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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第13話 嫁ごはん レシピ13 夏バテ解消! ひつまぶしと手羽先名古屋飯
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ウナギにょろにょろ

 エリンバラの町を追われるようにして門を出た二徹とニコールとメイ。敵の勢力範囲とはいえ、思わぬ市民の反応に戸惑い気味のニコールを二徹は慰めた。


「最後はちょっと凹むことがあったけど、潜入して色々とわかってよかったんじゃない?」

「……そういう見方をすればそうかもしれないが……」


 もし、あの市長に逮捕命令が出て、AZKの部隊が町に踏み込むことになった場合、市民の抵抗が予想される。その時、軍にどう命令をするか。


(市民に銃は向けられない。そして、あの市長のことだ。平気で市民を盾にすることもありえる)


 もし、そうなった場合は難しい判断を迫られそうだ。


「町の様子もわかったし、狭い裏路地や抜け道も実際に歩いたので感覚も掴めたし、何より、食事改善に使える食材が手に入ったのが一番の収穫」

「あんな手羽先なんかで、兵士の士気が上がる料理ができるのか?」

「それは期待していいよ。でも、手羽先だけじゃさすがに足りないよね」


 南門からAZK連隊の宿営地までは、森林に囲まれた道を行く。ところどころに小さな川や湖が転々と連なっている。美しい光景である。道は行商人やら旅人の馬車が頻繁に行き交っているが、一歩、森へ入ると人もいない静かな自然が残されている。


 宿営地に近づくと、北エリアから移動してきたAZK部隊の兵士もチラホラと見かける。物資の移動や陣地作りをするのだ。


「あれ? ニコール大尉」


 後ろからやってきたのは副官のシャルロット少尉。馬に乗っている。北エリアからニコールが指定した南の宿営地への移動の途中らしい。


「シャルロット、部隊の移動の状況は?」

「はい。全部隊、移動はほぼ完了です。高台へのアクセスは午前中に草刈をしたので確保しています。大型馬車が通れるようにするにはまだ時間がかかりますが、馬なら問題なく通れます」

「そうか。それはよかった。それにしても、お前、なんでここにいる?」

「え?」

「それに後ろに背負った荷物はなんだ?」


 ニコールはシャルロットが背負っている背負袋に注目していた。それは無骨な軍専用のものではなく、私物の可愛いデザインのものであったからだ。


「こ、これは……その……ちょっと息抜きにと思いまして……」

「ちょっと、貸せ!」

「あ、ちょっと、大尉~」


 ニコールが奪い取って中を見ると出てきたのは水着。2つに分かれた白いビキニタイプのものである。この世界でも海水浴はある。水に入るときは専用の水着を身につけて入るのだ。


「これは何だ?」

「ええっと……息抜きに水浴びをしようと思いまして……」

「なんで私の物もあるのだ?」

「それはそろそろ、大尉もお帰りになる頃だと思いまして、一緒に水浴びをと……」

 

 AZK連隊はずっとこの地で不自由な生活を強いられている。風呂もそうだ。野営地ではちゃんとした風呂には入れない。ここエリンバラは綺麗な湖があるので兵士たちは水浴びで済ませていた。エリンバラ市民も楽しんでいる余暇なのだ。


「大尉のものと、メイちゃんのものも持ってきました。てへ!」

「てへ!じゃないだろうが」

「ええ、でも~」

「ニコちゃ……大尉、今日の任務はこれで終了。今からは息抜きに水浴びするのもいいかと思いますけど」


 シャルロット少尉が怒られそうだったので、二徹は助け船を出した。ちょっとショックなことがあったニコールの心のケアも考えてのこと。嫌なことを忘れて水浴びするのは、心の健康にもいい。それに昨日、この地に到着してから風呂に入っていない。水浴びしてさっぱりしたいのは二徹も同じである。


「うむ……二徹がそういうのなら……。確かに昨日から風呂に入っていなから気持ち悪い。ここら辺の湖なら人もいなさそうだ」


 森の木々の向こうに小さな湖が見える。近づいていくと深くもなく、綺麗な水がいっぱいに満たされた湖だ。小さな川が何本か下流に向かって流れている。


 湖の近くにある岩陰で着替えたニコール、シャルロット、メイ。シャルロットは白のビキニ。ニコールは黒のビキニにパレオ。メイは可愛いピンクの水着だ。


「きゃっ……冷たい、気持ちいい~」

「ムムム……これは気持ちいいな」

「ニコール様、ボクは泳げないから怖いです」


 水に入ると誰でもテンションが上がる。ニコールとシャルロットは交代で泳げないメイに泳ぎを教えながら、綺麗な水に体を委ねる。嫌なことは全て忘れそうだ。


 そんな女子陣から少し離れて、二徹も水の中に浸っている。少し離れているのは、水着姿の妻ニコールだけではなく、シャルロット少尉に気を遣っての行動だ。


 それに水着がない二徹は上半身裸でパンツ1枚。ちょっと、この格好で彼女らの前に行く気にはならない。それでも潜って頭を洗い、水に浮かんでいると心が安らぐ。水も冷た過ぎず、温かすぎず実に気持ちがいい。

 

 そんな楽しい時間を1時間ほど過ごした頃、事件が起こった。


「きゃああ……何、これ、気持ち悪い~」


 不意にシャルロット少尉の声。メイの両手をもってバシャバシャとバタ足をさせて泳ぎを教えていたニコールと二徹は声のした方を見る。


 シャルロット少尉はスイスイ泳いで周囲200ノラン(約100m程)の小さな湖を1週していたのだが、流れ込む川のところで立ち上がって悲鳴を上げている。深さはシャルロット少尉の太もも辺りなので、水深はそれほど深くはない。湖の中央付近はかなり深くなっているが、周辺部はかなり浅い。

「どうしたのだ!」


 先にシャルロット少尉のもとへ駆けつけたのはニコール。メイを浅瀬で待機させて、一直線に猛烈なスピードで泳ぐ。シャルロットにより近い距離にいたから、すぐに駆けつけられたのだが、そのニコールも悲鳴を上げる。


「うああああっ~。嫌~。だめえええっ~」

「ニコール大尉、シャルロット少尉、どうしたの!」


 やっと駆けつけた二徹。二人が騒いでいる場所はちょうど反対側だったので、少し遅れたのだ。


「いやああ~っ。ヌルヌルする~」

「ダメだ、そんなところに入ちゃ~ううう~っ」


 見ると黒くて長くてうねうねした生き物が、シャルロット少尉の胸の谷間とニコールの胸の谷間から尻尾を出している。二人は両手でそれを引き剥がそうとしているが、ヌルヌルと滑ってつかめない。うねうねした生物も驚いたのか、ますます隠れ家を目指して胸の谷間へと侵入。


(おいおい、この光景はエロ過ぎるじゃないか!)


 ちょっとたじろんだ二徹だったが、ニコールの胸の谷間に顔を突っ込んだけしからん生物を掴む。ヌルヌルするが思いきっり引き抜いた。だが、滑って失敗。


「クソ!」


 再び挑戦するが無理。ますますパニックになったニコールとシャルロット。


「ウギャ~」

「くすぐったくて死ぬう~っ!」

「これは無理だ。ごめん、ニコちゃん、シャルロット!」


 二徹は二人の水着の肩紐を外して押し下げた。胸がぽろんと出ると同時に、黒い生物が水にポトンと落ちた。それはクネクネと泳いで行く。


「ウナギじゃないか!」


 初めてその生物を確認した二徹。顔を上げると両手で胸を隠した美女2人。二人共、少々涙目である。こんな姿を他の兵士たちに見られたら、きっとみんな夜に眠れなくなってしまうだろう。


「二徹~っ」

「二徹さん……」

「いや、ごめん。緊急事態だったんで」


 キッとにらむニコールと恥ずかしそうに俯くシャルロット。ニコールが怒っているのは若干、嫉妬が混じっているからだが、そんな格好の2人は実に素晴らしい光景だ。


 だが、そんな素晴らしい光景よりも二徹が釘付けになったものがある。先ほどのウナギが泳いで行った方向。それは湖に流れ込む川であるが、その、水底に黒々とウナギの大群が泳いでいたのだ。


「ウナギだよ、これはウナギ」


 二徹が指差す方向は、川底が見えないくらい黒々とヌルヌル生物が泳いでいる。その異様な光景は見る者にぞわっとした刺激をもたらす。


「な、なんだ、それは。うわっ!」

「気持ちが悪いですううう……」

「これはウナギっていって、食べるととても美味しいんだよ」

「食べる、それをか?」

「こんな気持ち悪いものは無理ですよ」


 二人の主張はおかしくはない。確かにこんな変な魚を食べようとは思わないだろう。それにウナギには毒がある。ヌメヌメの皮膚の粘液に毒があるのだ。この粘液は猛毒で食べると死んでしまうこともあるので、皮膚が傷ついているとよくない。


 さらにウナギの血にはタンパク性の毒があり、目に入ると激しい炎症を起こすことがあるから注意である。


「二人共、ヌルヌルがついたところは綺麗な水で洗い流してね」

「言われなくてもやっている!」


 ニコールもシャルロットも水着を外して、水に沈みバシャバシャと洗っている。


 二徹は川底にいるウナギを捕まえる。浅瀬で固まっているから、比較的に容易に捕まえられる。それを麻袋に3匹ほど入れた。


「ニコール大尉。すぐに部隊に戻って、兵士を派遣してよ。このウナギを捕まえるんだ」

「え、ええええっ!」

「やっぱり、これを食べるのか!」

「ウナギは暑気払いにはもってこいの食材なんだよ。これを食べれば兵士のみなさんは元気いっぱい。きっと元気になるよ」

「マジかよ……」

 嫌そうな顔をしているニコールとウナギを確保できてウキウキの表情の二徹。対照的な二人にどうしてよいか反応に困っているシャルロット。


 そして離れた場所で泳ぎの特訓をしているメイのたてるバタ足の音が静かな湖に響いている。


 





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