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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
幕間 メイちゃん学校編 その2
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メイちゃん、遠足に行く(1)~カルメラ焼きを作ろう~

ちょっと閑話です。オーガスト家の小さなメイド、メイちゃんのお話。

「それでは明日は灯台の見学に行きます。港沿いに歩いてクランプ灯台まで行きます。持ち物しっかりと準備しておいてね」


 そう担任の先生が帰りの会で子どもたちに呼びかけた。明日は授業の一環として、歩いて灯台を見学するのだ。いわゆるプチ遠足みたいなものだが、メイは初めての経験でウキウキしてしまう。


「はい、先生!」

「何ですか、ビル君」

「持ち物はペンとノートと飲み物におやつを銅貨10ディトラムまでということですけど、バナナ(バルル)はおやつに含まれますか?」


 子供たちは静まり返り、先生の答えに注目する。猫族の先生は猫耳をピンと立てて、こう説明した。


「はい、ビル君。いい質問ですね。明日については、バナナはおやつに含まれます」

「えーっ!」

「そんな~っ」

バナナ(バルル)は別でしょ!」


 子供たちは大騒ぎ。おやつにバナナを含めると種類がもっていけないから、死活問題なのだ。でも、先生は至極当然のように説明を続ける。


「みなさん、先生の話をしっかり聞いていなかったようですね。そもそも明日の見学は、お昼までには帰ってきますから、食べ物はおやつだけです」

「それなら、先生~」


 こういう話題になると生き生きと輝く子供たち。さらに質問は続く。犬族の女の子が手をピンと伸ばして挙げる。


「はい、先生」

「エルスさん」

「飲み物はジュースでもいいですか?」


 猫族の先生は腕組みをして、にっこりと微笑んだ。そして急に真面目な顔に変身する。


「ダメです。甘いジュースはおやつ扱いです。水かお茶にしてください」

「えーっ!」

「そりゃないよ」

リンゴ(アピ)のジュース持っていこうと思っていたのに……」


 課外授業でおやつを持っていけるという子供たちにとって楽しい行事だ。ワイワイ、ガヤガヤとその話題で盛り上がる。銅貨10ディトラムでは大してお菓子は買えないが、それでも楽しみなのだ。


「先生、甘くなければいいのですか?」

「そうですね。甘くなければ何でもよいことにしましょう」

「やったー!」


 質問した子供はそう答えたが彼が一体何を持ってくるかは謎だ。たぶん、こういう子に限って具体的なアイデアはないだろう。ノリで喜んだだけで、結局はお茶か水であろう。


 こうしていつもより、ちょっと盛り上がった帰りの会は終わった。メイが帰り支度をしていると、友達になったばかりのライラが話しかけてきた。


「ねえ、メイちゃん、一緒に帰りにお菓子買いに行かない?」

「えっ、帰りに?」 


 ライラは学校からの帰りに行きつけの安くて素敵なお菓子屋を案内するという。その店はいわば、駄菓子屋みたいなところで、安いお菓子がいっぱいあるらしい。他のクラスメイトも学校帰りに買いに行く相談をしている。この世界の学校へはお金を持って行って、帰りに食べ物や飲み物を買っていいことになっているだ。


「へえ、面白いね。そんなところがあるんだ」


 このファルスの町に住んでいたとはいえ、メイは今まで働かされていた宿屋と市場を往復する生活をしていただけだから、知らないことがいっぱいある。このライラの教えてくれるお菓子屋というのをメイは知らなかった。


「ねえ、行こうよ。今日、お金持ってきている?」

「うん、持ってきているよ」


 メイはオーガスト家で働いているので、毎月給金をもらっている。その大半は将来に備えて貯金をしているが、いくらかはお小遣いとして使うことにしているのだ。今回のおやつ代も楽に出せる。


「メイちゃん、ライラちゃん、わたすもいっていいでガンス?」


 変な語尾でしゃべるナンナも加わって、女子3人でお菓子を買いに行くことになった。




 ライラたちが案内してくれたのは、学校近くの住宅街。その一角にある小さな店。

『ハジメヤ』という古ぼけた看板が立てかけてあり、小さな店の中にはガラスの壺やケースが置かれて、そこに色とりどりのお菓子が並べられていた。


「わあ、スゴイね」

「相変わらず種類が多いでガンス」


 メイはこういうお菓子をあまり見たことがなかった。小さい頃は貧しかったし、宿屋でこき使われている頃はこんなお菓子は食べさせてもらえなかった。


 壺に入っているのは色とりどりのチョコレートやキャンディ。ガムに砂糖を固めたお菓子。クッキーにビスケットなどである。


「私はこれがオススメだよ」


 そう言ってライラが指さしたのは、コースターにできるくらいの丸いビスケット。これに小さなチューブが付いている。チューブにはチョコレートが入っていて、この丸いビスケットに絵が描けるという、女子心をくすぐる駄菓子なのだ。これは1つ銅貨3ディトラム。


「わたすはこれが好きでガンス」


 ナンナが蓋を取ったのは小さな色とりどりの飴玉。それには指でつまむ小さな棒が付いている。


「わあ、きれいだね」

「きれいだけでないでガンス。これは色んな味があるでガンス」


 赤、黄、青、緑、黒……様々な色の飴は一つ一つ、色によって味が違うとのこと。これはこれで楽しい。色や味は微妙な違いを入れて30種類にも及ぶらしい。瓶に入った状態では正確には分からないが。この飴がすごいのはこれだけではない。自分で5本選んでたったの銅貨2ディトラムなのだ。


「これもいいね」


 メイが見つけたのは赤や青、緑の銀紙で包まれた鉛筆型のチョコレート。鉛筆チョコレートである。色がカラフルで見ているだけで楽しい。


「鉛筆型のチョコレート(クレオン)なんて珍しいね」

「メイちゃん、それはとても甘くて美味しいよ」

「ポキポキ折って食べてもいいし、銀紙を少しずつ破って舐めていくのもいいでガンス」


 この鉛筆型チョコレートは1本3ディトラム。ここのお菓子の中では結構高い。高い分、原材料はそれなりにいいのを使っていると思われる。それでも3ディトラム(日本円で30円)だから、まあ、それなりにではあるが。


 おやつとして、銅貨10ディトラムであるから、この鉛筆型チョコレートを買うと残り7ディトラムとなる。


「じゃあ、ボクはこれに、ナンナのおすすめの飴玉セット。ライラのおすすめのお絵かきビスケットで8ディトラム……あと2ディトラム買える」


 メイは宝の山のようなお菓子屋の店の中を見回す。お菓子の他にもおもちゃやクジもある。クジもいろいろで引くとお菓子と交換できたり、おもちゃと交換したりできる。


「うん。これにするよ」


 メイが選んだのは固いゼリーのようなものが詰められた小さな器。これが1ディトラム。もう1つはトウモロコシの粉で作ったというスナック菓子。これが小さな袋に入ったもので1ディトラム。


「これで合わせて10ディトラム」


 ライラもナンナも10ディトラム分のお菓子を買ったようだ。メイは愛用の紅い鞄から大きなガマ口状の財布を取り出すと、銅貨を10枚取り出した。『ハジメヤ』の店主は80歳ともなろうかという猫族の婆さんだ。ヨボヨボと出てきて子供たちから代金を受け取る。


 ガラッ……。『ハジメヤ』の立て付けの悪いドアが乱暴に開けられた。


「婆ちゃん、ジュースもらうぜ」


 入ってきたのはジャン。ハンチング帽子をかぶったやんちゃな男の子だ。ジャンはメイたちをちらりと見るとプイと横を向いて無視した。入った時に驚いた様子はこれっぽちもなかったから、店に中にメイたちがいるのを見てから入ってきたに違いないとメイは思った。


 ジャンは、ズンズン店の奥に進むと氷温庫を勝手に開けた。そこには瓶に入った色とりどりのジュースが入っている。ジャンは10ディトラム銅貨を1枚、お婆さんの手に置く。おばあさんはエプロンのポケットからお釣りを取り出してジャンに渡した。

 

 ジャンは行きつけの店で当たり前のように、ジュースの栓を氷温庫に取り付けられた栓抜きで抜くいた。ちょっと、メイたちに視線を送ってから、瓶に口をつけた。グイグイとラッパ飲みをする。みるみるオレンジ色のジュースはなくなる。そしてシャツの袖で口を拭いた。


「うい~っ。はあ、うめえ……」


 そんなジャンに冷たい視線を送る女子3人。明らかにこちらを意識した痛い行動だ。無視している割には、俺を見ろというオーラが出まくりである。


「ジャン、あなたもうお菓子を買ったの?」


 ジャンが何か言って欲しそうだったので、仕方なくライラがそう尋ねた。一応、クラス委員としてジャンがちゃんと準備をしているか心配したようだ。


「ふん。そんなチンケなもの買えるかよ。俺は一発当てるぜ」

「当てるって何するでガンス?」

「決まってるじゃないか。2ディトラムクジやるんだよ」


 2ディトラムクジ。36個あるボックスの蓋の紙を破ると中に入っているものがもらえる。中には飴1個やガム1個といった安いお菓子か、ちゃちなおもちゃが入っている。だが、1等は30ディトラムのお菓子券が入っているのだ。これをゲットすると30ディトラム分のお菓子と引替えできるのだ。


「やめときなよ」


 真面目なライラはそう止める。1等は30ディトラムお菓子券かもしれないが、あとは1ディトラムにも満たない価値のものしか入っていないのだ。そう考えても損する遊びだが、ジャンのように15倍に増やすことを夢見る子供が後を立たないのだ。駄菓子屋の魔力というものである。


「君たち、俺が1等を引いたらうらやましがるだろう。30ディトラム分のお菓子だぞ。明日、俺はお菓子長者になる」


「お菓子長者って馬鹿じゃない。こんなの子供だましに決まっているよ」

「うるさい、メイ。女子に男子のロマンが分かるかよ!」


 人差し指で鼻をゴシゴシとこする。メイはジャンの頭の悪さにちょっとイライラした。


「それにもし、仮に当たったとしてもだよ。おやつは10ディトラムって先生が言っていたよ。30ディトラムも持っていったら没収されてしまうよ」


「馬鹿言うなよ。俺は2ディトラムで30ディトラム分のお菓子を買ったことになるんだ。これはセーフだよ、セーフ!」


 ジャンの理屈は一理ありそうだが、よく考えると大切なことが抜けている。そもそも、10ディトラム分のおやつはたくさん持って行かせないという教育的配慮からだからだ。それにいくら2ディトラムしか払っていないと主張しても、普段から素行が悪いジャンのことを信じてもらえるとは思えない。


 人間なんでも普段の行動から信用を築くのが大切なのだ。それを怠ると全部自分に返ってくるものなのだ。


そろそろ、キャラも増えたのでキャラ紹介のページを作ろうかな? 

ネタバレしないように。

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