04-14 celebration
92話
ノーデンリヒトの夏はなかなか太陽が沈まない。真夜中でも地平線の向こう側から日が差しているような極地だ。この黄昏の長い季節にいい天気なので、篝火を焚いて、停戦祝いの龍の肉は外で焼いて食べることにした。
あちこちで兵士たちの歓声が聞こえる。停戦を喜ぶ戦士たちの喜びだ。
だが一方で長い戦いが一区切りし、逝ってしまった戦友を忍んで涙を流している兵士もいる。
ウェルフやベアーグたち獣人は酒豪と知られているので兵士たちに人気があり、飲み比べの勝負を挑まれては次々と人族の兵士たちを打ち破っていたが、ウェルフの若手二人組はぶっ潰されて転がされてしまった。いやはやほほえましい。
カルメとテレスト、おまえたち明日立ち会うとか言ってたはずだが、大丈夫なのだろうか。いまはダフニスが獣人代表として、ガラテアさんとの一騎打ちで飲み比べをしている。
ガラテアさんちょっと旗色悪そうだが……明日まで肉の味を覚えてるかどうか微妙なライン。この人たち、喜びすぎだ。
兵士たちが盃を酌み交わすテーブルの端っこで、ジョッキに注がれた酒を舐めるようにゆっくり味わう獣人が目に留まった。猫の獣人カッツェ族のエララは無口すぎて影が超薄い。
アリエルの前世、嵯峨野深月は影の薄さには定評があったので、影の薄いキャラの気持ちは痛いほどわかるのでちょっと気になってる。
このエララというカッツェ、スカした男だとばかり思ってたんだが、実は女の子らしい。せっかく女っぽい名前を付けられた男同士で虐められた話を肴に酒でも飲めると思っていたのに残念だ。
そのエララも、龍の肉を食べて、いい笑顔になってる。
「や。エララさん。話すのは初めてかな。ベルセリウスといいます」
「……はい」
「ちょっと聞かせてほしいことがあるのだけど。いいですか?」
「はい。話せることなら」
「あんたと同族だと思うんだけどさ、コレーって人知ってる? 今どうしてるかな? と思ってさ」
コレーの名を出した瞬間、エララは驚いたようにアリエルの目を見た。
これは知ってる反応だ。
「へー、覚えてたんだ。いい土産話ができた。コレーは私の養父。ここの戦場でお父さんが死んで、未亡人になった母をたらし込んだのよね。そしてスッポリと私の養父におさまりました。酒を飲むとずっと自慢話のようにあなたの話をしていたわ」
酒の肴になるような話あったっけ? 何を言われてるのか……知りたくないな。絶対に死神伝説を誇張して、あることないこと創作してるに決まってる。
「義父は今もう軍を引退して、飲んだくれのダメ親父ですよ。未亡人いっぱいたぶらかして、兄弟姉妹がいっぱいできました。あんなバカ殺してくれてもかまいませんよ」
酒のせいか無口キャラだと思ってたエララがやけに上機嫌だ。
「あはははは、そうか、じゃあそのうち約束を果たしてもらいに行くって伝えといて」
「えっ?……、父は殺されるの?」
「不安そうな顔をするなよ。そんなことしないよ。コレーは気のいいやつだからね。もしドーラに行くことがあったらついでに寄るって伝えといて」
エララはホッとしたように胸をなでおろした。
二人は軽く手を挙げ合って、アリエルはその場を後にした。
ロザリンドが肉を食ってるテーブルに目をやると、ひとつ……、大きな誤算があったことに、今更ながら気付いてしまった。というか、ちょっと考えればわかることだったのだが、まったくこれっぽっちも考えてなかった。
アリエルの花嫁は身長約2メートル+角が生えてる。均整の取れたプロポーションだけど、さて、筋肉量はどれぐらいあるのだろう。別にムキムキしてるわけじゃないけど、キャリバンとの戦闘をみるに、ものすごい運動量だろうから、消費するカロリーはいかほどのものなのか。想像できない。
たぶん、人族でいうプロレスラーぐらいは消費するはず……だとすると、その摂取カロリーはおよそ、一般男性の5~6倍ぐらいか。
その食事量をまったく考えてなかった。
これはちょっとマズい。
いままではパシテーとてくてくと、プラプラ気ままな三人旅をしていたので、冒険者ギルドで、ただ強い敵を倒すだけみたいな簡単な依頼をこなしてたら飯は食えていたのだけど、ロザリンドに加えてサオも食わさなきゃいけないので、これまで通りのことをやっていたのでは収入が足りない。
王都に行ってこのドラゴン売ればしばらくは大丈夫だと思うけど、こんなのいきなり持って行って売れるかどうかもわからない。仮に売れたとしてもたった一度の臨時収入のようなものだ。他にどこか、ドラゴンいればいいのだけど……、いや、それはハイぺリオンの教育によくないからドラゴン狩りで生計を立てるなんて出来ない。コツコツ地道に依頼を受けるしかなさそうだ。
ちょっと背筋に寒いものを感じたので、恐る恐るロザリンドのテーブルを覗き見してみた。
あれ? さっきはロザリンドの皿には400gに切り分けられた肉が5枚乗ってたはずなのだが、それがいまはもう2枚に減ってる。アリエル自身ドラゴンの肉なんてひどく滋養の濃い肉は胃にもたれるので半分にしてもらって、その半分をまたロザリンドの皿に乗せたはずなんだが……。
うん、まあ、およそ想像通りか。ロザリンドといっしょに食べ放題じゃない焼き肉店に行くと恐ろしいことになると、そういうことだ。
ん? ロザリンドの前に座ってる後姿……トリトンだな。なんか話が盛り上がってるし。人族の男でロザリンドの傍に行こうなんて男は、トリトンとガラテアさんぐらいだ。
他の兵士たちはみんなロザリンドを見ようとしない。もしかするとまだ紅眼を直接見ると魂を吸われるとか、そんなアホみたいな迷信を信じてるんだろう。
しかし、ロザリンドとトリトンか……、なんかヤダな。
セカのベルセリウス本家で父さんの若いころの黒歴史を全部聞かされたからなあ……。
何を話されてるんだろ。なんか俺の恥ずかしい話で盛り上がってそうな気がする。気になってノコノコ行くと藪蛇になりそうだし、ここは何もありませんようにと祈っておこう。
てくてくは400gの肉をたいらげて、お腹いっぱいのポーズで満足気に笑顔を振りまく。
空はまだ夕方前ぐらいの明るさだが、時間的には完全に夜になってしまったので、てくてくは大人になりつつある。
まだ宵の口だというのに、騎士団のおっさんたちは てくてくの変化に気付かない。酒というのは本当に恐ろしい。10歳から16歳になったら普通気付くだろ?
「あ、パシテー、肉くったか?」
「今日はいらない。疲れてるともたれるの」
「そか、じゃあまたそのうちね」
「マスター、ロザリンドといつ式挙げるの?」
「んー? ああ、だいたい結婚式って神の前で愛を誓うとかそういう宗教儀式だろ? 俺は神を信じてないし、教会は敵だからな。式なんかいらな……」
式を挙げたくないアリエルの心境を読んだのか、パシテーが言葉を被せた。
「ダメなの! そういうのは神がどうだとか、理屈じゃないの」
「えーーーーっ、照れくさいって。勘弁してくれ」
「ダメっ!」
んな照れくさいことは苦手なのに、強引にやってしまわれそうな気配を振りまきながら てくてくはロザリンドのところに走っていった。
いまトリトンの周りには世界一怖い女たちが集まってる。くわばらくわばらだ。
この場は早々に退散するが勝ちなので、こっそりこの場から逃れて暮れ行く空でも眺めてようと思ったら、宴から離れた薄暗い場所に、ベルゲルミルたち3人が居るのに気が付いた。あいつらキャリバンの遺灰の傍から離れようとせず、何かしみじみと思い出話をしているようで、肉も取ってないようだ。
まあ、肉を取りには来づらいよな。
肉の給仕場に行くとサオが居たので、パシテーとサオにも手伝ってもらい、3人分の肉をもって、ベルゲルミルたちのところへ運んでやることにした。
「おーい、せっかくのドラゴンの肉を食い損ねたら帰ってから土産話するとき負けた話ばかりになってつまらんだろう?」
「おまえデリカシーってもんがねえのな。まったく」
「はい、これ龍の肉。ドーラのドルメイ山をぷらぷらしてたら襲ってきたドラゴンなんで、遠慮せずに食ってよ。停戦中なんだからさ」
「遠慮なくいただくよ。てか、ドラゴンの肉かよ……。すげえ……」
「ああ、それと、この酒。戦死した人にお供えしといて」
「お前が殺したんだろ? お前がするべきじゃないか?」
「教会には教会のやり方があるんじゃないかと思ってさ。俺は作法とか知らないんだ」
「そうだな、じゃあその酒もありがたく頂戴するよ」
ベルゲルミルの手に酒の瓶も握らせて砦のほうに戻ろうとしたところで、ひとつひらめいた。
「あ、明日いつ発つの? 実はさ、明日の昼食のとき獣人の若者2人と俺が木剣で立合うことになってさ、手加減したら失礼だからマジでブッ叩こうと思うんだけど……。ひとつそちらの治癒師のひとにに後始末お願いできないかなと思って。頼まれてくれないかな?」
「ほっほっ、若いもんは血の気が多くてええのう。ベルゲル? 時間どうかの?」
「なんだと……ちょっと待て、俺にもやらせろ。その条件なら出発を遅らせてもいい」
「わかった。じゃあ、明日の正午の休憩に。ただし木剣だよ」
「はいっ、食べ終わったら食器は給仕場に下げといてくださいねっ」
この女魔導師の魔法攻撃で、少なくない数の獣人たちが焼き殺された。それをサオはどんな顔をして、この女魔導師に肉を渡すのか、どれほど憎しみがあるのかが少し気になった。
だけど別に睨みつけるでもなし。恨み節を一言いうでもなし。数時間前まで殺し合ってた面々を前にして平常心を保っている。精神力強いな。サオは。
アリエルはサオのその、何ら変わらない態度から、逆に奇妙な違和感を感じずにはいられなかった。
「ところでサオ、ずっと忙しそうにしてたけど、肉くったかい?」
「はい、いただきました。すっごい美味しくてびっくりしましたよ。あのドルメイのミッドガルドなんですよね? 村の者が何人か襲われてますから、仇だと思って思い切りかぶりついてやったんですけど、もう、ほっぺが落ちそうなほどジューシーで美味しかったです。本当にありがとうございました」
「いや、今日の肉にそこまで感慨深さを感じてるのサオだけだろ」
「マッスター!」
てくてくが走ってきた。なにやら上機嫌だ。
「ひっ……」
驚きのあまり息が止まるサオ。そりゃあ今のてくてくをみたら普通はそんな反応になって当然なんだ。
「お、大きくなってる……」
サオは偉いな。それに気づいたのはサオだけだ。他の男どもはもう酒が入るとなにがなんだか分からなくて、あからさまに成長しているてくてくに対して、普通に接している。停戦の喜びも手伝ってか、いつもより飲みすぎているのだろうけど。
「ああ、てくてくは深夜0時ごろ、だいたい人族でいう20歳ぐらいになるんだよ。お昼どきは8歳ぐらい。1時間に1歳ぐらいずつ年を取って、若返ってを繰り返してる」
「いまは16歳ぐらいだから、夜の8時ごろだ」
「え、はい、ちょっと驚いただけですから……」
「ハーイ! サオ!」
「はい、てくてくさま」
とハイタッチするふたり。
すごい進歩だ。これは心配しなくてもいい。
「さまはいらないよー。アタシのことはてくてくと呼んで。その方が可愛くて好きなの」
「はい、そういう事でしたら」
「そうそう、マスター、結婚式はこの後するからね。決定だよ」
「ま、まじでー。ちょっとまって、衣装もないし、指輪とか用意してないよ。どうすんの? 母さんに何も言わずそんなことしちゃうと面倒なんだけど……」
「衣装はそのまま。指輪はナシ。女神はここに居ないから、最年長者の前で永遠の愛を誓うこと。ちなみに最年長はアタシ。ビアンカが不満なら、またやればいいのよ」
「えーっ、ちょっと強引過ぎない? どうしよう、花束もなにもないよ」
「式あげるんですか! こうしちゃいられない、ロザリィの支度しなくちゃ!」
サオはテーブルでトリトンと話してたロザリンドの手を引いて砦の中に引っ込んでしまった。
トリトンはほろ酔い気分なのだろう、ニコニコしながらこっちを見てる。ガラテアさんは椅子から落ちて倒れてるし、とうとう潰れてしまったようだ。飲み比べしてたテーブルは死屍累々。歴戦の勇士たちがみんな地べたに転がっていて、エーギルの息子、ダフニスだけがまだジョッキを手放さずに酒を飲んでいる。完敗だなこれは。
「やあ、父さん、どんちゃん騒ぎになってしまったね」
「ああ、お前の人徳か? それとも龍の肉のせいか? いくら停戦だと言っても、敵だった魔族たちとここまで打ち解けるなんて聞いた事がないな」
「あはは、肉と酒でしょ。戦争なんて誰も望んでなかったんだよ」
「ああ、そうだな。マローニに戻ったらゆっくりしてお前に弟でもプレゼントできるよう頑張ってみるさ」
「母さんも喜ぶよ。まったく、何年ほったらかしてんだよ、父さんがあまりほったらかしにするもんだから、俺がもらっちまおうかって思ったぐらいさ」
「ぐっ、おま、ちょっとそれは、実の父に言っていいたぐいの話じゃないぞおい」
「ああ、そうか、ちょっと失敗したな。ははは」
パシテーがこっちを見ながら合図してるのをみてトリトンが立ちあがった。
何年ぶりかで再会した親子の普通の会話としてはとても短くてそっけないものだった。本当なら同じテーブルについて酒を酌み交わすぐらいあってもよさそうなものだが。
「ああ、準備ができたみたいじゃないか。戦場の結婚式か。なかなかロマンチックな男だな、お前も」
「ロマンチックかあ? いやいや、色気なさすぎるよ。でも命を狙われる身になったからね、明日生きてるかも分からないしさ、俺はもう生き急ぐしかないんじゃないかと思ってる。父さんと母さんには心配かけると思うけどね」
「まーだ心配をかける気か? 普通、男は成人したらもう親に心配なんかかけないもんだ」
「あはは、ウソばっかりだ。アルビオレックス爺ちゃんが言ってたよ。トリトンには死ぬほど心配させられたって」
「クソオヤジが何か吹き込んだのか。それ全部嘘だからな、信じるなよアリエル」
いや、あっちのほうが信憑性あるし本当であってくれた方が楽しい。
「マスター、準備できたのよ。早く」
てくてくが呼びに来た。準備ができたらしい。ってか、結婚式の準備ができるような色気のあるようなもん、ここの砦にはなかったはずなんだけど。
「んじゃ行こうか。息子の嫁取りだ。出席できて光栄だよ」
トリトンは尻の土埃を払いながらアリエルを砦の中へ誘った。
結婚式とか……、急すぎて、心の準備が……。
トリトンについて砦の中に入ると、ありったけのロウソクが立てられていて、それなりに厳かな雰囲気を醸し出していた。そこには18歳ぐらいのてくてくが立っていて、隣に案内される。客席も何もないけれど、そこにはパシテーと、カッツェ族のエララが見届け人を兼ねて、羨ましそうに微笑を浮かべていた。
アリエルをてくてくに預けるとトリトンは三歩下がって待機。
隣の部屋の扉がゆっくりと開き、サオについて白い布を頭からかぶって出てくるロザリンド。
扉をくぐるとき頭をゴッ! とぶつけてしまった。
そりゃ角いれて220センチぐらいあるのに、あんなの被ったらちょっと頭の上が見えなくなってぶつけるよなあ……。ってか、人族の寸法に設計されてる以上、扉をくぐるときは必ずぶつける。
身長3メートルもあるエーギルがここを占領してた頃になぜ改装しなかったのかと問いたい。
いや……でもロザリンドが角隠しにしているあの布はテーブルクロスか。あり合わせでもなかなか雰囲気出るもんだな。
「新郎、こちらへくるのよ」
俺はロザリンドの右側に誘導され、てくてくが口上を述べるのを聞いた。
「アリエル・ベルセリウスはロザリンド・ルビス・アルデールを生涯妻とし、生命の炎が燃え尽きて幾億粒の灰となり、たとえこの世界が終わっても、愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
「ロザリンド・ルビス・アルデールは、アリエル・ベルセリウスを生涯夫とし、生命の炎が燃え尽きて幾億粒の灰となり、たとえこの世が終わっても、愛し続けることを誓いますか」
「はい、誓います」
「今日、この日、輪廻の輪を超えて永遠の愛を誓った二人は結婚の儀により、夫婦となりました。精霊てくてくと参列者の皆が証人となりその誓いは永遠に記憶されるでしょう。
異なる神を信仰する二人に世界の祝福あれ」
―― パチパチパチパチ!
「簡易な宣誓だったけど、たった今、二人の結婚の誓いは為されました」
パシテーが喝采をくれてる。父さんは大きくゆっくりとした拍手を、エララは小さく控えめに。てくてくはライスシャワーを。……ライス! と思ったら麦だった。
おお、助かった。キスとかなくて良かった。
「頭大丈夫か? 打ったろ?」
「防御魔法かけてないからさ……響いたわ……」
「おめでとう。アリエル。これでロザリンドさんはうちの嫁だ。ところで『ルビス』のミドルネームは残すのかい?」
「ルビスは一族の始祖の名です。単に眼が紅いという意味なので私的には要らないのですけれど、一族的には名乗らない訳にはいかなさそうです」
「では今後は、アリエル・ベルセリウスの妻として、ロザリンド・ルビス・ベルセリウスを名乗ることを当代トリトン・ベルセリウスが承認しましょう。ヒト族は夫の姓を名乗るのが慣習なんだ」
「はい、ロザリンド・ルビス・ベルセリウスと申します。よろしくお願いします」
「マスターおめでとうなのよ。この調子でパシテーももらってしまうのよ」
「兄さま、姉さま、おめでとう。感動しちゃったの」
「おめでとう。いい土産話になるわ」
エララはコレーに話す気満々の笑顔で二人を送り出した。
トリトンは門を出てからもいっちょ前に嫁をもらった一人息子を眺めている。
さあ、もうひと飲みしようとジョッキに酒を注ぎ、椅子に座ってからも、アリエル達の姿を遠くから見守りながら、それを肴にチビチビ飲む。今夜の酒はうまかろう。
さてと今日のところは寝ますか。と、外にロザリンドサイズの大きめのカマクラを作ったのだけれど、アリエルとロザリンドが二人で寝ようとするカマクラにパシテーは当然として、いつもは影に入って寝るてくてくも、更にはサオも入ってきてみんなで一緒に寝ることになってしまった。
これが二人の新婚初夜のベッドだった。
ロザリンドは不満げにこぼした。
「私やっぱり納得いかない流れなんだけどね」
今しがた自分と結婚したばかりの旦那さまが、妹のパシテーと抱き合って眠ってるのを見ながら『やれやれ』と半ば呆れた表情で愚痴をこぼすロザリンド。
仕方がないのでパシテーの反対側に潜り込み、アリエルの背中にくっついて寝ることにした。
ロザリンドはまさかこの雑魚寝が毎晩ずーっと続くとは……、夢にも思っていなかった。




