部ではある。大半の市民はそれぞれのエリアの避難場所へ集まるか、家で不安に感じながらも閉じこもっている状態である。


「大尉、あの人数ではとてもかないませんよ……。ここは逃げるしかないのでは」


 シャルロット少尉の声は少々怯え気味である。彼女とて軍人であり、死を覚悟してこの戦場に来ている。向かってくる敵兵と戦うならともかく、貧弱な武器で向かってくる市民に対して攻撃するのは恐ろしいことだ。


「逃げるって、どこまでですかい? あいつらは俺たちを南門の外まで追い出す気だぜ。そうしたら、この戦いは敗北だ。市長のしたり顔が目に浮かびますぜ」


 カロン曹長の意見ももっともである。後退してもどこかで食い止めなければ、この戦いは勝てない。市長が市民を盾にすることは十分想定できたが、このような形で来るとは思ってもいなかった。アクトン卿の人心掌握の力を見誤ったことが原因だ。


「とりあえず、8ノラン(400m)後方の橋のたもとまで後退する。あそこなら、市民の数をしぼれる。バリケードを作って食い止める」


 ニコールはそう指示を出した。食い止めることができても、これで市庁舎への侵攻はできなくなったことを意味する。それは市長に多大な時間を与えることになる。


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