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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 メイちゃん学校編 その2
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メイちゃん、遠足に行く(3)

 灯台への遠足。みんなワイワイ言いながら歩いている。お菓子を買うお金を使ってしまったジャンは、学校を休むかと思ったらちゃんと来ていた。口笛を吹きながら相変わらず、女子に嫌がらせしたり、他の男子と拾った石を海に投げたりして先生にその度に叱られている。


 そんなこんなをしながら、灯台に着くとすぐに見学。灯台守のおじいさんに灯台の歴史を話してもらい、熱心に聞き取りメモをする。何やら、この灯台は160年も前にできたもので、今は建て直して50年くらい経ったとのこと。


 160年前の調度品をいくつか見せてもらう。古びた写真やランプ、ロープに錨なんかも置いてあった。昔、ここの近くに難破した船のものらしい。


「さて、皆さん、今から休憩とします。1時間後の11時にここを出発します。危ないので海に入ってはいけませんよ。崖にも近づいてはいけません。おやつを食べて仲良く遊びましょう」


 そう猫族の担任の先生が指示をすると、もう子供たちの頭の中はお菓子のことでいっぱいになる。メイはライラたちに誘われたが、ジャンが不機嫌な顔をしてみんなの輪からそっと離れるのを見て、ちょっと用があるといって別れた。


 ジャンはみんなから離れた岩陰に座り込み、地面に木の棒で何やら絵を描き始めた。描いては消し、時間つぶしをしているようだ。


「ジャン、何してるの?」


 急に声をかけられたジャンは驚いて、ビクッと体をさせて振り向いた。


「び、びっくりした~。誰かと思えばおとこ女かよ!」

「相変わらず、失礼ね。あんたのことだから、弱い子から強引にお菓子を寄付してもらうのかと思ったけれど、ここで大人しくするなんて成長したじゃない」


「うるさい。相変わらず、お節介な奴だな」

「お節介じゃないよ。いいことを思いついただけだよ」


 ジャンはメイの言っていることが理解できない。だが、そんなジャンを無視してメイは持ってきた赤いカバンの中からゴソゴソと何やら取り出した。取り出したのは袋に入ったザラメにお玉に四角い固形燃料に小さな空き缶である。


「ジャン、今日、お菓子をいっぱい貰ってこの1ヶ月間乗り切ろうと思わない?」

「はあ?」

「だから、お菓子を稼ぐの」

「冗談じゃない。みんなに頭を下げて恵んでもらうなんてまっぴらごめんだね」


 ジャンはプライドが高いから人から恵んでもらうことを良しとはしない。メイが自分を哀れんでお菓子を恵んでくれるのかと思って拒否モードのようだ。


「違うよ。今から、お菓子を作ってみんなと交換するんだよ」

「お菓子を作る?」


「そうだよ。このザラメ(ザザタウ)を使ったお菓子だよ。ジャン、あんたは鍛冶職人さんの弟子でしょ。火の扱いはプロでしょ。この固形燃料に火を付けてよ」

 

 ジャンは言われたとおりに固形燃料に火を付ける。これは炭と燃える石(石炭)の粉や油を混ぜたもので、長時間火を付けることができる。


 それを空き缶の中に入れる。メイはザラメをお玉に入れてそれに水筒から水を被るくらい入れて火にかけた。


「一体、何するんだ?」

「まあ、見ててよ。ジャン、あんたはこのお玉を持っていてね」


 その間にメイは布巾を濡らしておく。岩陰に満潮時に残された海水がところどころにあって、濡らすことは容易である。

 しばらくすると熱でブクブクと泡が立ってきた。メイは木の棒でぐるぐるとかき回す。


「おいおい、このままだと焦げるだけだぞ」

「もうすぐ、泡が小さくなるから。それまで待って」


 やがて、泡が小さくなってきた。ここでメイは小さい瓶を取り出し、そこから小さじいっぱいの白いものをすくった。これは卵白と重曹と砂糖を混ぜて練ったもの。それをパチンとお玉にあてて落とした。


 そして木の棒でグルグルとかき回す。焦げ茶色のザラメが乳白色に変わっていく。さらになんだか軽く膨らんでいるような感じだ。


「もう少し、もう少し……」


 メイはかき混ぜながら、そう唱えここぞという時に棒を引き抜いた。


 すると、どうだろう!


 乳白色の物体はどんどんと膨らんでいく。まるで亀の甲羅にように丸い形になっていく。


「よし、火から離して、濡れ布巾の上に置いて!」


 ジャンがお玉を濡れ布巾の上に置くと、膨らんだ。それをもう一度、火にかけて底を溶かすとお玉からポンと軽く外れる。


「これで出来上がりだよ。カルメラ焼き」

「カルメラ焼き?」

「とりあえず、食べて見てよ」

「こんな堅そうな……」


 ジャンがちょっと熱いそれを手にすると軽く噛んでみた。想像よりはるかに軽く崩れていく。そして甘い味が口に広がる。それはさっぱりとした甘さで、食べ割った時には氷が消えてしまったかのようなサッパリ感が舌に残る。


「サクサクしている……そして甘くてうまいぞ!」

「そうでしょう」

「これをどうするんだ?」


「決まっているでしょ。今からこれをたくさん作って、みんなのお菓子と交換するのよ。1個で4ディトラム分のお菓子と交換」

「4ディトラム……ちょっと高くないか?」


 メイは(はあ~)とため息をついた。商売上手なメイはこのカルメラ焼きの価値を知っている。絶対に交換してもらえるはずだ。


「一人じゃ厳しい人もいるから、4つに割って1ディトラムでもいいことにしましょう。今から協力して作るから、まず、みんなを呼んできて」


「あ、ああ……」


 カルメラ焼きは実演販売が一番いい。膨れる様が面白く、さらに作る過程の甘い匂いが購買欲をくすぐる。


 ジャンに言われてクラスのみんなが集まってくる。そしてメイの作るカルメラ焼きに大興奮。そして食べて大騒ぎ。交換したお菓子が山となる。


「美味しい~」

「こんなの食べたことないよ」

「私のキャンディ(キャンデ)と交換してよ」

「わたしのビスケット(ビスケ)と……」


 サクサクの食感と口の中で雪のように溶けるカルメラ焼きの甘さは、子供たちに大ウケで、ほとんどの子がお菓子と交換した。膨らんでいく様子が面白く、見てても飽きないのだ。しまいには猫族の担任の先生と灯台守のおじいさんまでお菓子と交換してくれた。


「メイちゃん、これは珍しいお菓子ですね。ウェステリアの北部地方にあるタウタウ焼きというお菓子に似ているけど、こんなに簡単にできるとは驚きだわ」


「先生、これはボクのご主人、二徹・オーガスト様から教えてもらったんです」

「そう。すごい方ね」


 感心する先生とちょっと膨れたジャン。


 交換したお菓子は袋いっぱいになる。これだけあれば、今月分のおやつには苦労しないだろう。


「ジャン、これであの女の子にあげたお金分のお菓子になるよ」

「はあ~っ。何言ってるんだよ」

「でも、あの子から聞いたよ」


「ち、違うからな。俺は馬車にはねられそうになって転んで、お金を落としただけだからな。あのチビが泣いていたから助けたんじゃない」


「あら、ボクはあの子が泣いていたなんて言ってないけどね」

「く……」


 お菓子袋を握り締めたジャンはちょっと言いにくそうに下を向いた。そして、小さな声でぼそっと答えた。


「ありがとな……」

「なんか言った?」

「うるさい。お節介女と言ったんだよ」

「おとこ女じゃなくて?」


「……嫌な奴だ。いいか、お前、いつも二徹様とか言ってるけど、そいつ、おっさんだろ。もっと周りを見ろよな。二徹様、二徹様って何だか頭に来る」


「何言ってるのよ」

「こっちの話だ。お節介女!」


 そう言うとジャンはハンチング帽子をちょっと横に被って、メイにアッカンベーをして走って男子のグループへと走っていった。


(ほんと、男子って恩知らずだ。バカはどっちだ!)


 メイは今日の土産話をニコールと二徹に話すつもりだが、真っ先にこの恩知らずのバカ男子のことを話そうと思ったのであった。


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