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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第2話 嫁ごはん レシピ2 豚肉とじゃがいもとリンゴの蒸煮
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作戦会議そして決裂

3/11修正:オズボーン中尉の一人称が統一できていませんでした。ニコールの前ではえらぶって「俺」公式には「私」で統一します。

「この作戦案は資料のとおり、ポイントは2個小隊の連携を如何に取るかということでありまして……」


 シャルロット准尉がそう説明をしている。ここは近衛隊本部の会議室。ニコールの小隊とオズボーンの小隊の合同会議である。参加者は隊長及び副隊長と副官の計6名。採用されたニコールの作戦案の説明をしているところだ。


「なるほど、王女殿下とご学友をエフェル平原へお連れするのですか。あそこは今の季節、フェルの花で見事な景色だ。これなら王女殿下もご満足いただけますね」


 オズボーン小隊の副官アルディ准尉が感心したように口を開いたが、隊長のオズボーンと副隊長のミゲル少尉に睨まれて黙りこんだ。アルディ准尉はシャルロットと同期で、まだ顔にそばかすが残る赤毛の少年である。ミゲル少尉は一般兵士からの叩き上げの将校で、38歳。まだ若いオズボーン中尉をサポートする役目である。


「まあ、安全な街道から外れた平原に行くのは理解できないが、それが王女殿下の望みなら仕方がない。俺の案も平原の訪問をベースにしたものであったからな。だがな、ニコール。近郊とはいえ、都から離れた地。まだ、現国王陛下に敵対する者共が王女殿下に危害を加えるやもしれない」


「それについては、十分に対応策を練っていまして……」


 オズボーン中尉の言葉に副官のシャルロット准尉が説明しようとしたが、オズボーンは片手を上げて制した。


「ニコール、お前と俺の小隊で100人だ。護衛としては十分だが、王女殿下だけを狙おうとするなら、隙を衝くことはできる。平原は四方から銃で狙える」


「花畑の周囲には隠れられそうな岩や大木の数が多い。暗殺者が銃で狙う可能性も考えられる。あまり、好ましくはないな」


 ミゲル少尉はおしゃれに生やした顎鬚を撫でながら、王女が昼食を取る予定の平原の地図を見ている。この世界の主武器は剣や槍であるが、銃もあった。火縄銃から進化したフリントロック式の銃である。武器については1700年代のヨーロッパ程度の発達段階である。まだ、連射はできないし、有効射程距離はせいぜい100mほどであった。


「当然、有効射程範囲に不審者が立ち入れないよう、あらかじめ1個小隊を派遣して、平原を固める。それなら、安全は確保できよう」


 ニコールが初めて口を開いた。ニコールの作戦案は上層部に決裁されただけに、安全上もきちんと配慮されていた。オズボーンやミゲルが心配することについては、用意周到に対応策が練られていた。


「ちょ、ちょっと待てよ。まさか、俺の小隊をその任に当てるんじゃないだろうな! 絶対嫌だぞ。俺の小隊は騎兵だ。そんな泥臭い任務をやれるものか」


「オズボーン中尉、この作戦については私が隊長、貴君が副隊長だ。私に命ずる権利がある」

「ふん。女に命令されるのは不愉快だ!」


 オズボーンはそう言うと机を両手で叩いた。そして、ニコールの作戦案にケチをつける。


「そもそも、部隊を分けるのは戦力の分散になる。暴漢どもが数を揃えて襲ってきたらどうどうするんだ?」

「いくら何でも、反対勢力はほぼ一掃されたわけですし、百人を超える数を揃えるのは無理だと思います」


 シャルロット准尉が反論を口にするが、一瞬で黙らされた。


「副官は黙っていろ! 俺はお前たちの隊長に言ってるんだ」

「可能性は0ではない」


 そうニコールはポツリと答えた。それ見ろと鬼の首でも取ったかのような表情をするオズボーン。完璧なニコールを追い詰めたと思い、余裕の笑みを浮かべた。


「なら、明日までに修正案を提示しろ。さもなくば、俺の小隊はこの作戦から下ろさせてもらう。あ~あ。これだから女は困る。ニコール、君はドレスを着て社交場で踊っていた方が似合うぞ」


「……」

「ああ、そうだったな。君は既に爵位を無くした平民の男と結婚していたな。手柄を立てて爵位を得なけりゃ、君の子供は貴族でなくなるか。だからといって、手柄を焦ってもらっては困るぞ」


「オ、オズボーン中尉、それはいくらなんでも言い過ぎです!」


 シャルロットが小さな体を奮い立たせてそう抗議をしたが、軽く無視された。言われた当のニコールが顔色も変えずに黙っているので、シャルロットもそれ以上は言葉にできない。(ちっ)と小さく舌打ちをしてオズボーン中尉は立ち上がり、部屋の帽子掛けに掛けてあった帽子を手に取ると副官と副隊長に一緒に出るように目で合図をした。


「そ、そんな……オズボーン中尉、待ってくださいよ~」


 シャルロット准尉がオロオロと引きとめようとするが、無常にもドアは閉められた。1回目の会議は物別れである。


「ど、どうしましょう……隊長」

「まあ、あれは最初からこちらを困らせようとしていたようだ。貴族の坊ちゃんのわがままみたいなもんだろ」


 ここへ来て初めて言葉を発したのは、ニコール小隊の副隊長を務めるラーケン少尉。オズボーン小隊のミゲル少尉と同じく、一般兵士からの叩き上げの将官だ。年は38歳と同じである。彼はニコールの才能に感服していたから、年下で女性という隊長を馬鹿にしたような態度は一切ない。


「でも、協力してくれないとこの作戦は上手くいかないですよ」

「まあ、貴族の坊ちゃんもバカじゃない。今日はごねたが最終的には命令に従うだろう。こんなことで経歴に傷は付けたくないだろうからな」


 なんやかんや言っても、参加をしないのは命令違反。ニコールが交代するように中隊長に願ったとしても、参加を拒否したというのは聞こえが悪い。


「そうですかね」

「それよりも隊長、当然、内偵は進めているとは思いますが、反政府組織がある程度の戦力を整えて襲ってくる可能性も0ではありません。いざという時の備えはしておくべきかと思います」


「……わかっている。手は考えているが、やはりオズボーンに力を発揮してもらわないと困る。だけど、あいつは士官学校の時から、私に突っかかってくるから苦手だ」


「あら、ニコール隊長にも苦手な人がいたのですね」

「シャルロット、君は私をどう思っているのだ?」

「隊長はお強いので、いつも力でねじ伏せているのかと……」


 ニコールはシャルロットよりも背が高く体格もよいが、すらりとした肢体で女性らしいシルエットである。力でねじ伏せるというイメージは姿からは想像できないが、実際にこの3ヶ月間を副官として仕えているから分かっている。しなやかな体を十分に生かし、素手での格闘や剣、乗馬術、射撃においても大抵の男よりも優れていた。


「どんなに優れた作戦案でも、結局は人で決まる。私の小隊については、私は信頼している。だが、オズボーンの小隊にも期待以上の働きをしてもらわないと、いざという時に困る。王女殿下に万が一もあってはいけないからな」


 正直なところ、反政府組織は年々力を失って大したことはできないまでに弱体化していた。だが、この国を狙う大陸の国が、資金援助して反体制派を助けているとの情報もある。郊外に出る王女の話を聞き、よからぬことを考える可能性もゼロではなかった。


「シャルロット准尉、ラーケン少尉、じつはこの作戦案には裏があるんだ」

「裏?」

「裏ですか?」 


 そうニコールは小さく頷いた。そして、小声で副官と副隊長に指示をする。これは中隊長しか知らないことだ。上層部にも秘密である。もちろん、これは同僚のオズボーンにも直前まで伝えないものだ。


「え、えええ!」

「なるほど。そういうことですか」


 二人はこの作戦案の本当の目的を知って感心した。王女の護衛任務は近衛隊の中から、優秀な作戦案を提示した小隊に与えられると聞いていたが、自分たちの隊長が選ばれた訳が理解できた。


「シャルロットはすぐに調整に当たってくれ。馬車の手配はラーケン少尉にお願いしたい」

「わ、わかりました」


「承知しました。ですが、隊長。明日のオズボーン中尉の説得は隊長ご自身で行わないといけませんよ」

「分かっている……」


 ニコールは副隊長の進言に対して、少し嫌そうな表情を見せた。オズボーンの扱いは士官学校時代から苦手である。対抗意識を燃やす彼にいつも結果で圧倒してきたからこれまでは問題なかったが、今は彼を主体的に自分に協力をさせないといけないからだ。


(……やはり、男のことは男に聞くのがベストか。今晩、二徹に相談してみよう)


 そう美しい中尉は家で愛する夫に助言を求めようと考えた。



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― 新着の感想 ―
ラーケン少尉は尉官なので将官とは言えないです。もしかして士官の間違い?
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