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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第12話 嫁ごはん レシピ12 夏野菜と旬の海の幸の天ぷら
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レイジと買い出し

二徹とレイジは市場を歩いている。今日は食材の研究。3週間後に備えての食材の調達の準備である。二徹はエバンスに頼まれた外国の賓客をもてなす料理は決めている。それは『天ぷら』。厳密に言えば、フィッシュ&チップスとは違うが、油で揚げるという料理法においては共通である。


 天ぷらでは具材の選び方が重要だ。どんな素材でも美味しくいただける料理法だが、やはり季節の野菜や海の幸を天ぷらにするとたまらなく美味しい。


 今のウェステリア王国は暑い季節である。この時期の旬の野菜は、カボチャ(プキン)シシトウ(スイペ)ナス(エプラ)トウモロコシ(コーン)が代表的である。レイジと市場で目利きをしながら、それらの野菜の状態を確認していく。今の状態を把握しておき、3週間後に最も美味しくなりそうな野菜を厳選しておくのだ。実際には当日の朝に仕入れる予定である。


「レイジ、このカボチャ(プキン)の中で、君ならどれを選ぶ?」


 二徹はそうレイジに課題を出した。レイジはにやりと笑う。


「俺を試そうというのか、いいだろう。受けて立つ」


 そう言うとレイジは山と積まれたカボチャを見る。そして、その中からこれとこれ……といくつか選び出した。二徹が見る限り、この店のカボチャは良質なものが多く、たぶん、店主がカボチャ作りの名人なのであろうという品だが、その中でもいいものをレイジは選んだ。


「どうだ、俺が選んだカボチャ(プキン)は?」

「うん……いいね。これは美味しいと思うよ」


 美味しいカボチャは完熟状態であること。完熟のカボチャは甘くて身がホクホクしている。完熟カボチャは、皮が固くツヤツヤ。そして重いこと。あまり重すぎても問題がある可能性もあるが、スカスカのカボチャでないことが大事である。


これは作っている人間が毎日、カボチャを観察し、日数管理を確実に行うことでできる芸当で、大きくなったからと慌てて取ると完熟状態ではないこともあるのだ。

 

さらにレイジが選んだものは、軸が太く形も左右対称。これはよい畑できちんと育てた証拠。本ヅルに着果させた証拠だ。軸の切り口も乾いていてコルク状になっているのも素晴らしい。カボチャは収穫するときに軸を短く切り落とすが、ここから大量に水が出てくる。それがコルク状にまで乾いているということは、しっかりと乾かした証拠。水分がなくなった分、カボチャの甘味や旨みをギュッと凝縮しているのである。

 

二徹は包丁を貸してもらってカボチャを真っ二つにする。カボチャは皮が固いので切る時は押し切り。押す方の手は広げて切るのがコツだ。半分になったカボチャを見ると種がぎっしりと詰まって、種の一つ一つが太っている。レイジの選んだカボチャが最高の品質であることの証明である。


「言うことないね」

「ふん。じゃあ、二徹。次はお前の番だ。ナス(エプラ)を目利きしろよ」

「オッケー」


 ナスの目利きはそれほど難しくない。まずは色艶のよいもの。青紫で皮に張りがあるものがよい。そしてへたの刺が鋭くて触ると痛いくらいのものが新鮮である。


「これとこれにするよ」

「まあまあだな……」


 レイジはそう言ったが、二徹が選んだもの以上のナスはない。まあまあとは、レイジの最大の褒め言葉なのだ。


「なあ、二徹よ。野菜を6種類も買い込んだが、お前の作る天ぷらとかいう新しい料理は野菜がメインの料理なのか?」

「いや。メインはやはりタンパク質かな。今回は魚介類を使うよ」


 料理に使う野菜についてはおおよそ見当がついた。今日選んだ野菜は3週間後には、さらに美味しいものが手に入れられるように店にお願いをしておく。当日は朝にとれとれの新鮮な野菜を使うつもりだ。


 二徹はレイジを連れて、行きつけのミルルの魚屋へ行く。相変わらずポメラニアンみたいにくるくるとミルルはよく働いている。


「あ、二徹さん、いらっしゃい」


 ミルルは二徹を見ると元気に右手を上げた。二徹もちょっと手を上げて答える。


「やあ、ミルル。今日は新しいお客を連れてきたよ」

「それはありがとうございます!」

「レイジ・ブルーノだ。よろしく」


 レイジはそうミルルに挨拶したが、心は店頭に並ぶ様々な魚介類に行っている。料理アカデミーでは出入りの業者が魚を持ってくるので、こういう市場の小さな店では魚を買った経験がないのだ。


ミルルの魚屋は個人経営だけに、大きな店では扱わない地魚も置いてある。あまり馴染みのない魚もあって、興味がわいているのであろう。


「レイジはこれでも料理アカデミーの学生でE級厨士なんだ」


 そう二徹はレイジをミルルに紹介したが、レイジは店頭の魚介類に釘付けである。基本、女の子にデレデレするレイジだが、ミルルのようなほんわかした子は好みでないらしい。


(彼の好みは……言わなくてもわかるだろう)


「ミルル、3週間後に大事なお客さんをもてなす料理を作るんだけど、その頃のオススメは何かな?」

「う~ん……」

 

 ミルルは指を顎に当ててしばらく思案する。そして、パンと両手を打った。


「この季節はエビ(シュリ)だね。特に美しい縞が入ったシマエビ(縞シュリ)がおしくなるよ」


 シマエビはいわゆる車海老のことで、天ぷらにするにはもってこいの素材である。特に身が太ってプリプリのそれを3週間後に十分な量が手に入るように注文しておく。あとは魚だ。天ぷらにするには白身の魚がいい。


 フィッシュ&チップスには、タラ(ホイズ)が使われるが、これは臭みもあって大味。二徹が作ろうとしている料理には合わない。もっと洗練された味の魚が欲しい。淡白で脂が乗りすぎていない魚がベストなのだ。脂がのった魚は油にその匂いがついて、他の料理をダメにしてしまうからだ。


また、赤身の魚は加熱すると身が固くなってしまうので向いていない。


(う~ん。どうするか……)


 天ぷらの定番ならキスであるが、あいにく、キスは店頭にはないし、そういう魚は見当たらない。ウェステリアの近海にはいないらしい。


(おっ!)


 二徹は店頭の隅に赤いウロコで60センチもある大きな魚を見つけた。頭が大きく四角い。大きなヒレが特長だ。


「これはホウボウだな……」


 キス釣りやヒラメ釣りをしていると、混ざって釣れる外道魚であるが、実はこの魚は昔から、『君の魚』と言って権力者に献上する高級魚なのだ。


「ああ、それはグウグウだね」


 ミルルはそう説明した。この魚は鳴くそうで、その鳴き声がグウグウと聞こえるらしい。実際には浮き袋から出る音で鳴いているわけではないが。それは二徹の知っているホウボウと同じである。


「これはグロテスクで、あまり売れないけど食べるととても美味しいんだよ」


 そうミルルは説明したが、二徹はよく知っている。ホウボウは刺身にしても、煮ても揚げても美味しい魚だ。焼くと固くなるのは欠点だが、調理しだいで大変美味しい魚なのである。


「ミルル、この魚、3週間後にたくさん手に入る?」

「これはおまけで釣れる魚だからね。親父に取っておくように言うよ。たぶん、今が季節だからたくさん取れると思うよ」

「それはラッキーだよ」


 これで天ぷらにする海鮮はほぼ決まった。あとは隠し玉の1品を加えて野菜6種、海鮮2種の計9種の天ぷらがおもてなしの料理となる。


「なあ、二徹。天ぷらとかいう料理を作るということだが、それはどういう料理だ?」

「作り方は卵と水と小麦粉ミ・フラウを混ぜたものを付けて、これらの材料を油で揚げる料理だよ」


 レイジはまじまじと二徹の顔を見る。それは明らかに落胆したという色が濃い。


「二徹、冗談を言うなよ。そんなもん、うまいわけがないだろう。そんなものを付けたたら、ガチガチのボコボコ。食感も固いだけのスナックになるだけだぜ」

「そんなことないよ。そうしないためにはノウハウと技術が必要だけどね」


 確かに天ぷらの作り方は単純なようだが、その作り方は奥が深い。天ぷらを揚げる技は熟年の技が必要である。これは生まれ変わる前に二徹が料理の武者修行を行った天ぷら屋での経験から身にしみたことだ。いかに二徹でも名人芸の技を身につけるには、長い年月が必要である。


 だが、ちょっとしたコツをつかめば、人に食べさせることができるレベルのものはできる。衣はサクサクで素材の味を引き立てる天ぷらを作ることは可能である。ただ、今回の客はかなりグルメだという。食通を唸らせるためには、短期間で天ぷらを揚げる技術を高めなければならない。


「さあ、レイジ。今から帰って特訓するよ!」

「おいおい、俺も作るのか?」

「当たり前だよ。父君の敵を取るんだろ?」

「そりゃそうだが……」

「敵は料理で取ろうじゃないか」


 今から市場で買い込んだ材料を元に、天ぷらを作る練習をし、レイジに技を身につけてもらおうというのだ。3週間、猛練習をして極上の天ぷらを作るのだ。


レイジの好み? 決まっています。殴ってくれる強い女の子。これ一択w。

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