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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第13話 嫁ごはん レシピ13 夏バテ解消! ひつまぶしと手羽先名古屋飯
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手羽先とウナギ飯の饗宴

 部隊に戻ったニコールの命令で1個小隊が派遣され、大量にいたウナギをヌルヌルにめげずに捕獲。捕まえたウナギはなんと200匹。大量捕獲である。


 捕まえたウナギは小川から引いた水が流れ込むように上から絶えず水をながし続け、木の箱に入れたままで泥抜きをする。泥抜きは必要でないという意見もあるが、準備に時間がかかる関係もあって、3日ほど水にさらしている。


 これで食べたものは全て消化され、お腹の中もきれいになる。ウナギは雑食性だから、小魚やエビ、時にはカエルを食べる。捌いているときに胃からカエルが出てくるのはビジュアル的に避けたい。


 さらに二徹は、肉問屋からゴミとして手に入れた手羽先に下ごしらえをしていた。まずはファルスの都から届けてもらった醤油とみりんで漬けタレを作る。


「二徹様、調理班の皆さんにニンニク(ジズル)しょうが(ジンザー)をすりおろしてもらいましたよ」


 メイがバケツを2つ下げて重そうに持ってきた。確かにニンニクとしょうがのすりおろしである。これが何杯も用意されていく。メイは宿営地の中でクルクルと動いて元気に働いているので、兵士の中ではちょっとしたアイドルになっている。子どもが健気にお手伝いをしている姿は、見る大人をほっこりとさせる。


「うん、じゃあ、この醤油とみりんと砂糖タウで使ったベースのタレに投入して」


 二徹に命じられて、メイはよいしょ、よいしょとバケツいっぱいのニンニクとしょうがのすりおろしたものを壺に入れていく。1000人の兵士の食事を作るのだ。その量ときたら迫力満点である。


 そこへ二徹はハチミツと唐辛子を混ぜ込む。肉をやわらくするスイも投入する。これで漬けだれは完成だ。あとは骨に沿って包丁で切れ目を入れて、どんどんとタレの中へと放り込む。これは調理班の兵士が総出で行う。


 廃棄物としてもらった手羽先の量はかなりのものだ。この3日間でエリンバラの町からかき集めた数は1万本以上。兵士1人に10本以上は食べてもらえる。


 これで手羽先の下ごしらえは完成だ。


 そして次はウナギ。これを200匹捌いていく。これは技術がいるから軍の調理班でもなかなかできない。よって、二徹が全部行う。


「二徹様、こんなヌルヌルして長いのをどうやって捌くんですか?」


 メイの好奇心は二徹の包丁技術にある。この切りにくい生物をどう調理していくのか、興味津々な様子で雉色の犬耳がピクピクと反応している。メイでなくてもこれは興味がわくところだ。調理班の兵士も二徹がこれからどうするか、作業を続けながら気にしている。


「ウナギの捌き方は難しいよ。一人前になるには8年かかるって言われているんだ」

「8年!」

「まあ、そんなにかけてちゃ、商売できないけどね」


 そう言うと二徹は木の箱に手を入れた。生きたままのウナギをまな板に置く。


 ザクッ!


 ニョロニョロ動くウナギの背びれの上部分に包丁で一撃の切れ込みを入れた。致命的な一撃であるが、ウナギの生命力は驚くほどに強い。体を動かして抵抗する。ニョロニョロと激しく動く。このままだと動いて包丁が入れられない。


 そこで行うのが目打ちである。きりで目の下を打ち抜く。これで支点が固定される。それでも動くウナギの背に包丁を入れて、頭から一気に尻尾まで滑らせる。


 ここまでわずかに10秒かかるか、かからないか。メイも流れるような包丁の動きに目が釘付けになっている。


 今、二徹が見せた背開きという方法は関東の技法である。関西は腹から包丁を入れる。これは江戸時代に武士が腹を切るということを忌避した結果。商人の町の関西は腹から包丁を入れる。二徹が背から包丁を入れたのは、こっちの方が最もうまい脂がついている背骨付近の身を損なわず容易に切れるからだ。


「うげっ、これでもまだ生きているのか!」


 いつの間にか、二徹の後ろからこの名人芸をのぞいて見ていたニコールは、思わず顔をしかめた。ちょっと残酷なシーンではあるが二徹の包丁使いが素晴らしく、華があるので気持ち悪い感じではない。二徹は振り返り、優しい笑顔でニコールに応える。


「これだけの生命力があるからね。ウナギパワーは体に活力を与えるんだよ」

「ウナギパワーか……。確かにこの生命力は精力がつきそうだ」


 二徹の作業は続く。内臓を取り去り、背骨も外す。きれいに洗うと3つに切り分ける。これも関西風なら2つ。関東風なら3つに切るらしいが、二徹は別にこだわってはいない。獲ったウナギが太くて大きかったから3つに切っただけだ。


 それを金串で刺して完成だ。3つに切断するのと金串を刺すのもコツがいるが、料理に慣れたメイと料理班の兵士なら練習すればなんとかできるようになったので、二徹はウナギをひたすら捌く。

 

 何しろ、ウナギの蒲焼の技法は「裂き8年、串打ち3年、焼き一生」というくらい難しい。二徹もウナギ料理の修行を長期間したことはないが、そこは転生前に8歳の時から板前修業をしてきた記憶がある。


 そして老舗のうなぎ屋で働いた経験も少しはあるから、コツを押さえれば美味しく食べられるものはできる。


 捌いたウナギはメイや料理班によって、どんどんと焼くばかりになっていく。串が完成すると炭火で白焼きにする。そしてタレ。これも二徹特製だ。


 醤油に酒にみりんに砂糖で作る。まずは酒とみりんを火にかけて強火で沸騰。これを煮切る。こうしないとアルコールと一緒に入れた醤油の香りが飛んでしまうのだ。


「焼き方を説明します。まずは身の方から焼きます。背から焼く方法もあるけれど、こっちの方が皮を縮めることなく焼けるからね」


 二徹が指導しているとはいえ、やはりウナギを焼くのは素人の兵士たち。できるだけ、簡単に焼けるように教えていく。


「ひっくり返して皮が焦げるまで焼けたら、タレにつけてさらに焼いてください」


 二徹が作った特製タレを付けて焼くと、ウナギの脂とタレが炭火にかかり、香ばしい煙がウナギを燻す。この繰り返しで蒲焼は美味しくなるのだ。ちなみに焼いているウナギにタレを塗るのではなく、蒲焼の方をタレに入れるのだ。こうすることで、ウナギの脂や旨みがタレに染み込み、タレに深みが増してくるのだ。


「二徹様、なぜ、金網の上に乗せて焼かないのですか。そっちの方が、手っ取り早いと思うのですが」


 メイがいい質問をする。焼くだけなら鉄板の上で焼いてもいいはずだ。だが、ウナギは串に刺して炭火で焼く。これが一番うまい焼き方だが、それには理由があるのだ。


「金網だとふっくらと焼けないんだよ。網だと熱が全部ウナギにいかないからね。それに金網だと自重で身が潰れるからね。金串で吊るして焼くとふっくらと焼けるんだよ」


 それにウナギをタレに沈めて、炭火に置くとタレが炭火にかかり焦げて煙になる。ウナギの余分な油も炭火に落ちてその煙がウナギにまとわりつく。これがさらにウナギの美味しさを増すのだ。


 どんどん焼けていくウナギの蒲焼。周辺には美味しそうな匂いが漂う。煙と匂いが上昇気流に乗って、丘の上の宿営地へと流れ込む。


 そして手羽先もだ。手羽先は金串に5本ずつ刺したものを縦にぐるぐる回転する機械にセットする。下には炭火。3方向は鉄板。ハンドルを回すと手羽先は上へと上がり、頂点に達すると下へと動く。


この装置で串が50本。計250個が焼けるのだ。この機械が10台あるので2500個がいっぺんに焼けるのだ。


 この手羽先の焼ける匂いもたまらない。ニンニクと醤油の焼ける匂い。しかも表面には胡麻が散らしてあるから、鮮烈な香ばしい匂いがする。


 手羽先が焼ける頃には、ウナギの方もふっくらと焼きあがる。それを炊けたばかりの白ご飯に入れる。ご飯にはタレをたっぷりとかけて、焼けたウナギを細かく切って混ぜ込む。


「さすがに1000人分だとウナギが足りないからね。ウナギは混ぜ込んで、ウナギご飯にすると節約できる」


「よいしょ、よいしょ……」


 大きな鍋にご飯を炊いて、メイが自分の背丈ほどある大きなしゃもじでかき混ぜる。炭火で焼いたウナギは、ご飯の中で蒸されて軟らかさをプラスされるのだ。もうその匂いと白いご飯にテラテラと光るウナギの光景が脳を刺激し、口の中にじわじわと唾液を分泌させていく。


「あの気持ち悪いウナギとやらが、こんなうまそうな料理に化けるのか?」


 ウナギを捌くところから見ていたニコールは、その気持ち悪い食材が想像もできないほどに進化し、食欲をそそるものに変わったことが不思議でならないようであった。


 本当は鰻丼とか、ひつまぶしにしたいのだが、1000人分となるとこうするしかない。それでも、魅惑の料理が次々と出来上がってくる。


これまで苦労したAZK連隊の兵士たちの前に、山と積まれた手羽先とウナギご飯が現れた。


「さあ、兵士の皆さん。手羽先とウナギご飯ができましたよ。召し上がってください!」


 二徹が叫ぶとメイがバケツを棒でガンガンと叩いた。調理班の兵士も同じように叩く。これが食事の合図なのであるが、その必要はあまりなかった。既に匂いで近くの兵士は周りを囲んでいたし、遠くの兵士たちも引き寄せられるように集まりつつあったからだ。


「何だ。これは?」

「くんくん……何だかいい香りがするぞ」

「ニンニクの香りがたまらない」

「手羽先らしいぞ」

「しかし、手羽先って旨いのか?」

「お前、知らないのか。俺の故郷じゃ結構食べる。だが、今日のは何だか違うようだ」

「手羽先は廃棄物だったらしいし、ウナギとやらはそこの湖で捕まえた奴らしい」

「そんなの食べられるのかよ……」

「だが、美味そうだ……」


 一人の兵士が手羽先を恐る恐る手にする。そしてがぶりと噛み付く。ジュワッと染み出す鳥のエキスと脂、そして濃厚なニンニクのタレ。そして天にも昇った表情を浮かべた。もうそれだけで、兵士たちが手羽先に飛びつく。


「ぐおおおおっ……」

「うまああああっ!」

「これは酒が進むぞ」


 さらに器に盛られた鰻飯。これを一口、口に入れる。タレの甘辛さ、ご飯で蒸されたうなぎの身はさらにほっこり、ふあふあ。皮はパリパリして香ばしい。


「うめええ……」

「なんじゃ、こりゃああああ!」

「香ばしくて、軟らかくて、味が濃厚で……これはうみゃあああああっ!」

「これは旨いぞ、久しぶりの美味いメシだ」


 兵士たちは大喜び。これまでまずい飯しか食べてこなかったから、今回のご飯は思いがけないボーナスである。みんなガバガバと鰻飯をかきこむ。そして手羽先にかぶりつく。量は充分あるし、次々と追加されるから、みんな無我夢中で食べまくる。





「ニコール大尉、おかげで兵士たちの士気が上がった。君のご主人のおかげだ。あのエバンス総料理長に見出されたと聞くが、さすがだな」


 ルーアン大佐がそう二徹のことを誉める。幕僚を集めてこの美味しい食事を堪能した後である。ルーアン大佐もニコールもうなぎ飯に大満足であった。今回の材料は、ほぼただで手に入れた。それで兵士の士気が上がったのだから二徹の功績は大きい。


「二徹はこれくらいのことは普通にできる。それよりもルーアン大佐。もし、アクトン市長の逮捕命令が来たら、あの町をどう攻める?」


 ニコールは丘から見えるエリンバラの町を見る。真っ暗な闇の中に光り輝いているその場所は難攻不落の町でもある。城門を閉ざせば、落とすのに数万の兵が必要となろう。


「まずはどこかの門を突破。市の中心部に市庁舎を占領。市長を捕らえれば勝ちです。スピード勝負になるでしょうな」


 ルーアン大佐はそう語った。どこの門を突破かはスピード重視するならこの宿営地に最も近い南門であろう。


「加えて町の守備部隊の無力化。ただ、市民の抵抗があった場合が心配です」

「大丈夫ではないか。市民も市長が国王陛下に対して反逆したとあれば、市長を守ろうだなんてことは考えないでしょう」

「……そうだといいが……」


 ルーアン大佐旗下の中隊長たちがそう話す。だが、ニコールはそう甘くはないと考えていた。市街戦になれば戦いは長期化する。兵士たちの歓喜の声を聞きながらもニコールは町の光を見る。戦闘となれば、ここにいる多くの兵士が傷つき、命を落とすことになるかもしれない。

 

 彼らの命を預かっているという責任がニコールにはある。司令官のレオンハルト少将が参陣すればその責任はなくなるが、今は参謀としてこの駐留軍の頂点にいるのだ。


ひつまぶしはまだ封印w

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