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18-07 イオ、ヤル時にはヤル男だ!

 レダが和平会議の場でビルギットと話し合ってる間、アリエルたち一行はゾフィーのパチン! でダリルマンディに飛んだところで偶然プロスペローと遭遇してひと悶着あり、その後はダリル領主の館にいた義兄でありドーラ王でもある魔王フランシスコと合流、ハリメデやエレノワ騎士伯にもビルギットの件が伝えられた。


 魔王フランシスコはハリメデの背中をバンバンと叩き、まるで自分の息子の事のように喜んだ。

 サナトスがこの国の王となり、ドーラという北の果てに住む者たちに、べつの生き方を選ぶ自由を与えてやることができるのだ。ノーデンリヒトをめぐって1000年もの長きにわたって戦争してきた理由はそれだった。ドーラなどという氷に閉ざされた土地で、毎年何百人もの魔族が命を落とす冬の厳しさから解放されるのだ。ドーラ王が次世代を任せるルビスが凍らない土地を手に入れ、戦争も早期に集結するであろう未来予想もついたことでの失笑だった。


 エレノワも表情を綻ばせ、いつも苦虫を噛み潰したような顔で決して笑った顔など見せなかったハリメデも今日ばかりは少し微笑みを見せていた。


 それからは少しだったが酒が振る舞われた。サナトスの今後に向けてのささやかな祝いだった。

 単身軍を打ち破って正面から王の城に殴り込んだゾフィーにたじろぎもせず自ら人質となりノーデンリヒトに和平の話し合いをしたという話に盛り上がりを見せる。


 アリエルの中で、ビルギットの評価はことさらに高かった。

 魔王フランシスコ、ハリメデ、そしてエレノワがテーブルを囲み、酒を酌み交わしているところで、ビルギットを語る。まだ13歳の少女でありながらまるで成人しているかのように落ち着いた雰囲気を醸し出し、さらには魔法を使わず場の空気と緊張感を自ら操り、話し合いを有利に導こうとするその手腕は見事だと説明した。


 ハリメデは同族であるレダの下にヒト族の王女がつくことになる、ただそれだけのことで機嫌を良くした。

 だがそんなことで気をよくしているうちはビルギットの思考には追いくことはできない。方法を間違えてしまったグローリアスにも及ばないのかもしれない。


 ハリメデはこれまでユーノー大陸で我が物顔に権力を振るってきたヒト族と正面から戦って勝利し、目にモノを見せてやるということでエルフ族をはじめ魔族がヒト族に劣るものではないということを証明したかったのだ。そうすることが、これまでエルフを劣等民族として支配されてきた側の魂の解放になるのだと考えたのだ。確かにそれは間違ってはいない。むしろヒト族というだけで魔族に対して差別感情を持つ者が多いこの世界では一度ぐらい種族ごと支配構造が入れ替わってもいいんじゃないかと感じる。


 そしてドーラ軍は力を見せた。

 フェイスロンドとダリルをあっさり奪い取ったことで拍子抜けはしたが、それでもヒトならざる者たちの力を見せつけてやることには成功したのだ。あとは奪った土地をいかにして統治するかということが課題になるし、むしろこれからのほうが問題山積なのだが。


 魔族排斥はエルフ族だけでなく、海を隔てたドーラに暮らす魔族たちにも深刻な問題だった。

 ユーノー大陸では魔族はヒトにあらずとまで言われたのだ。動物と同じだとも。


 魔族排斥を許しておけなかった。

 しかしこの難しい問題を解消するため、ついに魔王フランシスコは立った。


 名目上はエルダーでひっそり暮らしていたレダの両親や姉妹がダリル軍に惨殺されたことだが、王都プロテウスに領内での内戦を止めるだけの力がないと踏んだというも間違いないだろう、だが力ある魔王フランシスコは魔人族らしく力による解決を図り、ダリルだけでなく、フェイスロンドまで奪い取ってしまった。まあこれは行きがけの駄賃のようなものだったが。空き家に盗人っと非難する者もいよう、しかし支配者のいない土地を魔王軍が放っておく道理もない。早い者勝ちでグランネルジュを占領してしまった。


 フェイスロンドはもともとエルフ族の多い土地であるから、グランネルジュ市民も強く領民たちを守る力を有するドーラ軍に対して概ね好意的でもあった。


 しかしここからが問題だ。


 いまはおよそ10万の兵士たちが残っている。だが多くの兵士たちは戦争が終わったら帰りを待つ家族のもとに戻るだろう。ドーラ中北部出身の者たちはより住みやすいダリルに家族ごと移住することも考えるだろうが、王国でも最大面積を誇るフェイスロンドと、南方諸国のいくつかと国境を接するダリルを統治してゆくのには兵士の数が圧倒的に足りないのだ。


 セカの復興が進めば、今後、サナトスが王になったとき併合されるとして、多くのボトランジュ人がフェイスロンドやダリルに向かい、新体制に移行するための準備をするだろう。


 だけどそれは一朝一夕でできることじゃあない。単純にトップの首を挿げ替えるだけということではなく、国家のありかた、体制そのものを変えなければならない。


 問題が山積しすぎていて今後のことを考えると先が思いやられる。特にダリルでは先住のヒト族は奴隷化するか、もしくは土地を捨てて出て行けと言ってるので、反発する者も少なくないはずだ。


 反ドーラ、反ノーデンリヒトを掲げる反対勢力が雨後のタケノコのごとくニョキニョキと生まれてくるのは火を見るより明らかだ。力によって現状を変更しようとすれば、必ず大きな反動がある。力による問題解決には必ず付きまとう問題だ。


 これはアリエルの前世を含めた昔話をベースとしている。

 世界を燃やし尽くした破壊神でも人々の憎しみには勝てないことを話した。


 人を殺したら必ず憎しみを受けることになる。

 それは安定した統治とは相容れないことだ。


 いまは魔王フランシスコの威光があるから大丈夫だろう、親バカになるが、サナトスならばたぶんうまいことやっていくんじゃないかとも思う。じゃあその次は? その次はどうなのか。


 シェダール王国は過去少なくとも4000年もの間、ずっとここにあり続けているという。

 ヒト族の時間感覚では永遠だといって過言ではない長い時間だ。


 そんな長きにわたって安定した国家運営をしていたにもかかわらず、いま滅びようとしている。


 権力はいつか必ず倒される、それは紛れもない事実なのだ。


 ダリルを倒すためにはこうするしか方法がなかったことを前置きして、アリエルはそれでも侵攻はベストな選択肢じゃなかったといった。まあエースフィルを殺したくて殺したくてウズウズしていた男の口から出ていいセリフではないのだが。


 そしてアリエルの話はグローリアスの幹部、エレノワにターゲットを変更する。

 グローリアスが世界のヒト族すべてエルフとの混血にすることで解決を図ろうとした、というのも明らかに間違いであると説いた。グローリアスの全人類混血化計画では女性エルフを奴隷として売買することでヒト族との混血を誘発させることで同族であるエルフの、特に男性エルフに屈辱感を味わわせている事実に目をつぶっていることを指摘した。女を奪われて何もできなかった男の魂には消えることのない傷痕が残る。当然、エルフを奴隷化していたヒト族が憎しみを買うことになる。


 エルフの寿命は平均250年から300年と長い。一世代が250年だ。1000年という途方もない長い年月の間にたった4世代しか交代しない。虐げられ奴隷として扱われたエルフたちの記憶から屈辱と怒りが薄れるまで、いったいどれだけの時間がかかるのだろうか。


 アリエルは、ドーラ軍もグローリアスも、どちらもヒトのもつ憎しみという感情を軽視していると言った。アリエルが何度も転生を繰り返して今もヘリオスたちと戦う、その原動力も憎しみという安っぽい私怨なのだから。


 憎しみという感情を軽視すべきではない。なぜなら、憎しみはヒトを狂わせる。

 相手が親であれ兄弟であれ、愛し合った男女の仲であっても次の日には憎しみが原因で殺し合うこともある、怒りと憎しみはヒトを狂気に突き動かす最も強い感情だからだ。


「グローリアスは全てを成し遂げたあと、処刑台で再会する誓いを立てている。憎まれていることは分かっているし、今さら殺されることを恐れてなんかいないよ」


 エレノワはそういてうそぶく。

 だがアリエルが言ってるのはそんな短期間で結果の出ることではなく、ヒト族のスパンで50年、100年後、エルフのスパンで500年、1000年後の話をしている。


 たとえば、シェダール王国はノーデンリヒトをめぐって1000年もの長きにわたり紛争を続けてきた事実がある。


 この事実こそ、親から子へと伝えられ、これから生まれてくる子供たちですら親を含む祖先が受けた屈辱的仕打ちに対して怒りという感情が消えないことの証明だ。


 ノーデンリヒトとドーラの紛争は当初、天候不順と日照時間の低下、そして何年も冷夏が続いたことによる農作物の不作で子どもたちが飢えて死ぬような気候にあるとき、ノーデンリヒトに暮らしていたフォーマルハウトの一派が村を捨て峠を越えて南下し、ボトランジュ北東部の村々を襲い、略奪行為を行ったことが原因だった。


 子どもが飢えていたのだ、エルフたちは略奪せざるをえなかった。生きるためにヒト族の村を襲ったという。だがそれが戦争の引き金となった。


 たったそれだけの事でも1000年もの長きにわたって戦うのである。

 先祖が皆殺しにされた、戦えない女や子供たちも殺された、1000年もの長いあいだ戦うのに必要な憎しみは、たったそれだけで十分だった。


 フランシスコもハリメデも、ダリルでまた1000年戦争を戦う気などさらさらなかった。

 ドーラとしても過去のボトランジュとの紛争でも、やりたくもない戦を強いられ、多くの仲間が命を落としたことは忸怩たる思いだった。


「ごめん、ちょっと酒がまずくなったね、でもさ、ここからいい話になるからもうちょっと聞いてほしい」


 そこでビルギットだ。


 ビルギットはたった一人ですべてをフッ飛ばし、もっとも平和的に解決する爆弾を持ってきた。


「ビリーはもう引っ込みがつかなくなってしまった内戦に勝敗をつけず、誰にも血を流させることなく、そして誰も悲しませず、誰も憎まないような方法で終わらせようとしてる。まだ若いし、考え方はお花畑だけど、ビリーは本気だよ。そしてサナトスとビリーが結婚すれば自動的に内戦は終わるし魔族排斥も当然終わる。だってビリーの夫が魔族なんだからね。レダがエルフだから奴隷制度も即刻廃止されるだろう。教会が反発しようものならジュノーが全てを燃やし尽くす。これはドーラ王である魔王フランシスコにも、シェダール王国国王にも、もちろん俺にも、ゾフィーにもジュノーにもできなかったことなんだ。そんな偉業をビリーは成し遂げようとしている。まあ、帝国軍とは一戦交えることになるし、大勢死ぬだろうが、こっちが弱ったとみて攻めてくる帝国のことなんか知ったこっちゃないしな。今回の件で第一の偉人が王国側に力を見せつけた魔王フランシスコだとすれば、第二の偉人は全てを丸く収める決断をしたビリーだよ。それほどまでにこの縁談はナイスなタイミングだった」


 そういって義兄をもちあげることも忘れない。


「ほう、アリエルがえらくご執心ではないか。そのビリーとやら、それほどなのか?」


「会ってみたらわかるよ」


 会ってみたらわかる、含みを持たせた言い回しに魔王フランシスコはビルギットに興味を持たざるを得なかった。フランシスコが会いに行くなら当然ハリメデ行くだろう。


 将来フランシスコが引退してサナトスに王位を譲ったらハリメデはそのままサナトスに仕えることになるらしいので、この挑発は最初からハリメデとビルギットを会わせるためでもあった。


 どうせハリメデのことだ、ビリーをヒト族の小娘、王族といっても世間知らずの箱入り娘だろうぐらいに侮るのだろうが。ビリーと会った後のハリメデの顔を見てみたいものだ。


「会ってみたら分かる……か、アリエルにそう言われると会ってみたくなるものだな。しかしもっと興味のある男がいる、今日の戦闘で死から蘇った者が居ると聞いたのだが? 本当か」


 話を変えてきたか。さすがに今のこの祝勝ムードの中で安定統治できないという、頭の痛い問題を話し合うのは面白くないのだろう。ダリルを奪ったドーラ軍にとってもビリーの存在はありがたいものなのだが。


 だがビリーに興味が無いわけでもなさそうだ。


 まあ、イオの話を聞きたそうにしているようだが、ベリンダに聞け! じゃ済まないのだろうな……。


 イオの件については奥のソファーに深く腰掛けてジャーキーを噛んでいたロザリンドが説明した。

 ロザリンド的に熱湯風呂イルカショーがツボだったらしく面白おかしく話したのだが意外にも魔王が食いついた。イオは以前にもアリエルたちと10人そこそこで2万のアルトロンド陣地にカチ込んで勝利した話をベリンダに聞かされていたのだが、今日はこの世界の所有者という自称神にケンカを売って殺されたのだから、フランシスコとハリメデの中でイオはアリエルなみの大バカ者に映っただろう。


 そもそもこの世に生を受けたからには必ず死という最期がつきまとう。これまでどんなに屈強な戦士であっても死という運命には抗えなかった。それを反故にして、死から生還するような男は魔人族の中では英雄視されるということだった。


 フランシスコは顎を指で触りながらハリメデに目配せをしながら、


 「ほう、その男、わがドーラ軍に欲しいな」などと言い出した。

 たしかにイオの顔のいかつさなら魔人族に引けを取ることもないだろう。


 そんな魔王の言葉にハリメデが「話してみましょう」と安請け合いするもんだから、

 アリエルは助け舟を出してやることにした。


「ああ、イオはベリンダのことが好きだから、ベリンダと結婚させてやればいいと思うよ? そしたらイオもドーラの身内だからね」


 世界一のシスコンを自称するフランシスコも既に行かず後家となったベリンダに手を焼いていたため、もしかするとそれは良い考えかもしれないということになり、酒が入ってることも手伝ってか、善は急げということになった。


 アリエルたちはゾフィーのパチンでイオとベリンダたちが飲んでる北門のところへ転移した。


 緊張して立ち上がり、ビシッと踵を慣らして敬礼するイオと魔王軍の男たち。

 ベリンダは尻をはたきながら遅れて立ち上がった。


「ああ、休んでおいてくれ。せっかくの勝利の宴を邪魔するつもりはないんだ。ところでベリンダ、死から帰還した男がいると聞いてな」


 ベリンダは得意そうに気を付けの状態で緊張するイオの肩に手をまわした。


「イオだ、いい面構えだろう? 今日の戦闘で立ったまま死んだが、どうやら死神にも嫌われたらしい、風呂に投げ込んだら戻ってきやがった。セカじゃあアリエルたちといっしょにたった10人で2万のアルトロンド軍本陣にカチ込んで勝ってきたしな、悪運の強さは世界一だろ」


 そうだ、これまで我慢を強いる防衛戦ばかりを戦ってきたイオが、たった10人で2万もいる敵陣に突っ込んで勝利をもぎ取ってきた。これはイオにとって一生忘れる事ができない強烈な体験だった。イオはアリエルと行動を共にしたことがきっかけで、仲間から英雄視されるようになったのだ。


 周りを囲んでいたカルメもテレストも、エルフ族の戦士も、魔人族の戦士も、みんなイオの生還を称えていた。


 フランシスコはうんうんなるほどと頷きながら、傍らにいたアリエルに問うた。


「なあアリエル、イオとは古いのか?」


「んー、中等部の頃からだね」


「ほう、どんな男だ? 私に紹介してくれないか」


「紹介? ああそうだな、イオは根っからのゲンコツ騎士で真っ直ぐな性格はヒト族よりも魔人族寄りかな。騎士らしく何があっても折れない精神力を持っていて、決して己を曲げることはない。ただそのぶん頑固で融通の利かないところはあるけどさ、イオは最も信頼できる友人だよ。ノーデンリヒトの戦力としては前線で戦うサオやサナトスが目立ってるけど、イオが居て、みんなを纏めてくれていなければノーデンリヒトは戦えなかった」


 ちょっと美辞麗句が過ぎる気がするが、嘘偽りはない。これはアリエルがイオのことをそう見ているということだ。


 思わぬアリエルの賛辞にイオは感激したが、フランシスコが前に回って顔を覗き込むようにしたのでイオはますます身を固くした。


 そこでフランシスコみずからベリンダに、何の気なしに本当に飯でも食いに行くか?とでも言ったかのようなトーンで、「ほう、気に入った。ではベリンダを嫁にもらってはくれないか」といきなり話が飛躍した。


 カッと目を見開くベリンダと突発的に貧血を起こして倒れそうになるイオ。ガクガクと膝から崩れそうになったが、気合で何とか持ち直す。


 気が遠くなったイオにアリエルが言った。


「そういえばイオ、ベリンダと文通したいって言ってたな」


 文通希望と聞いたカルメとテレストは爆笑していたが、ハリメデが一喝した。


「文通の何がおかしいのか? んん?」


 カルメとテレストがぴたりと笑いを止めた。しかしプルプルと肩を震わせている。


 フランシスコは「文通おおいに結構、ベリンダのことを気に入ってくれたのなら話は早い、ベリンダはどうなんだ?」とベリンダの気持ちを聞いた。


 するとベリンダは顔を真っ赤にしながら視線をそらし、焦ったような口調で答えた。


「へ? なに? えっと、あの……私なんか女らしくないし、イオはきっと私みたいな男勝りは好きじゃないと思う……」


 ……。


 ……。


 ベリンダが弱音を吐いた。


 イオのアホ! いまフォローしないと台無しになるじゃないか。


 アリエルはフランシスコの後ろからイオに見えるようジェスチャーでフォローしろとブロックサインを送る。通じなくても送る。送って送って送りまくる。


 ヘタクソすぎて何も伝わらないロボットダンスのようになってしまったが、らちあかず、とうとうイライラしたロザリンドが目にもとまらぬスピードで背後に回り込む。


 縮地だ!

 その勢いのまま背中をバン!と叩いたことでイオはやっと正気に戻ることができた。イオの背中にはロザリンドのでっかい掌の型が真っ赤に残っただろう。


「ああっ、そんな。俺はベリンダのことが、す、す、す、す!!」

 こんな簡単なセリフを噛んでしまって最後まで言えないイオ。


 アリエルは『おちつけ』のジェスチャーを必死で伝えようとするが、イオの目には入ってない様子。

 そんなときパシテーがイオの前に立ち、ベリンダのすぐ横を指さした。


 そこにはイオやベリンダたちを夜露から優しく守ってくれる樹木が立っていた。


(そんなベタな!)


 しかしアリエルの突っ込みをよそにイオは「木だ!」と言えた。

 ただし視線の焦点は定まってなさそうだ。


 そんな極限状態の中、よく言ったと褒めるべきだろう!

 アリエルとパシテーがつなげてつなげて……とブロックサインを送る。

 ロザリンドがもう一発背中をぶん殴ろうと手を振り上げたところで、イオはやっと、


「すきだ!」


 と言えた。


 周りで固唾を飲んで見守っていた兵士たちは。


「「「「「「 うおおおおおおおおお! 」」」」」」


 とまるで自分の事のように喜び、飛び跳ね、抱き合って喜んだ。


「まあよかろう! まだオヤジどのに報告して許可を得なければいけないが、部下にこれだけ人気があるのだから問題はないだろうな、こんな時に母上はなにをしている? カルメ、ちょっと頼まれてくれ」


 カルメはすぐさまベリンダの母を呼びに行った。

 まあ、その母というのは部隊を率いる将軍なのだが。


 ベリンダはヘッドロックしてた腕の力が抜けてするすると崩れてしまってイオの足もとに座り込んでしまった。それからは俯いて顔を上げることはなかった。


 突然イオのことを男として意識し始めたようで、頭から湯気が立ち上っているようにすら見えた。


 慌てて走ったカルメがベリンダとロザリンドの母、ヘレーネを連れてきた。

 てか、ものすごいダッシュで来た!


 すっごくニコニコしているの話はもう伝わっているのだろう。

 縮地を使ってすっ飛んでくるなんて恐ろしいお母さんだ。


 フランシスコと仲間の目の前でイオに告白されたベリンダは、小さな声を上ずらせながら、


「よろしくお願いします」といって、座り込んだままイオの手を握った。


 二人とも顔まっである。


 ロザリンドは姉の事ながら呆れてしまって「はあ? なにそれ? チョロすぎるんだけど!!」とこぼしたのをテレストに聞かれてしまった。


 そういえばアリエルとロザリンドが再会したときテレストはその場にいて、ロザリンドのチョロさも見ているのだ。


 テレストは悪気があった訳じゃない、だけどついボソッと口をついて出てしまう。


「それお前が言う?」


 それがロザリンドの地獄耳に届いてしまったのがテレストの修羅場となった。


 直後テレストは黒歴史を封印するため、ロザリンドの全てを消し去るかのようなギャラクティカマグナムを受けてフッ飛び、錐もみ状態で顔面から落ちてダウンするという事故に見舞われた。


 まあ、ドラゴンスケイルの鎧をつけていても顎にクリーンヒットしたら無事じゃあ済まない。

 とはいえ、ロザリンドも死なない程度には手加減しているから些事で済まされるだろう。どうせあとでジュノーに治癒をお願いするのだし。


 イオもイオでフランシスコの前で直立不動だったが、チラッとベリンダと目が合ってから顔真っ赤になって、体調の悪さの上に酒しこたま飲まされたせいで気が大きくなったのか「はっ、このイオ、死んでもベリンダさんを守り抜くと誓います」なんて言ってしまって、半ば呆れたハリメデに「魔人族の結婚式でもそんな歯の浮くようなセリフはない」とたしなめられた。


 まあ、確かに一度死んだ男の言葉として説得力があるのは確かだった。



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